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貴様らは藁のように死んでいくのだ

「死ねやオルァ!!」


物騒な雄叫びと共に柵の隙間から槍が突き出される。突破するべく体当たりを続けていたチャージボアに穂先が突き刺さり、甲高い悲鳴が上がった。


「フリージング!」


十発目の攻撃魔法を押し寄せてくる魔物のど真ん中へ撃ち込む。数十匹の魔物が瞬く間に絶命するが、奴らの後続は全く気にすること無く前進を続ける。話と違うぞ!?


「死ね!死ね!!」


一向に減る様子を見せない状況に、少しずつハンターの間にも焦りが見え始める。何せ俺の魔法で当初想定していたよりも遙かに被害を与えているにも拘らず魔物が攻撃を止めないからだ。


「西ニ迂回しテマス!!」


屋根の上からバレッタが叫ぶ。真っ先に反応したサリサが走り出し、積み上げられていた石を掴んで思い切り投げつけた。投石というのはアレで中々馬鹿に出来ないものだ。確かに弓や弩といった専用の武器には及ばないが、扱いが簡単で矢玉の補給も容易だ。それでいて良い所に当てれば十分殺傷だって狙える。そして投げ手に十分な身体能力があればその脅威は格段に増す。


「ふっ!」


獣人は身体能力が高い分細かい作業が苦手だ。投げナイフや槍はともかく弓になると何故か途端に命中精度が下がり、弩に至っては的に当たる方が珍しかったりする。これはサリサ特有のものかとも思ったが、話を聞く限りではどうも獣人は皆こんな感じらしい。そんなわけで彼女の遠距離武器は専ら投石になるわけだが、これが種による強化を十分に受けた上だとどうなるか。綺麗なオーバースローから放たれた石が、真っ直ぐに魔物へと向かい、その頭部を直撃する。次の瞬間当たった魔物の頭部が弾けて中身を周囲にばらまいた。勿論魔物は死んでいる。そんな死体を確認する事もせずサリサは次々と石を投げた。その度に肉が弾ける不気味な音が鳴り響き、西へ向かう集団の足音が消えた辺りで漸く落ち着いた。


「それにしてもしつこい!」


再び魔法を放ちつつ思わずそう文句を口にする。群れている魔物はどれも大した種族ではないから何とかなっているが、それでも延々とこんなことを続けていれば必ず破綻する。何しろこちらは予備戦力なんて無いのだ。今戦っている面々が戦えなくなった時点で詰んでしまう。というか結構な数を倒しているのに何で連中は逃げださない…、


「ああ、そう言う事ですかっ」


探査の魔法に引っかかったでかい反応。そいつらが何かを誰何する前に森の木々をなぎ倒しながらそいつらは現れた。

突然だがスタンピードにおいて魔物は種族を越えて群れを形成するが、それはどの魔物も平等になったわけでは無い。力関係は厳然と存在していて命の価値もそれに準ずる。つまり強力な個体に比べて弱い個体は死亡しても損害として低く評価されるのだ。


「オイオイオイ!レックスリザードだと!?」


「畜生め!」


ハンター達の絶望をあざ笑うかのように森から現れたレックスリザードの群れが吠え猛る。レックスリザード。その名の通り凶暴なトカゲなんだが、その姿は端的に言ってしまえば二足歩行の肉食恐竜だ。それも色んな肉食恐竜の殺意が高い部分を掛け合わせたような格好にどぎついオレンジと黒のストライプである。コイツやワイバーンはブレスを吐けないからドラゴン扱いされていないが単純な身体能力は殆ど大差ない。流石に伝説に出てくるような本物は別格なんだろうが、身体能力だけならロックドラゴンなんかと互角だ。当然その戦闘能力は、先程まで相手にしていたチャージボアやソードディアなんかとは比べものにならない。どおりで連中が逃げ出さないはずだ。群れの中心がレックスリザードの群れでは、他の魔物なんて本当に数合わせ程度の価値しか無いのだ。人間を消耗させる使い捨てにはさぞ都合が良かっただろう。

