第三十一話 蓬の町
蓬の町。
すでにここはたくさんのプレイヤーたちが集まっている。
正直に言うと、人口密度が高い。
はぐれないように注意しなければ。
「みんなー。はぐれないように注意してね」
「ねえ、クイナ。あっちに面白いものがありそうなんだけど行ってみない ?」
「そうですね、行きましょう!」
「お姉ちゃん。迷子にならないかなぁ?」
「大丈夫よ。お姉ちゃんについてくれば何の心配はないわ。さあ、あたし と一緒にあっちへ行きましょう」
こいつらいっぺん見捨ててみようか。
「……リーダー」
「ん?何、彼方?」
「一緒に宿屋を探しましょう」
「……そうだね」
彼方の優しさにお涙頂戴しそうになった。
彼女の持つ優しさを彼方の爪の垢を煎じてみんなに飲ませたいぐらいだ 。
みんな少しぐらい僕に優しくしてくれてもいいと思うんだ。唯一の男だ からパーティでハブられるって悲しいじゃない?
だったら、リーダーでいる必要とかなくない?何でリーダーからはずさ せてもらえないんだ。
「とりあえず、みんな宿を探しに―――」
「……もういませんね」
「一回本当にあいつらを見捨ててみようか」
「……さすがにそこまで鬼畜なのはどうかと」
「いいよ、それぐらいしてやったほうが、彼女たちのためだ」
「……本音はなんですか?」
「お前らこのパーティのリーダーを誰か忘れていないかい?もう少し優し く接してくれてもいいと思うんだ」
「……はあぁ」
ため息つかれて呆れた目で見られた。
でも、それが僕の切実な願いです。構ってくれないならせめてパーティ から抜けさせてほしいです。
「まあ、いいか。それはまた今度考えるとして一応宿をちゃんと取ってお かないと」
「……なんだかんだ行ってもちゃんとするんですね」
「一応成り行きとはいえリーダーをやってるからね。勤めは果たさないと いけないと思うんだ」
「……それもリーダーらしいです」
「ありがとう」
でもやっぱり少しは報われたい僕でした。
・
・
・
この世界において、宿で求めるものは何か。
暖かさ?広さ?華やかさ?いや違う。
本当に求めるものはすなわち、プライベート空間だ。モラルと言い換え てもいい。
同じ部屋には仕様がないが、違う部屋にいるのであれば個人的にしてい ることをあまり隣の部屋に漏れてほしくない。
話し声が聞こえてきても困るし。
つまり僕が何を言いたいのかというと、
「あ、あのう、スミマセン。うち、今宿屋2部屋しか空いていないんです 」
まさかの部屋が足りないという事態。
焔たちが加わるまではそれでもよかったんだ。
二つのベッドのある部屋に三人で寝るぐらいはできたから。
でも、一部屋に五人が寝ることなんて到底無理だ。
なら他の宿を探したいところだが、他の宿は全部埋まっていて、つまり これは最後の二部屋ということになる。
もし、これを逃せば………みんな仲良く路上生活だ。
これだけは避けたい。何が何でも避けたい。
そう、負けるなトウマ。お前なら何か解決策を見出すことができるはず だ。
「僕、外で寝てくるよ………」
「…………」
彼方があきれた目で見てくる。ちょっとやめて。僕の精神そこまで強い わけじゃないから。
「ごめんなさい」
僕は反射的に頭を下げていた。
「どうされますか?」
宿屋のNPCが僕らに回答を迫ってくる。笑顔なのに脅迫されてる気分だ 。
きっと悪徳商法の方もこんな笑顔に違いない。
「二部屋お願いします」
「ありがとうございます」
NPCの無邪気な回答が僕にとってはとっても憎たらしいものに聞こえた 。
「じゃあ、部屋割りを決めておこう」
「……分かりました」
「じゃあ、僕は誰か他二人と寝ることになるんだけど……僕が決めていい ?」
「……どうぞ」
こういうときは気の許せる人のほうがいいよな。
気兼ねが無く接することができるといえば、クイナとタマが一番問題な い気がする。
だが、一応メールを送っておこう。
『件名 一緒に寝てもらってもいい?』
『今日宿が二部屋しか取れなかったので、一緒に寝てもらいたいんだけど いい?』
という旨を彼女たちに伝える。
すると1分も待たずして二人ともから返事が返ってきた。
