悪徳商法?
エンタレイドで働くにあたって、この会社が一体どれほどの規模なのか、壮真は少し気になっていた。
当初は、行くあてもない自分を受け入れてくれるなんて実は儲かっているんじゃないか?
なんて、壮真も思っていたが、あの給料の天引きっぷりを考えるとどうにも壮真はこの会社が儲かっているように思えなかった。
「なあ、エンタレイドってどれくらいの規模の会社なんだ?」
「先代である、父が経営していた時は、従業員200名以上、契約モンスター約1000体という業界でも大手と呼ばれる会社でした」
それを聞いた壮真は素直に感心してしまう。
なんだ、さっきまでのは杞憂に過ぎなかったのだと。
しかしながら、壮真が考えている以上に現実は甘くは無かった。
「まあ、父がどこかへ消えてしまって以来ほとんどの従業員は離れていってしまい、契約していたモンスターもどこかへ行ってしまいましたが…」
本人は少し、ギャグっぽく言っていたが、目は完全に死んでいた。
それを聞いた壮真も、自分の待遇になんだか納得してしまう。
「じゃあ、今は従業員とかいないのか?」
「いえ、ソーマさんを含めて今は3人働いています」
ちょうど、その言葉を言い終わったくらいだろうか、部屋のドアの方からなにやら鈴の音が響いてきた。
そして、そのあとすぐに、どこか溌剌とした声がこちらまで聞こえてくる。
「おはよございまーっす。あれ、エイダさんいないんすかー?」
どうやら、来訪者のようだ。
その声を聞いたエイダはフフッと微笑みながら、「その一人が来たわ」と言って、壮真を連れて怪しい魔法陣のある部屋から出て行った。
先ほどの、溌剌とした少女にエイダが壮真の事を紹介する。
「なるほど。お互い大変っすね。自分は、主に戦闘関係を担当してます、アイリーンと申します。アイリって呼んでください。」
アイリと呼ばれた少女は、少し日焼けした肌に華奢な体、茶色い髪をポニーテールに結った、元気娘とか向日葵を連想させる、明るい印象の少女である。
そんな、可憐な少女が戦闘担当だなんて、壮真にはとても思えなかった。
すると、不思議そうに彼女を見ている壮真にエイダが彼女について少し説明を加えた。
「アイリちゃんはうちの稼ぎ頭みたいな感じです。この子は魔法学校でもなかなか優秀な生徒なの」
どうやら、物理的な攻撃を用いて戦うのではなく、魔法を用いた戦いをするようだ。
それなら、彼女が華奢な体なのにもかかわらず戦闘担当と言われるのも幾分か納得できる。
「じゃあ、アイリが主に召喚先に行って戦ったりしてるのか?」
「ええ。でも、この子が戦ってるっていうのは少し違うかもしれないわね」
そういわれたエイダは部屋の隅に置いてあったキグルミのような物を指さす。
「アイリちゃんは、主にこの竜のキグルミを着て、ドラゴンとして召喚されてることが多いわ」
「詐欺じゃねーかっ」
「いえ、詐欺じゃないわ。しっかりと冒険者に説明する時、ドラゴン系って言ってますから。ドラゴンとは言ってないもの」
(おいおい、そんな詐欺まがいの事をして商売が成り立つのか?)
壮真はひしひしと、なぜこの会社から人が離れて行ったのかについての片鱗に触れ始める。
「それに、案外リピーターも多いんですよ」
そうはいっても、キグルミだろうと実力が伴っていればいいのだろうか?
はたまた、キグルミの可愛らしさから癒し目的で呼ばれるのだろうか。
どちらにせよ、リピーターがいるというならば、案外うけがいいのかもしれない―。
「今日だって、この後町のヒーローショーに悪役として呼ばれていますから」
「最早、召喚されてねえっ!?」
戦闘はおろか最早、冒険さえしていなかった。
戦闘担当で魔法学校の生徒なのにそれでもいいのだろうか、と思った壮真はアイリに素直にどう思っているのか聞いてみる。
「まあ、いろんな人から必要とされてますし、自分は別に大丈夫っす。それに自分、こう見えてもドラゴンのブレスっぽく炎魔法を使うのがすっごい上手になって、友達の間でも評判なんすよ!」
しかし、当の本人は不平など全く感じないどころか、むしろ新たな特技を習得できて満足そうでもあった。
それを聞いた壮真は思わず、この子は純粋でポジティブなんだなと思ってしまう。
「それに、今はこうしてますけど、自分の将来の夢は魔法使いとして冒険家のパーティに入って世界中を旅することなんですよ!」
とってもまぶしい笑顔で輝かしい未来の理想をアイリは語る。
しかし、エイダが「あら…?」と言って、指をパチンと鳴らすと、先ほどまでキラキラしていた目がまるで別人かのように濁って虚ろになる。
「冗談デス。自分ノ本当ノ夢ハ、世界一ノキグルミドラゴンニナルコトデス」
「って、洗脳されてる!?」
何故だか急に、エイダの事が怖くなってしまい、"エイダ=腹黒くて逆らえない"という方程式が壮真の中で完成しつつあった。
また、自分が無事に元の世界に帰れるのかすごく心配になってしまう壮真だったが、今回もまたこの世界について聞きそびれてしまったことに彼はまだ気づいていない。