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新しい仲間を紹介するぜ!

「前から思ってたんですけど、この大釜要ります?」


「必要だとも、ポーション作成には必須と言える」


「ポーション作ってる所見た事ありませんけど?」


「さて、本も纏めないとだねぇ」


そう突っ込むとアグリーシュはさっと視線を外して本棚へと移動する。4人用の大部屋を占拠していた彼女の荷物は中々の量である。魔法の鞄がなかったら面倒な事になってたな。


「助かります、アルスさん」


「浄化魔法が匂いにも効いて良かったです」


完全にアグリーシュの巣と化していた部屋に片っ端から浄化の魔法を掛けてまわる。元々は毒を消す魔法なのだが福次的に汚れが落ちたり匂いが消えるのでこんな風にも使われているのだ。もし仮にこの魔法が毒にしか効果が無かったら、この部屋は一度板やら壁やらを作り直す必要があったかもしれない。


「ご主人様、こちらの荷物は運んで宜しいんで?」


「ええ、お願いします」


木箱に詰め込まれた服や雑貨を奴隷の男達が手分けして運び出していく。ゴミ屋敷ではないが兎に角物が多いから片付けと物の移動を並行して行っているのだ。


「大きめの所ヲ借りテ良かったデス」


「教会にはお世話になりっぱなしですね」


予定外に奴隷が増えた事で当初検討していた家は小さいという事になり改めて探すことになったのだが、既に契約済みか値段が高い場所しか無かった。どうしたものかと悩んでいたらバレッタが教会経由で見つけてきてくれたのだ。


「手狭になった古い宿舎って話だが、あれって貸し出しなんてしてたのか?」


「頑張りマシタ!」


「頑張ってどうにかなるんだ…」


バレッタ曰く見込みのありそうな人材には繋ぎを作る意味で結構柔軟に対応してくれているらしい。とは言え普通は交渉しようという発想すら浮かばないだろうが。バレッタ様々である。


「ま、ダンジョンに近いし、なんか教会が言ってきてもアルスがどうにかすりゃ良いか」


元々ダンジョンを監視する為の拠点だったそうで、有事の際は即応出来る距離に宿舎は建てられていた。オマケに訓練出来る様に庭も広いし裏には小さいながらも畑まである。まあ最悪の場合軍事拠点としても運用する予定だっただろうから当然と言えば当然なのかもしれないが。


「しかしこれは嬉しい誤算だよ。おかげでカフィに来て貰えるしねぇ」


忙しくない時限定ではあるが、カフィに出張の約束も取り付けた。アグリーシュの希望というのもあるが、どちらかと言えばいきなり俺達が居なくなるので客が来るまでの小遣い稼ぎである。何せカフィには世話になったからこの位はしても罰は当たるまい。


「まあそれもいつまで出来るか解りませんけどね」


何せ立地は少し解り辛いが、部屋の質もサービスも良質なのだ。問題の元凶が居なくなれば直ぐに繁盛するようになるだろう。


「…やっぱり定期的に私が来ようかね」


「それは専門用語で営業妨害というのですよ?」


益体もない事を言い合いながら俺達は荷物を木箱へ詰める。一番の大物である大釜と本棚は魔法の鞄に収納した。…これ俺が運ぶんだよな。


「では世話になったねぇ!」


「お世話になりました。そして今後もよろしくお願いします」


「ええ、ではまた後ほど」


簡単な挨拶を済ませて俺達は荷車と共に新居へと向かう。因みに荷車は所謂大八車と呼ばれるものとほぼ同じものである。違いは木製か魔物の素材製かというくらいだ。


「当面貴方達には家事の補助と畑仕事をお願いします」


荷車を引いている男性奴隷達にそう告げながら別のことを考えていた。科学技術を魔法が代替しているから生活水準は悪くない、けれどこうしたちょっとした所で不便さを感じてしまうのだ。例えば移動手段にしても、馬に回復魔法を掛けて延々と移動出来るから馬車が主流でそれを疑問に思う人間は少ない。移動速度が馬の速さで頭打ちになっていてもそう言うものだで済んでしまうからだ。問題は俺にそれを解決する手段が無いと言うことである。自動車や動力船、飛行機なんて便利な道具を知っていてもそれの作り方なんて皆目見当がつかない。


「新しいお家、楽しみデスねーアルス?」


バレッタに普段と変わらない声音でそう話し掛けられ、俺は空回りを始めた思考を放棄する。…冷静になれ、全部を俺一人でやろうなんて最初から不可能なんだ。だから俺は仲間を作ろうと考えたんだろう?


