第四話 ゲーマー魂
町に戻ってきて思ったことはどうしてみんなこんなに困った顔をしているのかということと、そしてその『みんな』の数がどうしてこんなに多いのかということだ。
僕が初めてきたときの人数も多かったがここまで多くはなかった。少なくともこの階層にいるプレイヤーの数ではない。他のプレイヤーも混ざっている。
「おいおい、こりゃどうなってるんだ?」
そこまで考えて僕は思った。
なぜ、そんなことをする必要があるのか。
なぜ、運営がそんな回りくどいことをするのか、そして―――なぜ、ここまでの人が困った顔をするのか。
理由はおそらく他のプレイヤーにも存在するログアウトボタンが使えないからだろう。
確かにこれは、致命的なバグだ。だが、どうしていまさらそんなことが起こる?
このゲームはサービスが開始されて1年、これからアップデートとかいろいろ実装されて充実してユーザーが増えていくのになぜ。
答えはすぐに求められた。
『ああ、テステス、皆さん聞こえますか?』
空から声が聞こえてきた。テステス言うな。
『こちら運営です。みなさんのほとんどがお気づきでしょうが今、ログアウトボタンが利かないという原因不明のバグに陥っております』
すると、遠くにいるユーザーから、
『おい、ふざけんなよ!』
『ここからだせよ!』
そんな声が聞こえる。耳障りだ。それはみんな同じだし早くもとに戻してほしい。だが精神的な問題がおきやすい状況になっているのもまた確かだ。『しない』と『できない』は違う。それの代名詞的な状況だ。
『みなさまにご迷惑をかけるのは承知なのですが、このままある程度リセットさせていただきます』
リセット。この言葉にプレイヤーたちは慄いた。それは、ゲーマーにとっては恐ろしい言葉。僕も兄弟に遊びでゲームのデータを消去されたときは半狂乱になりながらそいつに襲い掛かったことがある。結果は、しぶしぶゲームを最初からやったってことかな。
『熟練度やスキル、それに関係するイベントにはゲームへの影響がないので大丈夫です。ですが、レベル関連や各階層のドロップアイテム、個人の各階層攻略状況については、リセットさせていただきます。しばらくログアウトできませんが大変迷惑をおかけしますことをお詫び申し上げます』
そう言って、空からの運営の声は消えていった。
何もなく、そこに残るのは痛いほどの沈黙と、空しさだけ。そして、一人が息を吸う音とともにみんな息を吸いそして一同こう叫んだ。
『ふざけんな!!!』
この日、このVRMMOをプレイしているほとんどのプレイヤーが心を一つにした瞬間だった。
始めて一時間。だが、外ではおそらく5秒もたっていない。大体VRMMOのゲームでは一分ほどで一日らしい。つまり、リアルでの約束は1分遅れるだけで大惨事になるということだ。
いきなりレベルをリセットさせられたので僕のレベルは1。正直いきなり萎えそうだ。
小説書いてるとたまに、いや、高確率でなる萎え。今僕の最新型パソコンの中には書いている途中で萎えて書くのをやめてしまった小説がいくつかある。異世界で魔王に転生した主人公がなんかいろいろあって世界を救う話とか、高校一年で転校してきた主人公が学校でおかしな出来事に遭遇する話とか、ネタだけの話で妖怪の天邪鬼の子孫の主人公が陰陽師やる小説とか。
仕方がないのでもう一度僕は、町の外へ狩に出ることにした。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
僕はもう一度、スライムとの追いかけっこを始めることにした。
今僕が列車ごっこしているのは、スライム5体、狼3体だ。だが、もう少し、モンスターを列に加えないとさっきのようにレベルは上がらない。
今の僕は『戦場兵士』のスキルが発動している状態なので、ステータスにプラス補正が働いている。最初こそぎりぎりだったが今は結構余裕を持って逃げることができている。
はは、慣れれば楽しいものだ!
