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「話はついたかな?」
先日と同じように父母と3人で集まり、父がそう口を開いた。
クロエはギルバートから聞いた話をすると父に尋ねてみた。
「ギルバート様からの打診で、政略的なものではないと言われたのですが、本当ですか?」
「ああ、本当だ。いきなり婚約したいと打診されてな。
身辺調査もしたし、お互いに益となる繋がりがある事もわかったからクロエに婚約するか聞いて決めたのだよ」
「わたくし、政略的な婚約だと思っておりましたわ」
「可愛い娘をそんな道具みたいに使うわけないだろうが」
(あら、お父様ったら、ちょっと拗ねてしまわれたわ。
でもギルバート様の話は本当だったみたいね、良かった)
「旦那様、それで公爵様とはどんなお話を?」
「ああ、クロエに聞いた事を話して、その女性は公爵家の何なのか聞いてみたよ」
「それで?」
「公爵家は代々子供の年齢の近い者と広く交流をさせるらしい。
その中から優秀な側近候補や友人候補を見極めていくそうだ。
勿論令嬢もいるが、大体は10歳前後で離れていくらしい」
「どうしてかしら?」
「10歳にもなれば自分の身分や立場が分かってくる。
10歳過ぎても婚約者になれないなら見極めて距離を置くのが普通だろう」
(たしかに)とクロエは思った。
いつまでも高位貴族の令嬢が公爵家の婚約者に選ばれなければ別の優良な令息を探すのが当たり前だろう。低位貴族の令嬢にしても、10歳にもなれば身分差を感じ、早々に公爵家の伝手で侍女やメイドになる方が得になる。
普通はそれぞれの当主が見極めたうえで引き際を考えるのだろう。
「ですが、あのライラという女性は何なのですか?」
「それについては公爵はかなり驚いていたよ。
たまに見かけるが、公爵家のメイド候補だから来てるのだろうと思っていたらしい」
(公爵様は昼間はお仕事でお屋敷にいらっしゃらないから知らなかったのね)
「それについては公爵夫人が謝っていらしたわ」
「何について?」
「何となくズルズルと彼女の来訪を許してしまっていた事についてね」
「ギルバート様もそんな感じでしたわ」
「そう、日常の事だから何となく違和感を感じていても見逃していたみたいね。
我が家もそういうところがないか見直しておかないといけないわ」
母はそう言って笑った。
「公爵家から準男爵に対して正式に今後の付き合い方を話すそうだよ」
「え?彼女準男爵の御令嬢だったんですか?」
「そうみたいね」
「それであの態度って、準男爵様は何を教育されていたのかしら?」
「あわよくば、と思っていたのかもな」
ああ、と3人は同時につぶやいた。
今後、公爵家にライラが来ることは無いだろう、という結論になり、クロエの婚約はそのまま継続されることになった。