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あの事件から1週間が経ち、ようやく侯爵家から話し合いたいと連絡が来た。
それまでギルバートは見舞いの花を贈るので精一杯だった。
公爵も事件の聞き取りをしたりしていた。
久しぶりに侯爵邸を訪れたギルバートは元気そうなクロエを見てほっと溜息をもらした。
「クロエ、クロエ嬢、もう大丈夫かい?」
「ええ、もうすっかり元気ですわ」
「よかった」
ギルバートはクロエを抱きしめたい衝動を抑え、クロエの手を握るだけにとどめた。
やがて、向かい合って座った後、クロエから聞き取った話を侯爵が話した。
始めは驚いた顔をしていた公爵達だったが、段々とその表情は怒りに満ちていった。
ギルバート達は話を聞き終わると立ち上がり、クロエたちに向かって深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ない。なんてひどい目に遭わせてしまったのか、言葉もない。
我が家の甘い対応がクロエ嬢に迷惑をかけてしまった。
愚息との婚約も、クロエ嬢の気持ちにお任せする。
それとは関係なしに謝罪として慰謝料を受け取ってもらいたい」
そう言って公爵は1枚の書面を手渡した。
クロエは両親の顔を見てしっかりうなずくと、
「公爵様、公爵夫人、ギルバート様、皆さまお座りになってください。
わたくしはギルバート様とは婚約の継続を望んでおります。
慰謝料についてはわたくしは必要ありませんが、父と公爵様で決めていただければいいです」
そう言って3人を座らせた。
ギルバートは嬉しそうにクロエを見つめている。
公爵夫妻もほっとしたように顔色がよくなっていた。
「ありがとう、クロエ嬢、慰謝料については後ほどお父上と相談させてもらうよ。
侯爵、それをお許しいただけるだろうか?」
「かまいません、それが娘の出した結論ですから」
「寛大な対応に感謝する」
その後、ライラに対してどのような処罰をするかを話し合った。
だが、クロエの証言しか証拠はなく、ライラは知らぬ存ぜぬを決めている状況では、ライラの罪を暴くことは難しいだろう。
ライラの罪を断罪すれば、彼女は無実を主張し、大声でクロエの悪口を言いまわるだろう。
ギルバートの仲間たちはライラの話を信じないだろうが、他の生徒は信じてしまう者も出てくるだろう。
直に卒業を控えており、あまり大きな醜聞になるのも避けたかった。
「皆様に協力していただく事は出来ますか?」
沈黙を破ってクロエがそう声を出した。
「皆さま、とは?」
「ギルバート様の幼馴染の皆さまです。それと、その婚約者の方々にも」
「クロエ、それはどういう事かな?」
侯爵がそう尋ねた。
「具体的に何か案があるわけではないのですが、皆様との交流をして思ったんです。
ライラさんを擁護している方はいないな、と。
実際、女性だけで馬車に乗った際も、ライラさんの行動や発言に怒りを覚えている方ばかりでしたから。
皆様と協力して学園内で卒業までやり過ごせないかと思いまして」
クロエの発言に、残りの5人はなるほど、それならば醜聞にならずに卒業まで何とかできそうだ、と思った。
「僕が皆に相談してみます」
「ギルバート、そうだな、もとはと言えば我が家の対応の杜撰さが起こした事だ。
お前が主導して解決するのがいいかもしれないな」
「無茶な事や犯罪は起こさないように願いますよ」
侯爵の注意にギルバートは
「もちろんです。クロエ嬢の評判に影を落とすようなことはしません」
そうきっぱりと言い切った。
その後、クロエも婚約者の令嬢達と話をすることにした。
母から、
「女性にしか戦えない戦い方がありますもの、クロエも卒業すれば小公爵夫人と見做されるでしょう?
勉強だと思ってやってみるといいと思うわ」
「そうね、わたくしも手助けが必要であれば助力は惜しみませんわ」
公爵夫人からも賛同をもらい、ギルバートとクロエは目を合わせて頷き合うのだった。




