個性派
「そういえば、そろそろ朝ごはんの時間ね」
「今って、朝だったんだな」
この世界に間違えて召喚されてしまった奥羽壮真は、自分がいる場所の事はおろか、今が一体何時なのかさえ分かっていなかった。
俺はエイダの言葉によって、今が朝だということをしっかりと理解する。
今の俺にとっては、現在のおおまかな時間でさえも貴重な情報であった。
「じゃあ、ソーマさんには初お仕事をお願いしようかしら」
おいおい、俺は朝飯抜きかよ!?
俺は、自分のご飯が抜かれると思い、嫌そうな顔を見せる。
しかし、エイダはそんな顔をされた程度では動じない。
「別に、時間がかかるお仕事じゃないわよ?2階に行って、住み込みで働いている女の子を起こしてきてほしいの」
「なんだ、そんなことか。それくらいだったら、お安い御用だよ」
「そんなことって、もしかしてソーマさんは私がご飯を抜きにしてしまうような悪人に見えたのですか?」
思わず、YESと答えそうになったが、そこはグッと堪えて適当にはぐらかして二階へと向かうことにする。
2階についた壮真だったが、肝心の従業員がどこの部屋にいるかがわからない。
どこの部屋かと悩んでいると、部屋に板のような物が張り付けられ、そこに名前が書かれているのを発見した。
「リンの部屋…。ここでいいのかな?」
他の部屋には名前が書かれていなかったため、リンと書かれた部屋をノックする。
「入ってよいぞ」
どうやら、部屋の主はもう既に目覚めているようだった。
起きているんだし、このまま下に戻ってもいいと思い、そのまま下へ戻ろうとする。
「何で、入ってこんのじゃー」
部屋の主は部屋に入ってきてほしいようだ。
そういわれ、仕方なくその部屋に入ると中には、腰にまで届くほど長い綺麗な青い髪、丸くて大きな黄色に輝く瞳の少女がベッドの上にチョコンと座っていた。
俺の世界だったら小学校高学年~中学1年生くらいの体格だな
こんな小さな女の子まで住み込みで働かせるなんて、エイダは割と鬼なのだろうか?
それが、少女に対する感想だった。
「私の名前は、リン・ヴァイアスだ。リンと呼んでくれ」
彼女に続き俺も自己紹介をしようとする。
「あー、下が騒がしかったから聞こえておるぞ。お主がソルペッティオで間違いないか?」
「いや、壮真だよ。誰だよそれ、ソしかあってねえよ」
本当に聞こえていたのだろうかと、不安になる。
「冗談じゃよ。それよりお主、儂には個性がないと思わんか?」
この子、初対面の人間に何聞いてるんだよ。
「この短い会話だけじゃ判断できねえよ」
「なんと。それもそうじゃな、しかし儂は竜人じゃぞ?その気になればドラゴンにもなれるんじゃぞ?個性的だとは思わんかの?」
驚きの告白だよ。
っていうか、ドラゴンになれるって…。
「なあ、リンはドラゴンになって戦えるのか?」
「無論じゃ。炎のブレスだってだせるし、尻尾で敵を一掃することだってできるぞ?」
「じゃあ、リンも戦闘担当なのか?」
「いいや、儂は経理担当じゃ。まあ、こんな経営状況じゃ毎日が暇じゃがな」
「暇だったら、アイリの代わりにドラゴンやってやれよ」
心からの叫びだ。
ひょっとしてこの子が働いていたら、アイリは洗脳されなくて済んだんじゃないか?
「儂は、アイリと代われんのじゃよ」
どうしてだろう。
過去に何かあったのか?
それとも、彼女が幼いのと何か関係しているのか。
その言葉を聞いた俺は少し聞いてしまったことを後悔―。
「だって、儂はアイリよりもブレスが下手じゃから儂が代わりにいったら笑われてしまう」
「俺の後悔をかえせっ」
全然、どうでもいい理由じゃねえか。
少しシリアスに考えすぎてしまったようだ。
っていうか、モノマネより下手な本家ってそれはそれでだめだろう…。
「それより、お主…」
リンは先ほどまでのふざけた表情から一転、とても真剣な顔になって俺に問いかける。
「儂の事、やっぱり個性が薄いって思ったじゃろ?」
「思ってねえよっ!むしろ濃いっ」
「お主、なかなかよいツッコミじゃのう。気に入ったぞ」
ツッコミて…。
この世界にもボケとツッコミからなる漫才のようなものがあるのだろうか?
しかし、この世界がどういう世界なのかいまいちよくわからないな…。