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オゼロ:魔王の妹

オゼロは追手から身を隠しながら、新たな隠れ家を探して山中を進んでいた。

その体がふいにこわばる。オゼロは反射的に周囲を見回した。

どこかから歌が聞こえて来ている。

オゼロは、思わず冷や汗を流した。

その歌のメロディが、オゼロの大嫌いな「とある歌」に酷似していたためである。

どれくらい嫌いかというと、聴いたとたんに鳥肌が立って衝動的に暴れまわってしまうほどだ。

ただ、その理由はオゼロ本人にもわかっていない。それを追求することもオゼロは無自覚に避けていたのだった。


オゼロが我に返ったとき、歌はまだ続いていたが、それはもはや例の歌とは全く似ていなかった。フレーズの一部が偶然に一致していただけなのだろう。

だが、非常に気分を害したオゼロは、直接音源を潰しに行くことにした。


歌の聞こえる方向へと進んで行くと、森が開けて小さな泉が目に入った。

そこの泉で、少女が水を浴びながら大きな声で歌を歌っている。

一見人間に見えるが、そうではないようだった。長い黒髪ととがった耳、額からは一本の立派な角が伸びている。若干幼い体つきながら、紛れもない美少女であった。

最も、オゼロの美意識では人間に顔つきが似ている時点でアウトなのだが。


相手が無力であることを確認したオゼロはそのまま少女の息の根を止めてしまおうとしたが、木の陰から出る直前、その肩を何者かが叩いた。

「覗きはいかんぞ、おぬし」

オゼロがぞっとして振り向くと、薄汚いローブをまとった老人が長く汚い爪をオゼロに突きつけていた。

オゼロが動けばそこから魔法が発射されるということだろう。

いつの間に背後を取られたのか。オゼロは老人をじっくりと観察した。

こちらも人間ではなさそうだ。どれだけの年月を生きてきたのか、その肌はまるで朽ちた樹木のようになっている。

警戒するオゼロに対し、老人はこんな言葉を放った。

「姫の裸をタダで見ようとはふてぶてしい奴じゃの。しっかり金は払ってもらわんと」

オゼロは思わず眉間にしわを寄せた。

この老人のたたずまいと言動からは、全く殺意が感じられない。

それがかえってオゼロを混乱させていた。


そんなオゼロをよそに老人は言葉を続ける。

「そうじゃな…金貨10枚ほどくれたら見逃してやっても良いぞ」

「へぇ~っ!あたしの裸が金貨10枚ですって?ゼ・ペ・リ!」

ゼペリと呼ばれた老人の、枯れ木のような肌からさらに血の気が引いた。

どうやら先程の発言は、水浴びをしていた少女、ゼペリが「姫」と呼んだ存在にも、聞こえていたらしい。

少女は既に服を着て、オゼロとゼペリを同時に睨みつけながら仁王立ちしている。

ゼペリは慌てて言い訳した。

「い、いや、この不届き者が姫の水浴びを覗こうといていた上、ワシが咎めると『金を出すから許してくれ』などと言い出すもので…もちろんワシは、『そんなこと許さん!』とですな…」

「無駄よ。全部聞こえてたから。それにあたし、見張りなんて頼んでないわよ。どうせあんたも覗こうとしてたんでしょ?クソジジイ」

「ごめんなさい」


「それで?あんたは何もんなの」

少女はオゼロに向き直りそう言った。

オゼロはなるべく言葉を話したくないと思っていたが、流石に覗き犯扱いされるのは癪なので、はっきりと答えた。

「たまたま通りすがって、貴様の歌が耳障りだったので潰しに来た」

「はぁ!?」

少女はおかしな声を上げた。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。

だがすぐに表情を引き締め、オゼロに対しこう問う。

「そ、それはつまり…あたしを殺そうとしてるって事?」

「そうだ」

少女もゼペリも、一瞬言葉を無くした。

ゼペリが呆れたように口を開く。

「覗きの方がまだまともじゃな。身の程知らずにも程があるぞ」

「…なんだと?」

「オマエさん、この方を誰と心得る?この方は…」

「待って!」

少女がゼペリの言葉をさえぎった。

「そこから先はあたしがやるから」

そう言うと、少女は胸を張り、片手でオゼロを指しながら言い放った。

「あ、あー。コホン。…あたしこそ、かのフォーゼル=ル=ルーラーの妹であり、自身も強大な力と高貴な心を持つ、魔族のカリスマ!…シャーディ=ル=ルーラーよ!」

決まった、と誇らしげな顔をする少女に、オゼロは冷たい声で返す。

「誰だ」

「え!?だ、だから…フォーゼル=ル…」

「誰だ」

「はぁぁ!!?」

シャーディと名乗った少女も、ゼペリも、今度こそ目を丸くした。

信じられないものを見るような目でオゼロを見る。

しばしの沈黙の後、ゼペリがやれやれといった感じで言った。

「魔王のことは知っとるじゃろ」

「そうだな」

「その名前がフォーゼル=ル=ルーラーじゃ」

「!」

「もうわかるじゃろ?つまり…」

「待って!そこから先はあたしが言うわ」

再び、シャーディがゼペリの言葉を引き継ぐ。

「つまり、何を隠そうこのあたし、シャーディ=ル=ルーラーは!」

「…」

「魔王の…妹なのよ!」






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