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我が儘貴族令嬢現る

「お、お待ちくださいティアナ様!?」


そう言って慌てた様子で神父様が待ったをかける。


「あら、何かしら?」


「彼女はまだ修行中の身です。未熟な者を送り出す訳には参りません」


シスターは所謂修道士と言う奴で、教会からしてみればまだ神の教えを学んでいる最中の人間である。普段も実際には神父様の補助が多くて読み書きは教えても説法などの教会の仕事は任されない。


「あら、でも彼女なんでしょう?あのシアって英雄候補を育てたの」


その言葉に思わず俺は身を固くする。やべえ、元凶俺か!?


「それは、確かにシアさんに教えていたのは彼女ですが…」


「私を差し置いて英雄候補になるような子を育てられるなら、十分優秀ということでしょう?それとも教会は男爵家風情には彼女を貸し出せないと言いたいのかしら?」


いや、すげえなこの子。場違いにも俺はちょっと感動してしまう。この国も王国を名乗るだけあって貴族も当然存在するのだが、何というかどの貴族も真面目に高貴なる者の義務を果たしている。当然と言えば当然で授かるスキルが遺伝的要素はなく神様の気分次第だから、義務を果たさないと普通に在野の有力者なんかが担ぎ上げられて革命とかされるのだ。何せドラゴンだなんだといった災害みたいな生き物がふらふらしている世界である。統治者の能力が前世より生死に直結している分民衆の目も厳しいのだ。良くこんな世界で世襲制の貴族が成り立つなと思ったが、理由は案外簡単だった。つまるところ戦闘能力と統治能力は別物なのだ。そして貴族の多くはこの統治能力をノウハウとして受け継いでいるのである。識字率こそ教会の尽力で高いものの、政治や経済学なんてのは民衆に全く普及していないから幼少期からそれを叩き込まれる貴族は容易に替えの利かない貴重な人材なのである。それでも武力において前世のような大きな差がない分、見限られるとあっさり首をはねられてしまうのだが。

つまり何が言いたいかといえば、目の前のお嬢さんのように我が儘プーな貴族子弟と言うのは非常に希少なのだ。好き勝手に振る舞うことの危険性を子供の頃からしっかり叩き込まれるはずなんだが。


「その様なつもりは一切ありません。何度も申しますが彼女は修行中の身なのです。ティアナ様が望む学びを与えることは難しいでしょう」


そんな考察をしている間にもお嬢さんと神父様の押し問答は続いている。


「でも彼女には実績がある。それに…」


そう言って教室を見渡すティアナ嬢、その視線は明らかに見下したものだ。


「見る限り残ってるのに優秀そうなのはいないみたいじゃない?人材は有効活用されるべきだわ」


実際今教室に居るのは全員戦闘向きのスキルを持っていない子供だ。そんな中にあって当人であるシスターはと言えば、疑問符を浮かべて首を傾げていた。間違いなくこの状況を理解出来てませんね、この人。


「エエト、ティアナ様は字が読めないんデスか?」


だから平然とそんな爆弾を投げ込んでしまうのだ。とんでもねえ誤解に一瞬部屋の空気が固まる。ティアナ嬢は俺と同年、あるいは一つ二つ上だと思われる。そんな彼女が字を読めないはずが無い。なのでシスターの質問は侮辱に等しいものだ。実際聞かれたティアナ嬢はさび付いたブリキ人形みたいな動きでシスターの方へ向き直ると、震えた声音で問い返す。


「なんですって?」


しかし我らがシスターバレッタはそんな彼女の怒気を微塵も気にせずに言葉を続ける。


「ワタシ、シアちゃんに教えたのは読み書きダケです。それ以外なんて教えられマセンね?」


これは本当の事で、俺とシアちゃんがシスターから教わったのは読み書きだけだ。じゃあ何でシアちゃんがそんな凄く凄い子になっちゃったかといえば、


(間違いなく俺が食わせてた賢さの種のせいなんだよなぁ)


