第四話 旅立ち宣言
鋭い刃が首を狙う。命はないと一瞬諦めたが、いつまでたっても痛みを感じない。
剣が、寸でのところで止められていた。
「…参りした」
自分の負け。これ以上抵抗すれば、次は確実に刎ねられるであろう。
「ふう…ありがとうございました」
男を殺すところまで追いつめた、もう一人の男が剣を鞘に収め、お辞儀をした。
「とうとう上級兵士を抜いたか」
「抜いたっていっても、ギリギリ勝ったって感じ」
つい数日前にやってきた者に、自分が負けたという真実。認めざるを得ない実力が、あの男には秘められているのだ。
* * *
こっちに来て二週間経った。
どれほどの実力が備わったのかを知るために、弱いヤツから順に対人をさせてもらった。
階級兵士の中で最高と呼ばれる、上級兵士に勝てた事の喜びはものすごく高いものだ。
上級兵士とは。階級別に別れている兵士で一番強い者のことを指す。
この城に仕える兵士は、それぞれ三段階にわけられている。下級兵士、中級兵士、上級兵士の三つだ。
下級兵士ってのは、一番弱く数が多いらしい。特待生以外はみんなここから始まるとか。中級兵士は下級の中でよりよい成績を持った者が上がれる、スタンダードな上がり方だ。
上級兵士は、下級から中級に上がるための方法とは少し違う。中級以上の成績もそうだが、魔法を少なからず扱えること。中級を圧倒できるほどの体術を身につけていること。
必然的に数は少なくなるけど、一人につき百人ほどの部下を従えることもできるリーダーみたいな感じ。別に「いらない」って言えば、そんなものは就かないみたいだけど。
そんな中、ギルシェンは上級のさらに上の特殊部隊にいるみたい。上級兵士より数枚上手な実力の持ち主だそうだ。
「あの人、大丈夫かな」
「なにがだ?」
「だってさ、つい数日前何にも知らないガキがこの城に来て、いくらギルシェンが稽古つけてくれたからって俺みたいなのに負けるなんてさ…」
「なに、その程度のことで立ち直れないようじゃ失格さ。何回も失敗を繰り返さなけりゃ、上級になんぞ上がれないよ」
失敗続きだったら挫折くらいしそうなもんだけどなぁ。それでも屈さない人があんな強くなるんだよな。
俺に負けたからってスランプなんかになられたら気分悪いけど、それなら安心。
「それはそうと、これから国王様のところに行くぞ」
「なんで!」
「そうイヤそうな顔するな。俺もなんで呼ばれたのか知らん状態だ」
なんかイヤな予感がする。
なにはともあれ、こんな格好で行く訳にもいかないので一度部屋に戻って着替えることにした。あんなちっこくても国王だしね。
王の間に入ると、ちっこい国王には似合わないどでかいイスに、国王は座っていた。
「二人ともよく来てくれた。今日呼び出した訳じゃがな、悠貴」
「俺?」
「一週間後、この城を出発してほしいのじゃ」
城を出発? ってことはまさか…
「つまり旅に出ろってこと?」
ちょっとまだ心の準備が…しかも早いよ! まだ二週間じゃないか!
「早い? 間に合わせるのじゃ。最近妙に魔物の動きが活発になってきておる。これは魔王が動く前触れと見て良いだろう」
「今のお前なら、行けるはずだよ」
「そういう訳じゃ。ギルシェン、あと一週間で悠貴をもっと絞り上げてくれ」
「承知いたしました」
俺の意見は無視? 話を勝手に進めないで…
ものすごく困った。連日の訓練のおかげで自分が何しにここに来てるのか忘れかけてたし。
魔物って、人と違う形してるそうだから…会いたくないなぁ、怖そうだし。
強くなったっていっても、人間しか通じない強さだと思ってるし…。あぁ、憂鬱だ。どうしよう。
姉貴に会いたくなってきた。そういえば大丈夫かな…心配してるかなぁ。
一人で行くんだとしたら怖いなぁ…
でも旅に出るってことは魔法も教えてくれるのかな? 少し楽しみだけどその代償が結構大きいような気もする。
うじうじ考えてもしょうがないから寝る。明日考えればいいや。
そうして現実逃避を試みる悠貴であった。