そんなレックスリザードの群れがデカくて長い爪や牙をガチガチと打ち鳴らして突撃の体勢を整えている。こちらの攻撃魔法をちゃんと観察していたのだろう。ご丁寧に広く横隊を組んで的を絞らせないようにしている。もしかしたら今現れたのも、こちらが魔法を使う回数を数えていたのかもしれない。トカゲ風情が周到な事だ。


「GYA!GYA!GYA!!」


短く吠えると連中は突撃を開始する。目の前に居る他の魔物など気にせず踏み潰しながらのそれに、先輩ハンター達は絶望の表情を浮かべた。村を覆う柵は丸太を加工したものだからレックスリザードの体当たりになんて耐えられない。そして柵が壊れてしまえばもう防衛線を維持するなんて不可能だ。それを理解しているのか、横一列になったトカゲ共が嬉しそうに大口を開けながら突っ込んでくる。

だが、残念だったな。


「調子に乗らないで下さい。トカゲ野郎」


俺は胸のポケットから種を取り出し口の中へ放り込むと直ぐに噛み砕く。その瞬間自分の力が爆発的に高まったのを感じる。強化の種。以前から各種種を生み出しながら考えていた。永続的に肉体を強化出来る種が出来るのなら、効果時間を短くする代わりに超強化出来る種も創れるんじゃないかと。結果だけ言えばこの試みは半分成功した。俺が今食ったのはその成果物で、1分間ほど全ての能力を数倍に引き上げるというものだ。魔力量にして実に通常の強化系の種10粒分。はっきり言ってコストパフォーマンスは最悪である。だが切り札としては十分役に立つ。


「!?」


そんな俺の事をサリサが驚いた表情で見つめる。多分気配とかそういうのに敏感だから、突然気配がおかしくなった俺に驚いたんだろう。まあ見てろって、驚くのはここからだから。俺は突っ込んでくるトカゲ共に向かって右手を突き出す。普通の状態で十分扱えている中級魔法までならこんな予備動作は要らないのだが、能力を超えた魔法を強引に使おうとすると流石にしっかりとした手順が必要になる。俺の中で魔法が組み上がり、そして連中が柵へと到達する直前で完成する。


「“アイスエイジ”」


氷系の上級魔法。その見た目は中級の“フリージング”と大差ないように見える。端からすれば範囲が広くなったくらいにしか思えないだろう。だがその内容は実のところ大きく異なる。“フリージング”は極低温を指定した空間に呼び出す魔法だが、“アイスエイジ”は指定した空間の熱エネルギーを奪い取る魔法なのだ。乱暴な言い方をすれば冷やして凍らせるのではなく、魔法で分子運動を止めてしまうのだ。その結果がどうなるかと言えば、正に目の前で実証されている。


「は?」


悲壮な表情で槍を構えていたハンターの一人が唖然とした表情でそんな声を漏らす。突撃を仕掛けていたレックスリザードの群れが急停止したからだ。この魔法の対象は空間ごとだから空気に至るまで止まってしまう。その結果連中がそのままの姿勢で唐突に固まるという異様な光景が目の前に現れたのだ。


「うお!?」


直後魔法の効果時間が切れ、辺りに強烈な冷気が吹き荒れる。何せ極限までエネルギーを奪った状態、つまりほぼ絶対零度に近い物体が突然近くに現れるのだからそうもなる。そして魔力の戒めから解き放たれた瞬間、氷像と化していたレックスリザードの骸が次々と地面に倒れ伏した。このトカゲ共がドラゴン扱いされないのはブレスが吐けないのもあるが、ドラゴン種に備わっている高い魔法抵抗力を持たないことも挙げられる。それこそ中級ですら上手くやれば倒せるのだ。ドラゴンにすら有効な上級魔法になど当然耐えられる筈も無い。


