第1話 出会い
朝日が俺の顔を照らし温かみを感じながら、徐々に目を開けるとそこには見覚えのない天井が映し出される。
「おはようございます」
声のする方向に顔を向けるとそこには女の子が立っていた。サラサラとした銀髪が腰の辺りまで伸び、整った顔立ちをしている。その中でも、存在感を放つのは左右で違う色をした瞳だ。右目は空のような青さ、左目は月のように輝かしく黄色をしていた。所謂、オッドアイだ。首より下を見ると控えめな胸にほっそりとした手足。そして、顔の幼さも相まってまるで人形のような可愛さ。着ている服は俺の知っている服とはさほど見た目は変わらないがよく見ると動物の皮などで作られているようだ。俺の目に映し出されている光景はきっと夢なのだろう。
昨日は、仕事を終えて家に帰り風呂と飯を済ませ、翌日の仕事の為に早めにベットに入った。それなのに、どうしてこの部屋に俺は眠っていたのだろう。その理由は、夢としか説明出来ないからだ。
「あの……」
目の前の女の子が俺に再び声をかけてくる。
「君は……?」
「私はユーナ・クゥーナレスです。気軽にユーナとお呼びください」
夢の中の女の子が自己紹介をしてくれた。
「すまないが、俺の頬をつねってくれないか?」
「なぜですか?」
俺の問いにユーナと名乗った女の子は不思議そうに首を傾げた。確かに、いきなりこんなことを頼まれたら、夢の中の人物であろうと疑問を持つのはおかしくない。
「いいや、こんなに可愛い子が俺の目の前にいるはずがない……」
「可愛いだなんて……」
ユーナは恥ずかしそうにしながら俺の頬に柔らかな手が触れると頬を抓んだ。
「痛い!」
ん? おかしいぞ! 夢なのに俺の頬が痛みを感じる。ちょっと待て! 痛みを感じるということは……これはまさか夢じゃないのか!? そう考えた直後、俺の頭はこれが現実であるということを理解する。
「これは夢じゃないってことは現実!? じゃあ、なんで俺はここに!?」
「それを今から説明致します」
ユーナはそう言うと傍らの椅子に座り、俺はベッドから身体を起こして話を聞く姿勢を取った。そんな俺の方を見て準備が出来たとわかるとユーナは口を開く。
「貴方がここにいるのは、私が貴方を呼び寄せたからです。落ち着いて聞いてください……。この世界は貴方がいた世界とは異なるナトゥーレと呼ばれている世界なのです」
「異なる世界!? ナトゥーレ?」
ユーナは、いきなりとてつもない話を始めた。話のスケールが大きすぎてとてもじゃないが信じられない。しかし、俺がここにいるのは事実である。それならまずは、ユーナの話を最後まで聞いてみるべきだろう。
「話を遮ってすまなかった。話を続けてくれ」
俺の言葉にユーナは頷き、話を再開する。
「私はこの家に長いこと住んでいます。家の周りは樹海が広がっており、この樹海には凶暴なモンスターが多く存在しており、普通の人々が来ることはありません。そんなある日、私は水鏡というアイテムでとある探し物をしていました。その時、偶然にも水鏡に貴方の姿が映し出されたのです」
「なんで俺の姿が?」
「わかりません……。私には少し先の未来を見る能力があります。水鏡の力と私の能力を併用して貴方の未来を見ていたところ、貴方のいる世界で地が揺れ、棚に置いてあったアイテムが貴方の頭部に当たり……そのまま亡くなってしまったのです」
その言葉に、俺は何も言い出せなくなってしまった。ユーナの言葉を信じるのであれば、確かに棚の上にはアイテムではなく、高校の大会で取ったトロフィーが置かれていたが……。そんなバカな!
「その為、貴方が死んでしまう直前にこのナトゥーレへと肉体ごと転移させたのです」
「だとするとユーナは俺の命の恩人なのか!?」
「実質的にそうなりますが、私は以前からこの樹海の中で一人で生活をしていることに寂しさを感じていました。その時、水鏡で見つけた貴方が死んでしまうならこの世界に転移させて、私と一緒に過ごしてくれないかと思ってしまったのです」
「そうなのか……。でも……寂しいと言ったけどユーナの両親は?」
こんなに小さい女の子が凶暴なモンスターがいる樹海の中にたった独りで暮らしているなんてありえない。
「両親はある日を境にこの家に帰ってくることはありませんでした……。それから私は独りで過ごしてきました……」
「凶暴なモンスターがいる場所で独りで暮らしているなんて……」
「両親が何日も戻って来ないことに心配した私は水鏡で両親を探していました。しかし、水鏡に両親が映ることはただの一度もありませんでした」
水鏡というものがわからないが人を探したりする道具なのだろう。それに映らないということはユーナの両親はもう……。俺はユーナにかける言葉を失ってしまう。
「映らない理由は想像がつきます。今回は水鏡を見ていたのは両親を探す為ではなく、とある素材を探す為でした。その時に貴方の姿が映し出され今に至ります」
「そうなのか。一つ聞いていいか?」
「はい」
「元の世界に戻りたいと言ったら元の世界に戻ることは出来るのか?」
「ごめんなさい……。私が使った転移アイテムが……」
そういうと、ユーナはポケットから何か砕けたものを取り出した。砕けているということはもう使えないということだろう。
「今まで、両親が使っていた時はこんなことはなかったのですが貴方を呼んだ直後に転移アイテムが砕けてしまいました……」
「じゃあ、俺はもう元の世界には戻ることは出来ないのか……」
「本当に申し訳ありません! 貴方の意思を無視してこのような遠い所に……」
俺の言葉にユーナは大粒の涙を流しながら頭を下げる。だが、このような小さな女の子の悲しんでいる姿など俺は見たいとは思わない。それにユーナは死んでしまうはずだった俺の命を助けてくれたのだ。感謝こそすれ恨むなどありえない。
「謝らなくてもいいよ。俺の方こそ、ありがとうユーナ! 俺の命を救ってくれて」
ユーナは俺の言葉に顔を上げるとユーナに問いかける。
「こんな俺だけどユーナと一緒に過ごしてもいいか?」
その言葉を聞いたユーナは俺に飛びついてくる。ユーナの身体は小さいが温かく安心する感じがした。
「はい! よろしくお願いします!」
ユーナは嬉しさのあまり行動してしまったのだろう。ユーナの頭を撫でると髪はサラサラしており、俺は喜んでいるユーナに言う。
「俺の紹介をすっかり忘れていた。俺の名前は月野咲夜だ。気軽に咲夜って呼んでくれると嬉しい」
「これからよろしくお願いします! サクヤ!」
胸から顔を上げたユーナは、俺の返事に対してとびっきりの笑顔を向けた。
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