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第五話 人と魔法

 ノートパソコンの置いてあるいつもの席に俺がつく。ルシファーはいつの間にやら翼が消え、白いワンピースのような服を着て、ロフトの上で足をぷらぷらしている。一ルームに堕天使とかシュールな光景である。翼は出し入れ自由のようだ。確かに翼があると狭苦しいのは否めない。

 俺は自宅では基本ジャージ姿だ。動きやすいしね。


「で、どうしたらいい?」

「まずは最低限必要なものを揃えていきましょ。意図はやってく内にわかると思うから、創造してもらうわよ」

「人がいないと話にならないし、剣は歴史上存在したわけだからどうにかなりそうだけど、魔法はどうしたらいいんだろう。人を創るってミジンコから創る訳?」

「さすがにそれはないわよ。仮定をすることで、世界がそれを実行してくれるわ」


 なにそれ便利。俺なんかがやれるわけだし何かあるとは思ってたけど、そうゆうことか。世界システムとでも名付けよう。


「ん? 今何かやった?」

 ルシファーがキョロキョロと周りを見渡す。どうしたんだろう。


「いや、何もしてないけど? とりあえず、人と魔法のことを考えればいいのか?」

「うーん、気のせいか。そうよ、人が魔法を使っているような世界を創造してみて」


 納得のいかない表情をしているけど、ほんとに何もしてないからね? やるとしてもこれからなんだから不安にさせないでおくれよ。


 さすがにこれは目を閉じて集中しよう。人、日常的に魔法を使う世界。誰でも当たり前のように使える。そんな世界。


「いいわよ」


 ルシファーの声に目を開けると、部屋の壁や床が透けて見え、見降ろすような形で大地が見える。チュートリアルの時の村のようだ。木で出来た簡素な家が建ち並び、周囲を森で囲まれている。村人と思われる人々が見える。簡素な麻の服のような物を着ている。


「人の成り立ちのようなところから見せられると思ったよ」

「そんなのいちいち見てたらきりがないわよ。過程短縮スキップが働いて、見るべきところから見ることが出来るわ。あんただって意識すればどうなったかわかるはずよ」

「あー、なるほど……。そうゆう感じになるのか」


 意識してみると、まだ猿に近い人類が、魔法に出会った光景が脳裏に浮かんでくる。自分の知る人類は、火の使い方を偶然知り、獣として優位を得た。この世界ではその部分が魔法と置き換わった訳だ。色々と細かい部分はあるんだろうけど、そこは世界システム様様だな。


 結果確立うんめいそうさ:結果を設定することでそれを元に過程が起こる。

 

 過程短縮スキップ:起こすべき結果へ渡る過程を短縮することが出来る。任意で閲覧可能。


 ルナ様が説明してくれた世界創造の力の一部分だ。説明書を読まずにゲームをやるぐらいせっかちな自分からすれば、過程短縮スキップはすごくありがたい。


「さてさて、どんな魔法を使っているんだろう」

「実際に降りて見てみましょ。思った通りの結果になっているかはわからないけどね」

「そうなの?」

「不整合緩和が意外と厄介でね。結果確立うんめいそうさすることが出来ても、あくまで近い結果というだけで終わってしまうことが多いの。ちょっとづつ調整する必要は出てくると思うわ」


 あくまであの白い部屋はチュートリアル用ってことのようだ。やれやれ、簡単に剣と魔法の世界を創ることは出来なさそうだ。ルシファーの言ったように小さなことからコツコツやっていくしかないな。


「どうやって降りるんだ? 普通に扉からでるとか?」

「別にそんなことしなくても念じれば行けるわ」

「了解した」


 地上に降りたいと念じるといつの間にか一ルームから村の上空に浮いた状態になる。そこからゆっくりと地上の村に向かって降りていく。あまりの高さにちょっとびびったけどいい眺めだ。思わず言葉を失って見渡す。空はどこまでも続き、眼下に広がる森もどこまで広がっているか見当がつかない。景色を眺めているうちに村に降り立った。