『いいですよ』
『殺す』
…………どう反応を返せばいいのか困る単語だ。
ええと、この場合クイナには普通の返事を返してもらえた。確か二人は 一緒にいたはずなので、二人同時に見たと仮定すると何が起こったのかと いうことだ。
この場合何が起こったのか皆目見当もつかない。
だが、返事はOKと見てもいいだろう。曲がりなりにも幼馴染だ。一応 それぐらいは何とか分かる。
……ここまで露骨なのはあまりなかったが。
「ま、まあいろいろあったけれどひとまずはこれでいいんじゃないかな」
「……ちなみに誰に送ったんですか?」
「タマとクイナ」
「……返事はなんて返されましたか?」
「いいよと、殺す」
「……質問の内容と返答がかみ合ってないです」
「いつものことだから気にするほうがおかしいから気にしないで」
「……いったいリーダーたちの日常はどうなってるんですか?」
そう聞かれると僕としては非常に答えづらくなってしまうのだが。
「言わせんなよ。恐ろしい」
「……恐ろしい日常なんですね」
「主にあいつがバイオレンスの方を担っているよ」
「……本当にリーダーたちの私生活に何が起こっているのか分からなくな ってきました」
「安心しなさい。僕も半ば理解の範疇から飛びぬけてるんだ」
「……それのどこに安心する要素が見出せるんでしょう?」
うん確かにそうだね。
絞殺されそうな日常のどこに安心と安全を見出せばいいのか僕にも分か らない。
きっと僕には心に余裕ができたのだろう。
だからといって油断をしていればいつか本当に殺されかねない。
リアルに戻ったら気をつけよう。
油断大敵だ。
・
・
・
僕はメニューのとあるアイテムとにらめっこをしていた。
そのアイテムの名は『巨大猪の牙』。
この素材はあまり数多く存在しない拳闘士用の武器が作れるのだ。
拳闘士の武器はトンファーを始め、ナックルやグローブなどいくつかの 武器種に分かれている。
そしてこの牙で作れるものはトンファーだ。
「むー……」
「……ムー大陸?」
「それちゃう。いまだに見つかってない幻の文明の話とかやめてよ」
「……なんだかんだ言っても答えるんですね」
「そういう性分だから仕方がない」
「……そのアイテム、使うんですか?」
「……それを悩んでるんだよねー。これで武器を作れば間違いなく強いと 思うんだ。僕の攻撃力も上がるし、戦術に幅が広がる」
だが、それとお金をかけるリスクがあるのか。
いくら鍛冶スキルを持っていようとも失敗するときは失敗する。
失敗すればお金も何もかもパーだ。
それに賭ける価値があるのか。
普通はあまり失敗しないんだけどな………。
よし、決めた。
「これを使おう」
僕は悩んでから結局このアイテムを使うことに決めた。……だって格好 いいじゃんトンファー。
「じゃあ、彼方。僕はちょっと町のほうへ出てくるから何かあったら電話 か、メールでお願い」
「……いってらっしゃいリーダー」
「よし!行こう」
僕は勢いよく宿屋から飛び出して、鍛冶スキルを持つプレイヤーかNPC を探しに出た。
普通に考えると、鍛冶スキルを持つプレイヤーは鍛冶スキルのレベル上 げとこっちのレベル上げもしなくてはならないのでこの町にほとんどいな いと考えるのが普通か……。いや、あくまであれはステータスとレベルの リセットだから、スキルや職業関連のものは関係ないのか。
僕は街中を普通に歩く。
とはいえ、下層から上がってきたプレイヤーや攻略組が入り混じってい るこの街は正直言って人口密度が高い。
ぶつかるというほどではないが、それでも歩きづらい。最近は交通網が 発達したことで、渋滞というものはほとんど起きなくなったこの世界で、 これは少しじりじりとした焦燥感が湧き上がってくる。
「さて……鍛冶スキルを持ってる人はいないかなぁ」
そう思いながら、僕は街を歩いていく。
そういえば、焔たちからは何の連絡もないな。
一体どこで何をしているというのだろう。
一応町の規模はリアルサイズなので、迷子になれば大変だ。一応メール がや、電話があるのが唯一の救いか。
「でも、一体どこに……」
そう思って辺りを見ながら歩いていると…。
どんっ!
