第6話 一人の時間
俺は身体に違和感を覚える。甘い香りが俺の鼻をくすぐり、少しずつ目を開けると目の前にユーナが寝息を立てながら眠っている。俺はビックリしてしまったが、昨夜、ユーナにモンスターについて教えてもらっている時に眠ってしまったことに気が付く。ユーナも疲れてしまったのだろう。そんなユーナの頭をそっと撫でる。
最初に出会った時に感じたサラサラとした銀髪の感触と女性独特の甘い香りが心地いい。ユーナは嬉しそうに微笑むと寝言を言う。
「す……き。大好き……」
その言葉にドキっとしてしまった。俺はユーナを起こさないように抜け出し、毛布をかけると風呂に入り忘れていることに気づき風呂場に行く。湯の中に手を入れると冷えている。俺は浴槽を洗い、湯の準備をすると浴槽に入る。
ユーナはどんな夢を見ていたのだろうか? もしかしたら、両親との夢を見ているのかもしれない。幸せそうな寝顔を思い出しながらそんなことを考える。
「あの寝言……」
頭の中でユーナの寝言が俺に対して言っていることだといいなと思ってしまった。前の俺のいた世界では、毎日仕事に勤しんで、家に帰ればアニメかエロゲーをやる毎日。そして、次の日の仕事を考えながら眠りつく生活。なんて寂しいのだろうか……。そんな俺の生活に女の子のおの字も出ない。出たとしても仕事場の女の子しか該当しない。
俺は深々と溜息をすると、異世界の生活の方が楽しいと感じながら湯舟から出る。タオルで身体を拭き、洗濯をした服に着替えるとキッチンに向かう。
「朝食でも作るか……」
俺が朝食を作っているとリビングの方からユーナが起きてくる。
「おはようございます」
「おはよう。昨日はごめん! 教えてもらってたのに寝ちゃって……」
「大丈夫です。それより、私もいつの間にか眠ってしまいました。あっ! 私……サクヤと……」
俺はユーナと一緒にソファーで寝てしまったこと、ユーナのあの言葉を思い出してしまい話を反らす。
「それより、朝食作ったから食べよう!」
「わかりました。ありがとうございます……」
ユーナは洗面所の方へ向かうのを確認すると、俺はホッとしながら朝食をテーブルに並べる。戻ってきたユーナとお互い向かい合って椅子に座り一緒に食事に手を付ける。だが、いつもと違って話をせずにお互いに黙々と食べ続ける。昨夜のことでお互いに恥ずかしくなってしまったせいで話すきっかけが俺には見出せない。すると、意を決したのかユーナは俺の方を見ると話し始める。
「あの……」
「どうしたんだ!?」
「今日は、修行はお休みにしてお互いに自由時間にしましょうか?」
「なんでだ?」
「昨日取ってきた薬草で薬を作りたいのです」
「わかったよ。じゃあ、今日は俺もゆっくりさせてもらうよ」
毎日俺の修行に付き合ってくれていた為、時には休みでもいいかと思いユーナに言葉を返す。
食事を終えるとユーナは俺に声をかけ部屋に行ってしまった。俺はすることもなく外に出るといつものように修行を始める。自分の魔力上限を増やす為に地面に座禅を組んで集中する。
周囲の魔力を感じながら魔力を吸収していき自分の魔力上限に近づくと気合を入れる。魔力上限を越える為には、それ以上に魔力を取り込んで器を大きくする必要があるがこれがキツイ。例えるなら自分が風船で魔力が吹き込む空気。破裂しそうな風船に少しずつ少しずつ空気を入れるような感じだ。そうして、ちょっとずつ大きくなっていく自分の器を感じる。その時、不意にユーナの朝の言葉が脳裏に過ると取り込もうとしていた魔力が自分から放出されてしまった。何回か繰り返したが一回思い出してしまうと気になってしまって集中することが出来ない。
「は~。今日はやめるか……」
溜息を吐くと俺は家の方へと行き玄関の扉を開け中に入ると二階から何か倒れる音がする。俺は心配になり階段を上がるとユーナのいる研究部屋に駆け込む。
「ユーナ! 大丈夫か!?」
研究部屋に入ると尻餅をついているユーナと倒れている椅子が目に入り俺はユーナに駆け寄る。
