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ギルバート達は警備主任たちと合流し、学園内を探すことにした。
警備主任からは学園から外に出入りした者はすべて身分や持ち物を確認しており、人が外に連れ出された様子はない、とのことだった。
「学園内にいるってことだな」
「公爵令息様、我々警備の者は学園の外周を探してきます」
「わかった、我々は学園の中を探す」
「着替え用の部屋はそれぞれ教師が検めておりますのでそちらは除外してください」
「わかった」
ギルバートたちは手分けして教室などを探した。
卒業パーティがある事もあり、ほとんどの部屋は施錠されていた。
「後は外の建物だな」
「外周の検証は警備担当がしているから、学園に近い建物を調べよう」
ギルバート達が必死で探している頃、ようやくライラは会場に到着した。
ひとりでクスクスと笑うライラを皆がじっと見ていた。
ライラはギルバート達を探しに行こうとしたところで、幼馴染の一人に会った。
「ライラ嬢、卒業おめでとう」
「ああ、おめでとう。ねえギル、ギルバート様知らない?」
「う~んこの人込みじゃあね、そのうち会えるよ」
そうやって婚約者を連れて離れていく。
次々と声をかけ、ライラをあまり移動させないように足止めしていた。
「ねえ、やっぱり変だわ」
「なにが?」
「ライラさん、前ボタンのドレスを着ているの」
「それが?」
「一人でも着られる簡単なつくりなのよ、あれ」
「そうなのか」
「ライラさんドレスを選ぶ時に騒いでいたそうなのよ。
『マダム・ラ・ファムリータ』並みのドレスは無いの?
ギルにふさわしいドレスじゃないとギルが恥をかくじゃない! って。
それなのにあんな地味な古い型のドレスを選ぶなんて」
「そうよね、それにあの方の化粧がよれているの。
かなり汗をかいてから無理に拭いて化粧した感じなのよね」
女性達はライラの様子をじっと観察していた。
「ライラ嬢を見たやつに聞いたが、ついさっき会場に入ってきたらしいぞ」
「ついさっき?」
「それに、ライラさんを着替えの広間で見た人もいないみたい」
「私も見てないわ」
「そう言えば私も見てないわ」
皆で少しずつ情報を集め、ライラを見張るのだった。
「ギルバート!」
「どうした?」
「こっちに車輪の跡がある」
「車輪?」
「結構新しい跡なんだ」
「行ってみよう」
ギルバート達は急いでその場所を移動した。
車輪の跡をついていくと、廃墟のような場所に続いていた。
「ここだ」
そう言ってそっと小屋の扉を開けた。
崩れそうな棚や家具の間に押し込められた洗濯籠を見つけ、急いで開けてみると、ぐったりとしているクロエを見つけた。
ギルバートは護衛侍女を呼び、彼女たちとクロエを籠から出した。
クロエは下着姿にされており、他の令息たちから見えないように配慮したのだ。
ギルバートは自分の上着を脱いでクロエに掛けると素早くクロエを抱き上げ、その場を離れた。
他の者は警備隊や学園長、会場の仲間たちに知らせるために走り出した。
クロエが目を覚ました時、ベッドに寝かされていた。
(前もこんなことがあったわね)
クロエはそんな呑気な事を考えていた。
「クロエ、ひどい目に遭ったな」
「何があったか話せる?」
両親からの問いかけにクロエが答えると、両親とも呆れたような顔をした。
「なんて女なんだ、しつこいにもほどがある」
「どういう教育を受けていたのかしら」
両親は怒っていたが、公爵夫妻はがっくりとしていた。
あれだけ抗議をしたにも関わらず、またしてもこのような事件を起こし、クロエが犠牲になってしまったのだ。
もうこの婚約は終わりになるだろう、ギルバートもそう思っていた。
だが、クロエの一言でその空気が変わった。
「わたくし、卒業パーティには出ますわよ」
「「「え??」」」
「クロエ、あなた大丈夫なの?」
「だって、このまま欠席したら、きっとライラさんが騒ぎ出すわ。
ギル様に寄り添わないひどい婚約者だって」
「言いそうね」
「そうなったらあまり親しくない家の方々は信じてしまわれるかもしれない。
今後ギル様と社交界でひそひそされるなんて我慢できませんわ。
それに、二度もわたくしをひどい目に遭わせたのよ?
卒業パーティから追い出したはずのわたくしが現れたらきっとあの方ボロを出すわ」
クロエは怒っていたのだ、ライラに。
ギルバートも公爵家もきちんとライラに伝え、丁寧に接していたのにも関わらず、いつまでもギルバートに付きまとい、このような事件を起こす。
「あの頭の中がどうなっているのか聞いてみたいと思います」
きっぱりと告げたクロエに、侯爵夫人は大急ぎでクロエの予備のドレスを準備させた。
高位貴族の令嬢であれば、いざという時に着替えられるようにドレスは3着は用意してある。
クロエは再度侍女にドレスを着せてもらい、化粧を直してもらった。
髪だけは、ライラに殴られたところが腫れており、そこが目立たないようにしてもらった。
侍女たちはクロエの側を離れてしまった事を謝罪したのだが、騙したのはライラだ。
学園の決まりなど知らなかった侍女が信じてしまったのは仕方がないのだ。
そう言ってクロエの母は侍女たちを咎めなかった。
そう、悪いのはライラなのだから。
クロエの支度が終わると、ギルバートがやってきた。
「綺麗だよ、クロエ」
「ギルバート様も髪を直されたのですね」
「少しね、クロエ、今度こそ絶対に君から離れない」
「ええ、お願いします」
二人はお互いににっこりと笑うと会場内に足を踏み入れた。




