第三十三話 鎌 イズ デッド エンド
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『離れることのできぬこの日常に、あなたは何を思いますか?
人はいつまでもいつまでも、その心にある『魂の本質』は変えることが できません。
あなたの魂は穢れていますか?それとも清いですか?』
僕はこの言葉を思い出してひどく悶絶した。
ああ、くそくそくそくそくそ!
なんてものを突然思い出したんだ!
忘れろ!忘れろ忘れろ!忘れろ忘れろ忘れろ!
その辺にあった木に頭を打ちつける、頭が揺さぶられる感覚と若干何か とぶつかったような感触は分かるが別段痛みというものはない。
ああ、トラウマを思い出したよ。
このせりふは僕が今以上にひどい中二病だったころ、勢い余ってノート に書きなぐった(でもきれいに)糞い文章だ。
ちなみに、この文章の意味なんてもう覚えていない。
思い出したくもない。
「ああ…、なんてものを思い出したんだ……」
「ああ、黒歴史の扉を開いたのか」
「黒歴史言うな!せめて、もう少し……そう、過去の罪状と言え!」
「今まで以上に悪化してんじゃねえか」
「うっさいなあ、だって、黒歴史っていうと………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
ふう、軽く地獄を見たぜ。
思い出したくもない記憶が突然よみがえるとこう、胸に来る何かがある 。
決して感動ではない。
今の僕だって十分中二病の自覚があるがそれでも、昔よりひどいものじ ゃない。
昔より、ひどくない……はず!
はずったらはずだ!
僕がリアル中学二年生のころは、露骨だった。
言葉の端々に中二要素を交えて、聞こえること聞こえること全てを中二 の言葉にわざと聞き間違えた。
一番ひどかったのは、とりあえず思いついた必殺技の名前や、ゲームの キャラの技名をとりあえず口に出してつぶやいていた。
あれは痛かった。
痛い。精神的にも……肉体的にも……。
軽く走馬灯が入ったが元に戻そう。
「お前、今軽く過去にトリップしてただろ?」
かわは相も変わらず、僕の考えていることを見抜いてくる。
心理眼でも持っているのだろうか、かわは。
「お前が露骨なだけだ」
「まあ、その辺にしておきなよ。ほい、お茶」
「うん?ああ、ありが―――」
と、かわがさりげなく『ポロ』から差し出されたお茶を受け取り口元に 運ぼうとしたところで――――
「―――ってお前は料理関係はするなといっただろうがあぁぁぁぁ!!! 」
「っち………。何をするのさ!もったいないだろ!」
「お前今『っち』って言わなかったか?舌打ちしなかったか?」
「さあて何のことやら」
「……まあいい。はあ、疲れる」
それは僕だ。お前らのボケをいちいち拾わされる僕の身にもなってほし い。
「それにしても、僕らは一体何をしてるんだろうね」
「なにってレベル上げだろ?」
「いや、そうなんだけどさ。もう、疲れたよ……パトラ……もう、飽きち ゃった」
「はあ、馬鹿」
「本当に馬鹿」
「ああ?」
「飽きたなら」
「町に篭もればいいじゃない♪」
「はあ……」
この野郎ども一体何を言っているのだろう。
町に篭もれば大変だというのは分かっているのに。
まあ、お金は結構あるし、篭もるぐらいはしてもいいかもしれない。
というか篭もりたい。
リョウカさんとも別れてるしいいよね?
