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オゼロ:旋風のハノール

ハノールと名乗った女の顔には自信が満ち溢れていた。

六勇者、というのもまたオゼロの知らぬ言葉であったが、彼女が只者ではないということは理解できた。

起き上がろうとした兵士に対して、ハノールは微笑を浮かべながら声をかける。

「兵士さん!あなたはそこでじっとしていてください。この方の相手は私がするといいました」

「で…ですが」

「いいですね」

「はい…」

兵士が黙ると、ハノールはオゼロに対して向き直った。

「たまたま通りかかっただけですが、面白い場面に出会えました。モンスターさん、あなたのような血気盛んな方は久々です」

オゼロは何も言わなかった。黙ったまま相手を観察し、その力量を推し量る。

「ですが…あなたのやったことは許されません。死んでもらいますよ」

ハノールが大斧を振り上げなにやら呪文を唱えると、彼女を中心に渦巻く風がその勢いを増し、オゼロに襲い掛かった。

オゼロは大きく身をかわす。本来なら風など恐れる必要などないものだったが、とにかく嫌な予感がしたのだ。

その予感は的中する。ほんのわずかに触れた風が、オゼロの皮膚を大きく引き裂いた。

オゼロは顔をしかめた。どうやら、「魔法」が関わる攻撃に対して物理的な防御力はほとんど意味を成さないようだ。

町の兵士の剣といい、この風といい、元の世界では鉄壁を誇ったオゼロの防御をやすやすと崩して見せる。

勝利を間近にした状況から一転、一気にオゼロは追い詰められていた。

ハノールの周囲に渦巻く風も魔法の力を帯びていることは明白。迂闊に飛び込めばただではすまないだろう。

慎重に距離をとりながら様子を伺うオゼロを見て、ハノールは嘲るような微笑を浮かべた。

「無法者にしては、臆病な戦いをするんですね」

全くだ。オゼロは自嘲する。ここに来てから、どうにも情けないことばかりだ。

だが、オゼロはその慎重な姿勢を崩すことはない。安い挑発に乗ることができないほどに彼は追い詰められているのだった。

オゼロは押し黙ったまま、逆転のチャンスをうかがっていた。

必殺の一撃を準備しながら。


洞窟に潜んでいる間、オゼロは自身の戦力分析を行っていた。

その結果、体内器官の大きな損傷によりその能力のほとんどが使用不能になっていることがわかった。

だが不幸中の幸いというべきか、ある能力は一定の準備期間を取れば使用可能であることも判明していたのである。

その能力は、「大音波」。

元の世界で、オゼロが最も好んで用いた能力であった。

やる事は言ってしまえば思いっきり大声を出すのと変わらないのだが、全力のオゼロがこれを用いると、海は蒸発しあらゆる防壁が崩壊するほどの威力を誇った。

今のオゼロではそこまでのことは出来ないが、人間相手には十分すぎる火力が出るのは間違いなかった。


オゼロはハノールの攻撃をギリギリでかわしながら、逆転の一撃に備える。

使用可能であるとはいえ、体力の関係で連発はできないし、一発一発にためが必要になっていた。

チャンスは一回。それでハノールを仕留めなければならなかった。

無闇に打つわけにはいかない。普通に考えれば風の防護で音波攻撃を防ぐことはできないはずだが、「魔法」の力が介在している以上確実ではない。

確実にハノールに攻撃を打ち込む方法をオゼロは考えていた。


ハノールの高速の斬撃を体をそらしてかわす。しかし、その周囲に渦巻く風までは捌ききれず、胸元にいくつもの深い傷が入った。

両者は再び距離をとる。

「ちょこまかと逃げ回るばかりで全くみっともないことですね、モンスターさん」

ハノールは顔についたオゼロの体液を拭いながらそう言い放った。

それに対しオゼロは…

「…ぉ」


ボソボソッ と何かをつぶやいた。

ハノールはハッとして言う。

「モンスターさん、あなた話せるんですか?」

オゼロは内心ほくそ笑んでいた。言葉が届くということは、音波が届くということだ。それが確認できただけでも十分だった。

だが、はやりはしない。今の自分にどれだけの威力が出せるかわからない。もっと確実なチャンスを作り上げるのだ。

オゼロは今度はハノールに聞こえるようはっきりと声を出した。

「貴様は強い。だが俺も、簡単に死んでやるつもりはないのだ」

「…?」

「今ここで貴様を殺すのが、俺に与えられた使命なのだからな」

嘘は言っていない。嘘をつかないのはオゼロの信条の一つだった。

ゴブリン達に対しても決して「殺さない」とは言っていないし、今言ったこの言葉も、破壊の権化として存在するオゼロにとって目に入る人間を片端から殺害する事はもはや天から与えられた使命といってもいいのだから、何一つ間違ってはいないのだ。


しかしハノールは、真実とは全く異なる意味でその言葉を取ったようで、顔色を変えてオゼロに詰め寄った。

「六勇者であるこの私を、暗殺ですって!?…町へ帰るのにここを通ると知っていた!?」

「…」

「モンスター!答えなさい!あなたに指示を出したのは一体誰なの!?」


…ここだ。

オゼロは無抵抗を装いながら言葉を紡いだ。

「わかった。教える」

ハノールが唾を飲んだ。オゼロの言葉に聞き入っているのだろう。

「俺に使命を下したのは」

「ッーッーーッ!!!!!」


「下したのは」から先をハノールは聞き取ることができなかった。

鼓膜が破れたためである。

それだけではない。オゼロから発せられる極大の音波によって、ハノールの体ははるか後方へと吹き飛ばされる。

数十メートルほど吹き飛ばされた後、巨大な岩に背中から叩きつけられた。そのままずり落ちて、地面に体を横たえた。

だが、まだ息絶えてはいないようだった。風のほかにも、何か防御魔法のようなものがかかっていたのだろう。

とどめを刺さなければ。そう思った時、オゼロは何人分もの鎧の音が近づいてきていることに気づいた。

奴らはまもなくここに到着するだろう。消耗したオゼロには到底勝ち目がない。

オゼロはやむなくその場を後にした。


その顔には、この世界に来てから一度も見せることのなかった表情が浮かんでいた。 

勝利に酔う、邪悪なる笑みである。


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