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深山:最初の対決

「これで、完成だ…」

薄汚れた白衣に身を包む科学者、深山生道みやま しょうどうは息をつき傍らの椅子に腰を下ろした。

彼の目前にあるのは、巨大な機械。天才である彼が5年かけて作り上げた、異空間生成装置であった。

ぱっと見てもいびつな形をしており、外面を取り繕う余裕などないのか内部の配線等も丸出しになっている。

「物資が圧倒的に足りないとはいえ、こんな不恰好なものを作ってしまうとは。我ながら情けない」

深山は一人ため息をついた。少し間を空けて、立ち上がる。

「こうしてはいられない。今すぐにでも奴を…」

深山は地下の研究室を出て地上に向かった。


深山がこのような装置を作り上げたのは、彼自身の研究意欲からではない。

とある怪物を、この世界から追放することが深山の目的であった。

怪物の名は「オゼロ」。

科学の発達したこの世界に突如として現れ、支配者であった人間たちに戦いを挑んだ「超生物」である。

人類はオゼロに対しもてる限りの破壊兵器でもって対抗したが、数千・数万の軍用アンドロイドも、半径数百キロの範囲を消し飛ばす爆弾も、オゼロへの有効打とはなりえず、逆にオゼロの攻撃に対して人類はなすすべを持たなかった。

結果として人類は敗北し、世界人口は10万人にまで減少、生き残った者たちも皆逃げるように地上から姿を消した。

たった一匹の超生物が、人類に代わって世界の支配者となったのである。

深山は決して正義漢というわけではなかったが、それでも人類側の一員として、オゼロの所業を見過ごすわけにはいかなかった。

地下深くの研究室に身を潜め、オゼロを殺害する方法を研究していたのである。

その結果判明したのは、「オゼロの殺害は不可能」という厳然たる事実。

並みの科学者ならばそこで諦めるところだが、深山は違った。

「殺せないならば、この世界から消してしまえばいい」

深山はそう結論を出し、異空間生成装置の作成に取り掛かったという次第であった。


地上に出た深山は、高台に上ってメガホン状の機械を設置した。そこから、特定のリズムと周波数を持つ音波が発せられる。

これはオゼロが特に嫌悪する物であり、彼が今どこにいたとしても、届き次第即座に発信源を探知しつぶしに来るということがわかっていた。

音波の発信を確認した後、深山は地下の研究室に戻った。

オゼロが接近するのを感知して異空間を周囲に発生させるよう設定し、深山は研究室を後にする。

深山自身がギリギリまでオゼロを引き付けて装置を作動させるのがベストであっただろうが、彼にはオゼロと心中するつもりなどなかった。

深山は、車庫に止めてあったおんぼろ車に乗って隠れ家を離れた。


5分ほど走った後だろうか。背後で轟音が鳴った。装置が作動したのだ。

「早すぎる…!」

思った以上に近いところにオゼロはいたのだろう。

危うく巻き添えを食うところだった。深山は安堵したが、その時別の音が背後から迫っていることに気づいた。

ハンドルを握りながら深山は振り向く。その顔が恐怖でこわばった。

空中を飛行しながら追ってくるのはオゼロ。そしてそのわずか後方に、地面を丸ごと飲み込みながら異空間との境界線が迫ってきていた。

オゼロのスピードは、異空間が広がるスピードとほぼ等速。

深山は焦った。装置を中心とする異空間の広がりには、当然限度がある。

半径1km。異空間はそこで拡散をやめ、収束していく計算であった。

「このままじゃ、逃げ切られる…!」

それだけではない。逃げ切ったオゼロは深山の運転する車にもたやすく追いついて、深山を八つ裂きにするだろう。

そうなれば全てが水泡に帰す。

深山は意を決して、ハンドルを切りUターンした。

そして、追ってくるオゼロに対し体当りを仕掛ける。

オゼロもこれは予想していなかったようだ。反射的に体をそらした結果、地面に激突した。それを、地面ごと異空間が覆っていく。

当然、深山の運転する車もただではすまない。深山は必死でブレーキを踏んだがどうにもならず、正面から異空間へと飛び込んだ.


深山が目覚めると、そこはどこかの町の、雑踏のど真ん中であった。

周囲の人々は、突如現れた深山に驚き、距離をとって様子を伺っているようだった。彼らは深山の見慣れない服装をし、聞きなれない言葉を話していた。

困惑する深山だったが、そこに制服を着た若い男女の一団が現れた。

彼らは深山を取り囲み、なにやら威圧的な態度で語りかけてくる。

恐らくは、警戒されているのだろう。

彼らの一人が懐から拘束具らしきものを取り出した。

深山は少したじろいだが、わずかな思考の後、おとなしく両手を彼らに差し出した。

今必要なのは状況把握だ。ここで逃げ出せば、わけのわからないままに取り返しのつかない事態となってしまうだろう。

そう考えた深山は、抵抗もせず制服の一団に連行されていった。


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