「よし、篭もろう」
「それこそ我らが『主人公(笑)』」
「そうだな。さすが『主人公(笑)』」
「まあ、うん。それはいいんだけどさ―――」
「ここ、どこ?」
「さあ、僕らは知らないよ」
「ああ、知らないな」
「うん、そうだろうね。……なんでコンパスと地図を燃やしたんだよ、こ の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「いや、まきがなかったから、つい」」
「お前らこんなところにまで来ていきぴったりとか示し合わせたようなせ りふ言うのやめろよ!しかもまきならその辺の木を燃やせよ!」
「お前、そんなことをしたら山火事になるだろ!」
「そうだぞ!しかも薪にするには木を乾燥させなきゃいけないんだぞ!? 分かってんのかこのピーマン!」
「なんだとぉ!やろうっていうのか!かかってこいやぁ、この野郎ども! 」
「…………」
「「…………」」
「…………」
「「…………」」
「………はあ」
こいつらの相手、とことん疲れる。
そんなことを考えながらも一緒にいるのはやっぱりこいつらのことが『 友達として』好きだからなんだろう。
まあ、本来寂しがり屋だからな。
そんなことり、現在僕らは深い深い森の中をさまよっている。
ああ、さまよっている。
この世界で、迷うなんてそれこそゲーム内時間で何年ぶりというほどだ 。
一応この世界には一度言った街にワープできるという特権がある。
ただし、それを使うには別の町である条件がある。フィールドでも転移 できるアイテムがあるがもちろん高額で、ドロップで手に入れるとするの が、定石だ。お金、経験値、まれに転移アイテムという一挙両得、たまに 一石三鳥の中々いい稼ぎ方がある。
「とりあえず、東に向かって歩いていこう」
今現在、僕らがいる場所はおそらく西方向。
『蓬の町』を出てから、ずっと西の方向を進んでいるため、東に行けば 、おそらく、この深い森が少しは明るくなっていくはず。
「とりあえず行こう。ここにずっといるとモンスターがやってくる」
かわとポロはうなずく。
東へ向かうことになった。
一応レベルはこの階層のボスと戦えるレベルにはなっている。
なので、あとはイベントがクリアされるのを待って、ゆっくりと攻略し よう。
「じゃあ、待ってて。方角を確認するから」
一応時刻は朝。
木の幹を切り刻んで切り株を確認するのでもよかったが、僕としてはジ ャンプのほうが確実に確認できる。
不用意に木を倒したりするとあたりのモンスターが逃げ出し、強いモン スターがやってくることがあるのだ。
一番近くの手ごろな木の枝にのぼり、そこから、ジャンプをする。
木の枝が少ない位置を選んでジャンプしたが、細かな枝葉が僕の体を傷 つける。
ザザッと木から抜けてみえた霧がかった森の東と思われる方向に太陽の 光が見えた。
まだ、日が昇ってそう時間が経っていないため、おそらくあちらの方角 が東で間違いないだろう。
浮遊感が消えていき、だんだん落下するときの特有の感覚に包まれ始め る。
落下ダメージは免れないだろうが、どうせ僕の『再生』ですぐに全快だ 。
そのまま放っておこう。
・
・
・
しばらく歩いていると、少し明るくなってきた。
森の木の密度は少し下がり、密林から森林へとランクがダウンしていた 。
見慣れた景色と対面するのも近いことだろう。
「そういえば、トウマ君たちって何をしてるんだろうね?」
「さあ?でも、案外楽しくやっているんじゃない?」
「はは、その通りだな。俺たちは目立たないのが一番さ」
「「いや、それ無理」」
「なんでだよ?」
「僕たちのキャラが濃いから」
「同じく」
「お、俺だけなら何とか……」
「うーん微妙」
「微妙」
「なんでだよ!?」
「だって、お前ってたいていボス戦でしくじるもん」
「『大丈夫だ。俺がやつを暗殺する』って言って大してダメージを与えら れなかったじゃん」
「ぐぬぬぬぬ……」
「「はははははは!」」
「お前ら……あとで……ん?」
かわが何かに気づいたようだ。
かわの索敵スキルに何か引っかかったのだろうか。
「お前ら、少し隠れろ」
かわが、少しおびえた表情で珍しくうろたえている。
僕とポロはその指示に従い、近くの林の陰に隠れる。
「かわ、……何があったか分からないけど……死ぬなよ?」
「ああ、何かあったらすぐ逃げる」
こいつの場合本当にそうだからあまり信用しないようにしよう。
僕とポロはいつでも逃げ出せるように、しゃがみ、体勢を整える。
足を前後に開き、その状態で、後ろのほうに体重をかけている。
かわが言ったであろう『暫定敵』の姿が見て取れた。
まずは観察だ。
間違いなく人型に違いない。
顔はローブで見えないが、あの線のやわらかさを見る限り、中性的な男 か少女なのは確かだ。
殺意らしきものは感じられない。
今は。
ゆっくりと歩いてくる。
その姿は、一瞬のゆがみがなく、なおかつ、体の幹は常にまっすぐだ。
武術の達人とすら思えるその歩の進め方に戦慄した。
『あまりにも無駄がなさ過ぎる』。
そんな感想がよぎる。
こいつは、プレイヤーなのか?
それとも、モンスターなのか?
この世界で見た感じは違和感がない。
だが、生物としてみたときに違和感がある。
以前トウマと一緒にいたクイナという少女を思い出す。
彼女は、『違和感を使い戦う』少女だ。
はじめてみたときは、歩き方などに違和感を感じざるを得なかったが、 最近はリョウカさんの話を聞いた限り、その歩き方などの矯正に成功した と聞いた。
しかも、その戦い方をスタイルとして今も戦っているという。
トウマの姿と一緒に見たとき、多少の癖みたいなものは残っていたが、 違和感を感じるようなものはほとんどなかった。
だが、今歩いているあいつは違う。違和感の塊みたいなものだ。
あいつは、かわの横すぐ近くを通る。
何事もないかのように、そして、『何も見ていないかのように』
すると、メールが届く。
件名は『逃げろ』
差出人はかわ。
そして、かわの顔には驚きの表情が張り付いたまま、首と頭が離れた。
「逃げるぞ!」
「えっ!?」
「死にたくないなら逃げるぞ!」
「ああ!」
やつは、『死神』だった。
とっさにそう考える。
だが、違う。
やつはそんなものじゃない。
やつは、MPKだ!
