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第一話 楽しい楽しい怪盗の捕まえ方

 自分には、鳥が入っているようなものだとヴァードは言った。人以外のものが何かある。そう言った。ヴァードがそんな体とは予想もしなかったが、とりあえず納得しなければ前には進めない。ヴァードが青い鷲になったのはこの目が捕らえた。髪は赤かったが青い鷲になるのは自分の体の中に青い鷲がいるからだと言う。だからと言って体の中に鳥が入っていたら腹から鳥が出てくるのではなかろうか。端からそこまでこのことは気にしなかったが、ヴァードがどんな性格なのか大方見当が付いたような気もする。まあ自分が軍の兵器で何でも壊してしまうから人のことは言えないが。南の町に来る前に通った密林を歩きながら思う。

 どうもこの足に絡みつくような感覚はなれない。軍に改造される前は南には住んでいなかったから、この湿ったような草に触れたことは無かった。この周辺唯一の草。生涯気持ちよいと思うことは無いだろう。

 「見えたぞ。町だ」

ヴァードがルイズに向かっていった。

 そこには一つ大きな古城が建っていた。古城は茶色く所々汚れているのが遠くからかすかに見えた。まだこの森から手の平を伸ばしたくらいの大きさしかなかった。

 「古城の町、リオだ」

ヴァードが地図を広げて【リオ】と書かれた場所をさした。

 「昔、ここに王国があったらしい。まあすぐに滅んだからあの城しか残ってないけども。今は普通の町になっててもっぱらあの城は観光の名物扱いだ」

 密林を抜けるとリオの商店街にいた。南の町の商店街とは雲泥の差だ。何よりも人が多かった。がやがやと人の声がどこからも聞こえてくる。店も半端な数ではなく、ここまで必要なのかと旅人に思わせるほどである。しかしどこかやはり王家の貴族のような服を身に着けたものもいる。大きな町ともなると貧困の差も激しくなるのだろうか。その中を指名手配犯二人が闊歩する。真実を町の人々が知ったら大騒ぎだろう。幸い手配書はどこにも貼られていなかった。

 誰かの肩とルイズがぶつかった。危うく転びそうになったが何とか体勢を持ち直した。しかし誰かが謝った声は無かった。

 ヴァードがちょいちょいと手招きをしてルイズを店に誘った。その店には大きく肉の絵が飾られていた。腹ごしらえをするようだ。ルイズはヴァードの誘いに乗り店のドアを勢いよく開けた。

 店内はまたこれも人の声でにぎやかだった。ここまでくるとなぜ町民がこの音を気にしないのか不思議に思うほどだった。どこかの詩人がこのにぎやかさを独奏曲だかに例えていたが、こんなもの騒音にしか感じなかった。ヴァードが店員に何かを注文していた。独奏曲のせいで何も聞こえなかったのでとても不愉快であった。

 「おい、誰も気がついてないみたいだ。新聞にも載ってない」

 ヴァードは手に取った新聞を丸机に広げた。そこには確かに、ルイズやヴァードの名前は載っていなかった。ルイズはほっと胸をなでおろした。もし気づかれたら身動きが取れないところだった。ヴァードはなおも新聞を隅々まで読んでいた。情報は金にも勝る、とヴァードはルイズに聞かせるようにつぶやいていた。

 そのうちに料理が届いた。白い磨かれたばかりの皿に肉汁たっぷりのステーキが出された。それは塩を体につけ、いかにもやわらかそうである。ルイズは食すということで脳内が満たされた。ナイフとフォークでその肉を口に入れた。

 美味い、とこれほどまでに感じたことは無かった。口の中で肉汁があふれる。一つ一つかみ締めて味わった。一口、もう一口といつの間にか肉はなくなっていた。

 次々に料理が届く。これはどういうことなのだろう。ヴァードが料金を払えるか心配になって訊ねる。

 「大丈夫かヴァード。こんなに頼んで」

 「まあ【もしも】足りなくなったら食い逃げするまでよ」

ルイズは危うく噴出すところだった。それと同時に飯も食べられなくなってしまった。

 「食べないのか?もう指名手配犯なんだからしょうがねえだろ。それでも食えないなら俺が食べるぞ」

 結局ルイズはそのあと一口も食さず、独奏曲をずっと聴いていた。

 「代金をお支払いください」

 そのうちにヴァードも食べ終わって、会計で代金を支払うところだった。ヴァードは身にまとうローブのポケットに手を突っ込んだ。何回かがさがさとした後、体中を手で払った。

 「・・・財布が無い」

幸い店員には聞こえていなかった。ルイズはばれないように最低限の要領で口をあけた。飯だけ食って金を払わないのは筋違いだ。なおもヴァードは探したが確かに財布は出てこない。店員もだんだんわかってきたようだ。先ほどとは違う冷たい眼でこちらを見る。

 (にげるぞ!)

ヴァードはルイズの耳元でそうささやくと、一目散に出口の扉に向かって駆け出した。ルイズもそのスピードに負けないぐらいに走る。ドアを足で蹴り飛ばし、無理やり開かせて外に出る。店員が何か言っていたが聞こえなかった。もしも銃でも持っていたら撃たれていただろう。町では誰も二人のことを気にするそぶりは無く好都合である。そのまま人ごみに流されていった。

 


 「それは怪盗の仕業だねえ」

 「怪盗?」

あのあとルイズとヴァードは適当な雑貨屋に入って身を隠していた。雑貨屋の店主の老人から聞いた言葉がこれだ。聴きなれない言葉であった。怪盗なんて小説でしか聞いたことが無い。

 「あの古城は博物館の役割もしてるんだ。王国時代の宝石とかを保管してる。それを狙ってくるんだ。来る時には絶対に予告状を出す。そういえば今日も予告状が届いたらしいよ」

怪盗もバカなものだ。予告状なんて出したら警備を固められるに決まってる。しかしそれでもまだつかまっていないのは腑に落ちないが。

 「ヴァード・・・俺が楽しい楽しい怪盗の捕まえ方を伝授してやる。飯代きっちり返してもらうぜ怪盗!」

 「乗った!」

そのまま二人は雑貨屋を飛び出し、古城に向かって走った。人目も気にせずに―

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