第三十四話 世の中ってうまくいかないことっていろいろあるよね
「じゃあ、これからレベル上げをするわけだけど、何か質問はある?」
「いえ、これといって特には」
「他は?」
みんなないようだ。
僕としてもこちらのほうがありがたい。
「じゃあ、明日からレベル上げだ!」
といって、その日は解散した。
次の日。
「じゃあ、今日からレベル上げをするわけだけど、危なくなったら僕に言ってね。サポートに回るから」
僕のレアスキル『無限回復』は尋常ではない回復スピードと量を誇る。
パッシブスキルで、常に発動しているが、回復した量と時間に応じてレベルが上がっていく。
と、説明に書いてあった。
具体的にどれほど回復すればレベルが上がるかとかは書いてはいなかったが、もう少しでレベルが上がるのではないかと考えている。
「じゃあ、出発!」
この日、僕らは『蓬の町』を発った。
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・
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しばらく歩いていると、モンスターとエンカウントする。
今回の敵はフォレストピューマの群れ。
いきなり大量経験値をゲットできそうだ。
「行くわよ!」
焔がそういうと、パンパンパンと銃声が連続でこだまする。
それで、3体ほど葬った。
僕は、その射撃の援護に乗っかって、近くの豹をワンパンでキルする。
経験値が上がっていく感覚は分からないが、少なからず、経験地が入っていってるのは確かだ。
一度距離をとろうと、『ステップ』を発動したときに、すかさず豹が隙を突いて僕を狙ってくる。
「危ない!」
その声で、僕と、豹の間に入り込んだのは、雪だ。
スキルこそ発動していないが、恐ろしいほどの防御を誇る盾士の職業についている。
おかげで、こちらの被害はなく、雪もほとんどといってもいいほどにダメージを受けていない。
「ありがとう」
一応お礼を言っておく。
フォレストピューマは、攻撃力こそ高くはないが、鋭い牙はクリティカル率を高める効果があるらしい。
おそらく先ほどの攻撃はその例かもしれない。
「せいっ!」
少しはなれたところにいるタマは、右手で持った、片手剣を豹に当てていた。
そのときに作った隙を「そいっ!」ともう片方に持った片手剣で倒す。
タマもこの程度の敵にはあまりスキルを使わないらしい。
十分もすればモンスターの群れの大半は、倒すことができた。
経験値も今ので大分入ったと思う。
「ふう、あと少し」
そう口でもらし、何とか残りも片付ける。
経験値は相当入ったし、これでレベルが上がる人がいてもいいと思うのだが。
「あっ!レベルが上がりました!」
「クイナ、レベルが上がったんだ。確かこれで、25だっけ?」
「はい、25になりました」
「へえ、僕も負けてられないな。よし!」
僕らはこうしてレベル上げを始めた。
二日目
今日は、ワイルドボアを五頭ほど狩った。
一回ほどドロップをしたが、それは売ることにした。
今は少しでも資金はためておきたいのだ。
「はあ、それにしてもあれね」
「何?」
最近の活動の拠点である、宿屋の一室(僕の部屋)でタマはつぶやく。
「この世界って本当に作り物なのかしら?」
早くこのゲームをクリアしなければまずい。
本能的にそう思う一言だ。
「いや、本当にそうだろうよ。少なくとも、こんなゲームに好き好んで何年も引きこもっていたいとは思わないよ。むしろそのために『加速』を開発したんじゃないのか?」
「でもね、思うのよ。私たちがここで死んでも、実際本来の現実にはほとんど……ってほどでもないか。でも関係ないでしょ?」
「死んだら何が起こるかわからないよ。もしかしたら死ぬより辛いことが起こるかもしれないのに」
「まあ、私たちはそれが嫌だから頑張ってクリアしようってことになってるのよね」
「うん………鎌たち、今頃何をしてるんだろうか?」
「頑張ってこっちとコンタクトを取ろうって頑張ってるんじゃない?」
「鎌ならやりそうだ」
お互い、見て笑いあう。