とっさの判断材料を検索する。
やつは、この階層レベル帯のボスと戦えるレベルだ。
それを一瞬で、僕らにも視認出来ないスピードで殺せるレベル。
MMOの詳しいことは分からないが、おそらく、マップにポップするモ ンスターのレベルを設定されているはずだ。
それ以上のモンスターは基本的にポップしないし、それ以下も然り。
だが、MPKたちは別だ。
運営の悪意とも見れる、それらの存在は基本的に『よほどのことがない 限り殺せない』。
だが、このログアウト不能バグは基本的に『悪意を見せる必要性』がど こにもない。
もしかしたら、ウイルスが関係しているのかもしれない。
このマップが改変されたのも、このウイルスの仕業。
いや、それよりもまず、生き残ることを考えなければ。
「ポロ!お前僕より遅いから少しスピード落とすぞ!」
「はっ!?何言ってんだよ!?」
「お前を担ぎ上げる!揺れるけど、ごめんよ!」
僕は走りつつ、スピードを落とし、ポロの足を掬い上げそのままお姫様 抱っこの状態でダッシュ。
絵面は『┌(┌^o^)┐ホモぉ…』な感じだが、そんなこといっている場合 じゃない。
命がかかっている。
(『ハイステップ』『ハイステップ』『ステップ』『ステップ』『ジャン プ』!)
とっさに、旧ハードの『ロールプレイング』を発動させる。
ゲームがお得意のディスプレイ、コントローラ、ハードに切り替わり、 逃げるというイベントをする気満々だ。
「いくぞ」
『ハイステップ』
『ステップ』の上位スキルで『ステップ』のレベルが上がると覚えるス キルだ。
ステップの倍の距離、スピードが期待できる。
だが、間に障害物があれば、キャンセルさせられるし、おそらくちょっ とした攻撃でも、スピードの補正がかかりキャンセルさせられる恐れがあ る。
それこそ、こんな木々の密集した森の中で使うようなスキルではない。
だが、ロールプレイング。
『自分が操作している』以前に『自分がイメージしている』。
自分のイメージしたとおりに動かせる。
それが、最大のメリットだ。
もしかしたらそろそろまけているかもしれない。
そう思い、一回振り向かせてみると、まけていなかった。
どころか、ぐんぐん迫ってくる。
ありえないくらい。もう、どうしろって言うくらい。
「ちっ!」
相手はおそらく『ステップ』の類を使用していない。
とっさに舌打ちが漏れたがもう悟っている。
『こいつからは逃げられない』。
だが、ポロだけでも逃がそう。
「(ポロ、お前だけでも逃げてくれない?)」
ポロに小声で話しかける。内緒の話だとすぐに察してくれたようですぐに 小声で返す。
「(それほどまでにやばい?)」
「(ああ、おそらくこいつには勝てない。だから―――お前が『幻影術士 』で逃げろ)」
「(……ああ、分かった。またな)」
「うん、またね」
『幻影術士』
そう唱えるとポロは消えていった。
おそらく、これからやつの逆方向へと逃げることだろう。
「ん……?お前だけか?」
女の声がした。
こいつは女か。だが、仲間が一人やられた身。油断なんてしない。
「もう一人いた気がするがな。……『ワンスキルブレイク』」
その言葉と同時に、ガラスが割れるような音が響く。
「そこか」
そのときにはもう、僕の後ろに逃げていたはずのポロロッカの頭と首が 離れていた。
「あ、ああ……」
自分らしからぬ声が響く。
「うあぁ……あ、ああ……」
世界が混ざって、視界がにじんで、もう何も分からない。
彼らはもう、この世界にいない。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼らといれない世界にいる意味はない。
僕は、あいつらと馬鹿をやっているあの世界がよかった。
もう、僕を縛るものは何もない。
せめて花々しく散ってやろう。
「わめくな。お前もすぐにあいつらのところに送ってやろう」
ああ、だが、せめてお前を一発殴らないと、気がすまない。
『ロールプレイング』
敵はローブの少女。
強さは未知数。
拳を構える。
「殺す」
本能でそう言っていた。
そこからはお互いが無言。
そして、初めてやつから殺気を感じた。
『ステップ』のコマンドを入力。
鎌は前へと乗り出す。
着地と同時に、パンチ。
それは顔をそらし紙一重でよける。
