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学園でライラが近寄るのをうまく躱せるようになり、ギルバート達は安心していた。
もちろん、普段のように皆で集まってお茶をしたりもするのだが、ライラの会話に誰も乗ってこない。
今の話題の中心は卒業課題なのである。
それぞれの爵位に合わせた課題なので、ライラは会話に入り込めない。
無理に会話に割り込んでも、スルーされて終わってしまう。
幼馴染の婚約者達も卒業後の話が話題の中心となっており、いくらライラがマウントをとろうとしても、「昔話は結構ですわ。今は将来の話をしておかないと」
などと言われ、ライラは口を閉じるしかない。
段々とライラは自分が将来ギルバート達の側にいられなくなることに気が付いてきた。
かなり強気にギルバートと結婚すると思い込んでおり、公爵家からの話を知らされていなかった母親から疑問を投げかけられた。
「ねえ、ライラ、本当に公爵令息様はライラを選んでくれるの?」
「もちろんよ。ギルは私の事が好きなんだから」
「でも、いまだにそんな打診はないじゃないの」
「だって、政略的にクロエがギルを捕まえてるんだもの。
あの女が傲慢で強欲だから、ギルは仕方なく婚約してるだけなの。
今頃どうしたらあの女を排除できるか考えてるはずだわ」
「そう約束しているのね?」
(きちんと約束ができているなら大丈夫ね。
もうすでに良い就職先は埋まり始めているし、結婚にしても釣り書きも来てないのだから・・・)
母親はほっと一安心したような表情をしたが、それを聞いた父親は怒りだした。
「おい、ライラ、いつまで夢みたいな話をしているんだ!
公爵邸への出入りは禁止、事業の方でも公爵家の名前を出さないよう言われている。
学園の間だけは今まで通りの付き合いをさせてもらっているだけだと言っただろうが!
その間に何とかして公爵家の機嫌を取ってお前の将来に役に立てなきゃならんというのに。
まだ妄想を口にするだなんて!!
お前は我が家をつぶしたいのか!!!」
父親の怒声に母親は状況を初めて知ったようで、顔色を無くしていた。
「あなた、公爵家からそんな事を言われていたの?」
「ああ、お前はちょうど息子の看病で忙しかったからな、後できちんと話すつもりでいたんだが、すまん、忘れていた」
「その頃の事なんですね。
あの時は二人とも順番にひどい流行病に罹ってしまって、私も必死でしたから仕方ないわ」
母親はライラが毎日のように公爵邸に行っているのはギルバートに気に入られており、呼ばれているのだと思っていたという。
「なんてご迷惑を・・・」
初めて知った事実にライラの話を鵜呑みにしてしまった自分のうかつさを悔やむ母親だった。
「う~ん、でも公爵家からの話ってさ、クロエの手前やらなきゃいけなかっただけでしょ?
私にはギルの気持ちはちゃんとわかってるんだから」
「「なっ!!」」
「でも大丈夫、クロエとの婚約が破棄されたらきっと元通りになるわ。私にはわかってるのよ」
ライラの両親はあまりの言葉にはくはくと口を動かすだけで言葉も出ない。
「ギルはねぇ、恥ずかしがってるだけなのよ。私にはわかってるの、ギルの目を見ればわかるわ」
あまりの妄想っぷりに両親は頭を抱えた。
我が子ながら何と厄介な妄想女なのだろう・・・。
それから二人してライラに散々注意をしたのだが、ライラの耳には全く届いていなかった。
「あの子があんな勘違い女だったなんて・・・」
「公爵邸に出入りを制限されたことでもっと危機感を持てば良かった・・・」
「このままだとライラは仕事もない、嫁ぎ先もないってことになってしまうわ」
「そうだな・・・」
「それに、気が付いた?あの子、侯爵令嬢様の事を呼び捨てにしていたわ。
クロエ様と言えばハイアット侯爵家のお嬢様でしょ?」
「なに?」
「学園でもそうやって振る舞っているのかしら?だとしたら卒業後の我が家は・・・」
「賠償金を払わねばならんかもしれんな」
「どこで教育を間違えてしまったのかしら」
「公爵邸と隣同士、子供の年齢も同じで仲良くしてもらっていた事でわしらも勘違いしてしまっていたのかもしれん。
他の家の令嬢が距離を置いた時期にわしがちゃんと言い聞かせておれば」
「でも、公爵令息様も公爵夫人も何もおっしゃらなかったから」
「だからと言ってわしらのような低位貴族が遠慮なくお付き合いをするべきではなかったのだ。
分をわきまえてこちらが距離をとるべきだったのだ」
「そうね、今更だけど」
「ああ」
「でも、今からでもライラの仕事や嫁ぎ先を探してみるわ。
そのままほっておくわけにはいかないもの」
「ああ、わしも色々当たってみよう」
ライラの下にはまだ弟が2人おり、これからの教育費等を考えるとライラが家で働きもせずにいるという選択肢はない。そんな余裕もないのだ。




