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焦燥にも似た、君が教えてくれた感情

作者: 遠藤さつき

 糞くらえと思った。感情鈍麻がある私ですら、こんな激しい春の嵐のような、いっけん爽やかだけど荒れ狂ったような感覚に至るとは思わなかった。なんでそんなこと言うの、って言えたら良かったんだ。きっと。そうじゃないと、君が生んだその言葉を、かみ砕いて飲み込めない。

「卓逸しているんだよ、俺の嫁。結婚して五年経ってもどう見たって美人だし、なんていうか、精神的にも実年齢より遥に上いってるっていうか」

 その言葉が、真夜中の二時にホテルを飛び出してタクシーを捕まえようとしている私の頭の中で、反芻した。

 私との関係を、終わらせたくて言ったのだろうなと思った。

二十五歳でしがないOLの私の毎日に、彩りをもたらしてくれたのは、君だった。

病状で、休みがちになってしまっていた私に、優しく声をかけてくれたのは、君だった。

コンプレックスだった私の目を、生まれて初めて褒めてくれたのも、君だった。

ぜんぶ、ぜんぶ、ほしかった。

君のこと。

喉の奥が閉まっていく。目からぼろぼろと涙が落ちる。

ふと、東京の空を見上げると、星が輝いていた。

それから、正面に視線を向けると、木々が風に揺らいでいた。

「誰かの幸せを崩して幸せになろうなんて、違うんだろうな」

一人でそう呟くと、私は、鞄からスマホを取り出し、君にLINEをうちはじめた。

移り行く季節の中で、君との思い出は、この感情は、きっと、恋する他のみんなみたいに。薄くなって、何かに擬態して、そうしてまた、素敵な誰かを見つけるんだろう。

奥さんと出会ったときの、君みたいに。


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