「さ、見て回りましょうか。とりあえずそのへん歩いてみましょ」

「うん……って、いつの間に着替えた? ってか俺もだし……」


 気づけばルシファーは村娘スタイルに着替えている。そして俺も村の男が着ている服になっているのだ。早着替えってレベルじゃない。


「雰囲気づくりって大事よ」

「わからなくはないけどさ、ルシファー自身はともかく、問答無用で俺の方も着替えさせられるの?」

「いくわよ」

「おいおい、無視かよ……」


 どうやらルシファーは形から入るタイプのようだ。村娘スタイルにニヤニヤしている。特に困ることはないからいいけど、あまり変な服があったらご遠慮願いたいものだ。


 前から二人組の男性が歩いてくる。いきなり知らない人物が村にいたら警戒されないのだろうか。でも今更そそくさと隠れたら怪しいよな。


「って、うぉっ!」


 どうしようか考えている内に、二人組の男性は俺の身体をすり抜けていった。どうなってんだ一体。


「あっ、言い忘れたけど普通は見えてないから大丈夫よ。触れられることもないから」

「そうゆうことは先に言ってくれよ……」

「聞かれてないことをいちいち説明してられないわよ。ほらほら、見て回るんでしょ」


 戸惑っている俺を待ちきれなかったか、腕を引っ張られながら村の生活を見て回ることになった。


 俺たちはいわゆる概念であるため、物理法則が通用しない。壁もすり抜け放題なので、鍵があろうがお構いなく生活を見せてもらっていた。覗き放題な気がするが神様なので勘弁してほしい。そもそもそんな趣味はないしね。その代償というか、匂いを感じたり、物に触れたりすることが出来ない。五感を喪失したようで変な感じだ。特に不具合を感じてはいないのが幸いだが。


「しかし、なんだか拍子抜けだな」

「日常生活に魔法が浸透しているのはわかるけど……地味ね」


 俺が思っていた魔法というのは、氷や火が飛んだり、空を飛んだり、怪我をあっという間に治してしまったりすることだ。村人が使っている魔法というのは、火起こしをせず手をかざして木材に火をつける。念じたように石や土を成形して包丁のようなものをつくる。擦り傷や切り傷をかさぶたが出来る程度まで一瞬で治す。唯一驚いたのは材料などから一瞬で衣服が出来たことだが……そう、地味なのである。


「ストーンバレット!」


 極めつけは、魔法名のようなものが聞こえたので走って確認しにいくと、手を地面にかざして石を作成。投げつけて遊んでいる子供たちだった。


「……直接石拾って投げればよくね?」


 思わずつっこみ入れてしまった。ルシファーに肩を揺すられるまで呆けていた。


「魔法を使える世界なのに発展してないからどうゆうことかとおもったけど、ここまでとは……」

「なんでもできる規格外な物っていうより、本当に生活の一部なのね。誰でも使えるってなればこんなものなのかしら。日常生活で火とか氷とか飛ばす必要なんてないしね。ちょうど狩りに行くみたいよ? ついてってみる?」

「あんまり期待できないけど、そうしようか」


 少々どころか、大分気落ちする中、森に狩りに行くと思われる男性の集団が見えた。気を取り直して様子を観察してみることにしよう。


 弓やナイフを持った村人の集団の後ろを二人でついていく。木や草など、そのまま歩けば通り抜けることができるのだが、ぶつかる気がして避けて進んでいく。見つかってしまう気がして木の後ろに隠れてみたりしていると、ルシファーが怪訝そうな顔をしてこちらを見る。


「なんだか不審者みたいよ? 神様なんだからもっと堂々としたらどう?」

「しょうがないだろ、俺はしがない小市民だったんだからさ」


 ルシファーはそう言うが、こちらからは見えている以上コソコソとしてしまうのは当たり前だと思う。鼻歌混じりで木とか人をすり抜けていくほうがおかしいと思うんだ。うん。


「ほらほら、獲物を見つけたみたいよ。辛気臭い顔してないでよ」

「俺はこの顔がデフォルトだよ。ふむ、弓で仕留めるみたいだな。魔法は使わないのか?」


 木々の隙間から猪が見える。まぁ、見ようと思えば障害物とか関係なく見れるようだが、せっかくだからそのままの世界を見たいしな。動物とかは世界が変わっても変わらないんだな~って思っていると、村人が茂みに隠れながら弓を引き絞り、猪に向かって矢を放った。


