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世界反抗記  作者: チャップ
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世界反抗2

彼は今日、一つの快挙を成し遂げた。はたから見ればそれは蛮勇ですらなくただの馬鹿ではあるが、彼にとっては違う。どうせ死ぬなら世界に対して自分の存在を証明しようと政治家を狙うように、彼はこの世界の重要人物の一人を先程暗殺した。


あとは自殺するか、それか殺されたっていい。もう目標は果たしたのだ。これで死んでも、自分の名前は間違えなく歴史に刻まれる。このくそったれた世界から勝ち逃げできるのだ。快挙以外のなにものでもない。


彼は走った。逃げれるかどうか、逃げれなくても別にいいが逃げ切ったのなら彼の英雄伝説にさらなる伝説が追加されるのだ。走って走って走って、酸欠で前後不覚になり始めたあたりで前から歩いてくる人にぶつかった。


「アッっ……ぶつかってしまってすいません。少し急いでいまして」

「あ、大丈夫ですよ。ほら、手をお貸ししましょう」

「ありがとうございます」


差し出された手を取って、そこで初めて彼は自分がぶつかった相手を正確に認識した。

印象は一言でいえば赤だった。


赤いジャージに赤いズボン。目の色も服の色と同じかそれ以上に赤い人物。鮮血でも吸ったみたいだった。手につけているロンググローブも赤い、首にかけたペンダントに埋まっている宝石すらも赤い、そんな人物だった。黒い髪が肩まで伸びた、中性的な見た目をした人物。


名前は知っていた。この世界なら誰でも知っている。逆に、その姿を知っているのは限られた人だけだろう。彼も初めて見た。しかし、対峙すれば無理矢理わからせられる。目の前の相手が誰なのか。


「僕、貴方に一つ聞きたいことがあるんですよ」

「な、なんでしょう……」

「はは、情報の出所ですよ出所」


彼の右肩が引きちぎられるのと、彼が意識を失うのは同時だった。





馬鹿野郎俺がそんな簡単にくたばるわけねえだろ。いやくたばる。見栄を張った。人は案外簡単に死ぬ。現に俺は死にかけている。ギリギリ、即死を避けただけだ。致命傷は回避できていない。喉が痛え。というかここまでくれば全身が痛え。


体は当然動かない。窓枠に体を預けて血を流すことが俺にできることだ。やめることもできない。もうすぐ死ぬことができることに追加されるまさしく人生の終盤戦だ。いやはや、昔自作した人生ゲームぐらい簡単に人生は終わる。人生はみんな一発勝負。テストプレイなんてしてないよ。


………………いや、だめだ。だめだだめだだめだ! 俺にはやらなくちゃいけないことがある。月並みだけど、ありふれているけど、俺の流儀に反するけど、それでもやらなくちゃいけないことがある。


血も酸素も足りない脳だけど全力で考える。とりあえず、出血をどうにかしたいので、気合で無理やり体を動かしてベットのシーツをはがして首に巻いてみた。意味があるのかはわからない。文学部ではなく医学部を目指すべきだった。ちなみに法学部だ。犯人を裁くことしかできない。どちらかといえば捌きたい気分ではある。


さて、次にどうするか。それは、俺の状態に気づいてもらうことだ。そのために俺ができることは、とにかく音を出すという事だ。俺はスマホを開いて音量を最大にする。そうして、ダウンロードしていたハードロックをかけた。


