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そりゃばれるよね

「アルス、お話ガありマス」


何時ものように教会の自室に戻りバレッタとベッドで一頻りいちゃつき終わった所で彼女がそう耳元で囁いた。情熱的な彼女にしては随分と真剣な声音になんとなく嫌な予感を感じながらも返事をする。


「なんでしょう、バレッタ」


因みにサリサは居ない。というかバレッタが来ると確実に始まるので入れ違いでバレッタの部屋へ避難するようになった。まあ大概朝までやってるからな、横で聞かされていてはたまったものじゃないだろう。



「サリサちゃんノこトデス。彼女、トテモ強いデスね?」


「そうですね、獣人の方は皆そうなんでしょうか?」


抱き合いながら睦言を交わす様な態度で返事をする。しかし彼女の反応は冷めていた。


「モシそうナラ彼女ガゴブリンに捕まるノハおかしいデスね?サリサちゃん自身、今ノ自分に戸惑っテいまシタ。モウ開き直っタみたいデスケド」


そう言ってバレッタは俺の顔を覗き込むと言葉を続ける。


「シアちゃんは死ヌ筈ダッタのに奇跡ガ起きまシタ。ティアナちゃんも修道院ニ送らレル筈ガほんノ一ヶ月デ実力を開花させまシタ。ソシテ今度はサリサちゃんデス」


俺を抱きしめている彼女の腕に力が入る。


「皆アルスト関わっテカラ強クなりマシタ、マルデ別人みたいニ。一人なラ奇跡ヲ、神の愛ヲ信じタかもしれマセン。デモ三人は多過ぎマシタ」


足を絡めて密着してくるバレッタ。愛情表現ではなくて逃げないように拘束してるだけだこれ。


「答えテくだサイアルス。彼女達ニ何かしましタね?」


「それは教会のシスターとしての質問ですか?それともバレッタの個人的な疑問ですか?」


流石にこれだけ接していればバレッタが普通の聖職者と違うくらい察しがつく。教会は人類の守護者であるが、同時に神意を地上で代行する暴力装置でもある。主敵こそ魔物であるが、背信者や異端者も敵に数えられるのだ。そしてそうした人々の内側に潜んだ神敵を罰する組織が存在するという話だ。その構成員は普段は各地に普通の聖職者として生活しているが、特命を与えられると神罰代行人として行動するのだという。バレッタもその一員ならばあの非常に高い戦闘力も納得だ。


「?ナンデここデ教会が出てきマスカ?」


「え?」


「エ?」


返答次第では覚悟を決めなければならないかもしれない。そんな俺の決意はバレッタの返事で思い切り肩すかしを食らう。思わず漏れた声に対して、バレッタも同じような反応をする。


「…教会に僕を探れとか言われたんじゃないんですか?」


「モシカシテ、アルス。神罰機関のコトを言ってマスカ?」


バレッタの問いかけに俺が素直に頷くと、彼女は顔を背けて肩を震わせた。そしてその理由を口にする。


「ふ、ふふ。あ、アルスもチャンと子供ナ所がアッテ安心しまシタ」


「えっと?」


「マサカ神罰機関を信じテるトハ。男の子ハやっぱリそういうノ好きナンデスカ?」


え、待って待って待って。


「無いんですか?」


「ありマセンヨ、ソンな組織」


無いの!?


「じゃあバレッタが強いのは?」


「私は元テンプル騎士候補ですカラ。格闘技ガ壊滅的で落ちマシタケド」


そう言ってバレッタは自分の過去を語ってくれた。王国の南側の穀倉地帯が広がる長閑な田舎街に生まれたこと、“鷹の目”と呼ばれる戦闘系スキルを持っていた彼女は英雄候補確実と目されていた。しかし彼女には大きな問題があった。それがテンプル騎士団を落ちた理由である格闘技が致命的に下手だと言うことらしい。

“鷹の目”の効果は狙撃に対する補助なのだと言う。話を聞く限りでは相手の動く先と自分の放つ矢の到達位置が解るのだそうだ。特に彼女のスキルは、よく見れば狙いたい位置の未来位置が見えるのだと言う。それであの命中精度なのか。


「スキルに頼り切っテいるせいデスね」


だがこのスキルは遠距離武器を使っている時にしか発動しない。結果彼女は格闘になると途端に相手の動きが解らなくなるのだそうだ。まあ無理もないだろう。子供の頃からスキルに依存していた彼女はそもそも相手の動きを読むなんてしていないのだ。今でこそ多少はマシになったらしいが、それでも英雄候補やテンプル騎士にはとてもではないがなれないそうだ。


