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ダンジョンへ

お陰様で累計PV10万突破致しました。

ありがとうございます。

屋敷の裏庭では結構な人数の人が出発の準備に追われていた。キースさん達の姿もあったが、軽く会釈をするだけで先ずは指示を出している人の下へ向かう。鍛えられた肉体にこれ見よがしに磨かれた光るプレートメイルに身を包んだナイスミドル。多分この人が調査隊の実質的な指揮官だろう。流石の男爵様もティアナ嬢にそこまで無茶振りはしないようだ。挨拶を済ませて俺も同行する事を告げて装備を用意して貰おうとしたのだが、そこで指揮官さんが困った顔で口を開いた。


「子供用となると練習用のものしかないが…」


ですよねー、普通従者として具足を用意するのだって十五の成人が一般的だ。中には趣味で誂える貴族なんかも居るらしいが、少なくとも男爵家には無いらしい。まあ想定の範囲内だ。今までだって練習用の革鎧とかだったしな。


「構いません。あ、でも盾と武器は自分で選ばせてくださいませんか?」


だがこれまで通りで良いかと言えば別問題だ。木などの障害物があるとは言え、基本的に開けた空間である森と洞穴のようなダンジョンでは動いて逃げられる距離が違う。必然防具で受け止めなければならない状況も出てくるだろう。その時に命を預けるのが気休めの装備なんてのは避けたい。


「解った。おいこの子にも装備を用意してやれ!」


近付いてきた兄ちゃんに連れられて俺はほいほいと武具を保管している倉庫へと向かう。途中怪訝そうな視線を受けるが気にしない。どうせパーティーとして動くとしたらキースさん達とになるだろうからだ。


「盾はここだ。武器は、あー、何を使う?」


「剣でお願いします」


「剣ね、了解」


何処か馬鹿にした口調で案内してくれるお兄さん。まあ無理もあるまい、子供だけあって俺の手足は大人より遙かに短い。つまりそれは武器を振るうときのリーチも短いと言うことだ。戦闘においてリーチが長いのはそれだけで有利になるのだから、洞窟の中とは言え大人が十分戦える広さなら子供の俺なら大抵の武器を振り回す事が出来るのにわざわざリーチの短い剣を選んだことに呆れたのだろう。希望の装備さえ貰えれば文句は無いので敢えてこちらからは何も言わない。


「盾はこれ。剣はこっちのを貸して下さい」


「おい坊主、それで良いのか?」


それぞれ幾つかを物色し、保管係と思われるおじさんにそう告げる。するとおじさんは困惑気味にそう聞いてきた。


「はい、これでお願いします」


笑顔で告げるとおじさんは頭を掻きながら帳簿に記録を付ける。大丈夫だよおじさん。ちゃんと自分の意思で選んでいるし、俺が活躍すれば問題ないからね。手渡された装備を早速身に着ける。ティアナ嬢との稽古で防具の扱いも学んでいたから慣れたものだ。着け終えたら軽く体を動かして違和感が無いかを確認する。うん、問題なし。


「有り難うございました」


「おう、ちゃんと返しに来いよ!」


おじさんにそう見送られながらティアナ嬢の下へ戻ると、そこでは指揮官さんと彼女が何故か押し問答をしていた。


「お着替え下さいティアナ様!」


「そんなものは使い物にならないでしょう?」


見ればティアナ嬢も俺と同じ訓練用の防具を身に着けている。因みに手にしているのはハルバートだ。曰く、ちょこまかと動き回る小癪な相手を仕留めるには鋭く重い一撃必殺であるとの事だ。どう聞いても俺が仮想敵です、本当にありがとうございました。

さてそんな普段通りの彼女だが、どうも指揮官さんは別の装備を用意していたようだ。見た所彼と同じく儀礼用に近い華美な甲冑のようだ。


「指揮官には相応しい装いがあるのです!」


指揮官が戦場で目立つ装束を身に着けるのにはちゃんと理由がある。白兵戦が戦闘の主流だから平気で混戦が多発する環境では指揮官が判りやすいと言うのは重要なのだ。魔法がある分多少は本当の中世よりマシではあるのだが。