あいつなら体にどんな障害が出ていてもやりそうだ。
「まことは、この世界をどう思う?」
「どうって……『よくできたゲーム』としか思ってないよ。緑もだろう?」
「まあね。少なからずまことの持ってた『テレビゲーム』をやってたからね。現実味はあっても現実とは感じられない」
「そうだよ。僕らの生活とかかわりのない世界だからこそ、この世界がゲームだと感じられるんだろうね」
「逆に捉えればさ、現実とこの世界がごちゃごちゃになるほどのゲームを作ってみたら面白そうじゃない?」
「多分……そういったゲームは作られないと思うよ」
「まあ、そうよね」
しばしの無言が場を満たす。
こんな正直何の意味があるのか分からない会話が僕らにとってのコミュニケーションだ。
少なくとも、僕らの関係を忘れるようなことにはなるまい。
僕と緑は幼馴染。
それ以上でもそれ以下でもない。
「まあ、久しぶりに一緒に話せて楽しかったわ。お休み『トウマ』」
「ああ、お休み『タマ』」
「タマじゃなくて蒼碧だって言ってるのに」
タマは頬を膨らませる。
「なら猫耳はずして普通の格好をしようか」
「いやだ。これで定着してるもの。きっとこのアクセをはずしてみんなの前に出たらあれよ?あんた誰ですか?ってなるわよ」
「お前の声で分かるよ。……じゃあ」
「じゃあ」
僕と緑の特に意味のない会話。終了。
その日は夢も見ないくらいぐっすりと眠った。
いや、VRだから夢なんて見ないけどね。
三日目
「ひゃっはー!」
「「ひゃっはー!」」
突然ながら申し訳ない。
こいつらは今、僕の真似をすると言うことをしている。
何のためか?
もちろん、双子入れ替えクイズのためだ。
現在、焔と雪は真似の練習である。
その真似の対象がどうやら僕のようで………
本日狩が終わったあとに、
「あたしたちの双子入れ替えクイズのために、真似の練習をしておきたいの!というわけで手伝って!」
ということである。
敵に教えを請うとは中々できることじゃないと思う。
だからといって答えを教えるつもりはないよ。
というか言えるわけないよ?鼻の穴が膨らむなんてさ。その前にお互いを注視してお互いの癖を真似しておけよ。という突っ込みはしてはいけないのだろうか?
というわけで先ほどの「ひゃっはー!」とつながるわけである。
実質やっていることは『真似』というより『物真似』の部類なので、正直あまり意味のないことだ。
だが、このことでそれに気づいてくれるとありがたい。
「で?僕以外にはやったの?双子入れ替えクイズ」
「いえ、まだよ!」
「まずは、リーダーがターゲットなんだから!絶対にあきらめないよ」
多分僕が答えられなくなったらたぶんほとんどの人が答えられなくなると思う。
間違いなく表彰されるべき双子になると思う。
「まず、他の人にも当たってみたら?当たる確立は二分の一。確信を持って答えた人にはどうしてそう思ったのかとかアドバイスもらえるかもよ?ちなみに僕は絶対教えないから」
「ちっ」
「意地悪」
「何とでも言いなさい。僕は君ら双子の究極形を見たい」
「「負けないからね!」」
「まあ、しょうがないね。じゃあ、今から僕のやることを覚えておくと少しは面白くなると思うよ」
「「?」」
「まず、『ポーズの統一』これは重要だね。次に『声を合わせる』これの応用に『声を入れ替える』なんてこともいいかもね。他には『お互いがお互いの真似をして細かい動作を指摘しあう』とかかな?これらを練習してから一回タマあたりにでもやってごらん」
「わかった」
「やってみるよ」
「ガンバレー」
正直、これに付き合わせられる僕の身にもなってほしい。
でも、彼女たちが楽しそうなら僕もなんとなく楽しくなってしまうというのが本音だ。
彼女たちはどことなく辺りを引き込んでしまう。
ある意味恐ろしい才能だ。
この日、僕はいろいろな相手に対するイメージトレーニング(妄想)による戦闘方法を模索しながら寝た。
四日目
この日も僕の部屋に来訪者が来た。
来ちゃったのだ。
「……リーダー。いますか?」
「いますよー」
レベル上げは順調で着々とレベルが上がっていっている。