次は、蹴り。
それは後ろに下がられ、普通によけられる。
ローブに顔が隠れて、表情は伺えないが余裕そうだ。
呼吸の乱れも感じない。
こいつ、本当に人間なのだろうか。
そう画面越しに見て思うが、だが、それ以上に異常なのはそのステータ スだ。
(やっぱりMPKか……)
そう思うが、こんなMPKの目撃情報はなかった。
こいつは本当に何者なのだろう。
そう思わずには、いられなかった。
再び鎌を操作し、距離を詰める。
今度は足払いをかけるが、それを軽くジャンプしてよける。
そのまま、こまのように周り、両手を地面に付けて、逆立ちの状態にな り、回る。
いわゆる『カポエラ』という技を再現した。
この世界では身体能力が劇的に上がる。
ブレイクダンスを応用したような動きからのカポエラを扱うようなプレ イヤーはそれこそたくさんいる。
だが、それもかわし、距離をとられる。
その瞬間を見逃さず、鎌の回転を止めて、逆立ちの状態から、敵へ両足 で襲い掛かる。
股で頭を挟み込み、体をひねり、頭を地面に叩きつける。『フランケン シュタイナー』。
もちろん大して、ダメージがあるとは思えない。
スキルを使わなければ、やられてしまう。
『紅き鉄槌』
拳を握り締め、その拳に紅く光るエフェクトをまとう。
その拳をやつの頭に、思いっきり叩きつける。
拳骨のスキル。
特殊効果は、成功して一定時間攻撃を上げることができる。
重ねがけも可能。
どうせ勝てるだなんて思っていない。
出し惜しみをせずに、思いっきりやらせてもらおう。
体全体が薄い赤の光に包まれて、鬼のようなイメージを漂わせる。
攻撃力を倍に、防御を半分に。
発動するのは『鬼神降臨』。
先ほどの『紅き鉄槌』は拳闘士の第四スキル。これは第五スキル。
「―――――っ!」
声にならない声をあげ、敵に襲い掛かる。
このときにはもう、自我なんてほとんどなかった。
そこから、さらに第八スキルの『バーサーカー』も発動させて、よほど の敵は一撃必殺の状態まで攻撃力が高まる。
おそらく、この階層のボスですら楽に倒せるような攻撃力。
『バーサーカー』は、攻撃力を上げるスキル。
だが、同時に自らのHPを奪うスキルでもある。『再生』や『無限回復 』を使っていると、大分回復の速度が落ちる程度にはHPの減るスピード は速い。
『ステップ』を使い、距離を詰める。
怒りで冷静さを欠いた状態で、もう一つスキルを使う。
拳闘士第七スキル『拳兜割り』
兜割り。その言葉の通り、時に相手の装備破壊を行う、『ブレイク性能 』を持った技。
それだけではなく、攻撃力が直に相手のHPに響く、防御無視の特性も 備えている。
こいつに出し惜しみをすれば後悔する。
その意思だけで戦っている。
立ち上がったやつに怒涛のスキルを見せる。
お腹に一発、拳をお見舞いしてやった。
ビリビリと空気が振動し、木々はしなり、辺り一体の全てが震えるよう な感覚がする。
HPはどれほど削れただろうか。
そう思い、見てみる。
そして、今まで以上に戦慄した。
名前『???』
HPはまだ、半分近く残っていた。
バーサーカーをかけて、鬼神降臨をかけて、紅き鉄槌の攻撃力アップも かけた状態で、そこからの防御力無視の拳兜割りまでやったのに半分?
こいつは、正真正銘の化け物だ。
バーサーカーの発動でHPも残り少なくなってきている。
攻撃のラッシュの終わりで緊張が解けてしまい、そこから『ロールプレ イング』も解けてしまった。
ああ、頭が痛い。
「は、ははは………」
ここまで来ると、もう笑うほかなかった。
ここまで来て、もう何かをしようだなんて思わなかった。
ここまでして、もう全てをあきらめるほかなかった。
もう、全て投げ出してしまえばいい。
もう、僕の気はすんだ。
二人には申し訳ないが、僕の限界はここまでのようだ。
バーサーカーの発動で残りHPがレッドゾーンに突入する。
すると、
『赤き勲章を発動します』
僕の持っているレアスキルが発動する。
効果は攻撃力50%プラス。
拳闘士の持つ、バフは基本的に重ねがけができるのが特徴だ。
そして、HPが1になったところでとまる。
転移は発動しない。
…………なぜだ?
「お前を逃がさない」
そう少女は言った。
こいつが何らかのスキルを使ったのか?
