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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
一部 一章
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第十四話 支配する変化


 日が東から神々しくその光を大地に注ぎながら、一日の始まりと過去を作り成す。


 数える事もできないような繰り返しを日々送るこの大地には今、数多の人間が眠りから醒めて行動を始める。


 その日も、ハルカは熟睡する事ができなかった。鳥の囀りが締め切った窓から漏れてくるが、決して開け放とうとはしなかった。


 食事を運んできてもらって食べては部屋の前に戻す日々。食事も喉を通らないわけでもなかった。その事が逆に自分を追い詰めてしまう原因になっている。


 自分の行いで二人が死んでしまった。友達同士に殺し合いをさせてしまった。自分は何も出来なかった。どうして、死ななければならなかったのだろう。どうして、こんな事になったのだろう。


 自問自答は水面を揺らす波紋のように、頭の中を揺らしていく。


 目を閉じれば、思い出される光景。だが、それも今は淡く薄っぺらいものになってしまっていた。自分は本当に哀しんでいるのだろうか。自分は本当に後悔しているのだろうか。自分は、自分は。


 過去の記憶は日々薄れいくものである。どんなに強烈な印象を押し付けられたとしても、ありのままに思い出すことは難しい。それでも尚、彼女を苦しめた。自分自身で自分自身を傷ついていると偽ってまでも、ハルカは哀しもうと努力していた。、


 エーファの死は少なからず、勇者達だけでなく村へも影響を与えていた。


 カインにはそれがどういう風の吹き回しなのか判らずにいる。兎に角、雰囲気は暗く重い事は確かであった。ハルカはあれから、外へ出たがらない。カインはその事で文句を言う事はなかった。


 誰しも見知った人間が目の前で死ぬ事に押しつぶされる事はある。カインもまた幼少の頃に経験している事だった。だが、何時までもそうなってもらっていては困るのも事実。ハルカ達には、やるべきがある。


 カインはその事を知った上で、未だ村に滞在していた。少なからず、今の所村への魔族の襲撃はない。魔族が監視を行っている事は確かであるだろうが、決して村の防壁を破ろうと行動する事は無かった。それは、彼らが防壁の強力な事を理解しているからだろう。つくづくこの村に悪いと思いつつも、救われていると感じていた。


 それに、カインからすれば、ハルカが旅を続けようが辞めようがどちらでも良い。問題なのは、この村の改善を要求し、依頼を受けるかどうかである。


 カインとしてはこの村のあり方を変えたかった。少なくとも、現状の悪い風潮を和らげる事はできるであろう算段を持ち合わせているだけに、ハルカにはなるべく速く行動できるまでに回復して欲しいとも思っていた。


 せめて、その事を真っ当してくれるまではきちんと勇者という肩書きを残して欲しいと思いながら、こうして待っているのである。思惑通りに運んだ後はハルカがどうなろうと知った事ではなかった。


 イーナに関しては、彼女は貴族で、汚い事も知っているだろうという印象が強い。

 育ってきた環境の差だろうか。墓前へ花を手向ける事も行い、村の書物を漁っている。彼女は、村の改善に対する同意を得られていた。当初の印象から大分、変わった。というのがカインの素直な意見である。


 ハルカの部屋へ行き、書物を読みながらも、会話をしながら立ち直らせようとする。時には書物を読み聞かせてもいるようだ。器用な事をする。


 そんな事を思いながらも、カインは同じく書物を漁る。数は決して多くもないが、少なくもない。興味深い書物も多い。長老の言っていた事も記載されていた。そして、ここが護るべき土地であるとも。


 一種の聖地に近い扱いなのかもしれないとさえ思った。だが、古代文字だろうか、読めない文字が多く解析する知識も持ち合わせていないカインは良く知る事ができなかった。長老の話によると古代人の言語だと語ってくれた。失われた言語であったが、この村の祖先でもあるので、祖先の言語を遺して行く事も大切な行為だとも。


 長老が古代人と呼ぶのだから、それはもう遠い昔の事なのだろうとカインは関心していた。それほどの昔からこの土地は守護されてきたのか。言い知れぬ興味が沸き起こる。


 そんな時に、ハルカは久しぶりに部屋を出てきていた。暗く醜い顔をしていたが、カインは声も掛けずに居た。イーナが寄り添って外に出させたのだろう。日は西に傾き始めている。


 イーナはカインに気付いていたが視線を一回向けた後に、森へと姿を消した。恐らく、墓前へ向かわせるのだろう。それが、ハルカの意志かは判らないが、もう暫くは掛かりそうだなとため息を洩らした。

 果たして、墓前の道中で出会う魔物や獣に刃を向ける事ができるのだろうか。ここで死なれては困るので、カインはそっと尾行する必要があった。


 カインにとって、死を受け止めることは至極簡単で日常化しているものであった。殺す事が日常なのだから当たり前の事であり、夢の中に殺した人間出てくるなんて事ももう無い。


 それほどの経験と年月を越してきたのだ。ハルカに必要なのはその経験。カインにとってハルカは子供でしかない。


 何も知らない餓鬼だが、正義感だけは持っている。正義を振りかざす力も持っている。だが、今はその力を嫌悪しているのだろうと思っているカインであった。だが、そう思っていても、自分には自嘲が沸き起こってくる。


 エーファを好いていたのは確かだった。殺したことには後悔していない。だが、殺した事に付随し、やるべきことが出来てしまった事に嫌気が差していた。


 自分はこんなにも正義感の強い男だったのか。


 漠然としたながらも強い意志の胎動を感じているカインは、変な懐かしさを得ながら、その熱に焼かれても悔いはないだろうと覚悟を決めていた。



亡くした人を愛していても、今では本当に、おぼろげに思い出されるだけなんですよね。本当に、私はその人を愛していたのか。今では不安しかありません。生きている時に、愛せていたのか。


衝動的に書いたので、果たして物語りに組み込む必要があったかどうか。

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