ぶっちゃけ、これが俺の全力だ。これ以上は俺の弱体化しきった脳では考えられない。ここからは神頼み。誰かいることを願う。味方であることを願う。


………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………意識がかすれてきた………………………


……………………………………………………………………………………………………………………………………………徐々に視界が狭まってくる……………………………

……………………………………………………………………………………………………


…………………………だめだ………瞼が重い。もう、寝てしまいそうになる………。


「ねえ、大丈夫?」

誰かがいる。それだけがわかった。声が遠い。でも、抱きしめられた感触だけは伝わった。


「大丈夫、私が助けるから。助けるから、だから死なないでね」





「だからまあ、これが恩ってことにはなるわね」

「恩?」

「恩よ。お前のチームのメンバーを一人助けた。これは十分すぎるほどの恩じゃない?」


「私が把握していないメンバーをか?」

「あらあら、三十路手前でもう記憶力に問題が現れたのかしら? チームメンバーである以上、リーダーであるお前の承認があったはずよ」


「システムプレイヤーは老化が止まるから年齢によるなにもないんだよ。自分もそうなくせにそんなことを言うなんて、元から頭が悪いんだねお疲れさん」

「そんな私を天才と判断してこの世界に引きずり落としたお前はもっと頭が悪いわね」


「おやおや自分が騙されたことは自覚してるんだね。ありがとうこれでどちらが上かはっきりしたよ」

「減らず口は相変わらずね。負け惜しみばっかで悲しくないの?」


「道影君の方こそ減らず口が板についてきたじゃないか。大嫌いな私と性格が似てきたんじゃないか? あの頃の純粋でアホとは違って、狡猾でアホはもう救いようがないね」


「え、なに? 殺すよ?」

「え、なに? セグレ君に勝てる気でいるの?」

「あらあら他人の力にすがることしかできないのね」


「失礼だね。同じチームなんだから助け合いだよ。あ、もしかして道影君チームメンバーはあんまり信用しないタイプ?」

「は?」

「ん?」


「……それで、結局あいつはどうなるの?」

「とりあえず、拷問によって素性をはかそうかなって」

「普通に質問はしないのかしら?」


「どちらにせよ、チームメンバーになった時点で死ぬまで私達と一緒だ。慣れてもらわないと困る。そもそも、裏切り禁止のルールがあるから私たち自身があいつを直接傷つけることができない。あのルールがどこまでを裏切りと指しているかは難しいけど、誰かに襲わせることも裏切りになったのは確認済みだ。だからまあ、その辺はセグレ君の手腕だね」


「あいつも可哀想なやつね。もっとまともなチームに入れていれば結果は違ったでしょうに」

「……本当、なんで私の知らない間にチームメンバー増えてんだろうね?」





意識が戻って最初に感じたのは、むせかえるような血の匂いだった。その後に悲鳴、目隠しされていることをここで自覚して、そうして自分の手足が拘束されて椅子に座らされていることに気づいて、吐き気がこみあげてくるのが最後だ。



「おはよう。起きたようだね」

不安があるなら一つ、さっき助けてくれたであろう人と声が違う。


助けてくれた人は声で女性とわかるが、こっちは中性的。


「ん、気分が悪そうだね。そんなにこの匂いが嫌いなのかな?」

「好きなんですか?」

「君の中での僕のイメージが気になるね」


「もう少し優しい対応をしてくれたら改善しますよ」

「よし、ならば目隠しをとってあげよう」


目隠しを引きちぎられると、そう引きちぎられたのだ。後ろの結び目をほどくとか(あるのかは知らない。もしかしたらリストバンドみたいな形かもしれないけど)そんな優しい方法ではなく、俺の首をなにも考えず無理矢理引きちぎってきた。


俺は首を痛めた。あらかじめ言っておくと、別段この首を痛めたことが後の伏線となるわけでもないので本当にただ首を痛めただけで終わった。

そうしてそんな俺の視界を埋め尽くしたのは、


赤、赤、赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血


鮮血だ。それはわかっていた。匂いで、とっくに。だが、ここまでとは思っていなかった。床も壁も天井も、机も花瓶もソファーも、鍋もフライパンも包丁も、コーヒーポットだって全て赤を被っている。


そうして、その赤の出所が座っている椅子が、血の滝にうたれた見たいに赤く染まっていた。いや、比喩だったかどうかすら怪しい。

その衝撃的な光景を前にしてなにより驚きなのが、これだけの血をぶちまけながら、俺の目の前に座っているこいつがまだ生きているという事だ。


出血量だけではない。首からお腹までが縦に切り裂かれていて、骨という骨は引きちぎられているので内臓の様子がよく見える。心臓の鼓動とか、肺の収縮とか、ところで肝臓が一部切り取られているのだがどこに行ったのかは不明だ。どっちの胃の中にあるんだろう?


