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ダンジョン都市に出会いを求めたけどなんか違う

「よし、確認した。ようこそロサイスに」


「どうも」


門番のお兄さんにそう礼を言って俺達は街へ足を踏み入れる。城壁の外まで聞こえていた喧騒に相応しく、実に雑多と言うのが第一印象だ。通りには露店が建ち並び、行き交う人でごった返している。武具を身に着けている奴が多いのは流石ダンジョン都市といったところだろうか。


「先ずはハンターズギルドですね」


ハンター協会に登録した人間は原則的に活動拠点か無ければその最寄りのハンター会館に居場所を報告しておく義務がある。これはギルドを通さない裏狩猟や取引といったトラブルを防止する目的と、周辺戦力を把握しておくことを目的にしている。高ランクのハンターが勝手に動き回れないのもギルド側がある程度地域毎に戦力を置いておきたいからだ。

会館のある場所は街のほぼ中央、ダンジョンの入り口がある直ぐ横だった。中に入るとこちらも町中に劣らず混沌としていた。


「すみません、移動の手続きをお願いします」


そう受付の男性に申し出ると、受付さんはやる気の無い態度で書類を差し出してきた。成る程、この列が短かったのはコレが原因か。黙って書類を受け取り項目を埋めていく。そうしていたら最後の方にパーティー名という項目がある事に気が付いた。


「あー、そういえば決めていませんでしたね?」


後ろの二人に振り返り書類を見せる。それを見てバレッタは笑顔でサリサは興味なさげに俺に任せると言ってきた。…こういうの苦手なんだけど。


「…時間がかかるなら列から外れろ」


態度悪いなこの受付。まあいいや、それ程長く活動するつもりも無いのだし適当に付けよう。さっさと記入し書類をおっさんへ渡す。鼻を鳴らしながらそれを受け取ったおっさんは内容を読み上げる。


「パーティー名は白刃ね。代表者はアルス・マフス、最高ランクは2で間違いないな?」


おっと、そうだった。俺は鞄からリンカさんに書いて貰った推薦状を取り出して渡す。それを見ておっさんは疑わしげな視線を俺へと向けてきた。


「ここに書かれているアルスってのはお前で間違いないか?」


「はい、間違いありません」


「俺の目にはお前をランク3へ推薦するって推薦状に見えるんだが?」


「それも間違っていませんね」


俺がそう返事をすると周囲が少しざわついた。くっくっく、コレがチート主人公の気持ちか、中々に心地良いじゃないか!


「お前、歳は?」


「12ですね」


「オイオイオイ、冗談キツイぜ。その職員の目は節穴か?」


隣の列に並んでいた冒険者がそう笑う。使い込まれた武具を身に着けていて、顔には向こう傷なんかがある。歳はバレッタと同じくらいだろうか?取り敢えず性格は悪そうだ。


列から外れて歩いてくるハンターの兄ちゃん。手にした槍で肩を叩きながら俺に向かって話しかけてきた。


「ダンジョンはガキの遊び場じゃねえ、死なねえ内にママん所に帰りな」


すげえなこいつ。内心驚きながらもそれを顔に出さず、俺はおっさんへ話しかける。


「推薦状があれば昇格試験を受けられると聞いたのですが。直ぐにでも受けられますか?」


「お?おお、相手さえ見つかりゃ何時でも受けられるが…」


「テメ、無視とは良い度胸じゃねえか!おい、チャドスのおっさん!こいつの試験、俺がやってやるよ!」


どうやら試験というのはこの兄ちゃんと戦うっぽいな。それにしても有り難い、この街には伝手なんて無いから相手を探すとなれば難儀したことだろう。俺はそこで初めてハンターの兄ちゃんをちゃんと見て笑顔で口を開いた。


「審査役を引き受けて頂いてありがとうございます」


そう礼を言うと、何故か彼の仲間は爆笑し兄ちゃんは顔を赤く染める。あれれー、どうしたのかなー?


「このカシュ様に対して良い度胸だ。二度と巫山戯た口がきけねえようにしっかり教えてやるよ」


言いながら兄ちゃんは自分の胸元に下がったギルド証を指で叩く。刻まれている数字は4だからそれなりの実力者なのだろう。だが間違いなく運は悪いクチだな。


「それでは早速お願いしたいのですが、何をすれば良いですか?」


俺が受け付けのおっちゃんに聞くと、苦虫でも噛んだような顔でおっちゃんは答える。


「そいつと模擬戦をして認められれば昇格だ」


「成る程」


そいつは厄介だね。案の定兄ちゃんの方はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。まあそうだろう、何せ昇格の条件はこの兄ちゃんが認める事なのだ。仮に勝ったとしてもこいつが認めないと言えばそれまでなのである。ふーむ、場所が変われば同じハンターを名乗っていても中々に質が変わるものでる。辺境組がダンジョンモグラと揶揄したくなるのも無理はない。


「で、どうすんだ?俺はお望み通り今すぐでもいいぜ?」


寧ろ俺が大丈夫かと聞きたい。さっきから明らかに三下モブな発言ばかりだぞ?


