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第三十二話 誰の為に拳を握る?

 今回主人公がナルシスト入っております。苦手な方はご注意を。


『Ready?』


 無機質な機械の声がお互いの耳に届く。しかもやたら流暢な英語で格好いい声だ。


『Fight!』


 僕はトンファー、相手の大男は大剣だ。

「悪いがこちとら本気なんでな。手加減なんてしてやらねえぜ?」

「僕もだよ。あとで泣いて許してくださいって言っても許さない」


 そして僕は『スイッチを入れた』。

 あたりの喧騒、野次馬、それらが全て画面の向こう側に見える。

 その画面に見えているのは、僕という『トウマ』の後姿だ。

 これこそ、旧ハードプレイヤーが編み出した、通称『禁忌』と呼ばれる技の正体。

 『ロールプレイング』。本来のFPSというものから、主人公自身のやや後ろで構えるカメラワークになりきる技。

 『ロールプレイング』とは中々うまいことを言ったと思う。


 なぜ、旧ハードプレイヤーだけといわれると、VRが主流なこの時代、 画面を通じたゲームというものは『体感』に勝るものは無しということで徐々にその人気を落としていった。年々旧ハードの新作タイトルのソフトは減少していき、今ではほとんど旧ハードを持っている人はいない。

 それこそ、この『FPSファンタジーファントムソード』をプレイしているプレイヤーの中に2000人いるかどうかのレベルだ。

 だが、その『FPS』のタイトルをプレイしている旧ハード組はとてつもなく強くなっていった。

 『ゲーム』というものに対する情熱と慣れ、そして、この『ロールプレ イング』。


 この『ロールプレイング』というのは、システムのアシストでもスキルでもない。本来このゲーム、いや、VRにおいて限りなくイレギュラーに 近い技だ。

 イメージによる補強。

 この技の真髄はこれだ。

 旧ハードを経由し、このゲームをプレイしていると『思い込む』。


 おそらく、コントローラーを使えば旧ハードプレイヤーは、VRで生身 を動かしているプレイヤーにすら勝てる。というものから生まれた業。

 事実、僕がその技を使い、五人のプレイヤーを圧倒したのもそのパフォームだ。

 主人公を自分のコントローラーで操作し、後ろから右から左から、あるいは上からやってくる敵を蹴散らしていく、それを実現に近づけた『思考プレイ』。

 『ロールプレイング』。


 だが、このロールプレイングには重大な欠点があった。これは確かに強 力だが、燃費が悪い。

 集中力を大幅に使うのだ。本来ない過程を無理やり創造しているため、 そのイメージをするために集中力を大幅に使う。

 それを使えばしばらく、頭痛にさいなまれるという技だ。故に『禁忌』という通称がついた。

 旧ハード組の奥義といっても過言ではない。


 そう思いつつ、自分のイメージする限り最高のコントローラー、ハード 、テレビごしに『トウマ』の操作を始めた。

 大男は、大剣を構える。

 大剣の戦い方について簡単な整理をしよう。

 大剣は刀身が大きく重い。ゆえにそこまで機動性の高い動きができず、 スピードは出ない。 

 だが、遠心力を武器とした移動方法は頭に入れておくべきだろう。


 大男は、『ステップ』を使って、距離を詰めてくる。

 上段の振り。隙が大きい。

 とっさに簡単な蹴りのコマンドを入力するイメージを送り込み、足に弱攻撃を食らわせる。

 すると、大男は体勢を崩し、剣を落とす。

 距離をとらせる。


 今の攻撃は、隙が大きく、こちらとしては攻撃が当てやすい。だが、なぜこかせただけかというと様子見のためだ。

 こけてから反撃をするかどうかを見るためだ。

 おそらく、まだ余裕だ。


「はぁっ!」


 今度は、右から薙いでくる。

 それを頭を沈めて回避する。振り切って、そのまま遠心力を使い一回回 った後に右からの上段の斬りかかりを見せてくる。立ち上がりつつも、半身をそらし、大剣の軌道上から逃れたが、大剣の巻き起こした衝撃は思いのほか強く、トウマのHPをわずかに削った。