現在タマのレベル30が、最高だ。
僕は29だよ。
「で?珍しいね。君が僕のほうに来るなんて」
彼方が自分からやってくるなんて、珍しい。
とても、珍しい。
どれくらいかというと、某名探偵が『分かるかよ!ボケが!』というくらい珍しい。
「まあ。立ち話もなんだしそっちに座りなよ」
といい、僕はベッドに腰をかけ、彼方にいすを勧める。
「……ありがとうございます」
彼方はいすに腰を下ろし、僕を見る。
「ええと、何か用かな?彼方が今まで僕のほうに自分から来ることがあまりなかったからあまり好印象じゃないって思ってたんだけど……」
「……そんなことはないですよ。ただ、ちょっと勇気がなかっただけで………」
「後半が聞き取れなかったんだけど」
「……何にもないです」
「えー。教えてよ」
「……いやです」
ちっ、教えてもらえないか。
「……ずっと思ってたんですけど、私には随分と冷たいですよね?」
「き、気のせいじゃないのかなぁ?」
「……少なくとも1メートル以内にはほとんど近づいたことがありませんよね?」
「ピュー、ピュー」
口笛吹いてよそを向く。確かにそういえばそうかもしれない。
「……理由を聞いてもいいですか?」
「断る!」
「……答えてください」
「断る!」
「答えろ」
「はい」
一瞬彼方さんらしくない言動を見た気がするがいいだろう。
いいんだ。見なかったことにしなければ灰にされそうで怖い。
「彼方だけさ。なんていうか、高貴なお姫様みたいなイメージがあるんだよ。なんていうのかな。相手にされていないとは違うけどどこか違うみたいなそんな感じ」
「……腹立ちますね」
「ごめんなさい」
「……別にいいですよ。前もそうでしたし」
「カズさん時もそうだったの?」
「……まあ、いろいろあったということで」
「そうなのか」
あまり聞きたくもないし、聞いていいことでもないのだろう。
ならば放っておこう。
「現状は一番いいと思っているわけだけど?」
「……リーダー。私もみんなと同じように扱ってください」
「ん?いいよー。そのうちみんなと同じようになってたかもね」
「……はあ、なんか変な人です」
「ひどくない?」
「……死ね」
「ひどい!」
一瞬で打ち解けてしまった。
なんということだろう。
「まさか、距離を一瞬で縮めるとは見事なり」
「……ありがとうございます」
そう言って彼女は微笑を作って退室していった。
「んー。やっぱり彼女も距離を感じてたのかな?」
まあ、あんな感じで仲間になった手前あまり仲良くしにくかったって言うのかな?
別にこき使われるぐらいは別になんともないんだけどな……。
Mじゃないよ?
僕も距離を感じなかったわけじゃないし。でも、どうやって距離を縮めればいいのかわからなかったしね。
向こうから距離を詰めてきてくれたのはありがたい。
仲間なんだから、少なくともパーティを組んでいる間くらいは、普通に接していたい。
五日目
まだ来るのかよ。
いい加減寝たいんだけど?
割と疲れてるんだけど?
プンスカ。
「トウマさん?いますか?」
ノックして入ってくるあたり非常に律儀だと思う。
クイナは彼方とは違って『自ら距離をとろうとしている』。
面倒くさいというのが本音だ。彼女本人に対してではない。
「いるぜー。クイナ入ってきてもいいよー」
まだ、恥ずかしいとかだろうか?
中々親しそうなリョウカさんにすら、敬語を使っているところを見るとこれが彼女の素。なのか?
「で?なんか用?」
もう、ここまで来て『なんか用?』が癖になっていそうだ。
「ええと、用ってほどではないんですけど……」
「あ、そうなんだ」
「実は、ご相談がありまして………」
「いや、普通に御用じゃないか。重要じゃないか。何?僕に乗れる相談なら乗るぜ?」
「ええと実は……」
ゴクリ……
つばを飲み込んで、次の言葉を持つ………
「トウマさんの好きなものを教えていただけませんか!?」
「えっ?」
一瞬言葉が理解できなかった。
いや、本当に。
「僕の、好きなもの?」
「はい!こう、具体的なものではなくていいので、趣味みたいなもので」
何?言っちゃっていいの?
