第7話 二人の距離
俺は風呂の準備と夕飯の準備に取りかかるが頭の中でさっきのことが離れず、時間がかかってしまった。
料理を作り終えるとユーナの部屋の前に立ち声をかける。
「入ってもいいですよ、サクヤ」
扉を開けるとユーナが本を棚に戻そうとしていた。さっきの日記だと気がついた俺は、中を覗いてしまったことは心の底にしまっておこうと誓う。何よりユーナが知ってしまったらどんな反応をしてしまうかわからないからだ。
「ご飯が出来たけどこっちに持ってくる?」
「いいえ、私もキッチンの方に行きます」
ユーナを先ほどのように抱えようとするがユーナに断られてしまった。ユーナも恥ずかしいのかもしれない。
「階段気を付けて」
「はい」
俺はユーナの足元を見ながらゆっくりと階段を降りるとキッチンに行きユーナと食事を始める。
「今日は、サクヤは何をしていたんですか?」
「今日は少しだけ修行をした後に家の掃除かな。毎日少しは掃除をしているけど、時々は手の届かない箇所をやっておこうと思って」
「すいません、ありがとうございます。私はベットでいつの間にか眠ってしまいました」
「ゆっくり出来たようで良かったよ。でも、怪我をしているんだから当分の間は無理しちゃいけないよ。何かあったらすぐに言って!」
「ふふ……。サクヤは優しいですね」
朝の食事は沈黙だったが今はユーナとスムーズに話をしながら楽しい食事をする。あのユーナの部屋の出来事は自分の中の秘密。絶対に……。
「私、お風呂に入ってきますね」
「ちょっと待って!? 確か捻挫の時には温めない方がいいから風呂は控えた方がいいかも」
「そうなんですか……。でも、寝ている時に汗をかいてしまったのでスッキリしたいです」
「それなら、濡れタオルで身体を拭くといいよ」
その言葉を聞くとユーナはチラチラと俺の顔を見ると意を決して話し始める。
「それならサクヤにお願いしたいことがあるんです」
「どうしたんだ?」
「サクヤに身体を拭いていただきたいのですが……」
「えっ!?」
そのユーナのお願いを聞いた俺は言葉を漏らす。
「なんでも言ってと言ったじゃないですか?」
「言ったけどユーナはそれで本当にいいのか?」
「はい。私がサクヤにお願いしているのですから」
「わ……わかった……」
ユーナに言ったことは曲げたくなかった俺はユーナを部屋まで見届けると風呂場に置いてある桶の中に湯を入れてユーナの部屋の前に来ると深呼吸をし、中のユーナに声をかける。
「ユーナ、入るよ?」
「はい」
俺は部屋の中に入るとユーナはベットに座り背を向け手で胸を隠している。俺は見ないようにしながらタオルに湯を染み込ませ絞る。
「サクヤ……。お願いします」
「わかった……」
もう片方の手でユーナは髪を移動させると俺はタオルでユーナの背に触れる。優しく拭き始めるとユーナの肩幅は小さく背中も小さく感じる。ゆっくりと腕の方へ移動させると腕も細くか弱そうな身体で俺に比べると遥かに小さい。それなのに俺よりもはるかに強い実力を持っている。
「んっ!……」
「ごめん! 強かったか!?」
ユーナの声で動揺してしまった俺はユーナに問う。
「いいえ、サクヤの拭き方が優しくて気持ちいいです」
「それなら良かった」
桶の中でタオルを濯ぎながら何回か拭くがユーナは気持ちいいらしく小さく声を漏らす。俺はその反応に胸の鼓動が早くなっていくが表情には出さないようにした。
「気持ちよかったです。ありがとうございます。サクヤ……」
「いいや、これぐらい、あとは自分でやってくれると助かる。その間、俺は外に出ているから終わったら声をかけてくれ」
「わかりました」
俺は扉を閉じるとその場に座り込む。さっきのユーナはヤバかった。俺が見たのはユーナの背中だけだったのだが自分の鼓動が早くなっていることに気が付いた。これではこれからの生活にも気を付けないといけない。確かにユーナは俺より年上だが見た目は幼女。俺の理性が切れてしまったらと考えてしまう。自分の世界では犯罪? でも俺より年上だから……。俺は頭を抱えながら考えていると扉の向こうからユーナの声が聞こえる。
「もう大丈夫ですよ」
俺はユーナの声にビックリしてしまい、立ち上がると一回深呼吸をし、俺は部屋の中に入るとユーナは毛布で身体を隠している。
「なんで毛布にくるまっているんだ?」
「あの……。着替えたいのですが下着が……」
その言葉に俺は気づく。俺たちの下着は脱衣所にある棚の引き出しの中だ。
「すみませんがお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん……。わかった……」
部屋から出ると俺は脱衣所に向かい、引き出しからユーナのパンツを取り出そうとするがよくよく見てみると純白の白しかなく同じデザインのパンツしかなかった。そして、俺の頭の中でユーナが純白のパンツを履いている姿を想像してしまう俺。
「何を考えているんだ! 俺は!」
俺はユーナのパンツを手に取るとユーナの部屋に行きユーナに手渡す。
「ありがとうございます……」
「そうなると寝巻も必要だな……」
「寝巻はクローゼットに入っていますけど私が」
「いいよ。ついでだし」
俺はユーナのクローゼットの扉を開くと中には家にいる時の服や樹海に行く服。そして、薄いワンピースが木の枝で作られているハンガーに掛けられていた。
「その……。その服をお願いします」
「わかった」
俺はユーナが指さした服をハンガーから取り出しクローゼットを閉めるとユーナに服を渡す。
「何かあったら言ってくれ」
「あの……。それなら、私の怪我が治るまで一緒に寝ませんか?」
「一緒に!?」
「あっ! 違います。一緒の部屋にという意味です。昔、私が病気や怪我をした時にはお母さんと一緒に寝ていたのですが今はサクヤがいますから……」
ユーナの中では一緒に住んでいることにより少しは寂しさが和らいでいるのだろうが甘えたい気持ちが出てしまったのだろう。
「わかった。俺も風呂に入ったら布団を持ってくるからちょっと待ってて」
そういうと俺は桶を持ち部屋から出ると風呂場に行き浴槽の中に入る。ユーナのさっきの姿が脳裏に浮かんでしまい邪念を振り払おうとする。
(俺の理性頑張れ!!)
