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「クロエ、ギルバートさんとのお付き合いは順調かい?」

ある休日の昼下がり、一緒にお茶を楽しんでいた父にそう尋ねられた。

「ええ、とても気を配ってくださいますわ」

「そうね、花やカードがよく届くものね。まめな方だわ」

母がそう言って笑った。

「仲良くしているようならよかった。

公爵も気にかけてくれていてな、会うたびに愚息が失礼な事をしていないかと仰って確認してくるくらいだよ」

「わたくしも、公爵夫人がクロエを気に入ってくださってて、会うたびに褒めてくださるのよ。

公爵夫人の教育も順調なのでしょう?優秀な令嬢だとほめていらしたわ」

両親からそう言われ、クロエは嬉しくなった。


「ところで、例の幼馴染の御令嬢とは学園でどうなのだ?」

父が心配そうにこちらを見てきた。

公爵家からも学園在籍中は今まで通りの付き合いをさせてほしいと言われていたのだ。

それは、今すぐに縁を切るようなことをすれば、ギルバートとライラの間に何かあったと勘繰られる恐れがあるからだ。

婚約者ができても今まで通りに付き合いをしていれば、醜聞にならないから、というのが理由だ。

勿論、両親そろってその話を聞き、了承の上での付き合いなのだ。

学園を卒業すれば、当然だが身分差があり、社交界で顔を合わせる機会もないのだから、とクロエも納得はしていた。

だから、学園でライラがクロエを呼び捨てにしても、ギルバートとの仲に入ろうとするのも特には咎めずにいたのだ。

下手に苦言を呈せば、あのライラの事だ、大声で騒ぎ立て、ギルバートとライラのありもしない醜聞になってしまう。

それがクロエが我慢している理由だ。

ギルバートがクロエに対して恋情を隠すことなく伝えてくれることもあり、クロエは我慢できていたのだ。


「そうですね、相変わらずギルバート様と仲良しアピールがすごいですわね。

他の令息との昔話などで、婚約者の御令嬢達に嫌味を言ったりしていますが、皆放置しておりますわね」

「まあ、なんて配慮のない御令嬢なのかしら。

幼い頃からの知り合いだとしても、そろそろそんなおままごとは終わりだと気が付かないのかしらね」

「準男爵家ではどのような教育をしているんだか・・・。

まあ、あの当主も公爵家の後ろ盾があると匂わせて、取引を有利にしているらしいからな」

そんな話をして、父が用事を思い出し、席を立った。


「ねえ、クロエ、何かギルバートさんに思うところがあるのではなくて?」

お茶を入れ替えた後、母がそう聞いてきた。

「お母様・・・」

「胸につかえていることがあれば話してちょうだい」

そう言われ、クロエはライラが巧妙にクロエに選択肢を迫り、ライラがギルバートの側にいることができるように誘導されていることを伝えた。

そして、ギルバートがそれを咎めることもなく、黙って受け入れていることにもやもやしていると話した。


「まあ、本当に厄介な女ね」

母は呆れたようにつぶやいた。

「厄介、そうですね、厄介ですわ」

「クロエ、それをギルバートさんに話した事は?」

「無いです。その、告げ口をするようで・・・」

「一度きちんと思っていることを話した方がいいと思うわ。

公爵家の方々は良い方たちだけど、のんびりした気質でそういう思いは言わないと気が付かないと思うわよ。

厄介な女を野放しにしていた事も、言われて初めて気が付かれたでしょう?」

それを聞いたクロエは、なるほど、と思った。


ギルバートと二人でデートに行った時、クロエは思っていた事を話してみた。

「ギルバート様、わたくし、思っていることがありまして、聞いていただけますか?」

「ええ、もちろん、なんでも話してくれ」

そう言われて、クロエは言葉を選びながら話した。

幼馴染の婚約者とはいえ、ライラが自分の事を呼び捨てにする事、

何かにつけてギルバートとクロエの中に入りたがり、最終的に断りにくいクロエが折れている事、

それをギルバートが見ているだけなのが、ライラの味方をしているようでつらい事などを伝えた。

「ライラさんの味方をするという事は、やはり本当に好きなのはライラさんで、わたくしは世間体の為に婚約したのか、などと考えてしまって。

嫌な女ですね、わたくしは・・・」

話しているうちに、クロエは自己嫌悪に陥り、下を向いてハンカチをぎゅうっと握り締めていた。


「クロエ」

クロエはギルバートに抱きしめられていた。

「ごめん、ちっとも気が付かなかった。

ライラ嬢はいつもあんな感じだったから、クロエがそんな風に感じていたなんて本当に気が付かなくて・・。つらい思いをさせてしまった」

「いいえ、わたくしが勝手にそう思ってしまっただけです」

「いや、悪いのは僕だ。学園内では今まで通りとはいえ、婚約者にそんな思いをさせてまで一緒にいたい相手じゃない。

昔から一緒にいた、というだけで、何の感情もないんだ。

僕が好きで一緒にいたいのはクロエだけなんだ」

ギルバートの言葉にクロエは気持ちが温かくなったが、抱きしめられているこの状態に、顔を真っ赤にさせてしまった。

控えていた侍女と侍従がそれぞれやんわりと声をかけたことで、二人は顔を赤くしながら離れた。

それでもクロエの心のもやもやはすっきりと晴れた気がした。


「クロエ、僕は相当鈍いらしい。

今後も思っていることはこうやって言葉で伝えてほしい。

僕もできるだけクロエを想っていることを伝えていくよ。

ライラ嬢については、しっかり僕が断るよ。

呼び捨てもさせないようにきちんと話す」

ギルバートはそう言ったが、

「じきに卒業ですもの、呼び方はどうでもいいです。

ギルバート様との邪魔をしなければそれでいいんです」

そうきっぱりとクロエが伝えると、ギルバートは

「わかった、でもなるべく僕がクロエを守るよ」

そう言ってくれた。



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