「きゃぁ!」
人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あ、ああ、ありがとうね」
「いえいえ、こちらが余所見をしていたんですから」
「いや、私もよそ見しててさー」
随分とフレンドリーな方だ。
「そうだ!ここでぶつかったのも何かの縁、一つお願いを聞いてはもらえ ませんか?」
「内容によるけど何?」
「鍛冶スキルを持ったNPC、あるいはプレイヤーの方はご存じないでしょ うか?」
鍛冶スキルを持っておけばよかったと思ってはいるが、今更換えるのも 面倒くさいし、何よりゲームの世界に来てまで鍛冶をする必要はない。
「ああ、本と何かの縁だねー。私、実は鍛冶スキルを持ってるんだわ」
「えっ!本当!?」
「イエス!」
「そんなあなたにお願いがあります!」
「な、何?」
若干向こうが引いている感じがするがそこはおいておく。
「僕は、この素材を加工してくれる鍛冶スキル持ちを探してたんですよ。 お願いします。これでトンファーを作ってください」
「へえ、中々のアイテムだねー。いいよ。作ってあげる」
「いえっす!」
僕はガッツポーズをとる。
「まあ、もちろんただとは言わないけどね」
「当たり前田のクラッカー」
僕はそう言って握手を促す。
「私の名前はタタラだ。よろしく」
「僕の名前はトウマ。よろしくお願いします」
タタラと名乗った赤髪の女性は「ニヒッ」っと歯を見せいたずらめいた ように笑った。
・
・
・
「今回はここを借りて、作っていくよ。見ていく?」
「まあ、ここの世界での鍛冶の仕方が気になりますし、見ていきましょう 」
「ん?本物の鍛冶を見たことがあるの?」
「まあ、一応……」
僕はそれに詳しく返そうとはしなかった。
「まずは、使いたい素材アイテムとハンマーを用意する。ハンマーはいろ いろあるわよ。鍛冶師だけが使える代物なんだから」
と胸を張って言う。
はあ、そうですか、としか返せない。
「で、最初のステップは2分岐。1つ目は素材をそのまま加工する方法。こ れは素材アイテムが金属系だとより、強くなる。
2つ目は金属と素材アイテムを溶かして1つにする。そのあとに一度冷や して固めたあとにもう一度温めて叩いていく」
中々アバウトなようだ。焼入れや焼き戻しなどは行わないようだ。
「で、2つの違いはなんですか?」
「2つの違いは主に性能が変わってくるの。1つ目は素材をそのまま加工す るから金属以外のもので、それをしても耐久度が低い。その代わり金属で 行えばその効果は100%。
2つ目は、鍛冶というかもう合成に近いの。金属と混ぜて併用する分耐 久度はもとの金属よりは低いけど、金属と一緒に混ぜた素材の特殊効果が 発揮される。もちろん金属のほうの特殊効果も。たとえばこのワイルドボ アの牙だと、特殊効果は、スキル熟練度が上がりやすくなる。で、金属で ミスリルを使うと魔法効果10%軽減とかね」
なるほど、合金を作るものに近いのかな。
アバウトだが奥が深い。
「まあ、今回は特別サービス。多分その調子だと鍛冶のシステムを知らな かったんでしょ?だから、金属を持っていないだろうから、今回は私が特 別にこのオリハルコンの金属を使って作るわ」
この女は一体何を言い張っているのだろう。なんでそんな希少金属をさ らりと使うことができるのだろう。
「ちょっとそれってレア度高くないんですか?」
「うーん。レア度は高いんだけどもうそこまで量がなかったのよ。剣使い たちに剣を作るには少ないし、かといって他の武器を作るのには少し多か ったり足りなかったりで、アイテムの要領をとってて困ってたの。でも、 拳闘士の職業の武器が丁度いい、というかこの素材の組み合わせが丁度よ くオリハルコンを使い切るから在庫処分ってことで」