「ええ、是非お願いします」


そう笑顔で願うと兄ちゃんは見事な青筋を浮かべて歩き出す。さて、とっとと昇級してしまおう。





「ではこれよりランク2ハンター、アルス・マフスのランク3昇級試験を行う。試験管はランク4ハンター、カシュ・ナーツ。双方用意はいいか?」


「はい」


「おう」


会館の裏手にある演習場で俺はハンターの兄ちゃんと対峙する。あの兄ちゃんそんな名前だったのか、酒のツマミにでもされそうだな。貸し出された木剣の感触を確かめながらそんな事を考えていると、件の兄ちゃんが軽薄な笑みを浮かべながら口を開く。


「安心しな。本気を出すなんて大人げねえことはしねえよ」


そんなのは好きにしてくれて構わんが。


「手抜きをしたから認めないなんて言わないならそれで結構ですよ」


まあ認めなければ認めるまでやれば良いだけの話だがな。挑発され返された事が余程頭にきたのだろう、兄ちゃんの顔から表情が抜けて槍を真面に構える。どうもガキに舐められたのが頭にきたようだ。ま、そっちも散々挑発してきたのだしお互い様だと思って頂こう。


「では、始めっ!」


立会人のギルド員がそう掛け声を発した次の瞬間には兄ちゃんが目の前まで迫っており、鋭く槍を突き出して来る。流石にランク4ともなると中々人間を止めている。


「シッ!」


呼気と共に連続して繰り出される槍を盾で受けながらそんな事を考える。確か7への昇格条件は中級魔物の討伐だ。魔物はその危険度によって弱・中・強、そして特の4級に分けられている。中級までの魔物は結構しっかりと規定されているが、強級以上は非常にピンキリだ。これは何故かと言われれば強以上の魔物を倒せる人間は極端に限られていて、脅威度を細かく評価出来る程戦っていないからだ。身も蓋もない言い方をすれば、強級でも一番弱いとされる魔物より強ければ全部強級に放り込まれているのである。因みに特級は純龍種やそれに準ずる単独で国が滅ぼされ兼ねない魔物や魔族に与えられる。はっきり言って倒せたらそいつが今度は特級に分類される様な相手である。

話を戻そう。カシュの兄ちゃんは中級の魔物を討伐した実績がある訳だが、4級はパーティーでの討伐で条件を満たせる。そして中級の魔物はホブゴブリンや、強くてレックスリザードになる。動きを見る限り彼は何度かレベルアップしているようだし、技量的にもパーティーに引き上げて貰った所謂寄生ハンターではなく真面に戦っているのだろう。と言うか体感的にはホブゴブリンくらいなら単独で倒せそうだ。そうなれば最低でも5級、パーティー次第では6級並の実力者となるから強気な発言も無理はない。でもまあ、運は無いな。


「よっ」


再び繰り出された槍を俺は強めに叩き落とす。それなりに知恵は働くと言っても中級までの魔物は人間に比べて遙かに単純だ。見え見えのフェイントにも簡単に引っかかるし、戦いの中で駆け引きなんてまず起きない。そもそも生命力が人間より遙かに高いから小細工よりも強力な一撃を先制して叩き込むのが対魔物戦の定石である。故にハンターも必然それに準じた戦い方に最適化されていく。

本命の一撃を強く払われた事でカシュの兄ちゃんは大きく姿勢を崩す。彼は確かに腕の良いハンターなのだろうが、構えや動きから完全に我流である事が見て取れた。つまりどういう事かと言えば。


「対人戦は経験不足ですね」


彼が体勢を立て直すより速く間合いに潜り込み首筋に剣を当てる。こちとらバーサーカー一歩手前な貴族令嬢と頭がおかしくなりそうな程模擬戦を繰り返した身である。対人戦、特に長物を獲物にしている相手との戦いはお手のものだ。さて勝ったなと思った瞬間、カシュが思い切り体当たりをしてきた。強化されているとは言え俺の体は12才の子供、それも世間からすると少々、そう少々小柄なのである。咄嗟に盾で庇ったので変な打ち身はしなかったが、車にでも撥ねられたように軽々と吹き飛ばされてしまった。ええー、なんなん?


「素人が!相手を仕留めてねえのに油断してんじゃねえよ!」


顔を真っ赤にしながらそう叫ぶカシュ。言っていることは至極真っ当ではあるのだが、今は模擬戦だし相手は人間だ。だから今のでちゃんと解ると思ったんだけど、彼的には寸止めはお気に召さないらしい。


「本気で殴り合う覚悟もねえ奴なんざ認めらんねえな!」


鼻息を荒くしながら懲りずに挑発してくるカシュ。そんな彼の姿に俺は評価を下方修正する。プライドを持つなとは言わないが、せめて正確な戦力分析が出来るだけの度量は併せ持つべきだ。ハンターは文字通り命懸けの職業なのだ、その捨てられない拘りで簡単に仲間も殺してしまう。


「どうした?そんな事は出来ねえってんなら試験は終わりだぜ?」


俺の態度を見て何を勘違いしたのか更にカシュは煽って来た。しょうがねえなぁ。


「成る程、では腕の一本くらいは覚悟して下さいね?」


俺は笑顔でそう告げると、全力で目標に向かって跳躍した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここはなんとまあ荒んでおりますこと。村人ども余計なことしやがって。 アル君いわく倒してしまっても構わんのだろう?って感じですかね。
[一言] ここのところ量産型なろうっぽい話にどんどんなってる気がします
[一言] 腕の一本だけじゃなくてもっといっちゃいましょうもっと!
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