 それを間一髪と見たのか、大男は余裕の笑みを作り、高らかに攻めに転じる。


「へへへ!どうした!?攻撃を食らってんぜ!?不人気ジョブのトウマさんよぉ!」


 何を、ほざいているのだろう。

 たった数ドット、攻撃を見切れなかっただけだ。

 『無限回復』もあるのでまだあわてるような致命傷はもらっていない。 しかもやつは大きな勘違いをしている。

 大男は、武器を使っているのにまだこっちは武器を使っていない。

 相手はこちらがおびえていると思っているようだが、それは思い上がりだ。それこそ、こちらは、最大限『手加減』しているのだ。

 片手剣以上に小回りが利く分、攻撃のリーチが短い拳闘士。それは、小回りを活かせば攻撃は食らわない。それに加えトンファーもあるのだ。そう簡単に負けはしない。


 大男は、スキルも使わずに剣を振り回してくる。

 構えがいちいち大振りなため、軌道を読むことがたやすい。せめて、モ ーションを短くするなり剣の軌道を読ませないようにするなどの工夫をすればいいのに。

 左上からの上段斬りをかわし、その遠心力を使いさらに加速してもう一度同じ攻撃をする。

 それでも、当たらない。そのまま後ろに下がっていったところで、左上からの上段斬りの勢いに乗せて、石畳を切りつける。


 ガキンッ!と金属が石を割る音と同時に、大男の巨体が浮いた。

 街の野次馬たちの視線は大男に釘付けだ。


 そのまま、剣の柄を両手でつかんだまま、逆立ちをする。

 そしてその巨体が大きくしなり、踵落しが放たれる。

 それをかわしたところで、剣が地面から抜ける音がする。

 一瞬の判断の遅れは一瞬焦りを生んだ。


 剣を介したバク転から放たれた強力な鎧すら叩き割りそうな大剣が、叩き潰さんと『トウマ』の頭上に迫ってくる。


「叩き割れろぉぉぉぉぉぉ!!!」


 よけきれないと思い、とっさに防御の姿勢をとる。だが、あそこまで勢いに乗った大剣だ。おそらく、潰されてしまう。

 トンファーの長いほうを二の腕で受け止めるような体勢を作る。

 一対のトンファーを頭上に平行に構えて、衝撃に備える。


「グッ!」


 思わずそんな声が漏れた。

 HPも少なからず減少している。

 銅で覆われた体の鎧は不穏な金属音を響かせる。

 それでも、頭上で受け止めた大剣を、自身の右側に受け流す。

 またもや石畳が割れる音とともに剣が深々と地面に突き刺さる。


 受け流し終えたあとに、体勢を整えて、横にいる大男の顔面にトンファーを叩きつける。

 その衝撃で、地面に突き刺さった大剣も抜けて、大男と一緒に吹っ飛ぶ。

 地面をすべり、体勢を直す。


「へっ、中々やるじゃねえか」


 そう言っている大男のHPは七割ほど残っている。

 先ほどの攻撃は有効だったようだ。


「俺も出し惜しみしている場合じゃねえや」


 大男は、でかい図体をもう一度たたせ、『トウマ』をターゲッティングする。

 普通に構えていたものが今度は変則的になった。

 上段の剣士然とした構えから、大剣を下に引きずるような、でも剣先がかろうじて地面についていないという構えを取った。

 あれは、力んだ状態から限りなく力を抜いた自然体のような構えだ。


「行くぜ」


 そして『ステップ』を使ってくる。

 スピードこそ変わらないがその動きは最初のときより幾段か滑らかになっている。

 その剣を下から振り上げ、剣先がこちらを捕らえんと迫ってくる。

 それを半身をそらしてよける。


 そのまま、遠心力を使い攻撃をしてくることを身構えたが、今回は違った。

 両手で握っていたはずの剣が左手だけになっている。

 左手首のスナップで剣を振り下ろしやすい型にして剣を振り下ろしてくる。

 予想外の攻撃に、それをもろに食らいHPの五割近くを一気に持っていかれた。


「グアッ!」


 一瞬『ロールプレイング』が解けそうになるが何とか思考を持ち直す。


「へ、やっぱりたいしたことねえな」


 『トウマ』は何事もなかったかのように立ち上がり、再び戦闘状態に備える。


「けっ、まだやんのかよ」


 だからこいつは何度勘違いをすれば気が済むのだろう。

 スキルと戦略それは戦いにおいて基本中の基本だ。『トウマ』を介した スキルと戦略はまだ一度も見せてはいない。

