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「クロエお嬢様、旦那様がお呼びです」
侍女からそう告げられ、クロエは父であるハイアット侯爵の所へ向かった。
父以外にも母がいたことに少し驚いたが、二人の前に座った。
「クロエ、公爵家からの先日の謝罪の手紙のことなんだが」
「はい」
「いまいち状況がわからなくてな、何があったのか話してくれないか?」
そう言われて、クロエはライラの登場から話した。
「それで、そのライラって子は一体何なの?」
「さあ、わかりません。自己紹介もされませんでしたし、公爵夫人からも紹介はされておりません」
「なんだそれは」
「公爵家はどうなっているのかしら?」
「わたくしも全くわからなくて・・・それで早々に帰らせていただきました」
「それで謝罪の手紙か・・・」
父も母もなんとも言えない顔をしている。
「クロエ、クロエはこれからどうしたいと思っているの?」
そう聞かれ、クロエは少し考えた後で返事をした。
「ギルバート様とお話ししてみようと思います」
「そうか」
「わたくしも公爵夫人とお話ししてみようかしら?」
「それがいい、私も公爵と話をしてみるつもりだ。
それぞれが話を終えたら情報をすりあわせようか」
父の判断でそれぞれがライラについて話を聞いてみることとなった。
侯爵邸
「クロエ嬢、今日は時間をとってくれてありがとう」
庭園でギルバートとクロエが向かい合って座っている。
「この間はすまなかった」
そう言ってギルバートが頭を下げた。
「彼女はいったい何者なのですか?」
クロエがそう聞くと、
「ライラは隣の屋敷に住む幼馴染なんだよ。小さい頃から遊びに来ていて、その延長で今も我が家に遊びに来るんだ」
「そうですか」
「でも本当にただの幼馴染で、多少距離感が近いところはあるけれど、あれがライラの通常の状態なんだ」
「そうですか」
「僕だけじゃなくて他の幼馴染ともあんな感じなんだよ」
「そうですか」
そうですか、としか返事をしないクロエに、ギルバートは気が付いた。
「あの、もしかして怒っている・・・?」
「いいえ」
「それじゃあ」
「呆れておりますの」
「へ?」
「いい年頃の令嬢が婚約者でもないのに自由に出入りをして、それが普通だと?
彼女が婚約者だと思われていてもおかしくないでしょう?」
そう言われてギルバートは初めて気が付いたようだ。
幼い頃からの延長でいたため、何となくフィルターがかかっていたのかもしれない。
「わたくしたちは政略的な婚約ですが、やはり醜聞になるのは嫌ですからね。
せめて結婚後に彼女を愛妾としていただかないと。
目の前であんな風に振る舞われては噂になってしまいますわ」
クロエがそう言うと、ギルバートはものすごく驚いた顔をしていた。
(何か変な事言ったかしら?)
クロエが不思議そうに首を傾げていると、
「クロエ嬢、君は・・・その、この婚約が政略的なものだと思っているのか?」
「そうなのでしょう?」
「違う!」
そう言ってギルバートはテーブル越しにクロエの手をつかんだ。
「僕がクロエ嬢に・・その・・一目ぼれをして・・・それで婚約を願ったんだ」
「え?ええ??ひとめぼれ??」
「そう、学園の合同授業の時に初めてクロエ嬢を見かけて、その時の笑顔がすごく素敵で・・」
(何てこと、急に婚約の打診があったからてっきり政略的なものだとばかり・・・)
「だから、婚約できてうれしかったんだ」
ギルバートはそう言ってクロエの手を更にぎゅっと握り締めた。
そしてものすごく熱いまなざしでクロエを見つめている。
クロエは急に恥ずかしくなり、顔に熱が集まるのがわかった。
「僕はクロエ嬢が好きだ。
ライラの事はなんとも思っていない、これだけは信じてほしい」
そう言われ、クロエはこくんと頷いた。