プロローグ~ただ無気力な男~
エブリスタに掲載しているものに、若干の修正を加えたものを投稿していきます。初めての作品なので、生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。
「お疲れさまでした、お先に失礼します」
もう何度言ったかも覚えていないし、いちいち考えて発してもいない。
息をするのと同じように、当たり前の言葉を吐いて今日も帰路につく。
いつからだっけか、こんなに毎日が下らないと感じるようになったのは
時折頭によぎるこんな考えを頭から追いやるように、缶コーヒーを一気飲みして車に乗り込んだ。
「ただいま」
自宅のアパートにつき、扉を開けると条件反射のように言葉を吐く。
といっても誰もいないのだが。
なんて考えていると、足元に黒い塊がまとわりついてきた。
「にゃーん」
「おっとっと、危ないって、踏んじゃうだろ。悪い悪い。お前がいたっけな」
考えを見透かしていたかのように、猫がしつこいように足元から離れない。
まぁ、腹が減ってるだけかもしれないけど、懐いてくれるぶんには嬉しいものだ。
「よしよし、飯にしような」
コンビニで買った弁当を広げ、猫には猫缶を開けて皿に盛る。
「現金な奴だなお前は」
さっきまですり寄って離れなかったのに、猫缶を前にあっさりと離れていく姿を見て苦笑する。
「いただきます」
たいして腹が減ってる訳ではないが、夕飯の時間だから食べる。ただのルーチンワークだ。生きているから食べている。
戦争時代の人間なら文句の一つも言うんだろうなと思いながらも、今はこれが当たり前だから仕方ないでしょうよと、誰に答える訳でもなく自答した。
俺はこのまま何を成すわけでもなく、何になれるでもなく老いて死んでいくんだろうな。なんとなく見つめたワンルームの窓の外を眺めながら思う。ふと黒い塊が膝の上にのそのそと乗ってくる。不安そうにじっと俺の目をしばらく見つめると、丸まって目を閉じた。
こいつはアパートの前で死にかけていた猫だ。今でこそふさふさと長く黒い毛が生え、靴下みたいな白い足をしている。見つけたときは、毛もあちこち抜けてボロボロだった。仕事に行こうと思ったら見つけてしまった。なんとなく放っていくのが後味悪くて動物病院に連れていって、回復して今に至る。初めて仮病で仕事を休んだっけな。
ゆっくりと撫でながら語りかけた、
「大丈夫だよ。お前が生きている内は、寂しい思いはさせないさ」
俺はずるいから、自分が生きていていい理由が欲しいだけなんだろう。
酒を飲む同僚に言われたことがある。酒を飲めないなんて人生の半分を損してる。タバコを吸う人に言われたことがある。タバコを吸わないなんて人生の半分を損してる。おんなじように、テレビやアイドル、旅行に食事などでも言われたことがあるような気がする。俺はどれもないから人生始まってすらいないのか?
そりゃあ昔は、ヒーローとか冒険とかに憧れた。アニメや漫画を見てわくわくしたりしたさ。でも、大人になるに連れて現実を知って、見れなくなってしまった。こんなことありえるか疑問に思ってみたり、現実的じゃないところばかりに目がいってしまう。そんな自分に嫌気がさしてしまうからな。
毎日を無気力に只生きている。楽しみもなく最低限の責任を果たして、見えることのない未来に怯えながら。
力なくため息をついて猫をそっと膝からどける。不服そうにこちらを見ているがお構いなしだ。何もしないでいると卑屈な考えばかり浮かんでしまうから勘弁してくれ。ノートパソコンを開いてネットサーフィンをするのも日課だ。特に目的なんてない。
適当にページを開いたらリンクを適当に辿っていく。もちろん興味があるわけじゃないが、そうこうしていれば時間は過ぎて行ってくれる。いつのまにか猫が膝の上に鎮座しているが、気にせず片手間に撫でながら画面を見つめていた。ふと気づくと真っ白なポップアップウィンドウが出ている。
「広告……?」
消そうと思って閉じるボタンをクリックすると、まるでそのウィンドウに吸い込まれるように、目の前が真っ白になった。
「なんだ……これ……」
聞き覚えのない女性の声が聞こえ――
「ようこそ、お待ちしておりました。作者様」
俺の意識は遠のいていった……