13
「ギル、ギルバート様、どうして最近は皆で遊びに行ったりしないの?」
ギルバート達が授業のグループ課題にそれぞれ取り組んでいる時、一緒についてきたライラがそう聞いてきた。
「もうすぐ卒業だし、この卒業課題結構てこずるんだよね」
「ほんと、ほんと、でもこの課題の評価が就職にも有利になるからさ~」
「ギルバート達も領地経営とかの為になるんだろう?」
「貴族って本当に大変だよな」
「お前…自分が貴族って自覚ある?」
「あるある、だから頑張ってるんじゃないか」
ライラの言葉に対して、ギルバート以外の人物たちが返事をしながら別の話題に持って行く。
ライラとギルバート達だけの時、こういった光景が見られるようになっていった。
もちろんライラは面白くない。
「ちょっと、誰が課題の話してるのよ!
最近遊びに行けてないって言ってんのよ!!
ギルっ!ギルバート様、卒業までまだ時間あるんだし、遊びに行きましょうよぉ」
ライラがそう言いながらギルバートの横に座ろうとすると、
「ギルバート、この課題が」
「ギルバート、そろそろ時間じゃないか?」
などと言って誰かしらライラの間に割って入る。
それがわざとらしくなく、ライラは文句をつけられない。
そして、ぽつんとしているライラを、ライラを探しに来たグループの令嬢に連れ出されていくのであった。
クロエたちも同様だ。
卒業課題は彼女たちにも与えられている。
特に高位貴族と中位、下位貴族とでは課題内容が異なっている。
これは、高位貴族であれば嫁ぐことが多く、中位、下位貴族になっていけば、働くことが多いため、それぞれにふさわしい課題となっている。
必然的に同じくらいの身分の貴族同士がグループとなり、課題に当たることになる。
ライラは下位貴族の女性達とグループを組まされた。
当然だがギルバート達、幼馴染の婚約者達とは違う課題になっている。
「ねえ、クロエ~、この課題手伝って・・・」
「あら、ライラさん?ここにいらしたのね?」
「早く課題を片付けましょうよ」
「早めに片付けたらよりよい就職先が見つかる確率もあがるんだから」
「いや、でも、あのクロエに手伝ってもらう・・・」
「あらら、クロエ様は侯爵家にふさわしい課題ですもの、私達の課題とは全然ちがうわ」
「ほんとよ、さあさあ、早くして」
同じグループの令嬢達はいつもライラを回収に来てくれた。
実は、幼馴染たちの婚約者の令嬢達が彼女たちに密かにお願いをしたのだ。
ギルバート達が剣の練習をするという日、当然のようにライラはそちらについて行った。
「私が見てて上げるとやる気が出るでしょう?」
とのことだが、今回はわざとついて行ってもらった。
その間にサロンを借り、ライラと同じグループの令嬢達をお茶に招待したのだ。
クロエのように高位貴族からの招待を受けたことがなかった彼女たちは、怯えながら出席していた。
その席で、クロエたちは彼女たちにお願いをしたのだ。
もちろん他の令嬢達も丁寧に事情を話し、お願いをした。
そのお願いは、ライラと一緒にしっかり課題を片付けてもらう、という事だ。
彼女たちは始めはひどく戸惑った。
ライラは彼女たちを見下しており、
「こんな低位貴族の課題などやらなくてもギルの妻になれば問題ない。
ずっと低位貴族から抜け出せないあんたたちがやればいい」
などと言ってやる気を見せなかった事で、ライラ抜きで課題をやっていたのだ。
だが、何故そのようなお願いをされるのか理解すると、彼女たちは協力を申し出た。
「貴女達がきちんと協力してくだされば、わたくし達も卒業後の進路についてきちんと協力いたしますわ」
クロエを始めとした高位、中位貴族の令嬢達からの言葉が最も効果があったのだろうが。
その後の彼女たちの行動は早かった。
学園の主任である教師に相談という形でライラのやる気のなさを暴露し、進捗状況を毎日全員で報告しに行くようにさせたのだ。
「どうして毎日なのよ!」
「ライラ嬢、あなたがきちんとグループの皆と課題をしているか確認しないといけません。
それくらい今の貴方に対して信用がないのですよ。
重要な用事以外で報告に来なければ卒業できないと理解しなさい」
教師からの厳しい言葉にライラは嫌そうに顔をしかめた。
そう言われてもライラはギルバート達に付きまとい、クロエに課題を投げようと無駄なあがきをする。
グループの皆は自分の将来のため、クロエたちの覚えをめでたくするために奮闘し、ライラは毎日捕獲されていくのであった。
同じグループの令嬢達は下位貴族ということもあるのか、幼い頃から家の事を手伝い働く者も多く、ライラの暴言などどこ吹く風だ。
公爵家の幼馴染だったからと言って、公爵家で働く契約もしていない、むしろ遠ざけられている。
その婚約者である侯爵令嬢を呼び捨てにしているが、それすらどうでもいいと放置されている。
そんなライラなど怖くもない。
たくましい彼女たちはライラに負けることなく日々捕獲の腕をあげていった。