風呂から出るとまずは自分の部屋に行き寝巻に着替えると敷布団と毛布を持ちユーナの部屋に行く。
「ユーナ? 入るよ」
「はい!」
俺はノックをして部屋に入るとユーナはベットに座っており薄着の寝巻に身を包んでいた。
「お待たせ……」
「いいえ」
俺は床に布団を敷くとユーナの方を見るとユーナはモジモジしている。
「どうしたんだ?」
「いいえ、その……誰かと一緒に寝るのは久しぶりなので」
「あ……うん……それじゃあ明かりを消すよ」
部屋が暗くなると俺たちはお互いの布団に横になる。俺は邪念を振り払う為に窓から見える月を見ているとユーナは俺に声をかける。
「サクヤ。私、まだ眠れなさそうなのですがお話しませんか?」
「いいよ。じゃあ何の話をしようか?」
「私はサクヤが元の世界でどんな生活をしていたのか聞きたいです」
「俺の話か!?」
「はい。お願いします」
そういえば、自分の世界の話は全然したことがなかった。
「俺は自分の世界ではサラリーマンという組織の下働きをしていたんだ。仕事を終えると家に帰ってアニメやゲームをやる日々だった」
「ゲームってなんですか?」
「ゲームとは娯楽の一種だな。それを毎日やっていたんだ」
「そうなんですね。しかし、私がこの世界に転移させてしまったせいでゲームなど楽しいことが出来なくなってしまいましたね……」
「そんなことはないよ。自分の世界よりこの世界の方が充実していて楽しいし何よりユーナに会えて嬉しいよ!」
「そう言ってもらえると救われます」
「救われますなんて言うなよ。最初に目覚めた時にも言ったけどユーナは可愛い。自分の世界では考えられないぐらいに」
「私は他の女性というとお母さんしか知りません。お母さんはとっても綺麗でお父さんも最初に出会った時に一目ぼれをしたみたいです。しかし、一目ぼれをしたのはお父さんだけではなくお母さんもそうだったと話してくれました」
「両想いってことか!?」
「そうです。しかし、この世界に生きている人間族は魔女を毛嫌いしていたそうです。人間族にお母さんは狙われましたがお父さんが助けてくれたそうです」
「かっこいいな! ユーナのお父さん! でも、たくさんの人に囲まれたら助けるのが大変だったんじゃないか?」
「いいえ、お父さんは人間族の中で賢者と言われていて人間族最強だったらしいのです。その時にお父さんは『俺の好きな人を傷付けるなら許さん!!』って言ったそうです」
「みんなの前で告白したってことだな!」
「はい。人間族はお父さんの言葉に恐れをなして手を出すことは出来ませんでしたがお父さんは自分がそばにいない時にお母さんに何かあると困ると思い、この樹海にお母さんと住むと言う条件と人間族に関わらない、逆に自分たちにも関わらないでくれという約束を交わし樹海に住むことになったそうです」
「そんな経緯があったのか……。こう聞くと魔女は人間族に何かをしたのか?」
「わかりません。しかし、強い力は恐れられるものですし魔女は長寿なので気味悪がられたのでしょう」
「なんて愚かなんだ」
「仕方ありませんよ。それでこの樹海に来て私が生まれました。両親との生活は楽しかったです」
この世界は魔女や人間族がいるのは知っていたが他の種族もいるのだろうか? 他の種族間にも争いはあると思う。でも、この樹海で暮らしている限りは大丈夫だろう。
「そっか……」
「でも、今はサクヤと一緒に過ごせて毎日が楽しいです。ありがとうございます」
「それはこっちのセリフだ。あんなつまらない人生よりユーナと一緒に過ごせて俺は幸せだ。ありがとう!」
お互いに笑うと俺は身体を起こすとユーナの方へと近づく。
「これからもよろしくな」
俺はユーナの頭を撫でるとユーナは嬉しそうにする。
「なんだかお母さんとお父さんに撫でられているようで落ち着きます」
「こんな手で撫でても……ん?」
ユーナは撫でられているうちに眠りについてしまった。撫で続けていると眠りながら幸せそうな顔を俺に見せるユーナ。ユーナの顔を見ていると心は癒されていくことを感じる。ユーナが眠ったことを確認したところで名残惜しいながらも撫でる手を離し自分の布団に戻る。布団の中でこれからの生活もユーナが幸せになるように頑張らないといけないと思う俺だった。
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もしよろしければ『異世界樹海生活記』も読んでいただけると嬉しいです。