一つ思い当たるスキルがあるといえば………。
『ワンスキルブレイク』か。
確か、このスキルは、相手の任意で持っているスキルを封印状態にする スキルだっただろうか。
転移の『アビリティスキル』を封印状態にされたのか。
お前を逃がさないって、そりゃあまあ、光栄なことで。
最後に一発だけ、お見舞いしてやろう。
僕の技を。
拳に青いエフェクトをまとう。
この技は『拳兜割り』のスキルだ。
(『ステップ』!)
最後の最後に、距離を詰める。
スキルのエフェクトをまとった拳を放つ―――が
「『残像』」
残像というレアスキルで後ろに回りこまれた。
とっさに『ツバメ返し』を発動して、後ろに『拳兜割り』の二発目を放 つ。
それは、見事に顔面に当たり、少女を後ろに吹っ飛ばす。
それでもやつのHPは二割から三割、オレンジゾーンだ。
奮闘したほうだと思う。
そう思い、僕が目を閉じた瞬間。
スパンッ
と短い、だけど、耳を澄ましていないと聞こえないような小さな音。
首への小さな違和感。
目を開けてみると、自由落下していく頭。
そして頭部のない体。
そして、やつのレベルが目に入る。
名前『???』
レベル『200』
なるほど。化け物…………か。
そして僕の視界はブラックアウトし、目の前に写ったのは『GAME OVER』という二語だけだった。
ゲーム内時間にして、2時半。
アカウント鎌は死んだ。
―――――
「じゃあ、報酬の話をしようか」
そう僕が切り出したときに運営からの声が聞こえた。
『運営です。たった今、プレイヤー鎌をはじめた『デルタライン』のチー ムが全滅しました。理由は不明。私たちは、この死因を究明いたします。 何か情報を持っている方は運営に知らせてください。繰り返します――― 』
信じられなかった。
鎌が、死ぬ?
あいつは確か掲示板で『アンデッドプレイヤー』とまで呼ばれていたは ずの男なのに。
こうも容易く?
嘘だろ?
「ねえ、報酬の話……どうする?」
タタラさんは僕の顔色が悪いことに気がついたのか、そう切り出してく る。
「いや、今ここで払っておくよ。落ち込むだけなら時間はある」
僕はそう言って、タタラさんと話し合い、報酬を払った。
この武器の名前は『ジェミニ・レイ』。
そう、名づけた。
そのあと、どうやって宿屋に戻ったか覚えていない。
少なくとも彼方たちは不安そうな表情をしていた。
あの素晴らしい馬鹿たちはもうここにはいないのだ。
そう思うと、寂しく感じられた。
・
・
・
夜になると、すごく静かだった。
隣にいるはずの彼女たちが静かなのか、それとも僕があまりにも何事に も目を向けていないのかそのどちらかだ。
あまり、うるさいのは今日はいやだったので丁度いい。
時刻は7時。
夕食の時間なのでそろそろ降りるとしよう。
「おう」
「遅い!」
「遅いですよ〜!」
「……待ちくたびれました」
「待ってたんだよ!」
「あまり待たせないでよね」
どうやら静かだった理由は彼女たちがすでに下に降りていたかららしい 。
「ごめんね、じゃあ食べようか」
そう口では言ったものの、大して食欲があるわけではなかった。
お腹は減っているが、お腹の許容量が少ない。
鎌たちのゲームリタイアが自分でも予想以上にショックだったらしい。
安心と思われた状況での『死亡』の報告は街のみんなにもショックを与 えたらしい
もしかしたら明日から攻略が余り進まなくなるかもしれない。
『いただきます』
その言葉は鎌たちへの言葉に感じとても重苦しいものになった。
僕は何を食べていたのか、あまり記憶にない。
確か、うどんだったかそばだったか。
そんな感じのものを食べた気がする。
まあ、どんなに考えても、思い出せないものは仕方がない。
・
・
・
食後、僕は窓際のいすに座り、天井を見ていた。
何があるわけでもない。
とにかく上を見ていた。
ただ無心に天井を見上げていた。
コンコン
「誰?」
僕は扉のノックの音に反応し、扉のほうを見る。
カチャッとノブを回す音とともに扉の向こうから現れたのは、焔と雪だ った。
「「いきなりですが問題です。どっちが焔でどっちが雪でしょうか?」」
彼女たちは何をしているのだろう。
そう思いつつ、答える。
「右が焔で、左が雪」
「えっ?どうして分かったの?」
「体重のかけたが左右対称になってた。いつもと体重のかけ方が逆になっ ていたらすぐに分かる」
「あちゃー、姉ちゃん失敗しちゃったね」
「残念ね。次は分からないぐらいまでやってくるから覚悟しなさい!」
そんな会話がどことなくおかしく感じて、つい笑ってしまった。
「はははっ!あはははー!はぁー!なんか馬鹿みたいだ」
こんなことで立ち直れそうになる自分も馬鹿だがそれ以上に、こういっ たことに免疫がある自分自身も馬鹿だ。
つまり両方馬鹿だ。
「なんか元気になったみたいだね」
「まったくもってその通りね」
「まさか、出会って1日2日の双子に励まされるだなんて僕も思わなかった よ。いやさ、まったく愉快!」
「なんか、口調がおかしくなってるんだけど…」
「まあ、リーダーが元気なら僕はそれに越したことはないんだけどね」
「ああ、なんか知らんけど吹っ切れた」
鎌、お前らの仇は討ってやる。
それこそ、命に代えても。
まさかね、落ち込んでその日のうちに復活だなんてね。自分でも思わな かったさ。
でも、落ち込んでばかりだったらそれこそ、周りに迷惑をかけちゃう。
僕は、仲間を見捨てはしない。
今はそれしか確約できないけれど、でもそれだけは守ってみせる。
―――――
1. 名無しのごんべさん
鎌の死亡を憂うスレ。
または、弔うでもよし。
・
・
・
535. 進撃の名無しさん
鎌が死ぬなんて嘘だろ?
