2話
よく晴れた空、雲一つない晴天。小鳥のような囀りが聞こえる。
うららかな木漏れ日が心地よい森の中で、俺はドラゴンになった妻と共に町を探して彷徨っていた。
「町を目指すにしても、当てがない……」
辺りを見回しても一面木々が生い茂る森、先程のトカゲのような魔物や生き物の影はあるものの、ドラゴンである妻に恐れをなしてか何物も近寄ってこなかった。やはりドラゴンはこの世界においても脅威な存在なのだろうか。
そんな妻は俺に逢えてからご機嫌なのか、尻尾と翼を小刻みに振って歩いている。可愛い。こんな姿と言ってはなんだけど、妻はどんな姿になっても可愛いものである。鱗っぽいドラゴンでもかっこよかったけど、毛がモフモフしたドラゴンも可愛いなぁと妻を観察していて気付く、そういえば翼がある。それなら飛べるのか?
「ところで紫音、翼があるけど飛べたりするのか?」
すると妻は俺をつまみ上げ背中に乗せると、大きな翼をバサバサッと動かし始めた。
周囲に風が巻き上がり、大きな身体が宙に浮かぶ、妻はあっという間に木を追い抜かし空へと舞い上がった。
「すっ、げぇ! 空、飛んでいる!」
こんな巨体が空を飛べるなんて、やはりドラゴンや異世界は規格外だ。空から地上を見下ろすと小さな村らしき物が見えた。よし、あそこを目指そう。
それにしても、空飛べるなら最初から飛んでいればよかったのでは……
「紫音、あの村の方までお願いできるか?」
そう言って大きな頭によじ登って、ポンっと頭を撫でてやるとやる気を出すかのように
「ぐぉおおおおおっ」
と、大きく吠えると妻は村へと向かって一直線に飛んでいくのであった。
そういえば、村に行くのはいいけどドラゴン連れて行って大丈夫かな……?
―――小さき村 ルビド
ぐぉおおおおおっ
大きな唸り声に反応して、村の家畜が一斉に逃げ惑う。
村人も驚いて家から飛び出してくる者や、畑仕事の手を休める者達で顔を見合わせた。
「おい、今の声はなんだ?」
「魔物か?」
「大きな声だったわよ」
小さな村で混乱が生じていた、魔物であったらどうしよう、どこかほかの町から応援を呼ぶか?それとも村の者で退治できるモノか?等と話が飛び交った。段々と風が強くなる、ふと空を見上げるとそこには太陽の光に照らされ純白が際立った大きなドラゴンの姿が
「うわぁあああ!」
「どうする! あれだけ大きなドラゴン見たことないぞ!」
もうこの世の終わりだと、村人たちが絶望に打ちひしがれていたその時、宿屋から一人の旅人がフラッと出てきた。小柄な少年のようにも見える旅人は背中に、小さな身体に似合わない大きな槍を背負っていて、大きな唸り声と村人たちの騒ぎに目を覚ましたようだった。眠たげにあくびをしながら、空を見上げると
「あれくらいなら、僕がなんとかしよう」
というと、背中に背負った槍を軽々と回すと、ドラゴンの方へと大きく振りかぶりその槍を投げた。
槍は勢いを加速させながら、まっすぐとドラゴンめがけて飛んでいった。