「そんなことで、そんなものに使って大丈夫なんですか?」
もちろん作ってくれるならそれで文句はない。むしろ、大喜び。
「大丈夫、だからサービスって言うのよ。もちろんこれは個人的な貸しだ からまた、今度別のことで返してくれればいいし」
「ありがとうございます」
「よし来た!このお姉さんにまっかせなさい!」
タタラさんはポンッと胸を叩いた。
「じゃあまずは簡単な完成品の性能チェックをするわ。この武器は一応ナ ックルなんかと同じ拳闘士の武器の扱いだから、必要な職業は拳闘士。ま あ、これでトンファーを作ろうって言うんだから拳闘士なんでしょうね。 ていうかなんで拳闘士してるの?」
「いや、何か嵌って……」
「へえ、で、拳闘士の武器だから一応これを付けても素手に近いわ。サブ 職業に何かついてる?」
「ええと神父です」
「神父の職業スキルも同時に上がっていくから」
「それはありがたいですね」
「次にこのオリハルコンだけど、効果は防御力を底上げ、魔法効果を15% 軽減」
「はい」
ここまで来て、考えてみるとそこそこ強い武器ではなかろうか。
「でも、欠点が一つ。ステータスが大分必要みたい」
「具体的にはどれくらい?」
「ええと、これを見る限りだと、全ステータスの合計が800を超えてない とだめみたい。」
今のレベルは僕は24。
そして、今のステータスはこうだ。
攻撃力 132
防御力 140
スタミナ 146(初期値100)
魔法攻撃 54
魔法防御 62
すばやさ 126
魔力 24
器用さ 109
僕はサブ職業に神父を取った影響か、魔力を少々ながら獲得している。
それでも、たくさんあるわけではないし、近いうちにステータスアップ を覚えたときに、一度や二度使った程度で魔力切れを起こすだろう。
このゲームはレベルが200で全ステータスのマックスの状態で1000だ。 それでも999より上に上がることは滅多にない。
そして、1000がマックスというと、このゲームの難易度はそこまで高く ないように思えるが、経験値と戦闘、そしてステータスの上がり方のバラ ンスは途中から崩れてきだす。
それこそ、レベル190台のプレイヤーなどその数100にも満たないような 人数なのだ。
器用さは他のプレイヤーと同じくらいだ。
だが、タンクをするというスタイルの影響か、防御はやはり高くなり攻 撃よりも高い。
「じゃあ、これから作るから待って」
「どれくらいかかりそうです?」
「そうね。1時間もあればできると思うわ」
「そう、じゃあ、待たせてもらいます」
僕はどうせこのあと何もないと思って、待たせてもらうとした。
僕は考えることも好きだが、こうやって何も考えずに自堕落に惚けてい るときも好きだ。
何も考えずに、部屋の角の隅っこを見かけるとこう、角にはまってみた くなったり、丸いボール上のものやこまを見るとまわしたり転がしたりし たくなる。
ある意味タマより猫に近い。何度か「猫かよ」、とツッコまれたことが あるがあまり気にしたことはない。
気がつけば30分ほど経っていた。
まだ、タタラさんは作業中のようでハンマーを振り下ろしている。
この世界の鍛冶の技術は、みんなのイメージを反映させたようなものに 近い。火で熱して、叩いてそれで終わり。みたいな感じ。
ああ、中途半端に知識がある僕としては、何か違和感を感じてしまって しょうがない。
カンッ、カンッ、カンッ
工房にハンマーが金属を叩く音が聞こえる。
部屋の温度は熱く感じるように設定されているらしく、どことなくいつ もより暖かく感じる。
「ふうっ。とりあえず、次で最後か……」
そんな彼女の声が聞こえてくる。
最後にもう一度火に放り込んで叩けばあとは勝手に武器の形になってく れるらしい。