背中を嫌な汗が伝うのを自覚する。最初は興味本位だったのだ。力とか素早さとかは解りやすい。魔力や生命力なんてのも目には見えないが体感は出来る。けど運の良さとか賢さってなんだよ?種食ったら頭良くなるってどんなだよ。という疑問から試しに食べてみたのだ。

…結論から言えば、種の中でもこの二つは群を抜いてヤバイブツだと判明した。何しろ食って賢さが上がると、解るようになるのだ。先程まで理解出来なかった事が種を食うと問答無用で解るようになる。これだけでもかなりヤバイのだが、この種の力はその程度に収まらない。俺よりも相性が良かったシアちゃんはもっと多くのことが解るようになっていたのだ。曰く、周囲に巡る魔力の流れとかその制御の仕方も解るらしい。ああ、INT依存で魔法の威力が上がる世界なんですね、なんて現実逃避をしたのは記憶に新しい。因みに少量だと適度に賢くなって勉強が捗るので、この教室での勉強の際には終わったご褒美として小さなクッキーに混ぜ込んで子供に食わせている。おかげで子供が賢くなったと親御さん達からはすこぶる好評である。あ、これが原因か。


「そう、そんなに私に協力するのが嫌なのね?」


シスターが韜晦していると受け取ったのだろう。ティアナ嬢は怒気を隠さずにそうシスターを睨み付ける。ごめんなさい、その人本当に何も知らないんですよ。


「帰りますっ!」


こうしていても望む結果は得られないと考えたのだろう。言い捨てるように宣言すると、ティアナ嬢は踵を返して教室から出て行ってしまう。遠ざかる馬蹄の音を聞きながら、神父様は深々と溜息を吐く。


「シスターバレッタ。あの言い方は無いでしょう?」


「神父サマ、ケド私本当のコト言ったダケです」


頬を膨らませてそう反論するシスターバレッタ。うん、嘘は良くないよね。でもあの言い方も相当に喧嘩売ってるからね?


「今日の授業はここまでにしましょうか、皆さんも勉強できる様子ではありませんし」


神父様がそうい言って授業の終わりを宣言する。特に不平を言うことなく子供達は道具を片付けると挨拶をして帰路へつく。だが俺は察していた。あんな行動力があるお嬢様が、そう簡単に諦めるはずが無いと。





「どうぞ、私のことは気にせずに授業をなさって?」


案の定とでも言うべきか、翌日教室に向かうと部屋の中に人影があった。一人は困り顔のシスターで、もう一人は案の定ティアナ嬢である。昨日とは違って今日は普通にお嬢様チックな格好をしている。それでもあまり華美でないのは彼女の性格に起因するものだろうか。専属に出来ないなら同じ授業を受けてやろうというのか、悪く考えればこうして圧力をかけて教会が根負けするのを狙っているのだろう。昨日の言動からすれば正直後者な気がするが。


「おはようございます、シスターバレッタ。それにティアナ様も」


挨拶は実際大事である。親しい人に対しては勿論のこと、例え好まざる相手であっても礼節は守るべきである。お辞儀をしつつそう口にするとシスターは笑顔で元気よく、ティアナ嬢は素っ気なく返事をしてくれた。正直良い態度とは言えないが前世の俺に比べれば可愛いもんである。めっちゃ美少女だからというのもあるが。てかこの世界顔面偏差値高いんだよな、生存競争の厳しい世界だから淘汰も激しいのかもしれぬ。

そんな埒もないことを考えている内に他の子達も集まってきて授業が始まった。最初は昨日のこともあって何人かは落ち着かない様子だったが、それもシスターが普段通りに振る舞っていたら何時もの調子に戻った。そんな実に和気藹々とした雰囲気で恙なく進み、今日の授業も終了となる。片付けを手伝ってくれた子にご褒美としてクッキーを渡し手を振って見送った。