「どうせ名前だけのお飾りでしょう?実質的な指揮官は貴方なのだから問題ないわ」


だからお飾りらしくしていろと指揮官さんは言っているのだが、ティアナ嬢は全く聞き入れる素振りを見せない。指揮官さんにしてみればダンジョン調査の実績を奪われる上に万一でもティアナ嬢に何かあれば責任問題である。後生だから本陣で大人しくしていてくれと言う気持ちも解らなくはない。


「安心なさい、男爵家は武門の家。父様も命じた時点で私が骸で帰ることも覚悟済みです」


それは計算済みかもしれないけれど、積極的に骸になる確率を上げていく理由にはならないんだよなぁ。などと内心突っ込むが庶民の子供がしゃしゃり出ても場を混乱させるだけである。なので静観を決め込んでいると唐突にティアナ嬢と視線が合う。あ、嫌な予感。


「それに私には頼りになる護衛がいます。彼が側にあるかぎりダンジョンの最奥からでも私は無事帰還出来るでしょう」


そんな事を俺から視線を外さずに宣うティアナ嬢。いやまあ護衛するけどさ、それはちょっと大げさじゃないですかね?ほら、指揮官さんがえ?コイツで?みたいな目で俺を見てるじゃん。そちらとも目が合ったので苦笑を返すと彼は盛大に溜息を吐く。


「決して無茶はなさいませんよう」


色々と諦めた様子で指揮官さんはそうティアナ嬢に釘を刺す。それに対して彼女は優雅に頷いて見せるが、その口角が上がっているのを俺は見逃さなかった。





「勿論無茶はしないわよ」


移動中の馬車の中、俺の視線に耐えられなくなったのかティアナ嬢は口を尖らせながらそう言い訳をする。うん、君は賢いからね。でも世間一般様が考える無茶とお嬢の考える無茶には乖離があるだろう?騙されんぞ。


「あら、良いのかしら?アルスだってそろそろもう一度レベルアップしておきたいのではない?私が本陣で暢気にしていては護衛の貴方もダンジョンに潜る機会が失われるわよ?」


そう言って挑発的に笑うティアナ嬢。


「それに私もそろそろリベンジしておきたいのよ。負けっぱなしは性に合わないわ」


彼女のリベンジ相手とはオウルベアの事である。あの一件以来何度かロメーヌの森以外にも足を運んだが、結局今日まで再度出会うことは無かった。どうも彼女的にあの初邂逅は敗北らしく、自分用のハルバートを用意して以来虎視眈々と奴の脳天に叩き込む機会を窺っていたようだ。勿論あの時の個体はしっかり俺がぶっ殺したので出会っても別の個体である、完全にとばっちりだ。


「つまりダンジョンに潜るのは決定事項ですか。キースさん達泣きますよ?」


俺達の本当の実力、と言うか主に俺の能力を隠すためにティアナ嬢が狩りに出る際のお供は彼等に固定されている。当然ながら種の事は話しも食わせもしていない。なので彼等からすれば今回の護衛は完全に実力以上の案件になってしまっている。尤も俺とティアナ嬢が居れば大概は何とかなるだろうが。


「攻略ではなく調査だとちゃんと理解しているわ、安心なさい」


口ではそんな事を言っているが顔には“だが攻略してしまっても構わんのだろう?”としっかり書かれている。嘘みたいだろ?この蛮族女は貴族令嬢なんだぜ?こりゃちょっと釘を刺す方が良いかもしれない。


「ティアナ様が習得しているのは中級魔法までですよね?」


既に彼女は上級魔法を行使可能な魔力量にまでなっているのだが、習得には至っていない。本人の希望で力や素早さといった身体能力向上系の種の割合が増えた分、賢さの種が減っているのが主な原因だろう。元々魔法への適性が低いのだから種チートを止めれば当然とも言える。


「ええ、それがどうかした?」


つまり彼女は行使出来る回数は増えたものの、2年前のあの頃から魔法の技術や能力は殆ど向上していないと言うことだ。それがどう言う意味なのかよく思い出して貰うとしよう。


