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1話


よく晴れた空、雲一つない晴天。小鳥のような囀りが聞こえる。

うららかな木漏れ日が心地よい森の中で俺は目が覚めた。


「……ここはどこだ?」


テンプレみたいな台詞を吐いた。

それもそうだ、さっきまで俺達二人はこんな森の中ではなく街中を歩いていたはずだ。


今日は二人の結婚記念日で、妻《紫音》から前々から欲しいと言われていたペアネックレスを買った帰り道だった。早速ネックレスをつけてご機嫌で歩いていた紫音が笑顔で


「悠紀、あのね、今とっても幸せ!」


と、言った。そして次の瞬間、俺達の元に飛び込んできたのは幸せなんかじゃなくて、居眠り運転していたのだか知らないが、歩道に突っ込んできた車だった。そうだ、俺はその時、死んだはず……


「じゃあ、ここはどこだ?」


空しく響く独り言。そうだ妻が近くにいない、生きているのか?頼むから妻だけでも生きていてくれ!じゃあ俺がいるここはどこだ、もしかして噂の異世界転生か?だとしたら妻もどこかで?ああ、もう頭の中が忙しい!

ふと、キラッと何かが胸の辺りで赤く光った気がした、妻とお揃いのペアネックレスが何か光を反射しているように見える。ここで悩んでいても仕方がない、異世界転生でもなんでもいいが俺はここにいるからには、ここで生きていかないといけないらしい。せめてどこかにいるはずの妻の無事だけを祈ろう。


 ところでこの赤い光は何を反射しているのだろうと思ったその矢先、目の前には見慣れないトカゲのような生き物が火を噴いている。そうかこいつの火が反射していたのか!

火を噴くトカゲと目が合ってしまった、目が合った瞬間、トカゲは俺の方に襲い掛かってきた。とにかく逃げよう、このままじゃ火炙りにされてしまいそうだ。

トカゲは一匹だけでなく続々と増え群れを成して襲い掛かってくる、必死になって逃げるが息が切れてくる、くそっ異世界転生なら何か能力でも持ってないのか俺は!!


ボフッ


トカゲの方を見て走りすぎたせいで前を見てなかった、何か柔らかい大きな毛皮のようなものにぶつかった、もしかしてこれはもっとヤバイやつなのではないのか。

本能的にそう悟った、当たってほしくない直感だけが当たる。目の前を見上げると、そこには俺でもわかる、そう、純白の毛に覆われた巨大なドラゴンが居座っていた。


見惚れるような純白の美しさに一瞬目を奪われたが、それと同時に恐怖も襲い掛かってくる。ドラゴンとトカゲに挟まれて、俺は両側から焼き殺されるのか?

ドラゴンが俺とトカゲに気が付いたようで、ギョロリと眼を向ける。その迫力のある大きな眼差しに俺もトカゲも動けなくなる。食い殺される……!そう思った時、ドラゴンが俺をつまみ上げると背中に乗せた


「な、なんだ、乗せてくれるのか?」


ドラゴンはご機嫌そうに喉を鳴らすと、トカゲの方を向き大きな尻尾をブンッとひと回しして、トカゲの群れを一掃薙ぎ払ってしまった。


「つ、強っ……!」


飛び散るトカゲの群達に、先ほどから嬉しそうな声を上げているドラゴン。俺もしかしてトカゲから守ってもらえたと思っていたけど、ご馳走を手に入れて喜ばれているパターンなのか!?

 もふもふとした背中で怯えているとドラゴンが俺をそっとつまみ下ろし、顔をグイっと近づけてきた。ああ、食事の時か、そう覚悟していた時、角の方で何か光る物を見つけた。あれは妻がつけているはずのペアネックレス……!!


「おまえ……!!紫音を喰ったのか!?」


ドラゴンに怒鳴ったところで、言葉は通じないだろうと思うが仕方ない。あれは見間違うことはない妻のネックレスだ。キョトンとした顔をしたドラゴンの顔をせめてもの力一杯の拳で殴る。


「返せよ、大事なネックレスだ」


するとドラゴンが角と俺の胸を交互に指さし始める。まるでこれがお揃いだと知っているかのように。そして悲しそうな瞳で俺を見つめて何かを訴えかけるような、そんな風な声を出す。


「うぅう……き……」


まるで俺の名前を呼ぶように唸るドラゴン、大きな紫色の瞳に映る俺が段々涙で歪んできて……これは、もしかして、本当に、もしかしてだけど


「紫音、なのか?」


妻の名前を呼んでやると喜んで声をあげるドラゴン。ネックレスのついた角を近づけて必死にアピールしてくる。まさかとは思うけどこのドラゴンが俺の妻ってことなのか!?


「嘘だろ……!?」


思わず声を上げてしまう。

この純白のもふもふした巨大なドラゴンが妻ってことは、妻も異世界転生していたってことだよな。と言うよりも、妻と一緒に現世で死んで、異世界転生しているってことで間違いなさそうだな。

 妻?と再会できたのが嬉しいような、現世で死んでしまっているのが確定して悲しいような何とも言えない気持ちだが、二人で一緒ならなんとかなるだろう。ところでこの妻は人の姿に戻れるのだろうか?


「なぁ、紫音。人の姿に変身とか出来ないのか?」


ドラゴンもとい妻が困ったような顔をして首を傾げる、どうやら無理らしい。

ひとまず森を抜けて町みたいなのを探さないと食料や寝床に困るぞ……でもドラゴン連れて行ったら大騒ぎになるのだろうか、この世界においてのドラゴンの扱いはどういう扱いなのだろうな?



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