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第二話 名と力

 グリム童話のグリムからとってみた。どうやら名前を思い出すことはできないが、そういった記憶は普通に思い出せるようだ。内容的にはどろどろとしていたり、まさに人間の業といったものを感じる童話の名前だ。神様としての名前をと言われて真っ先にこの名前を思いついたのは、それでも人間としていたいという小さな抵抗なのかもしれない。


「グリム様、その名を神として認め、改めて歓迎いたします」


 俺の考えを知ってか知らずか、女神様は少し目を細め、ローブの両端をつかみ少し持ち上げるようにしながら、ゆっくりと頭を下げた。つられるようににして俺も頭を下げる。ふと女神様の名前を聞いてないことを思い出した。


「こちらこそよろしく。そういえば、女神様の名前を教えてもらっても?」

「これは失礼いたしました。わたしの名前はルナとお呼びください」


 気のせいかさっきまでより妙に低姿勢な気がする。テンションがあがっていたような感じだったし、通常はこうなんだろうか? それに、俺自身もなんだか浮ついた気持ちが無くなっている。不思議な感じだ。


「ルナ様、ですね」

「ルナと呼び捨てで構いませんよ?」

「いやいや、さすがに呼び捨ては無理だよ。ルナ様と呼ばせてください」

「ふふ、グリム様のお好きなようにどうぞ」  


 いきなり馴れ馴れしく女神様を呼び捨て出来るほど、神経は太くない。しかもこんな美人を呼び捨てとか無理だ。微笑みを見ただけで心臓がドキリとしてしまうほど美しい。動揺を隠しながらも、疑問をぶつけてみる。


「ところで、これから俺はどうしたらいいんでしょうか?」

「グリム様には世界を創って頂きたいのです。」

「世界? そう言われても何が何やらわからないのですが」

「安心してください。そのためにわたしがいます。順を追って説明させて頂きますね。」


 スケールが大きい話だ。まだ世界を救ってくれとかのほうがわかりやすい。魔王を倒すとか明確な目的があるからね。世界というスケールに魔王という目的がある。しかし、この場合はスケールも目的も曖昧すぎる。俺に何をさせたいんだ? 思わず考えこんでいると、察したかのようにルナ様が話し始めた。


 「生物に寿命があるように、世界にも寿命があります。毎日少なからずの世界が終わりを迎えます。ならば、生まれる世界も必要でしょう? ですが、神も万能ではありません。一つ二つなら可能かもしれませんが、十や二十の世界を管理しろと言われても無理なのです。そこで時折このように、世界を創造する神が選ばれることがあるのです。」

「な、なるほど……?」


 わかったようなわからないような説明である。なぜ俺なのかという質問はわからないと答えられたようなものだし、偏見かもしれないが、神様っていうのは万能なイメージだ。十や二十の世界なんて無理だって言い方をしていたが、逆にそれぐらいだったら可能なんじゃないかとも思える。神様に会ったことがあるわけじゃないから丸っきり想像なんだけどさ。ん、待てよ。減るんだからその分また創るだけなんじゃないだろうか。


「管理していた世界が寿命を終えるのであれば、一つマイナスな訳ですよね? 新しく創るといっても? とんとんなんじゃ?」

「世界とは、神にとって子供のような物なのです。子が寿命を迎え尽きたあと、しばらくは気力が湧かないものなんですよ。」


 ルナ様が苦笑いをしながら答えてくれた。随分神様とは人間臭いんだな。人間が神様の劣化版コピーというのであれば、そんなものなんだろうか。 ちょっとだけ親近感が湧いてきた。まぁルナ様曰く俺も神様になったらしいのだが。ただ話を聞いていると、ちょっと疲れて休むから仕事代わりにやっといてくれる? って感じだ。貧乏くじひいただけって感じだなぁ。昔からいつもそうゆう役回りなんだよな俺って。


「グ、グリム様ならきっと素晴らしい世界を創ることができますよ!」


 何かを察したのか、ルナ様が遠い目をして黄昏る俺にフォローを入れる。中間管理職ってタイヘンデスヨネー。きっとルナ様のほうが大変に違いないと思い気を入れなおす。本題に戻ろう。


「それでは、世界をどのように創って、どうしていけばいいんですか? 満たさなければいけない条件とかあるのでしょうか?」


 わからないことばかりだから、どうしても質問ばかりになってしまうな。


「基本的には先程試して頂いた方法で創って頂きます。ある程度はおおまかな想像で大丈夫です。イメージを自動で補完してくれます。まずはグリム様がこうなってほしいという世界を目指して頂けたらと思います。満たさなければいけない条件はいくつかありますので説明いたします」