「僕もティアナ様もダンジョンは初めてです。知識と実際が違うなんて事は幾らでも有り得ます」


そもそもダンジョン自体が非常に個々の差が大きいのだ。どんなダンジョンかは実際に潜って見なければ解らないと言うのが現実である。俺の装備だってそう考えてのものだ。


「オウルベアの一匹や二匹なら十分戦えるでしょう。でももっと居たら?他の魔物によってキースさん達が僕らと分断されてしまったら?」


俺達に付き合わされてキースさん達の実力も上がっている。四人が万全ならばオウルベアにだって勝てるだろう。だがそれだってパーティーが問題なく連携出来る状況であればだ。


「中級の回復魔法では欠損した体は治せません。勿論失われた命も取り戻せない」


しかも部位を失った状態で回復魔法を受けてしまえば二度と元には戻らない。手足が欠損してしまえばハンターとして終わりだ。


「逸る気持ちは解りますし、僕に気を遣って頂いているのも有り難く思います。けれど忘れないで下さい、指揮官の貴女が今預かっている命は僕たちだけじゃありません」


チーターにはチーターとしての節度ってもんが必要だろう。俺達が自分の都合で好き勝手やった結果死ぬのは仕方ないが、それに誰かを巻き込むのは違うと思うのだ。


「っ、解っているわよ!」


そう言ってティアナ嬢は不機嫌そうに視線を窓の外へと向ける。ああ、失敗したなぁ。こんなことならこっそりキースさん達にも種を食わせておくべきだった。そんな後悔をしている間にも馬車は進み、あっという間にロメーヌの森に辿り着く。調査隊は直ぐに近くの伐採所に移動し拠点の設営を始めた。


「長いこと見つかっていなかったダンジョンは大抵育っているからね。調査も数日掛けて慎重にやるんだろう」


俺も聞きかじりの知識だけどね。なんて教えてくれたのは同じテントに入ったシーフさんことロニさんだ。キースさんと剣士のケネスさんは横で武器の確認をしている。因みに魔法使いのネアさんはお嬢様と同じテント、あからさまに不機嫌な態度のお嬢様を見て俺へ救援要請の視線を送ってきていたが、そっと目をそらして対応する。いや、流石にテントの中まで行けませんよ、ガキでも俺男だし。


「それにしても俺達がまさかダンジョンに挑む事になるとはなぁ」


「止めろよ、考えないようにしているんだから」


ロニさんの言葉にケネスさんが泣きそうな顔で応じた。個体差が激しいためにダンジョンの攻略はセオリーらしいセオリーが無く、そのため潜るパーティーには高い実力が求められる。はっきり言ってオウルベアと良い勝負くらいのパーティーでは全く足りていないと言うのが現実である。


「潮時かね?流石にこれ以上は付き合えんよな」


キースさんがそう溜息を吐いた。今回の調査が無事に成功すれば、彼等はダンジョンに潜ってちゃんと生還したパーティーになる。このまま男爵家に雇われていれば、最悪攻略にも参加させられるかもしれない。うーん。


「先のことは取りあえず今日を生き延びてから考えましょうよ」


「アルスはホント肝が据わってるよな、お前大物になるわ」


出る前に簡単な腹ごしらえを、と言って俺は簡単なスープを彼等に渡す。魔法と現代知識の集大成によって生み出されたフリーズドライ食品は好評で、何度か飲んだことのある彼等は何の疑いも無くそれを飲み込んだ。よしよし。


「ま、そうだな。今は目の前の事に集中しよう」


カップの中身を飲み干したキースさんがそう言って立ち上がる。それに続いて俺達も立ち上がりテントの外へ出た。


「よし」


一度空を見上げて気合いを入れる。さあ、ダンジョンだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] お嬢様ェ・・・ 賢さがまだ足りませんね。親父も親父だし、やはり蛮族脳の脳筋の血筋なのでは?
[一言] さらっと差し出すドーピングコンソメスープに草。 無事に帰ってこれるとよいが。
[一言] そういえばレベルを上げるタネってありますよね
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