「ええと、こう、小っちゃくて………可愛いものかな?」
「えっ?」
今度はクイナが放心する番だった。
「もう一度言おうか?」
「い、いえ!結構です!」
「自分でも柄じゃないのは分かってるけどさ。でも、好きなんだよ」
手のひらにサイズにのる、白兎のキーホルダーとか。
にんてんごサイズの女の子のフィギアとか。
他にはそうだな。実際に生きてるやつで、子猫とか子犬とか大好き。
可愛いじゃん?
「確かに意外な趣味ですけど………」
タマの口ぶりからすると僕の部屋にはゲームしかないみたいな言い草だけどそんなことはない。
ちゃんとあるよ。ちっちゃいもの。
昔のポケ○ンのナエ○ルという生き物のぬいぐるみミニサイズがある。
……父さんも同志だったことがうれしい。
ナエ○ルも、父さんから譲り受けたものだ。ポッ○ャマもあったのだが悩んだ末、ナエ○ルをとった。
「そうなんですか………」
「だから、タマにはロリコンっていわれるんだ。別に女の子はそうじゃなくてもいいのに……」
ああ、前の彼女のことを思い出した。いや、まだ告白していなかったからガールフレンドどまりか。
タマめ。いつか、ひどい目にあわせてやる。
そうだな。タマの部屋にある貸しているゲームのデータをすべて消去とかいいかもしれない。
あるいは、あいつの持っているゲームのHDDをクラッシュさせてやるのもいいかもしれない。
「そうなんですか。ありがとうございました」
クイナはそう言い、そそくさと僕の部屋から出て行った。
僕はロリコンじゃないからな!
誰に釈明しているのだろう。
・
・
・
六日目
本当に………死んでしまいたい。
いや、本当に。
僕さ、よく言われるんだ(現実で)。
お前って本当にロリコンだよねって。
別にそういったわけじゃないのに。
確かにラノベなんかで出てくる幼女キャラは好きだぜ?だけどさ、リアルでやられるとあざとすぎるし、そもそもそれを通り越して気持ち悪い。
二次元だからこそ許されることだと思うのだ。
現実の少女にそんなものを期待してはいけないし、そもそもしていない。
ロリコンと呼ばれるのは心外だ。
クイナに小さくて可愛いものが好きと伝えたところ、何を血迷ったのか、情報が間違ってパーティに広がっていた。
なんだ。血迷ったのは情報か。
「クイナ。ちょっと来てくれる?」
「え?はい……」
僕はクイナの首をつかみ、折れない程度にひねる。
「おおん!?変なことを口走ったのはこの頭か?この頭なのか?」
「い、痛いです!トウマさん痛いです!」
「痛くしてんだよ!以前言われたな。ああ、関節の痛みがリアルで伝わるように設定されててよかった!」
グググと危なげな方向にどんどんクイナはどんどん曲がっていく。
「タップ!タアァァァップ!気づいてます!?気づいててやってるんですよね?」
「ちっ、今回はこれで許してやろう。とにかくみんなの誤解を解いてきてよ。タマが調子に乗りかねないからさ」
「イエス!分かりました!」
今度しくじったらあいつに何してやろう。
間違いなく今度もしくじるのを予想していた。
・
・
・
「で?何か申し開きはある?」
「いえ、面目しだいもございません」
結果からいうと悪化した。
小さくて可愛いものが好きの意味を間違えて捉えられた。
長年幼馴染として付き合ってきたタマですらドン引きしていた。
「で?どうするの?これじゃ名誉挽回じゃなくて汚名挽回だ。いや、名誉返上?」
「どうしましょう?」
「ねえクイナ?片手剣ある?」
「えっ?ありますけど………」
「こんな世界にいたくない!僕は現実に戻る!」
僕はクイナから受け取った片手剣を直接体に刺そうとする。
「ちょっと!?やめてください!?私がみんなに殺されちゃいますから!」
「へっ、死なばもろとも!」
「ひどい!」
「もう、何も怖くないよ!」
人間以外も恋愛対象として見られるというとんでもない性癖を背負わされた僕はこの世界では生きていけない。
クイナが僕の自決を止めようとする。
「ええい!僕の邪魔をするな!」
「いやっ、しますよ!?誰だってしますよ!?私の武器で自決しないでください!私がPKしたことになるんですから」
「その原因は君にある!」
「間違ってないですけど、もうちょっとオブラートに包んでくれたっていいじゃないですか?」
「水につけたら溶けて消えるだろ!、そんな薄いものに包むつもりはない!」
「だ、誰か!誰かきてください!」
そして数秒後
『うっさい!』
この宿屋に泊まっていたほかのプレイヤーから怒られました。はい、調子に乗りすぎましたすいません。
・
・
・
「はあ、で?何?」
「僕はそんな変態的な性癖を持ち合わせていないぞ!」
「第一声がそれって………」
「確かに僕は小さくて可愛いものが好きだ!でも『恋愛対象』としてみるなんていっていないからね!?」
うちのパーティは全員精神科か脳外科に行ったほうが良いのではなかろうか。
「小動物はめでるべき存在である!兎、リス、子犬、子猫、小鳥、毒なしであればヤモリ系統だって認めよう!」
どわっ!
