序章 一人の青年
彼は走っていた。
もはや彼には地面のコケのように深緑の土踏むことと、木から落ちた小枝を棒になった足で折る感覚しか感じられなかった。
これが密林と言うものなのであろう。
1つ1つの木が必死に日光を浴びようと、枝を伸ばしている。そのおかげで彼はここ何日と陽の光に当たっていなかった。それはまるで一つの緑の傘といっても過言ではなかった。
三日も寝てもいなかった。寝る暇も無かった。寝たらおそらく追っ手がやってくるであろう。食べるものも無かった。ただただ、走ることに必死で何も考えられなかった。
前にあった草々を右腕でかきむしると、突然目の前が明るくなった。目の前だけにトンネルができたようにそこだけに光が通っていた。森を抜けたのだ。そこは草原が広がり、なだらかな坂になっていた。それは大きな皿のようになだらかで、その中心にははっきりとは見えなかったが町の明かりがあった。今はおそらく昼ごろであったがそれでもはっきりと確認することができた。
彼は疲れも忘れて足を動かした。坂のおかげでぐんぐん速度を増していった。草原を障害物ともせず、
駆け抜けていった。
商店街は彼の気持ちとは裏腹に活気に満ち溢れていた。ところどころに密林の面影を残す木々が残っていた。店では商品の値段を大声で張り上げているし、それに誘われて人が集まっていた。
町の商店街に入っても彼は走ることをやめなかった。一文無しだが、運がよければどこかに暖かい飯と体を癒す寝床があるかもしれない。それが彼の足の原動力だった。
彼の勢いだったのか、それとも偶然だったのか。それはわからなかった。しかし、それは今となってはもはや関係ない。自分のすぐ右隣の木が一本、ぎしぎしと音を立てて倒れる瞬間を彼は見た。
なりふり構ってられない。それが彼の頭の中を不意によぎった。その木は彼の身長の2、3倍程度はあった。すぐその木の倒れる方向に回り込み、右腕を木に乗せた。そこに自分のもてる限りの力を注ぎ込んだ。
すると彼の右手から稲妻らしきものが放たれた。それは黄金のように黄色く、細い雷のようだった。稲妻は木の根元から半分近くを粉砕した。彼の身長ほどの分を粉とされ、何とか商店街の店をかする程度で危ういところだった。
そのまま彼は自分の全ての力を使いきりその場にうつむけに倒れこんだ。もはや一歩も動くこともできなかった。
(ああ、俺はこれで終わりなのだろうか)
彼のまぶたは重く閉じられた。
――物語は、ここから始まる。
初投稿です。最後まで見てくださった方がいらっしゃったら、できれば感想を書いてもらえると作者もありがたいです。よろしくお願いします。