「すみません。棚から材料を取ろうとしたらバランスを崩して落ちてしまいました。ドジですね私」
「気を付けないとダメだよ」
ユーナの手を掴むと俺は優しく立ち上がらせる。
「いた! 足を捻っちゃったみたいです」
その言葉に俺はユーナの足に触れながらユーナに声をかける。
「大丈夫か!? 今日はもうゆっくりしていた方がいい」
「はい……」
ユーナはゆっくりと歩きだそう一歩足を前に出すがすぐに顔が歪む。俺はその光景を見て居ても立っても居られずユーナに声をかける。
「ちょっとごめんな」
「はい? きゃあ!」
俺はユーナを抱きかかえるとユーナは恥ずかしそうな顔をするが気にせず、ユーナの部屋に向かう。
「ありがとうございます。重たくないですか?」
「全然大丈夫だよ」
俺はユーナの部屋に入るとベットにユーナを座らせる。俺はユーナの部屋を見渡すが、この世界に召還されて案内された時とあまり変わっていない。
「私の部屋は何かおかしいでしょうか?」
「いいや、なんでもない。それより今日はゆっくりしてないとダメだぞ!」
俺はユーナの足首を包帯で固定をする。
「ご迷惑をかけてすみません」
「大丈夫だからそれよりも捻った時とかに効く薬とか魔法はないのか?」
「怪我を治せる魔法はありませんね。それに私の持っている本に書かれているのは魔女に伝わる薬で、病気に効く薬のレシピが載っています。ですがそれ以外の薬は作っていませんね。病気を治す薬はありますが、怪我を一瞬で治す薬は存在しません。多少は効き目があるのですが、すぐに良くなるような効果はありませんよ」
「そうなのか……。魔法って便利ものだと思ってたよ」
「魔法は便利なものですがすべて出来るわけではありません」
「ふ~ん。まあ、ベットでゆっくりしてて」
「ありがとうございます」
俺は部屋から出ると研究部屋の片付けをしながらついでに他の部屋の掃除をしようと思った。次は自分の部屋に向かうが特に物はないから掃除は簡単に済んでしまう。キッチンとリビング、風呂掃除、トイレ掃除をする。俺は掃除を終えるとキッチンに向かいお茶を入れユーナの部屋に向かう。
「ユーナ? お茶持ってきたんだけど一緒にどう?」
ノックをするが返事がない。そっと扉を開けるとベットに横になっているユーナ。俺は部屋に入り机にお茶を置く。ユーナのそばに行くと眠っているユーナの寝顔を可愛いと感じながら眺める。
「可愛い寝顔だな……」
俺は起こしてしまわないように部屋を出ようと思い置いたお茶を取ろうと机に行くが机の上に一冊の本が置かれていた。俺はチラッとユーナの方を見るとユーナは小さく寝息を立てている。椅子に座った俺はその本が気になってしまいもう一度ユーナを見る。
「眠ってるよな……」
机の上に置かれた本を開いてみる。そこに書かれていたのはユーナの日記だった。俺は一度、日記を閉じるが人間は誰しも気になってしまうとそのことから離れられないものだ。
「ごめん、ユーナ……」
俺は再び日記を開くと最近の出来事が書かれているページを読み始める。
今日はサクヤの魔力上限と魔力制御の修行をしましたが日に日にうまくなっています。サクヤは凄いですね。しかし、最近の私は何かおかしな気持ちになってしまうことが多くなっています。サクヤを見ていると胸がドキドキしてしまい気づくとサクヤから目を離せません。今までこんなことはなかったのに、何かの病気でしょうか……。私は家にある本を読みましたが特に原因はわかりませんでした。もしかすると、昔、お母さんとお父さんが話していた恋という感情なのでしょうか……。私はこれからサクヤとどう接していけばいいのでしょうか……。
これって……。ユーナは俺のことを意識してくれているのだろうか……?。俺はさらにページをめくろうとしたが手を止め日記を閉じた。これ以上、ユーナの気持ちを盗み見するのは良くない。俺は置かれたお茶を持って部屋を後にするとキッチンに行く。窓から外を見ると既に夕方になっていた。
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