「ええ、そうですね。どうせなら今日はご馳走にしましょうか!」


先ずは自分に出来る事から始めよう。





「あのう、私達も頂いて宜しいのでしょうか…」


「ええ勿論。しっかり食べて味を覚えて下さい」


俺の言葉に質問してきた女奴隷、ケールが安堵した表情になる。どうやら意味も無く優しくされると不安を覚えるらしい。前の主人はよっぽどろくでもない奴だったんだろう。


「俺達もですか?」


「腹が減っていて力が出ますか?良いから食べて下さい」


めんどくせえな!なんだよもー、アレじゃないのか?奴隷ってこう優しくしてやればすぐコロッとご主人様素敵!最高!みたいになるもんじゃないのかよ、いきなり好感度MAXで身も心も捧げます的な。


「野菜ばかりじゃないか!?」


「アルスの手料理ハ絶品デスよー」


「でも草食って強くなれんのか?やっぱ肉じゃねえの?」


子供か。


「肉食獣は瞬発的な力があります、対して草食獣は頑健な肉体と持久力が。ハンターにはどちらも必要です。ならば双方食べるのが合理的とは思いませんか?」


まあ知らんが現代知識でいけばバランスの良い食事が推奨されるんだ、従っとけ。釈然としない表情で皿を突いていたが、一口食べた後は2人とも掻き込む様に食べ始めた。うむ、良い感じだ。


「美味い!」


感嘆の声をカーマが上げ、躊躇いがちだった奴隷達も黙々とホークを動かしている。くくく、いいぞいいぞ、そうやって俺の飯は美味いと認識すれば今後は大変やりやすくなる。


「食事に関しては今後携帯食についてもある程度自作したいと思っています。畑もありますしね」


「っ!」


俺の言葉にサリサが耳を立てて何度も頷く。店売りのものもあるのだが、焼き絞めて石みたいなパンに謎の干し肉という実にテンションの下がる内容だ。まあダンジョンの場合長く活動しても1日の場合が多いし、階層のポータルで脱出出来るから需要が無いのだろう。


「不測の事態に、備えるのは、重要だ」


勿論携帯食は種マシマシのエネルギーバーモドキである。大量の砂糖と共に焼き上げていてとても甘いので、その味を知っているサリサは露骨にテンションを上げている。


「気の長い話だな」


ああ、そうか言ってなかったな。


「原材料になる種類は僕が作れますから、こっちは直ぐですよ」


「は?」


同じパーティーなのだし、これは先に開かしておいた方がいい。


「言っていませんでしたね。僕のスキルは種生産なんです」


「はぁっ!?」


「そういやアルスさんって戦闘でスキル使ってなかったけど」


「使ってないじゃなくて使えませんからね」


「…それでその腕前かい?」


「思うんですがそれこそが思考の落し穴なんだと思うんです」


身体能力に大した差の無い子供であれば1~2割の強化は文字通り絶対な格差になるし、鍛えたところでどうしようも無い戦闘系レアスキルは間違い無く大きな武器だ。だから戦闘系スキルを持っていない連中はそこで諦めてしまう。たった1~2割でだ。


「同じだけ鍛えたら確かに戦闘系スキル持ちの方が絶対強くなります。なら持っていなければそれ以上に鍛えればいい」


事実鍛錬を怠った結果、卯建の上がらないハンターなんて幾らもでも居るのだ。スキルは大きな力だが、そこに胡座をかける絶対のものじゃない。


「美味しい食事と適切な鍛錬、これを行えれば大抵の人は強くなると僕は考えています」


「理屈はそうだろうけどねぇ?」


アグリーシュがまだ納得出来ない顔でそう口を開く。そりゃそうだ、人間の時間は有限なのだから。だが今はまだこの理屈で押し通す。


「なあに、生きるための武術が、武術のために生きるにちょっと変わるだけです。大きな違いじゃありません」


「全然違うねぇ!?」


ですよねー、俺もそう思うわ。ホント、この世界が近々滅びるなんて事が無けりゃ俺も適度に強くなって悠々自適なスローライフ系最強主人公とか目指したんだが。


「ハンターを続けるなら強くて困る事はありません。暫くは僕に騙されてみませんか?」


俺はそう言って仲間へ向かって笑いかけるのだった。

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