第九話 ヒロイン登場!
この作品の主人公のトウマはちょっとからかなりの間の中二病です。会話の途中でそういう節が見られるようになってくるかもしれません。
一番長いのに一番くそっぽい。
やあ、僕はトウマだよ。本名は東條まこと。普通の高校生1年だ。
それにしてもあれだね。うんあれだ。
疲れたね。うん疲れた。
なんか空気が抜けたみたいに脱力しているよ。今はあのジャイアントアントを倒して町へ戻っている途中。
ここら辺に出てくるモンスターはすでに狼やスライムという大量殺戮をしたモンスターたちの場所へ戻ってきている。
ちなみにあの蟻を倒して手に入ったドロップアイテムがあったんだ。
『巨大蟻の牙』
このドロップアイテムは素材らしく、町で鍛冶をやっているNPCかあるいは、鍛冶スキルを持ったプレイヤーに依頼すると装備を作ってもらえる。
この巨大蟻の牙は、武器用の素材のようでこれで作れる武器は片手剣らしい。第1階層ではそれが妥当だろう。
ちなみに双剣を作るときは、二つとも同じ武器か、あるいは片方の武器が持っている属性の弱点の弱点に反対側に装備するといいらしい。武器にもHPがある以上、その属性を持つ限りは弱点属性はよりHPを削るらしい。
というわけでその弱点をカバーするためにその弱点の属性の片手剣を装備すればその弱点を補いつつ攻撃ができるというわけだ。
残念ながら『拳闘士』用の武器はあまりないらしくこの素材でも『拳闘士』の武器は作れない。
というわけで僕の懐の足しにでもしよう。今回のジャイアントアントの金額とこれで回復薬6個分は取り返せなくても大体は戻ってくるはずだ。
そうやってうきうきさせながら僕は街に戻っていった。
町とは目と鼻の先の距離でちょっと気になるものを見つけた。
ものというより、人?
誰かがモンスターと戦っているようなのだ。目を引いた理由はその戦い方が不自然なのだ。
普通の人間の動きと違ってその人の動きは不自然で、緩慢としている。
ちょっと近くまで行ってみてみよう。
「くっ!」
近づいてみると、少女が狼相手に戦っていた。見た目は僕と同じかちょっと幼いくらい。14、5ぐらいだ。使っている武器は片手剣。
そして改めて少女の動きを見てもやっぱり不自然だった。彼女は無理をしているというより体が制御できていないといった感じだ。こういうゲームはそういうことが基本的にそういうことが起きないはずなんだけどな。
そんな彼女のHPバーは5割を切ってイエローゾーンに突入している。だが、もう少しでオレンジゾーンに入りそうだ。
こういうときには助太刀に入る前に了承を得なければならないのは以前話したとおり。HPが特定量以下になることで発動するスキルがいくつもある。『ど根性』なんかはその典型だ。そういったスキルの発動を待っているのかもしれないので確認は大事なことなのだ。
「大丈夫!?手を貸そうか?」
「お、お願い、しま、す!」
彼女は苦しげに許可をしてくれた。あまり余裕がないらしい。
僕は、ステップを使い距離を詰める。一瞬で狼に近づいて掌底を食らわせる。思いのほか気持ちよく決まったな。そして狼は吹っ飛ぶ。
『ぐわうぅぅぅ!!!』
プログラムされた大上のうめき声を発し、狼のHPは9割から一気に4割ほどにまで削れる。レベルが上がったことでさらに強くなったらしい。
狼が立ち上がり体勢を整えるころにはもう一度ステップを使い拳を振りかぶり叩き込んで倒す。
ああ、やっちゃった。こういうのは止めは彼女に譲ったほうがよかったのではないかな。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
少女が話しかけてきた。なんか知らんが御礼を言われたのでよしとする。
「ああ、どういたしまして」
照れくさくなり顔をそらす。なんとなく恥ずかしくなってきた。ああ、逃げ出したい。
「お礼がしたいので一緒に来てもらえませんか?」
「ああ、分かったよ。僕の名前はトウマ。君は?」
「私はクイナです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そして、僕とクイナが歩き出そうとしたら彼女はバランスを崩した。やはり、あの動きだ。なんとなく不自然なのだ。
「す、すみません。やっぱりこっちの体は慣れなくて………」
「なんかあったの?」
「リアルでちょっと怪我をしてしまって…………」
事故か何かあったのだろうか。
確かにVRを使ったリハビリ方法は確立されているし、実際それを推奨されている。体が動かせなくなった人がその部位の動き方を感覚として覚えこんでリアルでのリハビリで役に立てるという方法だ。
感覚や動きをリアルに再現できるVRならではのリハビリ方法だと思う。
「わ、私あの町でいい店を知ってるんです!一緒に行きませんか?」
今の僕にはそれはとてもいい提案だった。まあ、明日も地道にレベルを上げていく予定なので今日はこれで切り上げるとしよう。お金もあるのでかまいたち先輩に持って行ってさし入れにしよう。