なんとも便利な。
火に放り込まれている間は彼女は暇なため少しの間休憩ができることに なる。
「どう、暇でしょ?」
「ええ、まさかここまで何もないとは思いませんでしたよ」
「まあ、それでも一生懸命にやってる人がいるんだからすごいよね」
「それはタタラさんもでしょ?」
「?」
「後姿しか見てないですけど、タタラさんの後姿は本当に僕の知り合いに 似ています。何かに一生懸命でとっても楽しそうだ。僕とは違うものを見 ている気がします」
「そうか、君にはそう見えるか」
なぜか自嘲めいた笑みを出し、僕を見つめてきた。
「私は、そうだね。こういった仕事が好きだ。機械を作ったり、いじって 作る。そんなものが大好きだ。とても、とても、それこそ基盤を眺めてい るだけで1、2時間が経過しているぐらいには好きだよ。でも、なぜかな。 こういった方面の才能に恵まれていなかったのかな。あまり手先が不器用 というほどでもないけど器用じゃなくて。ゲームに逃げてる。だから、も うあきらめちゃってるのかな」
「あきらめるのはまだ早いですよ」
「いや、そうなのかもしれない。だけど苦手意識がついちゃったのかな。 あまり自信がもてない」
「僕もそうです。やりたいことの才能がない。それは辛い。僕は昔、絵描 きになりたかったんですけどその才能がなくて挫折しました。なので、僕 なりに努力した結果が小説というあり方です。僕のパソコンの中には書き 途中で萎えた小説があります。どれも、自分の満足のいく出来じゃなかっ たりどうしてもそこがうまく表現できなかったりとかして、そこで切り捨 てちゃいました。でも、それらを決して消したことはないです。大切な自 分の努力の結晶だから。
あれって、一度公に出たら吹っ切れますよ。そうすれば自分の作品が面 白ければ評価されるし、悪ければけなされる。だけど、書き続けていれば 少なくとも一人は認めてくれる。誰かが面白いって言ってくれる。だから 、あきらめないでください。なんなら僕も協力します」
彼女は数拍置いて突然噴出した。
「ははは!まさか私が年下に励まされるなんてねえ」
「僕も年上に説教することになるだなんて思いませんでしたよ」
「でも、そうだね。あきらめるにはまだ早い。私はこのゲームをクリアし たら頑張ってみるよ」
「はい。まあ、僕も頑張ります」
「で、小説ってどんなものを書いてるの?」
「転校した先で主人公がへんな怪事件に巻き込まれたり、転生した主人公 がなんだかんだで世界を救うお話だったり、陰陽師の主人公の日常だった りいろいろですよ」
「本当にいろいろだねえ」
「基本ファンタジーです」
「読ませてくれない?」
「………いい、ワケがない」
「えっ?」
「あっ、そろそろだ。じゃあ、最終調整に入るから」
僕とタタラさんはあれから少し談笑しフレンド登録をした。
僕と談笑してからのタタラさんはより楽しそうに鎚を振るうようになっ た。
とてもいいことだ。僕も頑張っていこう。
だが、事件は起こった。
それは焔からのメールだった。
『件名 助けて』
『本文 雪が……さらわれた』
僕はそのメールを見ていても立ってもいられなくなった。
「す、すみません……」
「ん?何?」
「友達が……パーティメンバーがトラブルに巻き込まれてしまいました。 あとで、取りに来るので少し待ってください」
「えっ?ちょっと!」
僕はタタラさんの言うことなど聞かず工房から取り出し、焔に電話した 。
少し間をおいて焔につながる。
「焔か。雪は!?」
『さっき言った通りにさらわれたわ』
「今どこにいる!?」
街中を走りながら、僕は焔に語りかける。
「今、商業エリアの出店の辺りにいるの!」
「ああ、分かった。今行く」
(『ジャンプ』!)