「おー、たいしたもんだ」


 矢は導かれるように猪の眼球から脳に突き刺さると、一鳴きして絶命した。呆気ないものだ。確かにすごいが、ただ単に弓が上手いだけなんじゃなかろうか。


「相変わらず地味ね。でも効果的ね」

「えっ? 魔法使ってたの?」

「ちょっと……、気づかなかったの? さっきの場面を意識してみなさい」


 えー、明らかに残念な人を見る目で見ないでくれよ。俺はため息をつくと、さっきの場面を意識してみる。先程の弓を射る場面がゆっくりと再生される。便利な力だ。


「魔法を知りたいんだから、それをよく意識するのよ」

「ほいほい」


 言われた通りに意識し、目を凝らして良く見る。そのせいか返事が適当になってしまったが仕方ないだろう。


 矢の周囲に風が起こり、補助的な効果が働き、射程や威力を増加しているみたいだ。追い風みたいなものだろうか。確かに、普通に矢を放って猪の頭蓋を貫通させるほどの威力を出すのは大変そうな気がするし、威力アップというのはすごいことなのかもしれない。


「でも……地味だな」

「現実なんてそんなもんじゃない?」


 現実的じゃない状況でそれを言われてもなぁ。俺はまた深いため息をつくのだった。


「そもそも良く気付いたな」

「だって言ってたわよ? 小声でウィンドアローって」

「えっ! じゃぁただ見てたら気付かなかったんじゃ?」

「まっまぁいいじゃないのそんなの!」


 残念な目で俺を見ていたけど、俺のことを言えないじゃないか、全く。狩りをする以上魔法名を大声で言う訳ないのは当たり前か。仰々しい名前を言ったところでやっぱり地味なんだなぁ。見えない矢とか飛ぶ訳じゃないのか。


「あんたが考えてることはなんとなくわかるわ。でも、無い物を創るより、ある物を使ったほうが効率的なのは確かなのよね」

「言ってることはわかるんだけど、なんか釈然としないんだよなぁ」

「あんたが神様なんだから、ここは望んだことを体現したもののはずなんだけどね。それにしたってこれは……まぁいいわ。ほら、もっと色々見て回りましょう」

「はいはいっと」


 気を取り直して観察を続ける。びびらず近づいてみると、確かに魔法名を呟いている。アースウォールはその名の通り土の壁を発生させて、逃げ道を塞いだりしている。ウィンドアローは矢の威力増加だけでなく、軌道修正に使ったりしていた。ウォーターで水を出して血を洗い流し、薄暗くなるとライトを唱え道を照らしながら帰路についた。


 村人は鳥や猪、途中襲い掛かってきた狼などのお土産を抱え、喜び合っている。そんな光景を見つめながら、俺とルシファーは状況を確認した。


「生活魔法って感じだな。あると便利だけどなくてもなんとかなるって感じか?」

「あることが当たり前って感じだし、なければ急にライフラインがなくなるようなものだから無理だと思うわよ? 魔法必須の世界ではあるんじゃない?」


 俺からすればあってもなくても変わらない気がするが、この世界の住人からすれば必須ではあるのか。確かに魔法以外で火を起こしたり、刃物や矢などの道具をつくっている様子はない。魔法を使えるようになった代償みたいなものだろうか。そういったものが発展しなかったようだ。服を縫うということもないらしい、クリエイトと唱えると、材料らしきものから衣服ができちゃうしね。矢とかナイフ、生活用品なども基本はクリエイトで創られているようだ。