そんなことを考えながら僕らは町に戻っていった。
クイナの歩き方をみていると歩くということになれていなかった。そんな感じだった。なんというかおぼつかないそんな感じ。
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町に戻ってみるとプレイヤーの数が少しだが減っていて人口密度に前よりも余裕がありそうだった。
おそらく、準備を整えて攻略に人が乗り出したのだろう。
僕らがこのゲームをクリアしない限りは終わらないこのゲーム。この事件がいつ現実に影響を与えだすのか心配だ。基本的にニートの人や廃人の人はいろいろな意味で心配ない。長時間ゲームをしていてもそこまで怪しまれることはないからだ。
だが、一般プレイヤーはそこにおいて大変だ。
今現実での1時間はこちらの世界において360日。約1年。そんな長時間をかけてもクリアするというのは難しいだろう。
理由はいくつかある。
1つ目はこのゲームの管理者権限をバグらせて、管理者権限を消す、または掠め取った張本人はこのゲームを終わらせたくないからこうやってログアウトをさせていない。
2つ目はこのゲームを終わらせたくないなら特定ポイントに強敵を配置することだろう。それも時間をかけないとクリアできないように、かなり強い敵に設定するはず。
そうやって考えをめぐらせていると、
「あのう、とても怖い顔をしていますよ?トウマさん」
「ああ、ごめん。今日の約束について考え事をしてたんだ」
「お友達ですか?」
「うん。近いけど………尊敬する人になるかな?」
「女の人ですか?」
「たぶん男だと思うよ。『拳闘士』なんて好き好んでなる女の子なんてあまりいないだろうし………」
きっとそんな女の子は怖くて誰も近寄ってくれない。僕も近寄りたくない。女の子が『拳闘士』なんてやってたら絶対に話題になる。
「そうか、なら…………」
「なんか言った?」
「いえ、独り言です」
「ふーん」
そこにはあえて触れず、彼女の案内で僕とクイナは店に向かって歩いていった。
「ここです」
相変わらずふらついている脚を見て不安だと思いつつ彼女の案内についていったら、なんかレトロな雰囲気の店の前に来た。
こうなんか昭和な感じがあふれている。今の平成の時代は大分こんな雰囲気の店が減ってきた。あるいは見た目だけで中身はとても近代的な店という見た目詐欺なところがたくさんある。
なので今昔問わずこういったレトロな店の需要は一定数あり、ファンタジーはそういった『レトロ』を再現するときにおいてとても重要なジャンルといえる。
日本の『レトロ』も再現してほしいものである。
そう思いながら、その木製の古いドアを開けると、
カランカラン―――――
と、とても耳にいい印象を与えるベルの音が聞こえた。やはりこういうレトロな雰囲気は新鮮だ。やっぱり見た目だけという店とはワケが違う。中身にもある程度こだわってほしい。見た目は古くても中に新型のコーヒーメーカーとかもう浮いてて不自然。
「マスター」
「やあ、いらっしゃい」
マスターと呼ばれた女店主。こう、凛としていてすらっとした黒髪ポニテのお姉さんだ。僕と同い年には間違っても見えない。それにしてもこの人はNPCだろうか。今の受け答えを見るところNPCというよりはプレイヤーに近い。
「この人はマスター。プレイヤー名はリョウカさんって言うんです。リアルでいろいろお世話になっている人です」
やっぱりプレイヤーなのか。まあ、そうだよね。それにしてもすごい人だな。和風美人とはこのことか。
「私はリョウカだ。よろしくな」
「はあ、よろしくお願いします」
「この人はさっき私を助けてくれたんです」
「ほう、なるほどぉ………」
リョウカさんは目を細め、見るだけで敵を射殺せそうな視線を投げかけてくる。怖い。お姉さん怖いですからそんな目はやめて。
「ちょっとあとで店の裏に来てくれるか?」
ははは、なんかいや予感しかしませんね。
――――これが最後の晩餐になるかもしれない。
「私はいつものを」
「僕はウーロン茶で」
「分かった」
ちなみに僕は嫌いなものが多い。
いやというほど多い。牛乳は嫌いだし、コーヒーは苦いし、嫌いな野菜はトマト。あのゼリー状のところが嫌い。気持ち悪い。豆類も嫌いなものは多い。納豆とかその程度しか食えない。でも不思議とミートパスタは食える。
そういえば。ここで店を開いているってことはそういう『職業』なのか?ネットで見た職業にはそういうものはなかった気がする。
「そういえばリョウカさんは何の職業なんですか?」
「ああ、これは『商人』のサブ職業スキルだ」
「へえ、こういうこともできるんですね」
「『商い』をする人なら接客業も『商人』ということだろう」
「むっ、私を差し置いていい雰囲気ですね」
「はは、ごめんごめん」
「でも、マスター。相変わらず人がいないですね」
「まあ、そこまで表通りにないからな。隠れた名店とかそういう立ち位置でいいじゃないか」