パーティ全員が僕から半歩距離をとった。
「ああ、にいてんごフィギアも捨て難い!小さいもの大好き!」
どわわっ!
さらに二歩ほど距離をとられた。なぜ誰もこの小さいものの素晴らしさをわかってくれないんだ!
ああ、ハムスターも可愛い。
「で、で?何が言いたいのかしら?」
「僕は小さいものを好きなだけで恋愛対象ではない!そんな危ない性癖を持っていないぞ!」
「「「「「いや、今のままでも十分危ない(です)」」」」」
「えっ?」
「あなたのその顔をいま自分で見たらすごいわよ」
「目は血走っていて悪人面。どう見ても犯罪者みたいですよね」
「!?」
この世界に神はいなかった。
というか。小さい動物と出会いたい。
スモールアニマルワールドへレッツゴーしたい。
でも………
でも………!
僕は手元にある机を力いっぱいたたきつけた。
「そうだ、何をしていたんだ………」
「なんか勝手に新たな境地を開こうとしてるだと……!」
タマが何かいっているが気にしない。
「そうだよ!僕にはまだやらなくちゃいけないことがある!」
勝手にトリップして勝手に振り切った。
おそらくクイナによる一時的な心労が爆発したものと思われる。
バタン!
そして、何事もなかったかのように倒れて眠り始めた。
・
・
・
七日目
「ん?なんか頭が痛いな。何かあったかな?」
確か僕は『ロールプレイング』なんて使ってなかったはずだけど……。
下に降りよう。
「あっ、トウマおはよう」
「おはよう、タマ」
いつもどおりに挨拶を交わしたところで、タマが変なことを言い出した。
「昨日みたいに変なことを言い出さないでね?」
「えっ?昨日僕なんか言った?」
そういったものの昨日のことを思い出そうとすると頭が痛くなる。
確か、狩に行ってから宿屋に帰って……そこから思い出せない。
「覚えてないならいいの」
「ふーん。別にいいけど」
「(ちょっとクイナ。トウマの記憶が一日近く飛んでるんだけど)」
「(あまりにも壮絶な興奮のし過ぎでメーターが振り切れたんじゃないでしょうか?)」
「(とりあえず。あのことはみんな内緒よ?いいわね?)」
コクリとみんながうなずいた。
「あれっ?みんな何か話してたの?僕も混ぜてもらいたいんだけど」
「「「「「いえいえ、気にしないで(ください)」」」」」
「ふーん。なんかみんなが冷たく感じるのは気のせいかな?」
僕の不安が本当でないことを祈りたい。
「とりあえず、今日でたぶんノルマが全員達成できるだろうから、あとは、どれだけ上へいけるかだ。基本的にはあと一週間は続けるつもりだけど大丈夫?」
「大丈夫!」
「大丈夫です」
「……グー」
「いつでもオッケー!」
「いいよ!」
「よっしゃ!いっちょ派手にレベル上げだ!」
・
・
・
今回は街から結構離れてみようと思う。
比較的高レベルのモンスターがポップするところを選んだ。
適正レベルは28。現在一番最後は盾士である雪がレベルとしては29というところだ。
トップはタマの32。僕も32だ。
今日でほぼ確実に全員のレベルがノルマを達成すると思われるので、これが終わったあとは、一つのクエストをやってみようと思う。
キーイベントもやらないといけないが、その前に息抜きが必要だ。
というわけで今日もレベル上げを頑張ろう。
