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ハンター家を買う

「なあ、お前等いつまでここに居る予定なんだ?」


日課となった鍛錬を終えて汗を拭っていたらカシュが唐突にそんな事を聞いてきた。あの一件から早くも一週間が過ぎた。その間にダミアは故郷へユニコーンの角を携えて戻り、俺達はカシュ達を勧誘して再びダンジョンへ潜る生活を再開している。因みにダンジョン内での軽食は俺が用意したお手製シリアルバーで、当然ながら各種種が練り込まれた一品である。


「以前にも伝えたと思いましたが、当面はロサイスから動く予定はありませんよ?」


返事をすると彼は眉を顰めながら再び口を開いた。


「そうじゃねえよ、いつまでここの宿を使ってるんだ?」


ごめん、ちょっと何言ってるのか解らない。助言を得ようと応接机でだらしなく伸びているアグリーシュに視線を向けると、カフィと彼女が明らかに余計な事を言われた表情をしていた。


「えっと、どう言う事でしょう?」


「そのままの意味だよ、あの話しぶりからして当分ロサイスに居るんだろ?ならいつまでも宿暮らしじゃ割高だろ」


「郊外なら、安く家を、借りられる」


なん…だと!?

カシュ曰く、今よりもダンジョンまでの距離は遠くなるが、家を借りれば一日当たりの費用はかなり安くなるらしい。まあその分食事や風呂の用意なんかは自分達でしなければならなくなるが。


「稼いでいるのだし問題無ければ現状維持が良いのではないかな?特に君達は鍛錬に時間を割いているし、そこに炊事や洗濯といった作業が加わるのは負担じゃないかね?」


彼の言葉に異論を挟んだのはアグリーシュだった。紹介した当初こそ双方距離があったが、三日もしない内に遠慮無くものを言い合う仲になっている。そんな彼女の言葉にカシュは頭を掻きながら答えた。


「この人数で宿を使うなら使用人を雇っても釣りが来るぞ。それに宿じゃ他の客の目もあるだろう?あれこれと相談する事も考えりゃ拠点は持っていた方がいい」


「他の客…」


そう言われてつい俺は周囲を見回す。早々と点けられた魔導ランプの明かりに照らされた店内には我がパーティーのメンバーが思い思いの姿で寛いでいる。その中で店主のカフィもお得意のコーヒーを用意しているのだが、それ以外の者は居ない。これは他の客が部屋に籠もっているとかでもなくて、この宿の利用者が俺達しか居ないのだ。何となく察してカフィへ視線を向けると、案の定目を逸らされた。


「カフィさん?」


「…そこのがしてくれた異臭騒ぎが3回、不審な爆発が4回。ええ、今ではすっかり閑古鳥がお友達ですよ、我が宿は」


つまり俺達が貴重な収入源になっている訳か。さてどうしたもんだろう?カフィはパーティーメンバーでは無いが、色々と商業ギルドの伝手を使って職人と仲介してくれたりと立派にビジネスパートナーをして貰っている。だから彼女に少しでも利益を還元したい気持ちもあるのだ。現状不都合は無い訳だしこのままでも良いかと結論を出しかけた矢先、カシュが再び口を開いた。


