握り寿司
さて、鯛介を捌いている間に飯が炊けた。
田仲氏は炊きたての飯にほんのりとこぶ出汁の効いた寿司酢を混ぜて酢飯を作ると寿司の試作をしてみることにした。皮の付いたサクは上から熱湯を軽くかけて湯引きして松皮作りに、桜色の縞模様が鮮やかなサクは薄切りに。そして皮はパリパリになるまで炙る。
松皮の身からは、皮目だけに火の通った松皮握りが、松皮をさらに炙り藻塩で味を付けた松皮炙り握りが。桜色の身からは、王道な鯛の握りと炙ってもみじおろしと小口ネギを添えた鯛の炙り握りが出来る。
そしてシャリの量をやや少なくして炙られた皮を載せた鯛皮炙りの握りが出来た。
田仲氏は早速、試作した握りを試食する。
まずは王道の鯛の握りから、淡泊で透き通る優しい味、この味こそが海で生きてきた鯛介の一生そのものだった。この春の時期は桜鯛と呼ばれ秋と並んで鯛の旬の時期でもある、しかし秋に比べて脂のノリは控えめである。そのことを考慮してか田仲氏は身の切り方を少し厚めにし、シャリに載せる山葵も少し控えた。そうすることで脂や山葵に邪魔されない鯛そのものの王道の味へと調整した。
次に鯛の炙り握りを試食、炙られた鯛の身にもみじおろしの辛さと小口ネギのシャキシャキ感、嚙み砕くと酢飯と鯛の身と薬味と醤油が渾然一体となって口の中に広がる素晴らしい味だった。ただもう少しシャキシャキ感が欲しいため小口ネギではなく目ネギを数本、ネタと酢飯の間に挟み込むようにして握り調整した。
次に松皮握りを試食、基本的に炙らない寿司の調整は難しい、何も薬味を付けず醤油と山葵だけで勝負する寿司だから切り方で調整するのが定石、田仲氏は松皮握りも身の切り方を厚めにし、山葵を控える鯛の握りと同じような調整をした。
次に松皮炙り握りを試食する、皮が付いている上に香ばしく炙られたネタに藻塩で味を調えていて理想に近いが、もうひとひねり欲しい。田仲氏はレモンの薄切りを添える調整をした。
さて最後は鯛皮炙りの握りである。一口で嚙み砕くと口の中でパリパリと音を立てて儚く砕け散り、皮の濃厚な旨味を口の中に残していくこの寿司。田仲氏は一度、ゴマを加えて香ばしさを上げることが頭の中をよぎったが、儚く砕け散る食感を優先してか、この鯛皮炙りの握りはそのままで品書きに加えることにした。
鯛介の身体は田仲氏によって美味なる様々な寿司に変わっていった。
おはようございます、荒川コナンです。今回投稿したのは料理編その1です。料理編は3回を予定しておりますが、感想やリクエストにより増やすことも検討しております。この小説が面白い、美味しそうと感じた方は感想を寄せてもらえると嬉しいです。