夏休み計画
がやがやと教室が騒ぎ出す。先生がいなくなったのを見計らって、次々とカバンをごそごそし始め、可愛らしい箱を取り出す。真空された箱のふたを開けると、ぷしゅっと間抜けな音が鳴る。途端にたくさんの香りが漂う。待ちきれなくなった生徒が、その香りを発するものに箸を入れる。ある生徒は購買に走り込み、ある生徒は昼練のために体操服に着替え、慌ただしく教室を出て行く。そうして、つかの間の静寂が訪れる。私は最後のハンバーグのかけらを丁寧に集めながら、一枚の紙を差し出す。
「電車の時間どれがいい?」
口に入れた卵焼きをもぐもぐししている佳奈は
「ふぁ!ふふぉ!ふぃっふぁい………ごくん、いっぱいあるね!」
わぁっと目を輝かせる。つられて私も微笑む。
「あんまり早すぎてもあれだから、このへんどう?そうすると30分に着いて………」
一通り説明して、電車の時間を決めて、お弁当を閉めた。
「そういえばさ、その駅には本屋さんの他に何があるの?」
「んとね、アイスのお店とかモッグとかセタバとかあるよー?あとアニメスト!近場のアニメストアはここにしか無いのだ!そうそう、お姉ちゃんにお土産買ってきてーって頼まれてるんだー」
アニメの話から声に熱がこもってる。よほど好きらしい。
「私もその店なら行ったことあるよ。確か………これっ」
オレンジ色の和風な猫が描いてあるお気に入りのファイルを見せた。あの時は電車に乗ったことがなくて、一緒に行った子に頼りきりだったっけ。おっかなびっくり電車に乗って、帰りに乗り換えがあることを知らなくて、私達帰れるかなって二人で青ざめてたなぁ。
「楽しみだねー、あれとこれの新刊と、限定キーホルダーと………あ〜お金が足りないよー!」
はしゃぐ佳奈の声に、私も心が躍る。
「佳奈、そろそろ時間だよ、五分前」
「あ、はーい」
自分の席に戻ってから改めて考える。その日は何を着て行こうか、あ、この前買った新しいやつにしようか。腕時計はした方がいいだろうか、水筒はいるかな?まだ二週間先のことなのに、楽しみ過ぎて準備をしてしまいそう。そんなことを考えてたもんだから、授業の内容は全く頭に入らなかった。
急に寒くなってきましたね。上着必須の季節ですな。