あの娘③
カッカッカッカッと一方的なリズムが流れている。それに反応している人もいれば、自分の事に集中している人もいる。
「………ん………ぐぅ………」
かと思えば、既に板書を諦め睡魔と戦っている人もいる。
「はい、時間です。後ろからプリント集めてきて下さい」
その硬い声で、意識が戻る。あるぇ………?また寝てた?真っ白なプリントを見つめ、うーんと考える。とりあえず名前と最初の空白だけ埋めて羽希ちゃんに回す。私のプリントを見た彼女が
「………丘野ちゃん、寝てたでしょ」
「ん⁈いや、寝てはないよ?うとうとはしてたけど………」
「………プリント見ればバレバレ」
「うっ………すんません………。だって眠いんだもん………睡魔に抗える人なんていないもん………」
言い訳っぽくなってしまった。いけないいけない。ふと視線をずらすと、佳奈と目があった。にやにやしている。あんにゃろう、さては笑ってたな?
「はい、次の人教科書152ページから読んで下さい」
先生が私を見ながら言ったので、慌てて読み始めた。
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その頃、隣のクラス1ーDでは、数学の授業をやっていた。一人の少女が黒板に公式を書いている。ぱっつんに切った前髪は驚くほど真っ直ぐにに揃えられ、ボブショートの髪は美しく整えられている。病的な白い肌は、教師の窓から入ってくる紫外線を嫌そうに受けて反射している。つま先を伸ばしつつカリカリと問題を解く少女——左右田光里は大きな目をめいっぱい開いて最後の√を書いた。
電車の中でタンポポの綿毛のみを見ました。種は無事地上に降りたのでしょうか………