だって、『アンデッドプレイヤー』だなんていわれたんだぜ?
536. √の存在さん
鎌が死ぬなんて信じがたい。
まさか、バグの影響か何かか?
537. 会心の一撃さん
『再生』のスキルを持っていたし、それどころか転移の発動した痕跡が ないとなると、『貫通属性』かあるいは『ワンスキルブレイク』によるも のによる、アンダーシャツの無効化が考えられる。
どれにしろ、そのスキルをこのように使うのは許しがたい。
538. 名のある名無しさん
これから誰が二つ名を付けていくんだ!
539. 名乗るほどでもない名無しさん
>>538
それは割とどうでもいい。
540. 儚い名無しさん
>>539
いや、そうでもないぞ。
情報を選別する上で非常に役に立つ。
541. 名乗るほどでもない名無しさん
>>540
まあ、そういうことならしょうがない。
542. √の存在さん
鎌にささげる、歌の歌詞を作ろうぜ!
俺最初!
Aメロ1
一人ぼっちで寂しいときには
友達のことを思い出そう!
543. やけどした名無しさん
Aメロ2
でも僕には友達がいなかった!
友達がいないなら、妄想すればいいじゃない
544. 名乗るほどでもない名無しさん
Aメロ3
手始めにロリ、次に年上美人
まさに両手に花
そう!それこそ!
次にBメロ
545. 儚い名無しさん
Bメロ
まさに、桃源郷
これ僕死ぬんじゃないかな!
いや、待て落ち着け、あわてるような時間じゃない!
そうだ、助けて!
次サビで
546. 地団太踏んださん
なにこの歌カオスwww
547. 鉢巻フリーさん
サビ
右手あげて、左手上げて!
左足を前に出して元気に言おう
生キャラメル!
生キャラメルを食べれば元気300メートル分!
548. 小さい島でもいいじゃないさん
この歌の趣旨が鎮魂歌じゃなくてちんぷんかんになってる。
誰か援軍を。
549. 炎の焼くサイさん
サビ2
右手を胸に、左手も胸に!
左足を前に出して元気に言おう
壁突撃
壁突撃すれば、根性が身につくかもね!
550. 名のない名無しさん
久しぶりに見たらこれだよ、こんちくせう
一体何があったらこんなちんぷんかんな鎮魂歌ができる?
責任者呼べ。
551. √の存在さん
>>550
お、俺じゃない!
全ては秘書がやったことなんだ!
552. 名のない名無しさん
>>551
死刑♪
553. 炎の焼くサイさん
www
554. 鉢巻フリーさん
www
555. 儚い名無しさん
www
―――――
鎌を弔うというか、半ば死者に対する冒涜とも取れるこのスレッドは思 いのほか伸びた。
僕の知る鎌の性格を見る限りこのスレを見たら爆笑しそうだ。
いや、案外激怒するということもあるかもしれない。
だけれど、鎌というプレイヤーは多くのプレイヤーに少なからずの影響 を与えていたというのはこのスレッドから見て取れた。
もしかしたら、鎌の30人ほどの弟子たちも参加しているかもしれない。
そう思うとこのゲームにおいて、惜しいプレイヤーをなくしたのではな いかと僕は思う。
そして、それはあながち的外れではなかった。
・
・
・
次の日、町に出てみると、街に活気がない。
それだけではない。
明らかに人通りが減っているのだ。
『鎌の存在云々』ではなく『人が死んだ』という事実が恐怖を植えつけ たのだろう。
心なしか街を歩いているプレイヤーですら、ゲームを楽しんでいる余裕 はない。
もしかしたら、これは、何者かの陰謀なのかもしれない。
たとえばこのゲームからログアウトしたくないプレイヤーが徒党を組ん で、見せしめに鎌たちを殺した………ということでいいのか?
