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ギルバートとその友達たちが計画して、有名な湖に遊びに行くことになった。
それぞれの婚約者も一緒に参加するらしい。
その計画を学園のサロンで皆で話し合っていると、ライラが
「私だけ一人だわ。ねえ、ギルバート様、私も一緒に乗せていってよ」
そう言いだした。
「「「「え?」」」」」
その場の全員が驚いていたが、ライラは気にする様子もなく、
「だってぇ、うちの馬車は1台しかないからそんなに遠くまで行けないし、ね、いいでしょ?」
「よくないよ。僕はクロエと二人で「一人増えてもいいわよね?クロエ」」
ライラはいつもそうやって判断をクロエに投げてくる。
「ライラ嬢、僕はクロエと二人がいいんだ」
「どうしてギル、ギルバート様が答えるのよ。私はクロエに聞いてるのよ?」
「クロエの婚約者は僕だ、僕が返事をしたっていいだろう」
ギルバートとライラの話は誰が返事をするか、という議論になって行った。
「いや、だったら婚約者のいない僕らと乗り合わせよう」
そう言って助け舟を出してくれたのはやはり幼馴染の子爵家のボンドだ。
「いやよ、ボンド達男子ばかりと馬車に乗るだなんて、私の評判が悪くなるわ!」
「「「なんでだよ、失礼だな」」」
婚約者のいない数名が不満を漏らす。
「だったら、女性だけで乗り合わせましょうか?」
ひとりの婚約者の女性がそう提案をしてくれた。
それはいいが、湖では婚約者と散策の時間がほしいと、ギルバートたちが言い出したため、往復は男女
別々で、到着後は婚約者がいる者はそれぞれで、それ以外は一緒に行動することが決まった。
ライラはかなりしつこくギルバートに一緒に馬車に乗りたいと訴えていたが、他の面々に諭され、かなり不機嫌になっていたが、渋々させられていた。
当日、集合場所まではギルバートと一緒に向かった。
「クロエと二人きりで遠出できるかと思っていたのに・・・」
ギルバートは本当に残念そうに眉を下げていた。
クロエはクスクスと笑いながら、
「では湖では二人きりでゆっくり過ごしましょう」
そう言ってあげると、ギルバートは嬉しそうにうんうんと首を振っていた。
「どうしてギルバート様とクロエが二人で来るのよ」
「どうしてって、婚約者を迎えに行くのは当たり前だろう?」
ライラの文句にギルバートは心底不思議そうに聞き返していた。
「私はお隣なんだから一緒に乗せてくれてもいいじゃない!」
「は?せっかくクロエと二人きりになれるのに、ライラ嬢を乗せたら二人になれないじゃないか」
思わずこぼれた本音に、クロエは顔が赤くなるのを感じた。
周囲もその本音に笑いがこぼれていた。
「わかるよ、少しでも二人でいたいよな」「本来なら湖まで一緒に行けたのにな」
「ギルバートの奴、本音駄々洩れだな」「後でゆっくり色々聞きだしてやるか」
男性陣はそう盛り上がっていた。
「クロエ様、後でじっくりお話聞かせてくださいませ」「わたくしも聞きたいわ」
「クロエ様、大事にされてますわね」
女性陣がそう盛り上がるなか、ライラはふん!と言ってクロエにぶつかると、謝りもせずに馬車に乗り込んでいった。
「なにあれ」「振られた腹いせでしょ?」「失礼にもほどがあるわね」「身分違いを分かってないのかしら?」「無様ね」「いつも自慢していた公爵家と仲良しは通用しなかったわね」
「さあさあクロエ様、彼女とは別の馬車にしましょう」
そう言われて、ライラとは別の馬車に乗せてもらえた。
馬車の中で、他の令嬢達からライラへの不満を聞かされていた。
クロエが婚約するまで、ライラは他の令嬢達に対して、
「私は公爵家を自由に出入りさせてもらっていたのよ」
「公爵夫人とは約束無しでお茶をしたわ、おばさまって呼んでいたの」
「ギルは小さい頃から私に優しいのよ」
「皆は小さい頃から私と一緒に遊んだりしてて、私がいないと寂しいみたいなのよね」
「いずれ私はギルの婚約者になる予定なのよね」
などと自慢していたらしい。
とはいえすべて過去形の話だった上、クロエとの婚約が決まった事で彼女達は心の中でライラを笑っていたらしい。