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ハンター道中記

「晴れて良かったですねぇ」


暖かい日差しを受けながら街道を歩く。翌朝日が昇ってから俺達は村を後にした。見送りは神父様のみでギルドのリンカさん達も見送りたいと申し出てきていたのだけれど断った。神父様は俺達と暮らしていたし、何より教会と言う重要施設を任されている人だから大丈夫かもしれないが、一介のハンターでは俺と懇意にしていたなどとなれば村人に何をされるかわかったものじゃない。だからお互いのために断らせて貰った、もうあの村に関わるのは御免だからだ。


「コザの町カラならダンジョン都市マデ乗り合イ馬車が出てル筈デス」


コザの町は歩いて1日程の場所にある。森沿いの道を南下していけば着くから迷うことも無い。スタンピードで魔物も数を減らしたせいか探査の魔法に引っかかるような奴もおらず、俺達の旅路はそれこそ散歩みたいな気楽さだ。


「んっ」


そうした気配は二人も感じているのだろう。サリサは時折体をほぐしたりして眠気と戦っているし、バレッタなんかは鼻歌を歌いながらである。一応村から追い出された身ではあるが、俺達に悲壮感は皆無だ。ダンジョン都市と言う受け入れ先があるというのもあるが、何より余程のことが無い限り俺達なら対処可能だからだ。


「ダンジョン都市、どんな場所ですかね?」


国家の貴重な策源地だからかなり繁栄はしているとのことだが、あまり詳しく調べていなかった。元々は行く予定も無かったからだ。


「一度教会ノ試験デ行きマシタが、騒がシい所デシタね」


顎に指を当てながらバレッタがそう答える。どうやら彼女はダンジョン都市に行ったことがあるらしい。


「行っタのハ別の都市でしタカラ、もしかしたラ違うカモしれマセんケド」


彼女の言葉通り王国には3つのダンジョン都市がある。数だけならば隣国の帝国も同じなのだが、王国の方が規模が大きくそのため産出する資源の量も多い。加えて規模が大きいと言うことは希少な魔物の素材も入手出来るので、これを利用した武具は王国に莫大な富と軍事力を与えている。亜人差別なんてのを堂々とやれるのは案外この辺りが原因かもしれない。

俺達が向かうのはその中でも一番規模が小さいロサイスの街だ。挑戦者の街なんて呼ばれていて、新人ハンターが最初に選ぶことが多い街でもあるらしい。


「ま、新人ですしね」


このままいくと史上最年少のランク3になるとか言っていたがとんでもない。こちとら目指すのは最年少のランク10だ、ダンジョン都市では精々暴れさせて貰うことにする。


「ね、ね、先生」


「何でしょうか?」


そんな事を考えて悪い笑みを浮かべていると、サリサが近付いて声を掛けてくる。無警戒にそう問い返すと彼女は普段通りの感情に乏しい表情で口を開いた。


「先生があの時使った魔法、凄かったね?」


あの時?ああ、レックスリザードの時か。まあ上級魔法だしね。


「一か八かでしたから褒められた事じゃありませんよ。気絶しちゃいましたしね」


加えて詠唱以外の手間が多すぎる。これは俺の能力が上級魔法を行使出来るだけの値に達していないからなのだが、能力を一時的に強化してもそうなのだ。適性の壁を強く感じる内容だ。


「でも強化していけばちゃんと使えるようになるんでしょ?」


多分ね、でも基本的に俺は前衛向きだから優先して伸ばすならそっちだよなあ。…ん?


「サリサ?いま、なんて?」


「ん?だからいつも食べてる種を使って能力を強化すれば、あの魔法も気絶とかしないで使えるようになるんでしょ?」


彼女の言葉に思わず俺は立ち止まってしまう。鼻歌を歌っていたはずのバレッタも引きつった顔でサリサを見ていた。なんでだ?何処で気付かれた?返答に窮しているとサリサは苦笑いで自分の耳をつつく。


「私の耳が良いのは言ったと思ったけど。バレッタさんとの話、全部聞こえてたよ?」


「ソレを私達に教エたラ、自分が危険とは思いマセンか?」


「なんで?」


「いや、それは…」


本気で解らないと首を傾げるサリサに言葉を詰まらせる。彼女には俺が聖人か何かにでも見えているのか?