「どういうことなの!?」


最後の確認も終わって俺も帰ろうとしたら遂にティアナ嬢がぶち切れた。正直授業中に切れると思っていたから、俺的には結構頑張ったなという印象である。


「読み書きしか教えてないじゃない!?」


「ダカラそう言いましタよ?」


何言ってんだオメエという表情で応じるシスターバレッタ。だが当然ティアナ嬢は納得しない。


「おかしいじゃない!じゃあなんでシアって子が英雄候補に選ばれるのよ!?」


「それはシアちゃんが優秀だったからじゃ…」


思わずそう言ってしまったら、ティアナ嬢に滅茶苦茶睨まれた。やべ、今のは地雷だったっぽい。


「失礼しますっ」


罵倒されるのを覚悟したが、そのような事は無くティアナ嬢は部屋を出て行く。うーん、実に後味が悪い。


「ティアナ様は何故あんなにシスターに拘っているんでしょうか?」


「ワタシと言うよりハ、英雄候補ニ拘りを感じマスね?」


言いながら俺達は揃って首を傾げる。結局当人でない以上どの様な答えも推測の域を出ない。つまり考えるだけ無駄だと判断した俺は考えるのを止めた。


「じゃあシスター、僕も帰ります。さようなら」


「ハイ、サヨナラデス、アルス君」


挨拶をして俺は教室を出た。ついでに裏手に回って実験農場の様子を見てから家へと帰る。正直に言えばこの時俺は、この状況を大して深刻なものとは受け止めていなかった。そりゃそうだろう。あそこまでのは珍しいとはいえ、基本的に貴族様は庶民より遙かに勝手気ままに行動出来るのだ。だからここまでの発言からティアナ嬢は自分を差し置いて英雄候補に選ばれたシアちゃんを妬んで行動しているのだと判断し、適当にあしらうのを基本方針にしようと考えた。

けれどその予定は早々に破綻する事になる。何故ならティアナ嬢がその日から毎日教会の授業に参加するようになったからだ。当然彼女は読み書きが出来るから一緒になって砂箱に文字を書くなんて事はしない。教室の後ろの席に、授業の始まりから終わりまで不機嫌そうに座ってこちらを眺めているだけだ。


「あの、シスターバレッタ?」


「彼女のシタいようにさせてあげマショウ」


シスターはそう言って彼女がそれで満足するならと受け入れた。他の子達は三日で気にしなくなった。そして俺はと言えば、日に日に彼女の事が気になるようになってしまっていた。だっておかしいだろう、彼女が最初に訪れた日からもう一週間が経つ。その間行われた授業は勿論普段と変わらないものだ。ここまでくればシスターの言葉が嘘偽り無いものだと理解出来るだろう。ならばここに居るのは彼女にとって時間の浪費でしかない。英雄候補はスキルが最重要視されるが、同時にその人物の能力や実績も大きな比重を占めている。シアちゃんならば神童と呼ばれるくらいに魔力の才能を周囲が認めていたとかだ。だからもしティアナ嬢がシアちゃんを見返してやりたいと思うなら、もっと多くの実績を積んで実力を示すのが手っ取り早い。まだまだ英雄候補に選ばれる年齢であることを考えれば、寧ろここで油を売っている方が今後に悪影響を及ぼすだろう。

なんて事を考えていたのが運の尽きとはよく言ったものである。或いは好奇心猫を殺すだろうか?


「あの、ティアナ様?」


今日も今日とて不機嫌そうに席に座っていた彼女に、俺は声を掛けていた。

1万PVに喜んでいたらもう2万PV、これは感謝を込めて投稿せねば。


評価・感想お待ちしております。

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[一言] この主人公あほじゃね?伸び悩もうが全力で自分に能力使えよ。 なろうの自分にというか、作者はなんで主人公にわけのわからんことさせるの?
[気になる点] 貴族の説明のところだけめちゃくちゃ早口で草
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