いや、ありえないとは言わないが、考えにくい。
アンデッドプレイヤーとまで呼ばれた鎌のことだ。そう簡単に殺される わけがない。
それに『再生』の効果は『自分以外のパーティメンバーが全滅している 』必要がある。
曲がりにも、ポロやかわも強いプレイヤーだ。
鎌が盾になればよほどなことがねければ全滅することはまずない。
もしかしたら『バグ』の影響か?
今はそれが一番現実的だ。
『バグ』の影響で不注意で死んでしまった。こう考えるのが自然な気が する。
というか、今のこの状況ではそれしか想像ができない。
情報が出てくるとは思えないが、情報が集まることを期待しよう。
「はあ、これじゃあ、攻略さえもままならないな」
「そうですね。今回の一件はそれほどまでに大きかったということなんで しょうね」
「『不死身』と謳われたプレイヤーとそのパーティの死。名前は知らなく ても『不死身』の二つ名を知っている知っている人は多かったろうね。そ れが『死んだ』となれば結構大きな痛手だよ」
「それにしても、誰がこんなことをしたんでしょうね」
「人じゃないかもしれない。それも視野に入れておくべきだろうね」
「えっ?」
「いや、なんでもない。とりあえず、今日はものを買い貯めよう」
「あっ、はい」
ただいま僕とクイナは、買い物をする最中だ。
正直不安がないわけではないが、まあ、心配するだけ無駄だろう。
そういえば、この前、話しそびれた気がすることがある。
というのも、この階層の全体的な特徴だ。
この階層の全体は、基本的に森に覆われている。
そして、各町の商業のエリアの商人はこぞってとあるアイテムを売る。 それは、木だ。
木は、商人が売っている。何のために売っているのかというと武器のた めだ。この階層の木で作る武器は基本的に耐久度が高く、そして使用者本 人の防御に補正をかけるものが多い。
なので、この階層で作られる装備は比較的高額で取引される。
木には種類があり、木の種類は町の名前に由来する。
たとえばこの街だと『蓬』の木が売られていた気がする。
この階層において、もっともいい品質の木は『優曇華』の木だ。
なぜかは分からないがそういうものなのだろう。
というか『優曇華の街』があることに驚いた。
『最高品質』という言葉を聞く限り、廃人プレイヤーのための場所にあ ると推測できるのでとりに行く時間も余裕もない。
運営が新規マップを実装するときに、『広大なマップの仕様は変更する 気はない』と言ったらしい。
なぜかは今は必要ないので割愛させてもらう。
「トウマさん。買いましたよ」
「じゃあ、次に行こうか。回復薬と、ちょっとした調合素材も持っていこ う」
調合というのは基本的に誰でもできる。
もちろん、道具があれば。
『調合師』なるサブ職業はないのかと問われれば答えよう。否。
このゲームは変なところで現実仕様なため、こういったところはちゃん としている。
傷を負うリスクがある仕事の人が自らの傷を癒す薬を用意できないのは おかしいだろう。
確か、昔の消防関係の仕事の人は簡単なやけど用の軟膏を持っていた気 がする。
「それにしても、これから私たちはどうなるんでしょう?」
「さあね。でもまだ始まって一月半と少しぐらいだよ?まだあわてるよう な時間じゃないよ」
「本当にそうでしょうか?」
「そういうものだよ。僕はそういうふうにマイナスに考え続けるのは嫌い だしね。逆説的にみてもいいんじゃないかな?」
「……そうですね……」
世界とは時に非情なものである。
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僕とクイナは宿屋に戻ってきて彼女たちに今後のパーティの方針につい て話し合った。
今回僕たちはこの階層のイベントに参加するつもりはない。
クランのおかげでクリアすれば全員に影響がある。
クランというのも、まあ、方便ではないが厳密には少し違う。
『クラン』にはリーダーが必要だが、このゲームにいる全プレイヤーにはそういったものはない。
運営の特権みたいなものだ。
「で、これからは何をするんですか?」
「基本的には、この辺でレベル上げをするよ。基本的に僕らは適正レベル よりやや低いところで活動してるからね。ここら辺の適正レベルは26。対 して、僕らの中で一番レベルが高いのはレベル25の彼方、タマの二人。
だから、ボスイベントは参加するのは少し難しい気がするからやめた。 鎌たちのこともあるから、あまり深入りしたくないって言うのが本音かな ?で、ここまでで何か質問がある人はいる?」
「ええと、ボクと姉ちゃんのレベルはここらで一番低いんだけどどうすれ ば?」
