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第15話(終話) 悲劇の果て、両家の和解

夜明け前の霧が霊廟の入口を覆っていた。


風が静かに吹き抜け、ヴェローナの墓守が衛兵を連れて扉を開く。


「中に……何かがあるぞ」


衛兵たちは恐る恐る蝋燭を掲げながら進み、そして──立ち止まった。


「……ロミオ様!? それに……ジュリエット嬢……」


床には、互いに寄り添うように倒れる二人の若者の姿。


ジュリエットの白いドレスは鮮血に染まり、ロミオの胸も動かない。


その傍には、沈黙のまま冷たく横たわるパリス伯爵の遺体があった。


まるで誰もが眠っているかのように、静かで、美しく、そして、あまりにも残酷な光景だった。


「大変だ! すぐに大公に知らせろ! 両家にもだ!」


叫びが、夜の町を駆け抜けた。


数十分後、ヴェローナ大公エスカラスが威厳ある足取りで霊廟に入ってきた。


彼の背後には、騒ぎを聞きつけたキャピュレット夫妻、そしてモンタギュー卿の姿があった。


「どういうことだ……ジュリエット……!」


キャピュレット夫人は我を忘れて娘のもとに駆け寄り、嗚咽と共にその体を抱きしめた。


キャピュレット卿は呆然と立ち尽くし、うわ言のように呟く。


「まさか……こんなことが……我が娘が……」


モンタギュー卿も足を止めたまま、ロミオの遺体を見下ろす。


「ロミオ……そして……妻も、今朝、そなたの追放に耐えきれず、息を引き取ったのだ……」


誰もが悲しみに沈む中、老いたロレンス神父が震える手で前に出た。


「……お話しせねばならぬことがあります。すべての真実を……」


神父の言葉は、ゆっくりと、だがはっきりと語られた。


ロミオとジュリエットが密かに夫婦となったこと。


ティボルトの死、ロミオの追放。パリスとの婚約を避けるため、ジュリエットが仮死薬を服用したこと。


そして、ロミオに託した手紙が届かなかったこと。


神父自身の判断が、結果的に最悪の結末を導いたこと。


「すべては……私の、責任です」


神父は深く頭を垂れ、震える声で続けた。


「ですが、二人は……心から愛し合っていたのです。それだけは、信じていただきたい……」


エスカラス大公は、目を閉じて長い息を吐いた。


「この老修道士の言葉に偽りはあるまい……だが、そなたたち両家よ」


その眼差しが、モンタギューとキャピュレットの当主を刺すように貫いた。


「この若者たちは……お前たちの憎しみの犠牲だ」


沈黙が霊廟を覆った。


キャピュレット卿が震える手でモンタギュー卿に歩み寄る。


「……争いは、もう終わりにしましょう。私たちは……あまりに多くを失った」


モンタギュー卿もまた、静かに頷き、その手を取った。


「ジュリエット嬢のために、我が家は純金の像を建てよう。永遠に、その純潔を讃えるために」


「ロミオの像も……この街の中央に立てよう。彼の勇気と愛を、忘れぬために」


ようやく、長年続いた憎しみが雪解ける音がした。


傍らでは、ジュリエットの乳母が娘のように慕った少女にすがって泣き崩れ、ロミオの忠僕バルサザーも沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。


大公が静かに言葉を紡ぐ。


「これほど悲しい物語を、私は他に知らぬ。ロミオとジュリエットの物語ほど……」


夜が明けた。


白み始めた空の下で、誰もが静かに頭を垂れ、二人の若者の愛と死に、祈りを捧げていた。


ロミオとジュリエットの冷たい遺骸を前に、墓所には深い沈黙が満ちていた。

夜明けの薄明かりが差し込む中、キャピュレット卿はゆっくりと歩み寄り、亡き娘の手を握る。


「……わたしの……たった一人の、ジュリエット……」


震える声でそう呟いた彼の眼差しは、隣に静かに横たわる青年――ロミオへと移った。


「この青年が、最後まで娘を想い、ここで共に……」


その目に涙を浮かべたまま、キャピュレット卿はおもむろに振り返り、向かいに立つモンタギュー卿に頭を垂れた。


「……もう、終わりにいたしましょう。我らの争いは……すでに、多くを失いすぎた。」


しばし沈黙していたモンタギュー卿も、ふと空を仰いでから、深く頷く。


「……妻も、この悲しみに耐えきれず、今朝……逝きました。

 息子を追放したわたしの弱さが、すべての始まりだったのかもしれません……」


そして、彼はキャピュレット卿の前に進み出る。


「せめて……せめてもの償いとして、ジュリエット様のために、純金の像を建てよう。

 その優しさと、愛を貫いた気高さを、永遠に讃えるために。」


キャピュレット卿は、その言葉に涙を落としながら、静かに応じた。


「……ロミオ様のためにも、同じく像を建てましょう。

 ジュリエットを愛し、命をかけたその誠実を、わたしの家に伝え続けるために。」


両家の主が互いの子の名を讃え、像を建てると誓い合ったその場に、ようやく光が差す。


争いの果てに見えたのは、憎しみを越えた、たった一つの真実だった。


エスカラス大公はそれを見届け、深く目を閉じてつぶやいた。


「……このヴェローナにおいて、これほど悲しく、美しい物語があったであろうか。

 ロミオとジュリエット……その名は、永遠に語り継がれよう……」


静かな風が吹き抜ける墓所に、朝の光が差し込んだ。


両家の人々は、涙を拭いながら、並んでその場を後にする。


争いの時代は、終わりを告げた。


こうして、永遠の別れと引き換えに、ヴェローナにようやく平和が訪れたのだった。

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