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聖なる夜に緊急召喚された話

作者: 酔伯

 僕の名前は高木純一。東京住まいのごくごく一般的なITエンジニア(土方)。今日も今日とて、クリスマスだろうが土曜日だろうが、顧客の要望に応じて仕事に出なければならないような毎日を送っている。


 周囲の華やかな音楽やイルミネーションを横目に、デスクでコンビニ飯を食べたあと、僕はようやく深夜に帰宅する事ができた。


 そして、僕が覚えているのは、玄関で靴を脱ごうとした瞬間、途方も無いめまいを感じたところまでだった。



              ◇   ◇   ◇



 気がつくと、そこは雪国だった。


「お、気がついたようやな」


 目の前には、西洋風の山小屋、白い袋が載った古めかしいソリと、小さくいなないているトナカイたち。


 そして……少し(すす)けたテディベアが僕に向かって話しかけて来ていた。


「テディ、ベア?」


「それは種類名やな。うちにはちゃーんと名前があるで。せやな、くーちゃんとでも呼んでもらおか」


 これはどうすればいいんだろう。僕が頭を掻いて呆然としているうちにも、その、くーちゃんは、変わらず話を続けていた。


「兄さんは召喚されたんや。別世界やないで? ここはまごうこと無く、現代の地球や。で、これ見たら、何の用か分かるやろ」


 そして指し示す、背後のソリ。


「サンタ……クロース?」


「ご名答!」


 くーちゃんは、勢いよく手を打ち合わせた。ぽふっと言う柔らかい音しかしなかったけど。


「兄さんには、これからこれに乗って、世界中の良い子にプレゼントを配り歩いて欲しい、ちう訳やな!」


 くーちゃんの話によると、普段は勿論サンタクロースが配っているのだが、さあこれから、という所でギックリ腰を発症してしまった、と言うことだった。確かに、小屋の中でこちらに手を振るお爺さんの影が見えてはいる。


「分かった所で出発や。マジ時間ないさかいな。北極海経由で極東まで飛んで、そこから西に世界一周や!」


「え、ちょっ!?」


 落ち着いて考える間もなく、僕はくーちゃんに押されてソリの御者台に乗せられ、そのまま飛び立って行ってしまったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 あっと言う間に旅客機が飛ぶような高度に到達、北上して北極を横断、ベーリング海峡に向かってそのまま南下を開始していた。


「まずは極東ロシアやが……ま、この際、スキップしよか。色々、政治的にあかんねん。供与やー言われたらイヤやしなぁ」


「生臭いサンタだね」


「サンタちゃう。くーちゃんや」


 南西に進み、見慣れた北海道の形が眼下に広がってきた。ちなみに、どんな効果なのか、生身では生きていられないような高度と速度で飛んでいても、全く寒くも風も感じていない。


「さて、ほな、そろそろ一発目、いこか」


 と、口にするくーちゃんに、僕は首をひねる。


「何をすればいいのか、分からないんだけど……」


「おお、せやな! 説明するんを忘れとったわ! なに、兄さんには、簡単な呪文を唱えてくれるだけでええねん」


「呪文? アブラカダブラとか、エクスペクト・パトローナムみたいな?」


「ちゃうちゃう。これ、唱えてみ?」


 くーちゃんが寄越した手帳のページに、見慣れた書式の英文が並んでいるのを見つけた僕は、小さく呟いてみることにした。


「えー……"SELECT FROM people WHERE age < 12"?」


 その瞬間、眼下の街の明かりの中、様々な色の、なんて言うかカーソル? もっと身も蓋もなく言うとGoogle Mapで選んだ時のピンみたいなものが、沢山突き刺さるように出現していた。


「なにこれ!?」


「これはなぁ、ウチらが誇る、ストリートレベル・サイクリック・リリック・オートマチック・ユーザーセレクティングシステム、通称、"St.(サンタ)C.L.A.U.S(クロース)"や! これで、プレゼントを贈る対象を抽出する訳やな!」


「それで、なんでSQL言語!?」


「あー、データベースで使うアレな。ちゃうねん、そっちが後。こちらは古代から延々と培われてきた神託由来やで? ほれ、データベースの方も、オラクル(神託)ちゅう会社がやっとったやろ?」


「そ、そうだったんだ」


 なにがなんだかよく分からない話ではあったけど、僕は納得するしかなかった。


「ところで、いろんな色が見えてるけど、この色はどういう意味?」


「色はなぁ、主にその対象の属性やな。秩序よく(ローフル)行動しとったら、明るく、逆に、混沌(ケイオス)に近かったら暗くなる。善悪は赤青やな。善き(グッド)者は青く、悪しき(イービル)者は赤くなる、ちう訳や」