「こいつはね、君を殺そうとした奴だよ。喉をスパッとしたあいつさ」

「………………………」

「複雑そうな表情だね。あ、手錠は外してあげる」


あっさりと、拘束具は外された。思うに、俺を捕らえるというより俺がこの光景を見ても暴れないようにという目的だったのだろう。これを見せるという大前提に目を瞑れば完璧な処置だ。


「よし剣崎詩乃春、君はこれから僕達のチームのメンバーとしてやっていくわけだけど、如何せんなぜか剣崎の素性がよくわからない。だから剣崎、こいつ殺して? 自分を殺そうとしたやつも殺せないなら、僕達は剣崎を見捨てるしかない」


「はは、ちょっと何を言ってるかわかりませんね……」

「自分の状況をわかってる? セグリオンが知らないチームメンバー、そんなことは通常ありえない。過去のどのチームにも例がない」


「いや、本当に俺も状況はわかってなくて」

「……わかった、もういい」

「理解してくれましたか?」


「剣崎はもう一回拘束する」

「……え?」


次の瞬間、俺は再び椅子に座らされていた。拘束具も付け直されている。時間が巻き戻ったように、ってこれ異世界じゃ比喩になるのかわからない。


「僕はね、セグリオンのことは馬鹿だと思ってるしのろまだと思ってるし役立たずだしうざいし詐欺師だしであんまり信用はしてないけどね」


ひでえ言いようである。


「でもね、流石にチームメンバーを増やしたことを忘れるほどの馬鹿だとは思わないんだ。というか、忘れるはずがない。だから可能性は二つ。剣崎、君は暫定僕達の敵だ」


「はは、なんでそうなるのかわかりませんね」

「セグリオンの同意がなきゃチームにはなれない。で、そのセグリオンが忘れるはずのないメンバー加入を忘れているんだから、誰かがセグリオンの記憶を操ったとみるのが自然かな。少なくとも、無視できない可能性ではあるよ。


問題は、それが剣崎がやったことなのか、あるいは別の第三者が剣崎と双方の記憶を操ったのか。まあとにかく、その辺は拷問で調べるよ」


そういうと、その人は俺を殺したらしいこの哀れな人の心臓に手をかけると、それを引きちぎった。瞬間鮮血が吹き上がる。俺とその人との距離はまあまあ近い。俺にも少し血がかかる。再び吐き気がこみあげてくるが、吐くなんて落ち着いたことをやらせてはくれない。その人は俺の口を腕力で無理矢理こじ開けた。


「チームシステムは裏切りが禁止されてる。どこまで裏切りに含むか昔検証したことがあったけど、ご飯をあげるのは裏切りにならないらしい」

「まっ、て…もらっても……?」


「なに? 話す気になったの?」


一度、その人は手を離した。話を聞く意思はあるようだ。まあ、拷問なら当たり前か。さて、猶予時間はそこまでないとみた。俺が残された僅かな時間でできることは、それはもう全力で正直になることだった。


「違うんですよ~本当に俺も、いやわたくしめもよくわからないのですよ~。なんか、所謂そちらでいうところの異世界人といいますか、転生者といいますか、とにかく別世界から連れてこられたんですよね~。チームでしたっけ? 実はそれすらわかってないっていうか、え? 先輩とお呼びしてもいいですか? 慕いまくっていいですか?」


「…………」

「……その、そちらのチームのリーダーであらせられるセグリオン様に致しましてもわたくしめのこれからの人生の師と仰がせていただきます」


「とんだ危険分子じゃねえか!」

「え?」


自分のリーダーに対する言いよう凄ないこいつ?