「うん、そろそろかな?」
ついてきたモンスターはスライム15体、狼7体。今回は合計22体のモンスターを狩ることが出来そうだ。基本的に他の人が相手をしているときにモンスターを横から掠め取るのはマナー違反だ。だが、相手のHPがイエローゾーンに入っていてなおかつ大量のモンスターからターゲッティングされている場合は様子を見て必要とあらば助けに入るというのが暗黙のマナーらしい。
そして、助太刀に入るときは『手を貸すぞ』とか、それ系の言葉を言う。OKが出ればよし。なるほど、声が通じ合うからこそできる会話だな。これ一昔だったらあれだぜ。みんなでスカイプしながらとか、友達の家に集まってからとかになってたんだろうぜ。
「はあぁぁぁぁ!!!」
ショートソードを構え、スライムを駆逐していく。狼はスライムよりすばやさが高いのでたまに反応をできずにダメージを負う。
そんなダメージをチョコチョコ負いながらスライムを半分ほど駆逐したところで標的を狼たちに変えた。
「グアウ゛ゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
狼たちが向かってくる中、僕は呼吸を整えステップで向かっていく。目で攻撃を追いながら、狼たちを切りつける。そんな、スライムたちの攻撃をよけながら狼たちに攻撃を仕掛けていると頭の中に声がする。
『片手剣の熟練度が上がりました。『三日月切り』の攻撃スキルを覚えました』
よし!なら早速使ってみよう!
『三日月切り』
そのスキルが確かに三日月切りというスキルなのか判る気がする。その、スキルが描く剣の軌道は鮮やかでそしてきれいな三日月の形を成していた。水平切り、というのが近い。そのスキルを食らった狼とスライムは何体かが力尽き、その数が減る。
そして、僕の片手剣が『消失した』
………………………………………………………………………………え?
『ショートソードの耐久度が0になりました。ショートソードは消滅しました』
そんなシステムの声に僕は、
「は?」
間の抜けた声しか返せなかった。
おいおい、このタイミングで武器がぶっ壊れるとかどういうことですかね。
まあ、初期装備だ。
そうすぐに壊れることはないと思ったが、前の戦いでの空振りによる地面への攻撃は中々こいつの耐久度を削っていたらしい。なるほど、やっぱり難しい。
だが、武器もないこの状況じゃ打開策も何もない。
いや、この戦いを素手で戦うという選択肢がなくもないか。あるいは他のプレイヤーに助けを求めるとか。
……………誰一人いねえ。
うん。これは素手で戦う外なさそうだ。
え?逃げないのか?
あはは。………もう無理。
もうすでにスライムと狼に囲まれてるんですもん。
しょうがない。
……………やってやる!ゲーマーはこんなときは持っててよかった知恵で対処するんだ!ラスボスに第2形態、第3形態はデフォ。そんなときに初見で倒すには並外れた先見性と攻撃のしかた、そしてデバフ系の魔法、アイテム。
そして、根性!
僕はとっさに右半身を後ろに構え、戦闘態勢になった。まだ敵は5体以上。『戦場兵士』のスキルは発動している。時間はかかるかもしれないが、多分いけるはず。
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
そして、30分後。
「勝った!勝ったぞ!やべえ、これ剣使うより楽しい!」
僕はなんか新たな道へと進もうとしていた。
ちなみに僕のレベルはこれで結構上がっていた。
トウマ LV.4
装備 武器 素手
腕 皮の篭手
胴 皮の服
腰 皮の腰巻
足 革の靴
[スキル一覧]
『ステップLV.2』
『ジャンプ』
『自然回復』
『ど根性』
『戦場兵士』
『三日月切り』(片手剣)
ちなみに、冒険者では熟練度上げができるといったのは前に言ったとおりで、実は『冒険者』という器用貧乏職業柄か、その熟練度の上がりが異様なほどに遅い。僕は、さっき言ったように、たまに空振りして地面を攻撃した。熟練度を上げる条件は剣の素振りなどといった日常的なことから、武器の耐久度を何かを攻撃して減らす、または攻撃して相手のHPを減らす、という3つの方法がある。
だが、そんなものは関係ない。
そう、僕はこれから『拳闘士』になる!