 少し有利になるとすぐ、自分が上だと思い込む。

 だが、少し限界が近づいてくるのを感じて、早めに終わらせなければと考える。


 ちくりと頭が痛むが強制的に無視をして、構える。

 『ロールプレイング』が解けかかっている。


「すう、はあ」


 タイムリミットまであと少し『トウマ』をプレイするコントローラーに 力が入る。深呼吸をする。

 画面越しの『トウマ』もどうやら深呼吸をしたようだ。


 『ステップ』のコマンドを入力し、大男との距離を詰める。

 その勢いに乗り攻撃を繰り出す。

 その攻撃を大剣に防がれる。

 一度スキルなしに距離をとり、もう一度踏み込んで距離を詰める。


 今度はトンファーの長いほうが先に攻撃が当たるように先行させる。

 その先が大剣を捕らえる。もちろんそれはフェイク。

 先に攻撃したのは左手。余った右手のトンファーは下から大剣を上に払うように弾く。

 大剣はわずかにぶれ、そこに隙が生まれる。


 拳闘士第2スキル『正拳突き』。

 トンファーと拳に正拳突きのスキルのエフェクトをまとう。

 左手の拳で、わずかに作った大剣の隙間を縫うように正拳突きが炸裂する。

 これで、やつのHPは残り四割。

 そこからの『ツバメ返し』でさらに二割ほど削る。

 残り二割。そこからスタミナがやや危ないが、大男がのけぞっている間に硬直が解ける。そこから『拳乱打』を放つ。


 パリィンッと


 バリアが割れるような音とともにこの決闘の勝敗は、『トウマ』に軍杯が上がった。

 ディスプレイに出てくる『CLEAR』の文字。どうやら勝ったようだ。

 大分トウマとの境界線があやふやになっていた。そろそろ戻るとしよう。



 僕はディスプレイの前で目を閉じ、再びこの世界に戻ってくると同時に、強烈な頭痛とめまいが襲ってきた。

「ぐっ!」

 あまりの痛さに奥歯をかみ締める。

 ギリッと歯が欠けるような音がした気がした。まあ、この世界では歯が欠けるようなことはないだろうし、仮に欠けたとしてもすぐに元に戻る。


 大男は、自分が負けたのが信じられないというぐらいに、呆然としている。

 だが、僕の有様をみて、即座に行動に移した。


「おい、どけえ!」


 やつはすぐ近くにいた雪に手を回し、片手で持ち上げた大剣の刃を彼女の首筋に当てる。

 人質ということか。ターゲットを人質にするのはいささかミスマッチだろう。


「さっさとどけえ!」


 やつは僕の前に近づいてくる。

 なるほど、理解した。『死なばもろとも』。大男は僕を殺したあとに殺される、あるいは死ぬつもりだ。

 そう、頭が本能で理解しても体が、頭痛のせいでうまく動かない。

 こうなったら、少し時間を稼ごう。


「おいおい、この状況になってもまだやろうって言うのか?負けたんだからさっさと帰れよ」

「残念ながら手土産なしには帰れないのさ。悪いがお前の命貰い受ける」


 この世界は半ばデスゲームだ。現実では実際に死なないとはいえ、何らかの障害もちになる可能性がある。

 後に現実に戻ったら、こいつに起訴状を叩きつけてやろう。

 そんなことを考えながらも何とか頭痛が少しだが治まってきた。


「―――残念だけど『チェックメイト(詰み)』だ。君は負けたよ」

「へへへ、何言ってやがる」

「あんたはもう『終わり(詰み)』だって言ってんのよ、お馬鹿さん」


 やつの後ろには後頭部に銃身を構えた焔の姿が。

 だが、やつは今ので隙が生まれた。今だ。

 頭痛で不自由ながらも、スライディングをきめて相手のバランスを崩させる。

 こういう図体がでかい敵にはバランスを奪うのが一番有効なんだ。


 僕はそこから、やつをうつぶせに倒し、腕をひねり上げた。

 関節技だ。

 関節技は、意外と有効だったようで、タップをしている。――が、やめない。


「や、やめろ!」

「一度だけ言う。失せろ」

「わ、分かった分かったから!」

「二度と姿を現すな。次僕たちの前に故意に現れるようなことがあれば……容赦なく殺す」

「く、くそぉぉぉ!」


 わき目も振らずに走り出した。

 まさに三下っぽい。


 周りに巻き起こる拍手。

 えっ?僕なんかした?