 こうして聞いているとチュートリアルみたいだな。ルナ様がガイドさんのようだ。美人からレクチャーしてもらうっていうのはいいものだ。


「満たさなければいけない条件として、不整合緩和、過干渉禁止、破滅防止があります。不整合緩和は自然と防止されるようになっています。詳細は後程」

「不整合って?」

「極端に言いますと、マグマに氷山があったり、魚が地面を泳いでいたりとすることですね」


 マグマに氷山があったりは確かになさそうだ。魚のほうは砂漠とかで砂魚とか、地面を空間干渉的なもので泳いでるとかはだめなのだろうか、ファンタジーでは定番っちゃ定番な気もする。でも……緩和か。


「お察しの通りです。これについては、理由があれば、多少の無理は通ります」

「なるほど、理由付けがあれば言い訳ですね」

「はい、次に過干渉禁止ですが、神様が直接事象に関わりすぎないようにすることです。創った世界に神様自信が直接手を加えることは、原則禁じられています。」

「例えば?」

「神様が直接降臨して、誰かをフルボッコとかですね。驚かれちゃいますよ」


 ルナ様の口からフルボッコって言葉が出たことに驚きですよ。しかも、両腕をぐるぐる回してパンチしているようなポーズとってるし。つまりやりたい放題はできないってことか。する気はないけど、禁止しておかないとやった神がいたんだろうな。


「最後の破滅の防止ですが。言わずもがなそのままの意味です。生物が全ていなくなってしまったり、世界が荒廃しないように注意してください」

「空地を管理的な物はだめなんですか? あっ、するつもりはないですけど」

「神とは信仰を元に存在するのです。世界の荒廃は、神の力そのものに影響すると思ってください」


 信仰心こそ力ってか。正に神様って感じだね。なんだか領地運営みたいだなぁ。


「大きくこの3つが気を付けて頂きたいことです。最終的な目的という物はありませんが、強いて言えば、世界の存続と信仰の流布です」


 世界の存続は当たり前として、過干渉せず信仰獲得というのは難しそうだ。

条件はなんとなくわかったが、俺が心配に思っていることはここからだ。おずおずと手をあげ質問する。


「条件についてはわかりました。問題は世界ってどこからどこまで創るんでしょう? 宇宙からとか星からとか言われてもどうしたらいいのか……」

「それについては、不整合緩和の予防効果が補助的な役割をするので安心してください。それに、グリム様が創った世界に関して、グリム様は全知であり全能なのです。それはある種無制限であり、制限でもあります」


 ルナ様が得意げに胸をトンと叩く。そういったところを管理しているのかな?そして、ルナ様が指を弾くと、草原が最初の真っ白い部屋に変わり、周囲にホログラム映像がいくつも浮かびあがった。


「こちらをご覧ください、古き神々が創った世界の記録です」

「これは、なんだか見たことある」


 台地が浮いているように存在しており、周囲を滝のように水が流れている。地球が丸くないと言われていた時代の物のようだ。隣に目を移すと、城があり橋を渡った先に町がある。全体図を見てみても海に囲まれた島といった規模しかない。海からさきは真っ暗であり存在していないように見える。


「それぞれの世界は、神が認識していた世界感から構築されています。前者はそれが当たり前の共通認識でありこの形になり、後者はその神にとって世界とはそれが全てだったようです。」

「全知であり、全能……。無制限であり制限でもある……か」


 神が考えうる限り無制限であるが、その思いがつかないところは制限となるらしい。知識や考えが世界を構築するのであれば、全知というのも頷ける。


「次に、不整合の予防効果についてですが、村を思い浮かべて頂けますか? 難しく考えなくていいので、グリム様にとっての村を簡易的にご想像ください」


 言われた通り、木で出来た建物、村人を思い浮かべてみる。そうすると、足元に空から見降ろしたような形で村が出現する。――なるほどそうゆうことか。


 俺が思い浮かべたのは、村を構築する家と、暮らす人だけだ。見渡す村には、家畜が存在している。羊や牛のような家畜だ。畑があり、近くには森や川の存在が窺える。人が住んでいるのに、生活基盤がないわけがない。これが不整合予防効果か。


「ありがとうルナ様、すごくわかりやすかったよ」

「お役に立てて光栄です」


 視線を向けると、ルナ様が微笑み返してくれた。

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