「隠れた名店(自称)とか自分で言うのはないでしょ」
「なんか言ったかクイナ?」
「イエナンデモゴザイマセン」
一瞬で首元にナイフを突きつけるリョウカさん。すげえ、何も見えなかった。
「ほれ、カフェオレとウーロン茶」
「「ありがとうございます」」
ずずっと一口。うへえ、うまい。
それから小1時間ほど僕らは談笑をして楽しんだ。
「じゃあ、僕はこれで失礼します。いくらですか?」
「私がおごりますよ!お礼です!ええと、300ニュールですね」
そして、お金を受け渡しクイナが僕のほうへ向いてくる。
「あ、あの、よかったらフレンド登録してもらえませんか?」
「うん、いいよ。始めたばっかりでほとんど知り合いがいないからさ。こっちもよろしく頼むよ」
「あ、ありがとうございます」
お互いがお互いにフレンド登録申請を送る。
そしてそれに承認のボタンをクリックし、フレンド登録が完了する。
「じゃあ、私ともフレンド登録をしてくれないか?」
「いいですよ」
そして、リョウカさんともフレンド登録をして僕は、店をあとにした。
改めて看板を見てみると『カフェ・クイーン』と書いてあった。
日は少しずつ傾いて少しずつ町に影を落としていった。
さっきの談笑から1時間ほど経って日が傾いて今は午後5時。夕日が大分きれいに見えるようになってきた。一瞬ここはリアルの世界じゃないかって言うぐらい。
そんな中僕は今日の宿を探していた。
プレイヤーの一部が攻略に乗り出したため、宿にも余裕ができてきたのだ。今なら空いた部屋の一つぐらいは見つけることはできるかもしれないと躍起になって探していたのだが。
「なんだかなー」
まだ、部屋が見つけられていない。
路上生活組が部屋を出てきたところをすかさず奪っていくため中々部屋を確保することができない。
中には連泊をして部屋を手放そうとしない連中すらいる。まあ、そうしたくなるのも分かるけれど。
せめて、相部屋くらいしてもいいといってくれる人がいてくれてもいいと思うんだ。そうすれば、お互いが個人で宿泊費用を払えばいいし、泊まれる人も増える。一石二鳥だと思うんだけどなあ。
とか思いながら夕焼けに染まった街を見ていると。
フレンドからのメールが来た。
『リョウカさん
件名 話がある
内容 ちょっと大事な話がある。店に来い。』
……………………行きたくねえ。
でも行かないともっとひどい目にあいそうだしなー。行かないといけないのか。
まあ、今ログアウとできないんだ。さすがにぶっ殺すようなまねはしないだろう。
そう自分に言い聞かせながら僕はあの通りのレトロな店に向かっていった。
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リョウカさんに言われたとおり、僕はあの店にやってきた。
正直キルされるんじゃないかと思ったけどさすがにそんなことはしないだろうと思いながら僕は扉を開ける。
そこにはリョウカさんが、腰をかけており僕を待ちわびていたようだ。
彼女は正直町切れなかったのかいきなりこう切り出した。
「お前を呼んだのはクイナのことだ」
「はあ、そうですか」
少なくとも予想はしていたことだ。そこは問題ではない。
「彼女の足が悪いことは知っているか?」
「ええ、動きを見ればそうですし、本人もそんなことを口走ってましたから」
「なら話が早い。彼女は一応ゲームでリハビリをっと思ってVRを薦めたんだがたまたま他のゲームで遊んでいるときにこんなことになってしまってな。正直、彼女には申し訳ないことをしたと思っているんだ」
「でも、それをどうして僕に?」
「彼女はパーティに入れてもらえなくてな。お前にパーティを組んでほしいと思って……「嫌です」えっ?」
「僕にそんな重いことができるような人間じゃないんですよ。怖くなったら逃げ出すし楽しいことなら喜んで引き受ける、そんなありきたりで駄目な日本人なんです」
「だ、だが………」
「ダガーもソードもありません。お断りします」
「どうしてだ!せっかくあの子もお前を気に入っているのに」
「そんなもの、僕の気まぐれです。破って捨ててやる」
「くっ………!」
「僕はですね、別に『断ろう』って言ってるわけじゃないんです」
「!!」
「でも、僕にはできることには限界がある。ですから僕にはできることをしましょう。どんな小さなことでもやれることはやりましょう」
「………ありがとう」
「固定パーティは組みませんからね。向こうが依存し始めたら困りますし。そっちの伝でいろいろなパーティを転々としてみるのはどうでしょう。そうすれば最終的にはいいかな~って思います。まあ、今の僕にできることは『遊ぶこと』くらいです」
そういい残し、無理やり店を飛び出した。
顔が林檎のように真っ赤になってとんでもない量の熱を帯びていたのはここだけの秘密である。
これヒロイン登場編じゃないよね!?
これ、実は二つに分けようと思ってたんだけど、片方が短かったから一つにまとめた。