「リーダー!」

 雪が僕の右腕にしがみついてくる。

 とっさに振り払おうとしたが、なんか雰囲気がそうさせてくれない。

「ありがとう!」

 こういう女の子の笑顔というのは反則ではなかろうか。

「ん、まあ、無事でよかった」

「ありがとう。本当にありがとう」

「ははは、なんか照れるなぁ」


 僕は顔が赤くなるのを本能的に感じて居心地の悪さを感じていると――

「ん」

「ん!?」

『ヒューヒュー!』


 ほっぺに温かい感触。

 えっ?何?何されたの僕?どういうこと?え?

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 頭が事態に追いついたときはとてつもなく恥ずかしい思いをした。

 そのあと、その辺のプレイヤーたちからとてつもない視線をもらいながらその場を逃げ出した。

 ああもう、なんてことをしてくれたのだろう。


 まったく、消えたいなあ。

「そ、雪?そろそろ離れてくれない?」

「じゃ、邪魔、かな?」

「そんなことないけどさ……。恥ずかしくない?」

「ボクはなんともないよ?」

「で、でもなぁ」


 僕は雪にずっと腕を組まれている。

 さすがにさっきの事件もあいまって、周囲の視線を独り占めしているのだ。

 いや、少し言い方が違う。

 特に何の理由もなく彼らは見てくるのだ。


 ええと、ほら、大して面白くないのに回りに釣られて笑っちゃうことってあるでしょ?

 あんな感じ。

 特に何も知らない人が周りの雰囲気に流されてみてくるんだ。

 それにしてもあれだな。シリアス成分が少ないな。この話。


「ねえ、さっきから二人でラブラブするのやめてくれない?」

「「ぶっ!」」


 いきなり心臓に悪いことを言うのはやめてほしいなあ。

「ちょっと!お姉ちゃん!変なことを言うのはやめてよ!」

「ちょっ!や、やめ……苦しい苦しい!」


 あの雪が焔の胸倉をつかんで揺らしている姿はどことなく意外さを感じ た。

 そういう精神的に余裕があるとことは焔はお姉さんっぽい。

 なんだか、姉妹が仲がいいというのはいいことだ。


「じゃあ、戻ろうか」

「「はーい」」

「あっ、忘れてた」

「「何を?」」

「今日、宿が二部屋しか取れなかったから誰かと一緒に寝なきゃいけないって言うの」

「「あたし(ボク)と寝よう!」」

「いや、もう、クイナとタマに頼んでいるからいいよ。君らも男がいないほうが寝やすいだろうし」

「どうしてクイナとタマはいいの?」


 雪が無邪気な視線で訴えかけてくる。


「うん?そりゃあ、あの二人はあれだからね?僕が気兼ねなく話せる親友みたいなものだから」


 それでも、僕とタマにはお互いに踏み入らないブラックボックスがあるわけなんだけど。


「………むう、リーダーと一緒に寝たかったな」

「あたしも寝たかったな」

「無理!」


 この女子どもは男をなんだと思っているのだろう。

 けだものとまでは自尊心が傷つくので言わないが、少なからず男には性欲というものがあるからね。

 勘違いとかしないためにも彼女たちと寝るわけにはいかない。


「じゃあ、僕は、タタラさんと交渉をしてくるからちょっと待ってて」


 僕は彼女たちをそっちのけで、後ろをついてきていたタタラさんに話しかけた。


「じゃあ、報酬の話をしようか」


 謎の空白現象継続中。

 今はどうにもできず後に直すため報告ください。

 バグオン終わりが急ピッチで近づいております。

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