「焔と雪達にはこの中の誰かと臨時パーティを組んでレベル上げを一緒に してもらう」
「二手に分かれるのね?」
「そういうこと。ノルマはレベル30だ。この階層のボスの攻略の時にはも う少し上げておくけどそれぐらいが目安だよ。他には?」
いすについている彼女たちからは、特に反応は見られなかった。
「じゃあこれで解散。みんなゆっくり休んでね」
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「ふいー、疲れたー。風呂に入ろう」
メニューで自分の装備を一度全部はずしたところで、風呂場の中に入る 。
風呂に入ったときと特定のときだけに使える完全装備解除のコマンドを 実行し、全裸になる。
自分の体は自分で言うのもなんだが細い。
鎌は見た感じ華奢だったが僕の体も十分細い。
筋肉質というわけでも特別脂肪が多いわけではない。
僕の体はなんというか華奢じゃなくて、壊しやすそうな脆い体というイ メージだ。
肌が白いほうではあるが、白というわけではないし、
腹筋は縦に筋が一本六つに割れているとかそういうわけではない。
ふくらはぎの筋肉は比較的ついているほうだろうか。
それぐらいしか自信がない。
「はぁー、現実に戻ったら運動をしようかなー」
お風呂場特有のエコーが耳の鼓膜を振るわせる。
シャワーから、お湯が出て頭にお湯がかかる。
正直、湯船につかりたいものだが、残念ながら湯船が狭い。
グレードの高い宿ならできるが、正直今はこの浴槽にお湯を張ってまで お風呂に入ろうとは思えない。
お風呂は、足が伸ばせなければ意味がない。
そろそろシャワーもやめて上がろうかな………。
そう思い、僕は扉を開けて外の涼しい空気を求めて扉を開ける。
もちろん、まっ裸で。
そこには、雪と焔がいた。
「「「えっ?」」」
三人同時に、素っ頓狂な声を出す。
今日一部屋空いたので、移動させたはずなのだが、これはどういうこと か。
荷物を忘れたのだろうか。
いや、それ以外に何があるというのだろう。
いや、忘れ物じゃないのか?
たとえば情報の行き違いで、僕が彼女たちの部屋と間違えたか、彼女たちが僕の部屋と間違えたか。
結構トリップした気がする。
彼女たちは顔を真っ赤にさせて、今にも叫びそうな顔をしている。
幸い下にはタオルを巻いているので大丈夫。
僕はあわてずに対処することにした。
「落ち着いて!僕は何もしない。ここは僕の部屋だよね?」
こくりと二人は肯定の意を示す。
よし、これで第一の心配はなくなった。
忘れ物の線はそもそも寝ていた部屋がもともと違ったので忘れるものも くそもない。
「じゃあ、何で二人がここにいるのかな?」
「そ、それはそのぉ………」
「双子の入れ替えクイズをしようと思ってきたらいなかったから………」
「もしかして用事かと思ってここで待ってたんだ……」
「分かった。分かったから少し待っててね。着替えるから。待ってて」
まさかここに来てラブコメ展開とかないわー。
というかこのラブコメはいらなかったわー。
もうちょっと甘酸っぱいの期待してたわー。
主に買い物という名のデートとかパンツが風で見えるくらいのラッキースケベがよかったわー。
というか普通これ男女が逆じゃね?
気にしたら負けか。
僕はメニューをいじって、急いで着替えて二人の前に現れた。
「ふう、待たせてごめんね」
「こっちこそいきなり押しかけてごめん」
「うん、ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ」
「じゃあ、改めて、双子入れ替えクイズ始めるよ!ちょっと待っててね。 一回外に出るから」
ああ、もしかしてさっきのでなりきりが解けたんだろう。
急いでなりきりを戻してくるということか。
今夜は楽しそうだ。
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「「どーっちだ!」」
「右が焔で、左が雪!」
「ねえ、なんで当たるの?」
「なんでだろうねえ?」
すかした答えを返す。
本当は、「「どーっちだ!」」と言ったときに、わずかに大きくなる鼻 の穴で判断してるなんて言うわけがない。
ちなみに、膨らむのは焔のほう。
「ねえ、教えてよ!」
「いや、教えない」
「むー、リーダーの意地悪」
「悪いけれどこればっかりは教えられない。むしろ教えたところで直るも のじゃない!」
「はあ、今回は負けた。戻ろうか、姉ちゃん」
「次は負けない」
「はいはい、頑張ってねー」
あの二人が見分けられなくなるというのは末恐ろしい。
僕はあの二人がお互いの癖に気がつきませんようにと祈りつつ、今日は 寝ることにした。
さて、そろそろかな?