適正レベルの28のエリアに出てくるモンスターは、スロウモンキーだ。
『slow』ではない。『throw』だ。
具体的にはこのモンスターは木の上におり、木の枝や木の実、時にはどこから持って来たのか、石や岩を投げてくることもある。
スロウモンキーは基本的に銃使いや魔法使い職の人たちが木から落としてそこで前衛職がたこ殴りという方法で狩られていく。
しかもこれのおいしいところは一定確立で『ボスモンキー』がポップする。
経験値は他のモンキーよりも倍。
ここでは一番狩に適している場所である。
「じゃあ、とりあえず作戦通りに行くよ!」
僕はみんなに指示を送ると焔はその場で拳銃を構える。
焔は銃使いの中でも珍しい二丁拳銃を使う。
これはレアスキルでないと使えないらしい。
「どんっ!」
焔の口からそんな擬音を聞いた後、気のうえにいたスロウモンキーの眉間を貫いた。
もちろんHPは全損。経験値は焔が一番大きくもらえた。
「へへへっ!どんなもんよ!」
「いやっ、まあいいんだけどさ。撃ち『落として』ほしいんだけど」
「次は頑張るから!今のは腕がなまらないようにウォーミングアップなんだから」
「いや、普通は当てられるだけでもすごいと思う」
最近噂でとんでもない猛者がいるらしい。
そいつも同じ銃使いで二丁拳銃使いらしいんだけど、噂が大分嘘くさい。
後ろにいる敵を撃ちぬくとか、30メートル以上先の敵の眉間を撃ちぬくなど大分おかしな記録を打ち立てているらしい。
確か、鎌じゃない誰かが二つ名を付けていたはずだ。二つ名は『目無しの撃ち手』。
まさか一瞬こいつではないかと疑うが、噂では男らしい。
二十世紀から二十一世紀の初めにかけて現在も人気を誇る某ネコ型ロボットアニメの主人公の名前にちなんだあだ名もあるらしい。
プレイヤー名もそこはかとなく悪意を感じるものだとか。
いろいろしているうちに、焔が実に5体目スロウモンキーの眉間を撃ちぬいた。
今度、そのプレイヤーと対戦してもらいたいな。
・
・
・
「さてっ、時間やモンスターの数的にはそろそろかな………」
そう、スロウモンキーを倒し続けていると、あるモンスターが出てくる。
それこそが、キングオブモンキーの『ボスモンキー』だ。
全ステータスの中で器用さとすばやさが群を抜いて高くまさに『長』の名にふさわしいモンスターだ。
見た目もそれっぽいので一発で分かる。
大きくて一瞬ゴリラと見紛いそうなほど大きな体と体格。
そして、他のスロウモンキーよりも一回りも二回りもでかい。
なんとなく、これこそ群れの長!という感じの貫禄もある猿だ。
そのボス猿の後ろにまた子分の猿を引き連れているところを見るともう、これはシュールさを感じる。
「来ましたよ!」
クイナの声で思考から帰ってくる。
「GUOOOOOO!」
その雄たけびは猿のものとは思えずとっさに耳をふさいだ。
VRというゲームの都合上鼓膜が破れるということはないが聴覚には結構ダメージが残る。
しばらく耳が遠くなるレベルのこととか。
「GUAAAAAAAAAAA!」
その声は、森に響き渡る大きな声だ。
そして、乗っていた気から飛び降り地面で戦闘体制に入った。
おそらく、やりあうつもりだ。
負けイベントでなければ勝てるはず!
