第五話 行くぜ! 城下町
旅に出ろと言われてから、三日後。あと四日。
今日は初めての休みをギルシェンからもらった。
「連日続きだったから疲れただろ。本当は休憩する間も惜しんでの訓練なんだが、流石に疲れるだろうと思って今日は中止だ。」
と、言われたので今日は城下町に出てみようと思う。
城を出て少し歩くと、大きく賑わっている町がある。そこには一度行ってみたかったから、運が良かった。
こういうところは本当にゲームっぽいなぁ…
お金も少なからず持ってるから、今日は色々お店をまわってみよう!
「と、思ったけど、地図がないと迷うなこれ」
いつのまにか薄暗い裏道みたいなところを歩いてた。
「ガタン!」
「うわぁ!」
「ニャァ!!」
木材が大きな音をだして倒れたのか…猫! 吃驚させるな!
歩けば歩くほど迷っている気がする。
さて、どうしたものかね。
腕を組んでちんたら歩いてると、悲鳴が聞こえた。
これは…女? 助けに行った方がいいか!
思考がたどり着く前に足が勝手に動いた。場所的に考えると…ここか!
角を曲がった先は行き止まり。その行き止まりに一人の女と、いかにも悪っぽい顔の男が三人いた。しかも三人の手はナイフを握ってる。もしかしてこれは…
「痛い目に遭いたくなきゃ金だしな、嬢ちゃん」
やっぱカツアゲかよ! どこにでもいるもんだなああいうの。
あれは助けた方がいいよなぁ、たぶん。
「ちょっとそこのお兄さんたち、なにしてんの?」
後ろから声をかけると、スキンヘッドの顔に傷がある男が低い声を出しながら振り向いた。
「今いいことしてるんだよ。ガキはどっかいってろ」
「いや、この状況見る限りあんまりいいことじゃ無いと思うんだけど」
「うるせぇ!」
男の左フックがとんできた。それを受け止め、投げ飛ばす。
向かいの壁にたたきつけられた男は気絶したようだ。
「この野郎!!」
他二人が突進してきたところを、しゃがんで足を引っかけたら盛大に顔を地面に打って、転がった。
すぐに起きあがって、飛びかかってきた。
「ガン!」
かかと落としを食らわせてやったら、見事にのびた。残った一人は恐ろしい物を見るような目で俺を見ている。
俺やっぱすごく強くなってるわ。
「まだやる?」
「く…くそ! 覚えてろ!」
敵わないと分かったようで、悪人トリオは尻尾を巻いて逃げた。逃げ足速い。
「あの…ありがとうございます」
礼の言葉に振り向き、女…いや、女の子を見た。顔つきは少し幼く、歳は俺より少し下のようだ。
「いいんだよ。それより、よくあるの? ああいうこと」
「巡回してる兵士さんに注意はされてたので、おそらく」
「大変だね」
「えぇ…。それにしても、ずいぶんとお強いんですね。なにかなさっているのですか?」
「え? いやぁ、ちょっと強い人に稽古つけられてたからさ」
「そうなんですか? 才能あるんですね」
才能、なんて言われると照れるんだよなぁ。別に何もしなくてもここにいるときは力が強いから才能なんて無いだけどね。
「それでは、私は用があるのでこれで。本当に、ありがとうございました!」
そう言ってタタッと走っていった。この世界は美人が多いみたいだ。
去っていく後ろ姿に見とれてたら、道を聞くの忘れてた。
「ぶらぶらしてればその内明るいところに出るかなぁ〜」
薄暗いと同時になんかほこりくさいので、とっととここから出たいんだな。
* * *
「やっと抜けたー!」
賑わいが聞こえたのでそこに向かってみれば、やっぱりそこは明るい商店街だった!
いやー、よかったよかった。
「おう、そこの兄ちゃんこれなんかどうよ!」
元気の良いおっちゃんに声をかけられた。おっちゃんの手をみると、なんとも美味しそうで生臭い魚が一匹。
「へぇ、美味しそうだ。でも今はいいや。今度買いに来るよ」
「おう! 今買わないんなら次来たときに買ってくれや! 安くしとくからよ!」
本当に元気だなぁ。あれくらいやらなきゃ商売にならないんだろうか。
さて、俺が本当にまわりたいのは八百屋なんだな。城の料理も美味しいけど、デザートに果物がないから少し物足りなかったし。ここはどんなのがあるんだろう? その前に果物ってあるのか?
店の看板を実ながら歩くと、仕立て屋、雑貨、パン屋、アクセサリー、御食事処…いろいろ見つけた。
お総菜を売ってる店の角を曲がると、やっと八百屋らしき店を見つけた。
ニンジンの形をして青かったり、虹色のピーマンなど…とにかく見るからにまずそうなのと、赤くて四角いのや、苺がブドウの房みたいになってるおいしそうなのも…初めて見る物ばっか。
「おばちゃん、これちょうだい」
「あいよ〜」
中でも目を引かれた、青いトゲトゲした果物を買った。
トマトをベースに、ちっちゃい角のようなトゲトゲがある、青いの。
こういうのは突起物から食べたくなるよねー。
「ん…こ、これは!」
メロンのような甘さに加え、トマトのような柔らかさ…そしてあふれんばかりの果汁…
これは旨いぞぉ!
「初めて食ったけど超うめぇ! おばちゃん、サンキュー!」
気前の良いおばちゃんは、その実をもう一つおまけとして俺にくれた。
ここから勢いがついたように、お店というお店をまわり尽くした。
気づけば日は落ち、人の数もまばらになっていた。
初めて行く城下町は、とても楽しかった。
城に戻る頃には、周りは真っ暗。それで気づいたんだが、ここって街灯がないみたいだ。
「あ、おかえりなさい悠貴さん。出かけてらしたんですか?」
「ただいま。ちょっと城下町回ってきたんだ」
「そうなんですかぁ〜。あの町は行商人もよく立ち寄る場所だそうです。だから、珍しい物も多いんですよ」
確かに珍しい物も多かったよ。服なんて本当にRPGに出てきそうなものばっかりで。試着してみたけど、あんまり着心地は良くなかった。
「あ、トリシェ様が悠貴さんにお会いしたいそうですよ」
「トリシェ?」
「トリシェ様は魔法学校の先生をしているお方です。学校の教師の中でも、ずば抜けて魔力も教え方もスゴイそうですよ」
「そういうのってやっぱりあったんだ…」
「? 何がですか?」
「いえいえ、独り言です、独り言」
魔法学校かぁ…まさかそんなのまであるとは。
ずば抜けて強い…そんな人が俺になんの用だろうか。
あ、もしかして魔法教えてくれたりするのかな。
メイドさんに「おやすみ」を言って、俺はトリシェが待っている図書室に期待を胸に足を向けた。