「なあ、それってアグリーシュが居るから人が寄り付かねえんじゃねえの?」


「「……」」


気まずい沈黙が室内を支配する。そして視線が集中し、ティーカップを口に付けた仕草のまま固まったアグリーシュに対してカフィが容赦ない言葉を口にする。


「…考えてみればそうですね。滞納分も支払って頂きましたし、そろそろ出て行って下さい」


「待ちたまえよ!カフィが居なかったら誰が私の面倒を見るんだい!?」


「いや、そこは自分でなんとかしようよ?」


飛び出した駄目な発言に思わずカーマがそう突っ込む。だがそれを聞いたアグリーシュはと言えば鼻で笑って堂々と言い返してくる。


「バカを言っちゃいけないねぇ、そんな事をしたら三日で私は死んでしまうよ!」


「ねえ先生、なんでコイツダメダメなのを偉そうに言ってるの?」


いかんな、此奴に喋らせていると教育に悪い。


「別に家を借りたとして、全員で住む必要は無いでしょう?費用は自腹になりますが、アグリーシュは引き続きここに居て貰っても構いませんよね?」


「いや、構いますよ。拾ったのだからちゃんと持っていって下さい」


「それを言うなら最初に拾ったのはカフィさんでは?」


「それは誤解です。拾ったのでは無く勝手に居着いたのです」


「人を野良猫か何かみたいに言わないで欲しいねぇ!?」


「いやだなあ、そんな事思っていませんよ」


猫は異臭騒ぎも爆発も起こさないからな、その代わりエンチャントもしてくれないけれど。


「ハンター用の家なら工房もついてる。アンタとしてもそっちの方が都合が良いんじゃないか?身の回りの世話だって誰か雇えばいい」


「ううん、けれどこの手の技術は素人がむやみに触ると危険だからねぇ。雇って怪我をされても寝覚めが悪いよ」


「…待ちなさい、そんな作業をここでしていたのですか?」


私は素人じゃないから大丈夫だ、なんて微塵も信用出来ない事を嘯くアグリーシュにカシュが肩を竦めながら返事をする。


「なら奴隷を買えばいいだろ」


そうカシュがあっさりと口にしアグリーシュも考え込む。ふむ、奴隷か。


「…そっちはもしかしたら協力出来るかもしれません」


ロサイスに来た直後に奴隷商には行っているし、あの時の紹介状はまだ有効の筈だ。王国に目を付けられそうな状況で正直動きたくはないのだが、あの状況を経験してまだ時間があるなんて余裕をかませるほど俺は楽観的ではない。


「割と今の商売も悪い奴らに目を付けられたら厄介ですからね。それなら最初から面倒が少ない方が良い」


あくどい奴なら自分の手下を使用人として潜り込ませるとか、或いはこちらが雇った人を誘拐するなんて事も有り得る。国家権力様にあまり関わりたくない俺達としては、最悪の場合も想定した人選が必要だろう。


「待っておくれよ、まだ私は頷いていないよ?」


「じゃあ自分で何とかします?我がパーティーはメンバーの自由意志を尊重しますけど、同時に自己責任も求めますよ?」


「…今回は君達の意見を採用してあげようかね?」


俺の言葉にアグリーシュは視線を逸らしてそう答える。うむ、素直で宜しい。


「決まりですね。カシュ、家って今からでも見に行けるんでしょうか?」


「ああ、商業ギルドに行けば大丈夫だと思うぜ」


ほうほう、けど全員で見て回るってのも効率が悪いか。


「じゃあ家の下見を頼んでも良いですか?バレッタもお願いします」


「構わねえが、お前はどうすんだ?」


「アグリーシュと一緒に奴隷を見てきます。良いですよね?」


「仕方ないねえ…」


不承不承といった様子で頷くアグリーシュと共に俺は席を立つ。環境を変えるならさっさと動いて早く慣れた方が良いと思ったからだ。


「取り敢えず一人居れば大丈夫ですかね?」


「いや、カフィは優秀だから同じ環境というなら最低3人は欲しいんじゃないかな?」


「…3人ですか」


カフィは凄く手際が良かったからな。あのレベルで仕事が出来る奴は奴隷になんてならないだろうし、もし居てもかなり値段が高そうだ。それなら人数で質を補う方が賢いかもしれない。


「これはこれは!ようこそアルス様!」


そんなことを考えながら奴隷商の扉を潜ると何故か満面の笑顔で迎えられる。


「もしかして上客なのかい?」


「まさか、寧ろ悪い客ですよ」


小声で尋ねてきたアグリーシュにそう返す。そもそも買ったどころか一回来て奴隷見て帰っただけだぞ?客と呼んで良いかすら怪しい。


「ははは、アルス様のご活躍には注目させて頂いております故」


まあここの所結構派手に動いていたからな。情報の重要性を理解している商人なら気に掛けていても不思議じゃないか。


「有り難うございます」


「それで本日はどの様な奴隷をお求めでしょう?」


「家事が出来て、可能なら読み書きが出来る奴隷が欲しいねぇ。ああ勿論主人の言う事はちゃんと聞くのだよ?」


奴隷商人の質問にアグリーシュが尊大な態度でそう口にする。中々に不躾な態度だったが奴隷商人は眉一つ動かさずに笑顔で応じる。


「成る程、家事用の奴隷でございますか。他に条件はございますか?」


「そうですね、また傷病奴隷を優先して見せて頂けませんか?」


俺が回復魔法で治せるのはもう知っているからだろう。奴隷商人はにこやかに頷くとこちらを案内する。


「傷病奴隷をお求めとは、アルス様は慈悲深さもお持ちなのですな」


慈悲深い…とは違うよな。助けられるから助けるだけで無理な相手は普通に買わないし、そもそも傷病奴隷が安くて最初から恩を売れるって打算からの行動だ。


「慈悲なんかじゃないですよ」


だからしっかりと否定しておく。何せ相手は商人だ、良い人だと見なされた瞬間ヤバイのを押付けてきたり値をつり上げるかもしれない。


「ではそう言う事にしておきましょう。こちらです」


促された先は以前来店した時と同じ部屋だ。今度は失敗しない、そう腹に力を込めて俺は部屋へ踏み込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルス君や、助けられる方からしてみたら善意か偽善かなんてあまり関係ないんだよ? やらない善よりやる偽善とはよく言ったもんだ。 ただし、アグリーシュ=サンはそろそろわきまえた方がよいのでは? …
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