「ああわかったよ。その適当にべらべら喋って逃げようとする手口セグリオンそっくりだね。自分が異世界人とか転生者とかわけのわかんねえこと言いやがって。つくならもっとましな嘘つけよ! 頭悪いんじゃないのか!? 心臓じゃなくて脳みそ食べる? この劣化版セグリオンが!」


「ははは……」


現実逃避をしよう。こっちにも同物同治の概念はあったらしい。よいことだ。元の世界と一つでも多く同じものがあると安心するよね。うん……。


「じゃあ、一気にいこっか」


頭に少し穴をあけて、そこにストローが刺さった生首が出てきた。ちなみにまだ生きている。眼球が動いているから確かだ。なるほど……確かに拷問だ。痛みがもっともわかりやすいというだけで、拷問の本質は相手が耐えられない状況に相手を置くこと。その意味では、これも立派な拷問なのだ。


「……いや、本当に異世界人で」

「お前まだそれ突き通すのか? 流石のセグリオンもここまでくれば嘘を変えるよ」

「嘘じゃないんです!」


口の中にストローをねじ込まれた。さらば俺の異世界生活。多分なんらかの病気によってあっさり終わりそうな未来が近づいてきた。……いや、そうなのか? それこそ簡単だ。なんでこいつは、拷問に痛みを使ってこないのか。


いや、そもそもカニバリズムの方面に走るなら、こんなことせずとも直接俺に食べさせればいい。病気? 人体に有害? それがどうした。だって、ここまでやって俺を殺したらしい人は生きてるじゃないか。それがいまさら、人間の脳を食えば危ないよね~なんて、ことこの人の前では無意味な心配でしかない。


食べさせていいのだ。この人的にはそれでも。実績のある脅しの方が効果がある。今の状況は、爪を剥がすパフォーマンスだけをやって一枚も剥がしていないことに等しい。なら多分、できないのだ。この人が俺に無理矢理危害を加えることが。直せたとしても、意味がなかったとしても。


とすれば、我慢すればいいんじゃないか? むしろ相手を根負けさせる。あるいは、なにか別の適当な嘘を考えてもいい。時間自体はありそうだ。初歩的なことを忘れていた。拷問は案外耐久戦だ。ならやり通してやろう、この戦を。


主人公など常に逆境に立ち向かうものだ。不利な戦いこそ主人公の主戦場なのだ。俺は負けない。必ずやり通し、この戦に勝利するのだ。頭の中でゴングが鳴った。そうして、鳴った直後にあっさり終わった。


「は~いセグレ、多分そいつの言ってること本当だよ」

「…………」


黙って口からストローが抜かれた。


「……」

「……」

「……」


誰か喋れよ。いや俺が喋ってもいいんだけど話題がないじゃん。それに比べて話すことあるだろこいつは。おい赤服てめえなにしかとかましてんだこら。


「いや、そのさ……」

「はい」

「……とりあえず拘束外すね」


「お願いします」

「うん……」


手錠と足枷が外された。


「……」

「……」

「……あのさ」


「あ、その前にこいつってどうやったら死にます?」


俺が俺を殺したらしいあの人を指さすと、赤服の人は少し驚いた顔をした。うっすらと、なにかを期待しているようにも見えた。


「そいつなら、僕の能力で生きてるだけだから解除すればいつでも」

「あの、ナイフかなんか貸してもらってもいいですか?」

「いいけど、なにに使うの?」


「いや、捌きたい気分とかいうつまらんこと言ってしまったので」

「……はい、これがナイフ」


赤服の人は、期待通りだったのか初めて笑顔を見せてくれた。ふむ、いやはや邪悪極まりないな。

次回から手のひら返し編が始まります。それと、グロ描写は今後はここまでしっかりとは書きません。書かない。書かない方向性で行きたい気持ちでいっぱいです。

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