「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
僕は先陣を切って飛び出した。
その手に握る《ジェミニ・レイ》の感触を確かめるように強く握り、最初からスキル全開でいく。
「『正拳突き』いぃぃ!」
拳にそのスキルのエフェクトをまとい、ボスモンキーに攻撃を当てていく。
その拳がぶつかると同時にエフェクトがはじけ、直撃の感触を伝える。
「GUGAAAAAAA!」
ダメージは負っているようだ。
だが、やつの横のHPバーを確認すると、まだ、一割も削れていない。
案外手ごわそうだ。
一応適正レベルは同じかそれを超えているパーティだ。へまでもしなければ死ぬことはまずないだろう。
「交代!タマ!」
「オーケー!」
僕は『ステップ』を使って下がり、その頭を超えるようにタマがやつに追撃を食らわせるために攻撃を放つ。
タマは双剣スキルの『双突』と呼ばれるスキルを使っている。
双剣使いとしてはこのスキルは多様性があるらしい。
この『双突』のあとに覚える二つのスキルは一時的なバフスキルで、『回避』と『加速』という技らしい。
ボスモンキーはそのスキルを食らい、僕の正拳突きからのスタンから復帰する。
タマは攻撃を終えて、まだモーションから抜けきっていないので、今はまだ動けない。
このままだと攻撃を食らうかと思われたが、雪が間に入ってくれたことでそれは防げた。
その後ろから、クイナは攻撃を加える。
一応スキルを使っていることは確認できる。『突き』のモーション動作からおそらく、『瞬突』のスキルと思われる。
だが、一応スキルを使った直後にはスキルであるが故のほんの少しの間の硬直が訪れる。
現実志向のこのゲームは一応そういったところには甘い。
硬直時間が短く、クイナはすぐ動けるようになる。
だが、その間にボスモンキーの巨大な尻尾はクイナめがけて振り下ろされる。
それをクイナは回避した。
おそらく、とっさのスキルだったのだろう。スキルエフェクトが淡く舞っている。
「うおぉぉおぉ!」
僕がこの間覚えたスキル。
(拳闘士第3スキル『拳圧』)
説明を見たところ、このスキルはどの職業にもある数少ない、遠距離系のスキルらしい。
剣士なら『剣閃』というスキルで一応隠しスキル扱いだ。取得方法自体はみんなに知られているのだが。
「GUGYAAAAAAAA!」
雄たけびとも叫びともとも取れる、大声を上げる。この声はとても腹のそこに響くような声だ。
すると、どこからともなく、スロウモンキーがたくさん現れた。
これはとてつもなく多い数だ。
20近くはいる。
ボスモンキーの残りHPは6割はある。
中々面白い勝負だ。
「こっちも負けずにいくぞぉぉぉぉぉぉ!」
『おー!』
僕はボスモンキーに突っ込んでいく。
その間に彼方が魔法を完成させて即座に打ち込む。
それでひるんでいる隙に僕とタマとクイナは攻撃スキルを叩き込む。
距離をとったところに、焔はクリティカルポイントに銃弾を打ち込む。
「GIYAAAAAAAAAAA!」
そんな断末魔が聞こえる。
だが、そんな暇もなく僕らはスロウモンキーの群れ第2弾に向かって攻撃を仕掛けていった。
・
・
・
「ふう、これで結構レベルが上がったね」
「またあの場所でレベル上げしたいですね」
「そうだね。ぜひともやりたい」
「だけど、あの場所って結構人が集まるらしいわよ?」
「大丈夫。今は人が落ち込んでいるときだから間に合うはずだ。今度もう一度レベル上げに行こうね」
『はい!』
さて、確認してみようか……?
はっ?いまだに一つもキーイベントを攻略されていないだと?
おいおい、冗談やバグも大概にしろよ?
目をこすってもう一度メニュー画面を見る。
やはりキーイベントを示す、欄のチェック欄には〆のマークが入っていない。
「くそっ、これからまたやらなきゃいけないのか……」
僕は苦虫を噛み潰したような気分になった。
「みんな!予定変更!このレベル上げが終わり次第攻略に乗り出すよ!」
『OK!』
みんなはうなずく。
一応この人たちはなんだかんだいっても僕に従うんだよな……。
ギャップが一番激しいのは幼馴染であるタマか。
まあ、分からなくもないっちゃそうなんだけど。
だんだんクイナにも同じような傾向が見られ始めてるのには気にしたほうがいいのか………。
いや、お互いの心の距離が縮んで言っている証拠だ。
反抗心じゃないだろう。
そうだと思いたい。
なんかいやな不安を覚えつつ僕らは今日の狩を終了した。