「先生がお人好しなのは見てれば解る。それに」


彼女はしっかりと俺を見て言葉を続ける。


「それに私はもっと強くなりたい。そして望む力を手に入れるには先生に希望を言える必要があった。だから私も知っている事を教えた」


そう言ってサリサは自分の手へ視線を移す。


「先生のおかげで、一対一ならあのトカゲにも今度はデカゴブリンにも負けないと思う。でもそれじゃ足りない」


俺は溜息を吐きながら種を生み出し彼女へ渡す。不思議そうにこちらを見るサリサに向かって意図を口にした。


「契約の種です。バレッタとの話を聞いていたなら、どんなものかは解りますね?」


そう告げると彼女は躊躇無く種を飲み込む。ちょっとこの子覚悟決まりすぎじゃないですかね?例によって手をかざし魔力を送ると、サリサの胸元が淡く光って紋様が浮かび上がる。毎回別々の所に紋様が出るのはなんなんだ?そんな設定してねえんだけど。


「これで仲間だね、先生」


「とっくに仲間ですよ」


そう笑うサリサに言い返すと彼女は意地の悪い顔になりこちらをのぞき込む。


「えー?仲間に隠し事は良くないなぁ」


ぬ、痛いことを言う。


「仕方ないでしょう。こんな力があると知れたらどんな事に巻き込まれるか解ったものじゃありません。だから国家相手でも無理を通せるくらいまでは知っている人間を極力少なくしたいんですよ」


「ふーん、大変なんだね」


おいおい、もうサリサだって他人事じゃないぞ?


「あの、契約の種を飲んだ以上、サリサも無関係じゃないんですよ?」


まあ実際はただのピーナッツだからばらされても死んだりしないんだが。


「ヘーキだよ。先生の秘密を誰かに言う気なんて無いし」


やっぱ解ってねえな。


「自分からでなくてもそう言う可能性はあるでしょう?例えば僕を悪用したい誰かにサリサが捕まって拷問に掛けられる事だって可能性が無い訳じゃありません」


「それは大変。じゃあ私が捕まらないように強くしなきゃだね、先生?」


そう言って笑う彼女に俺は言葉を失う。なんだこいつ無敵か?


「――責任、――なきゃ」


「ん?何ですか?」


言葉では勝てそうにないなんて情けないことを考えていたら彼女が何かを呟いた。


「何でも無い。これからも宜しく、先生」


そう言ってサリサは鼻歌を歌いながら歩き出してしまう。それを見て俺はつくづく自分が口論に向いていないと自覚しつつ、小さく溜息を吐くのだった。





「さて、では今後についてです」


日暮れギリギリにコザの町に着いた俺達は、門にほど近い安宿に部屋を借りるとそこで車座に座って話し始める。


「ダンジョン都市へ行くんデスヨね?」


ああ、そっちじゃなくてね。


「折角全員が僕のスキルを知った訳ですし、どうせなら本人の希望も聞いておこうかと」


「アー、成る程」


「私は魔法が使いたい」


「私ハ接近戦がヤり易くナルと嬉しいデス」


ふむ、となるとサリサは賢さと魔力、バレッタは力と体力かな?同時に生命力は双方希望に関係なく上げる必要がある。


「解りました。でも当面は僕の魔力を優先させて下さい」


種の生産能力が俺の魔力に依存している以上そこから手を付けるのは決定事項だ。特に今はレベルも上がったから大量に必要になる。そう考えていると真面目な顔して考え込んでいたサリサが口を開いた。


「ね、先生。スキルの事なんだけど」


「はい、何でしょう?」


「先生のスキルって“種生産”だよね?」


「はい、そうですね」


俺が肯定すると、サリサは難しい顔になり、バレッタへ問いかける。


「シスター、“種生産”ってハズレ?」


「ええ、そうデスね。あまり喜ばレるスキルでハ…!?」


そう言いかけてバレッタも気が付いたようだ。てかなんで今まで気が付かなかったんだ?“種生産”と聞いて誰もがハズレと考えた。それは一目で農業系のスキルだと言うこともあるが、聞き慣れたスキルでもあったのだろう。幾ら戦闘系じゃないとしても、聞いたことが無いスキルなら詳しく調べられる筈じゃないか!


「私の村にも“種生産”のスキルを持った人が居たよ。その人達に種って作って貰えないかな?」


こうして俺達のダンジョン都市での目的が一つ増えることになった。

評価・感想お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっと盲点。 そうかまったく謎のスキルだったら騒ぎになってますね
[一言] なるほど・・・! チート種を作れる人が増える→欲望まみれの人間に狙われる対象が増える→アルス君安全! この猫悪辣だな! え、ちがいます?  
[一言] あーそうか。 アルスくん、神様転生ではあるけど知識チートというか『思考の差異者』寄りだったのを忘れてました。
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