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深山:未知なる力

石造りの建物の小さな個室で、制服の人間二人に見張られながら深山は本を読んでいた。

この世界の「文字」の基礎学習内容が記されたものである。全く見ず知らずの言語で記された本であったが、元々幼児向けの学習本であったため、深山は大した苦労もなく読み進めることができた。

むしろ大変だったのは、この本を持ってこさせるまでの過程であった。まず自分が精神異常者ではないこと、そして、この土地の言語を解さない人間であるが、仕組みさえわかれば文字での会話はすぐにでも可能になるレベルの知性を有していることなど、これらを全てジェスチャーで伝えなければならなかったのだ。それはもう、深山自身情けなくなるほどの醜態であった。


大変な努力の末、制服の一人に本を何冊か持ってこさせてから、2時間ほどかけて深山はそれらを読破した。

そして、机の上においてある紙にまず一言、彼らの言葉でこう書いた。

「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」

それを見た制服の二人は目を丸くした。まさか本当に、意思疎通ができるようになるとは思っていなかったのだろう。

二人のうちの片方、女性の側が筆を取り、小奇麗な字を紙に書いて深山に見せた。

「あなたは何者?どこからきたの」

深山は筆談で答える。

「私は『深山 生道』。ここよりずっと遠くから、恐らくは別の星、あるいは別の世界から来たのだと考えられます」

その根拠は一つ。もしここが深山の元いた場所と地続きであったならば、とっくの昔にオゼロによって破壊されているだろうからだ。

制服の二人は顔を見合わせた。もしかすると、やはり狂人であると思われただろうか。少し不安になった深山に、制服の女性が突きつけたのはこんな文面であった。

「わかりました。もう行って結構。あなたの故郷に帰ってください」

やはりそうか、と深山は落胆した。向こうも暇ではないのだ。こんな男に数時間も構ってくれただけありがたい。

深山はそう納得しかけたが、どうやら制服のもう一人、男性の方は不服であるようだった。

女性になにやら語りかけ、紙と筆をひったくると、その男性は深山よりも汚い字でもってこう書いた。

「俺はガリア・ラム。あんた、元の場所に戻れる算段あんのか?」

こちらの男は深山の言うことを信じてくれたのかもしれない。

深山は素直に答えた。「ありません」

「なら、あんたの仮の住居をこちらで用意させてもらう。身元不明の人間に好き勝手に動かれると、俺達も困るんだ」

面倒だな、と深山は思ったが、厚意に預かることにした。なにやら書類を渡されたので、注意深く記入していく。


書類をあらかた記入し終えて筆を置いた時、深山は彼らに伝えておかねばならないことがあったのを思い出した。

他でもない、オゼロのことである。

深山がこの場所にたどり着いたのだ。同時に異空間に飲み込まれたオゼロもまた、ここに流れ着いている可能性がある。

奴のことだ、生きている限りまた破壊活動を繰り返すだろう。

深山は再び筆と紙をとり、そのことを書き伝えようとした。

その時である。

拘置所に、同じく制服を着た男が駆け込んできた。

なにやら大声で叫んでいる。何かを伝えているようだ。

それを聞いたガリア達二人も、血相を変えて走り出る。

「まさか…!」深山にとてつもなく嫌な予感が走った。

どさくさにまぎれて拘置所を抜け出し、人が逃げてくる方向へと向かった。


しばらく走った所で、武装した兵士に呼び止められた。

何を言っているかはわからないが、恐らくこの先は封鎖済みであるということだろう。

やむなく立ち止まった深山は、封鎖された先、煙の上がる場所へと目を向けた。

そして、見つける。

町の上空にたたずむそのシルエットは、まぎれもなく深山の世界を破滅へと追いやった超生物、オゼロであった。

「オゼロ…!!」

奴はこの世界も破壊しつくそうというのか。

だとするなら、それは間違いなく自分のせいだろう。自分の作った装置によって、オゼロをこの世界に連れて来てしまったのだから。

深山がそんなことを考えて柄にもなく罪悪感に顔を歪ませた時、彼の目に信じられない光景が映った。


兵士の一人らしき影が、白いオーラをまとって空を飛び、オゼロに切りかかったのである。

何人もの兵士がそれに続く。オゼロの体はあちこち切り裂かれ、空中で大きくバランスを崩した。

兵士達はオゼロを取り囲み、剣の切っ先をオゼロに向ける。すると彼らの剣の先から灼熱の業火が吹き出し、オゼロを包んだ。

オゼロは悲鳴をあげ、空中で体を丸める。直後、その姿はその場から消えてしまった。

「逃げた…」

深山は呆然としてつぶやいた。だがそれも無理はないことだろう。


彼の世界を滅ぼした超生物が、名も知れぬ町の兵士達によってあまりにもあっさりと撃退されてしまったのだから。





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