「少数デ動きマスカラ、最低限自分の身ハ自分デ守れないトいけマセン」


例外があるとすれば格闘の必要が無いほど強力な障壁を生み出せる魔法の才能がある場合くらいらしい。当然ながらそんな奴は100年に一人居れば良い方で、確実に英雄になる傑物である。


「ッテ、私ノことジャなくテアルスのことデス!」


あ、やっぱはぐらかせないよな。


「ティアナちゃんカラレベルアップしたことハ聞いテマス。でもそれより前カラアルスは凄かっタデスヨネ?」


これはもう無理かなあ。


「…秘密にしてくれますか?」


「?」


解っていない表情のバレッタに俺は考えていることを口にする。


「この力がばれたら、多分僕は世界中から狙われると思うんです。そしてこの力を使わせるために、皆はどんなことでもするでしょう」


俺自身が捕まえられなければ家族や知人を人質にするかもしれない。俺の問いかけにバレッタは困った顔になる。


「約束ハしまスケド、アルスが私ヲ信用出来まスか?」


出来るって言い切れれば格好いいんだけどなあ。俺が返事を出来ずに居ると彼女は苦笑しながら口を開く。


「アルスは素直ナイイコデスね。ケド困りマシタ、教えテ貰えマセン」


いやまあ、方法はあるんだけどさ。悩んでいる彼女に俺は生み出した種を差し出す。そして不思議そうにそれを見る彼女に向かってこう告げた。


「これを飲んでくれればお話しします」


その言葉にバレッタは躊躇無く種を受け取り飲み込んだ。何だろう、信用出来ないって言ってる俺がすげえ格好悪く見える信頼ぶりなんですけど。


「これハ?」


飲んでから聞くとか。


「契約の種です。ええと」


言いながら彼女のお腹に手を当てて魔力を流す。すると程なくしてバレッタの下腹部に紋様が浮かんできた。あ、あれー?


「……」


「なんダカ、いやラシイデスね♡」


おかしい、ティアナの時は体の真ん中辺りにシンプルな菱形が出来ただけなのに、こっちは位置も違えばなんかハートをモチーフにしたような凝った図形になっている。なんだこの種、無駄な仕事し過ぎだろう!?


「…この種を飲んで僕が魔力を流したら、僕と契約をした事になります。そして契約を破ると契約者の体内で発芽し、契約者を死に至らしめます」


「怖いデスネ」


そう言いながらも彼女はなんだか嬉しそうに紋様の浮かんだ部分を手で撫でる。あかん、仕草がエロくて雑念が入る。


「んんっ。これで何で皆が強くなったのか、バレッタなら解るでしょう?」


「こンナ植物は聞いタことガありマセン。つまリアルスの“種生成”はこの世ニ無い種モ生み出せルのデスカ?」


「なんでもではありませんけどね」


俺は再び魔力を集中して種を生み出す。手の中に生まれたのは最早見慣れた力の種だ。摘まんでそれをバレッタの口に入れる。


「力の種です」


飲み込んだ瞬間彼女は目を見開いた。能力強化の種の中で、これと素早さは特に実感しやすいからな。


「…ナルホド、これハ確かニ危険デスネ」


効果を実感した彼女は直ぐに真面目な表情でそう口にした。聡い彼女は俺の懸念を正確に理解してくれたらしい。そして俺を再び見て問いかけてくる。


「これノことヲ知ってイるのは?」


「シアちゃんとティアナ、それにバレッタの三人ですね」


「サリサちゃんハ知らナイんデスね?」


「はい、けれど僕が何かをしているとは察していると思います。聞いてはきませんが。それとゴルプ男爵も恐らく僕が他人を強化出来ると言う所までは感づいていると思います」


「そう言えバエリク様ノ訓練ヲ任されテマシタね」


そう言うとバレッタは大きく溜息を吐く。


「サリサちゃんを故郷ニ送るノハ暫く待っタ方が良さそうデスネ。少なくトモ今ダト男爵ニ逃亡しタと勘違いされかねマセン」


同時に第一夫人の野望ガーとか呟いているが聞かなかったことにする。暫くウンウンと唸っていたバレッタは眉間に皺を寄せながら何度か頷いたかと思うと、再び口を開く。


「トリアエズ」


「とりあえず?」


「今ハイチャイチャしまショウ♪」


そう言って抱きついてくる彼女の背に手を回して俺は彼女の要望に応えるのだった。

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[良い点] 捕食者系お姉さん好き すき
[一言] やっぱ淫紋の種じゃないですかやだー こうなったら何かを3000倍にする種を作って闇社会にばら撒かなきゃ…
[一言] 種の秘密を知る者はこれで三人。 種まきをした人はまだ一人。 うん、不公平だな。シアちゃんとティアナにも種を蒔かないといけないね。これは義務ですよアルス君(暴論
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