第十一話 不安材料
エーファはハルカと行動する事が多くなっていた。
同年代という事もあるが何より、ハルカの剣士としての資質と腕前から自分に指南して欲しいと頼み込んだという経緯もある。
フードの男はその事について良い兆候だと判断し、過ごしていた。彼らが村に滞在するようになって暫くが経つ。
勇者ハルカがこの村での滞在を希望したためであったのだが、それは男がいった滞在しているからこそわかる事がある。という言葉に触発された事であった。
男からすれば、元々エーファはくっついてきただけであるので、勇者一行にくっ付いて移動してもらえればとても身が軽くなる思いだと感じている。
イーナと呼ばれる魔術師も最初の方は文句を言っていたが今では村の現状を知り、それを歯がゆくも思っている節がある。イーナは魔術師だ。だからこそ、この村人達の魔術師としての素質に嫉妬しながらもその才能を生かす事を制限されている現実に対して同情と憤りを感じていたのであった。
イーナ一人ではどうすることもできない歴史というものの重みをイーナは人生で初めて体感していたのであった。
その事を理解していくうちに、村人ともそれなりの付き合いができるようになっている。それはイーナという個の成長にも繋がっていた。男は未だ、この村に滞在している。
今後の事で勇者一行に頼みごとを託したかったためであるが、エーファがもう少し仲良くなってから切り出そうと考えている。
それは中途半端な付き合いではエーファが勇者一行と同行しない可能性も勇者が断る可能性もあるためであった。
勇者達はここに滞在しながらも森に入り、狩猟をし、時には魔物と戦い技術と経験を積み重ねていく日々を送っている。
暢気なものだ。男はそう思いながらも、ハルカ自身が召喚された人間である事から、ここで経験を積ませたいというのがイーナとアレンという弓使いの目論見だろうと感じていた。
男は興味本位でハルカ達の戦いを観察する機会を何度か得ている。
それは男が尾行しながら観察したのもあれば連れて行かれて直に見たときも含まれている。その中で、ハルカに対する感想といえば、素直に暴れさせられているであった。
力も魔力も申し分ないと言わざるを得ない能力を持っている事は確かであり、この森もハンターやギルドランクの低い人間が立ち入れば容易に殺され食い物に成り果てる場所である。
その森でハルカは殆どの実戦経験なしにして対等に戦えている。それは恐らく、付与魔法による能力の底上げが成されているからであると男は推察している。
感染型魔法の一つで、付与魔法は無い物を授ける事が出来る。それは一時的なものが一般的ではあるが、半永久的に与える事も可能である。
それに対する代償も大きいものとなるが、そこは召喚魔法という大規模な術式とイーナ含め複数の魔術師の高濃度な魔力を対価にしているのだろうと男は予想している。
それが未だ身体に馴染んでいないのだろう。身体は付いていけるが頭がついていかないのだ。
思い通りに動く体が返って動きにくそうにしているのは滑稽であるが、十分に見るものに、味方に対しては資質の有無と羨望を。敵には恐怖と僅かな希望を与える事だろう。
今なら殺せる。そう敵に思わせるには十分な動きだった。その事が男にとって不安材料である。
勇者などとという格好の士気を上げる道具でもあり、殺せば下げる事もできる危うい立場の存在だ。
もし、魔王。いや、魔族の中で知能の高い者が動いていたのならどうなる事やら。そう思いながら、男は巻き込まれない事を切に願っていた。