「ざまあ見なさい。人間様を舐めるからそうなるんです」


群れの中心だったレックスリザード達が倒されたせいだろう、まるで操っていた糸が切れたかのように魔物達が突然統制を失い好き勝手な行動を始める。ごく少数の村に近付いていた個体こそこちらに襲いかかってきたが、大半は明後日の方向へ逃げ出した。どうやらスタンピードを乗り切ったらしい。


(あ、…やべ)


逃げ出す魔物を見ていたら体が急に鉛のように重くなり、更に強烈な眠気が襲ってくる。強化の種を気軽に使えない理由がコレだ。一時的に身体能力を強引に上げる反動で極端な疲労に襲われる。更に今回は上級魔法なんてぶっ放したので魔力も枯渇寸前まで使い込んでしまったから、体が早急な休息を求めていた。


「先生!?」


俺の様子に気が付いたサリサが慌てた様子で駆け寄ってくる。そういえばコレは切り札として秘密にしていたから、サリサ達も知らないんだった。


「大丈夫、ちょっと寝るだけです」


そう言ってサリサに安心するよう伝えつつ、俺はその場にぶっ倒れた。





「知ってる天井だな」


目が覚めたら俺は教会のベッドに寝かされていた。周囲にけが人や死臭はしないから、恐らくあの後スタンピードはちゃんと収束し村は助かったのだろう。だが正直に言えば最後に気絶してしまったのは大きな失態だ。あの時はアレが最適だと考えたが、更にあそこから魔物達が切り札を用意していたら詰んでいたかもしれない。切り札を簡単に切らせられるようでは俺もまだまだだ。


「お?」


ベッドから起き上がる際に違和感を感じるが、その正体が何であるか俺は過去の経験から知っていた。


「レベル、上がったのか」


多分レックスリザードの群れをぶっ殺したのが効いたのだろう。これで人生3度目のレベルアップだ、そろそろいよいよチート主人公として本格的に活動出来るかもしれない。


「早速今夜辺りに強化を――」


なんて考えていたら、部屋の外から言い争う声が聞こえる。いや、言い争うというよりは一方的に浴びせられる罵声を何とか宥めている感じか。幸い衣服は机に置かれていたから手早く着替えて部屋の外へ出る。すると礼拝堂内で村人達が神父様に詰め寄っていた。


「おお、アルス殿。目が覚めましたか」


困った表情で村人を宥めていた神父様が俺に気付き声を掛けてくる。それに釣られるように村人達も俺の方を見たが、何というかその顔には負の感情が浮かんでいる。


「ご心配をおかけしました。あの、これは?」


「起きたなら丁度良い。ハンターさん、今回の件は礼を言わせて貰う」


そう言って壮年の男性が一歩俺へと踏み出し頭を下げる。


「お礼を言って頂く必要なんてありません。ハンターとして当然のことをしたまでです」


実際戦わなきゃ活動拠点を失う所だったんだ。つまり俺は自分の為に戦ったとも言える。レベルが上がったことで気分を良くしていた俺は、あまり考えずにそう言ってしまった。すると男は顎を撫でながら口を開く。


「つまり今回の件で村はアンタに借りを作ったわけじゃ無いと。それは良かった」


雲行きの怪しい言葉に思わず神父様を見ると、彼は手を額に当てて天井を仰ぎ見ていた。あ、俺なんかやっちゃいました?


「村を救ってくれた恩人ならば気が引けるが、気にせんで良いと言うなら有り難く厚意に甘えるとしよう。ハンターさん、アンタには村を出て行って欲しい」


は?何ですと?

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けてもらって怖いからポイかい?  ああ、嫌だ、嫌だねえ。 アルス君が貴族とかかわりが深いって知ってんのかね?
[一言] おっ、村ザマァ滅亡フラグ?
[良い点] 異世界の価値観に馴染めてないというか現代日本人的価値観を貫いて基準が自分にあるせいで周囲の感情を把握しきれず適度に失敗する点。 [一言] そら(獣人差別が酷い場所で不幸が起きて丁度良く被差…
2023/06/30 18:46 通りすがりのハメ民
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