「見た目の地味さからは感じないけど、やっていることは結構すごいのよね」

「そうなの? どのへんが?」

「規模が違うだけで、やってることは神と同じなのよ」

「へ?」


 俺は間抜けな声を出して呆けてしまった。

 どうやらあんな地味でも神の力を使っているらしい。驚きだ。


「つまりどういうこと?」

「火をつけたり、矢に風を纏わせたりするのは結果確立うんめいそうさ。一瞬でそれが起こっているのは過程短縮スキップよ」

「あー、言われてみればそうかも?」

「世界に干渉して現象を起こしているんだから大したものだと思うわ。でも、その割に効果が薄いし地味なのが気になるのよね」


 正に神様の出来損ないって感じだな。俺も似たようなもんだけどね。ルナ様が言ってたしね。人間は神を模倣して作られた的なこと、それかな。


「さて、わたしも仕事をするかな。原因究明しないことにはどうにもならないしね」

「できるの?」

「わたしを誰だと思ってるのよ? 一応補佐なんだしやることはやってあげるわ。ちょっと静かにしててね」


 ルシファーは目を閉じると、精神集中をしているのか、呼吸をゆっくりと深く行っている。消えていた6対の翼が現れ、周囲を眩いほどの光が埋め尽くしていく。一瞬光が大きくなったかと思うと、次の瞬間には光も翼も消え、こちらを睨むように見ているルシファーが立っていた。俺は恐る恐る声をかけてみる。


「えっと、なんかわかった?」

「原因はあんたよ! めんどくさい性格してるわね!」

「えー! いきなりディスられてるんですけど! どうゆうこと!?」

「言わばこの世界はあんたの意志からできているのよ。そして魔法は人が、世界に干渉して起こす。ここまではわかる?」

「まぁ……なんとなく」


 俺が創った世界なんだから当たり前っちゃ当たり前だ。なんか色んな人に干渉されてるって思うと複雑な気分だけど。


「ここでの魔法っていうのは、人の意志を世界の意志、つまりあんたの意志に干渉させて事象を起こさせているの。つまり、あんたが拒んでいるのよ。魔法が起こす現象を!」

「な、なんだってー!」


 ルシファーが言うにはこうだ。俺が受け入れてさえいれば、思った通りの魔法が使えるはずだ。だが、俺がそんなことは起こりえない、無理だとどこかで思ってしまっていることで、世界がその干渉を拒んでいるというのだ。


 この世界には俺の意志が満ちており、人々は自分の意志をそこに織り交ぜることによって魔法を使っているとのことだ。実際に意識して観察してみると、大気中に満ちた光のようなものに、身体から出た光が干渉して魔法が起こっていることがわかった。

 ファンタジー的な言い方に変えると、人は魔力を使って、魔力の素に干渉して魔法を使っているって感じだ。

 ルシファー曰く、この世界の神である俺が、事象を否定的に捉えすぎているため、干渉が弱まっているとのことだ。


「まぁ、火を付けたりはわからなくはないけど、火は飛ばないじゃん普通?」

「望んでいるのに受け入れられないって面倒な神ね。原因がこれじゃどうにもならないわ」

「俺が信じたり受け入れればいいんでしょ?」

「信じろ! って言われて心の底から信じられたら苦労しないわよ」

「ですよねー」


 いきなり壁にぶち当たってしまった。とりあえず魔法を使うのに意志を使うのか、魔力っていう感じもしないし、どう呼ぼうかな。


「とりあえず大気中の魔力みたいなものを、世界の意志(グリムウィル)とでも呼ぼうか?」

「まぁ、そのまんまだしいいんじゃない? 生き物の魔力を意志ウィルとでも呼べば?」

「おっシンプルでいいね。やっぱり自分の世界だし既存の呼び名より独自のがいいしね」

「他と一緒が嫌なだけでしょ? そんなひねくれてるからこんな世界になったんじゃないの?」

「ほっとけ、別にいいだろ。ところで、今後どうしたらいい?」


 同じとかつまらないじゃないか、男は専用とか特別仕様とかに憧れるものなのだよ。しかし、どうにもならないと言われてしまったが、どうにかしなくてはなるまい。


過程短縮スキップが勝手に止まったってことは、このあたりで何か問題が起きるはずよ。魔法が思惑通りじゃなかったとはいえ、生活に組み込まれた訳だし、観察を続けてその問題を解決するわよ。世界が続けば魔法も発展するかもしれないわ」

「これ自体が問題な気がするんだけどな……。止めた訳じゃないんだ? 条件があるわけ?」

「その世界の存続が危ぶまれる状態になる手前で短縮はとまるわ。飛ばしすぎて世界が終わってましたじゃしょうがないでしょ?」

「つくづく親切設計だよな」


 俺たちは一旦一ルームに戻り、問題が起きないか観察をすることにした。

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