 しばらく眼下を見下ろしたくーちゃんは、大げさに首を振った。


「あかーん! これ、善悪混ざっとるわ! まずは()ぇ子にだけあげなあかんねん」


 属性の絞り込みが必要という事のようだった。


「じゃあ、こんな感じかな? ――"SELECT FROM people WHERE age < 12 AND alignement <> 'evil'"!」


 悪以外に絞り込むようにしてみたところ、赤く光っていたピンが消え去り、そこ残っていたのは青や灰色のピンだけになっていた。


「さすがだぞ! 神託の 書式を ばっちり わかって いるんだな!」


「なんでホップ……?」


 よく分からない反応は無視した方が良いのかも知れない。僕はとりあえず話を進めることにした。


「そ、それで、次はどうすればいいんだろう?」


「あとは撃つだけや。目標をターゲットに入れてスイッチ、っちゅうわけやな」


 くーちゃんは、てちてちと荷台の方に移動すると、大きな白い袋の口を少し開いて空に掲げた。


「ファイア!」


 くーちゃんの声を同時に、白い袋の口からキラキラと輝く大小の品々が飛び出し、眼下のピンを目がけて吸い込まれていった。


「だーんちゃーく……いま!」


 光る品々の行く末を見つめていたくーちゃんが、また、てちてちと御者台の横に戻ってきた。


「レイフォースでもアフターバーナーでもええけど、まあ、そんな要領やな。気持ちええやろ?」


「なんでそんな古いゲームばっかり……気持ちいいのは否定しないけど」


 苦笑しながら返事をしていた僕は、一つ気になった事を質問してみた。


「ところで、悪い子には何もあげないでいいの?」


「地域によっては石炭をあげるんやけどなー。日本では定着しとらんから、ええやろ。悪い子は日本土着精霊(なまはげ)が対処する事になってん」


「そ、そうなんだ……」


 かくして僕とくーちゃんは、トナカイが牽くソリに乗って、世界各地のプレゼント配りの旅を開始したのだった。



              ◇   ◇   ◇



「まさかスクランブルされるとは思わんかったわぁ。流石アメリカ、対ステルス警戒システム持っとるっちゅうわけやな」


「F-22のパイロット、手を振って見送ってくれて良かったですね」


「まあ、ロックオンはできんやろから、ミサイル撃たれるこたぁないやろけどな」


「機関砲は?」


「――うちは小さいから、大丈夫やろ。うん。たぶん」


 ガクガクブルブル震えるくーちゃんを抱えながらも、僕たちの旅はようやく終わりを迎えようとしていた。アラスカ上空、目の前にあるのはベーリング海峡と日付変更線。この向こうはもう26日だ!


「さて、これで終わり?」


「せやな。あとはラップランドに戻ったら終わりや。ありがとさん」


 西進を続けていた僕たちは、また北極圏を抜けて反対側のフィンランドに向かうために北上を開始した。


 暗い夜空を進むうちに、僕はなんだか眠くなってきていた。


「オートパイロット、ちうか、ルドルフにお任せやからね。兄さんは寝てええで」


「流石に24時間は疲れたよ。お休み」


 シャンシャン言う音を背景に、ゆっくり身体を伸ばして目を閉じると、僕はあっと言う間に眠りに落ちていったのだった。



              ◇   ◇   ◇



(ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ)


 目覚ましの電子音で目が覚めると、そこは見慣れた天井。いつものアパートの部屋だった。


 手慣れた動作で目覚ましを止めた僕は、その盤面に目をやった。


「12月26日(月) 07:01」


 あと少しで仕事納めとは言え、まだ平日だ。


「あれ、昨日一日、何してたんだっけ?」


 土曜日の深夜に帰って来たのは覚えているんだけど、その後がさっぱり。ま、まさか、丸一日以上眠り込んでた!?


 頭を抱えた僕は、枕元に小さな靴下に入ったプレゼント箱があるのに気がついた。


「こんなの買ったっけ?」


 包装を解いて出てきたのは、テディベアのキーホルダー。そして、メッセージメモがついていた。


「また来年! くまごろう」


 その名前を見た僕は、小さい頃に持っていたテディベアを思い出した。


 海外の物なのに、そんな名前にするの?って言われたけど、これがいい、の一点張りで押し通した記憶がある。


 何をするにも一緒につれて歩いていたけど、なんだっけ、小火を出した時あたりで……うーん、小さい頃過ぎて、余り思い出せない。


 ともあれ、キーホルダーをかかげた僕は、それを小銭入れにしまい込むと、会社に行く準備を始めたのだった。



 世界中の子供達に、楽しいクリスマスを!

 お風呂に入っていてふと思いついたので、即興で書き上げました。

 エンジニアですが、SQLは使った事がありません。文法間違ってたらゴメンなさい。

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