とっさにそう念じ、一階建ての低い建物の屋根に飛び乗る。
そこからさらにジャンプを使い、二階建ての建物の屋根に乗る。そこか ら最短ルートで、商業エリアに向かって『ジャンプ』『ステップ』を繰り 返し、焔のいるであろう場所に足を運ぶ。
途中からジャンプのレベルが上がってより高くかつ、より早く飛ぶこと ができるようになった。
高速で後ろにすれ違っていく景色を目にも留めず、一心不乱に移動する 。
とにかく急いでいかなければ、雪が何をされるか分からない。
「焔、商業エリアに向かっている。もし僕らしき影を見たなら即座に話し かけてくれ」
『分かった。で、そっちは今どこにいるの?』
「僕は今、屋根の上を移動してる。で、特に誘拐犯からはコンタクトはな い?」
『いえ、今は特に何もないわ』
「そうか、なら、もう少し急ぐよ」
僕は、『ジャンプ』を封印して『ステップ』だけで、移動することにし た。
『ステップ』は生命線だ。
『トウマ!今見えたわ!』
「ああ、ちょっと分かりやすいところまで来てくれ!」
『そうね。今店の前で手を振ってると思う』
「ん?あそこか。今行く」
焔を見つけた僕は電話を切り、彼女の元へ近づく。
「雪は、私が目を離した隙に大男にさらわれていったの」
「犯人からの接触はない?」
「ついさっき来た。ええと『お前の妹は預かった。返してほしければ俺の パーティに入れ。場所は工房エリアの裏路地のどこかだ』」
「随分とまあ、丁寧な脅迫文だこと」
僕は一瞬笑みを作り、そしてつぶやいた。
「ぶっ殺す。後悔させてやる。不人気ジョブのトウマに負けたって赤っ恥 もかかせてやる」
笑顔の裏に見える、怒りをそのまま吐き出す。
表情は笑顔から激昂に変わっている。
「後悔という言葉じゃ物足りないくらいに徹底的に痛い目にあわせてやる 」
犯人は僕の怒りのろうそくに火をつけた。
その償いはちゃんと払ってもらおう。
「じゃあ、行こうか。焔」
「うん。行きましょう」
僕は、このときこの上ない笑顔に見える怒りの表情をしていたことだろ う。
僕らは屋根の上に飛び乗り、そこから工房エリアに向かって『ステップ 』をし始めた。
まず、彼女がどこに連れて行かれたか。
その点においては、問題はない。裏路地といわれている以上、表通りの はずれで人気があまりない場所だろう。だが、距離が問題だ。
僕があの場にとどまっていれば、後にメールが届いた際そのまま移動が できたはずなのに……急ぎすぎたか。
そして相手の要求。
この場合相手の要求は相手のパーティに入ること。正直言えば、ここま での強硬手段に出ている。マナー違反とか言うレベルではない。
このVR。いくらゲームとは言えど半分現実なのだ。相手に脅しをかけ てプレイをすれば『脅迫』だし、異性プレイヤーに必要以上に接触を図れ ば『痴漢』として、コールをすることができる。ある程度の法律はこの世 界の法律によって処罰される。
要はペナルティ。一例だが、『痴漢』コールによるペナルティは一時的 に異性プレイヤーへの一切の接触ができなくなり、所持金および、アイテ ムの一部を没収される。
今回の誘拐騒動は、運営がウイルスとプレイヤーのステータス面での安 全確保のために、余裕のない状況での犯行だ。
もし、今回の事件の報告が運営に届こうものなら、さらに運営に負荷を かけてしまうことになる。
ゲームの世界での出来事は僕らが責任を持たなくてはならない。
そういったことを実感させられた。
「ここからは、二手に分かれよう。僕は、こっちを探すから焔はそっちを 頼む」
「分かった。気をつけて」
「ああ、分かってるさ。見つけたら、電話して」
「うん」
僕は、屋根に着地と同時に『ステップ』を発動して右へ。焔は逆に左へ 飛んで二手に分かれた。
―――――
「はあ、まったく困ったさんだ」
まったく。彼は一体どこに行ったのやら。
戻ってくるとは言ったけど、正直戻ってこれる気がしない。
しょうがない。探そう。せっかく完成したのに持ち主が現れないのは可 哀想だ。
「じゃあ、行くよ」
(盗賊スキル『追跡術』)
このスキルは特定の人物の足跡を追跡するためのスキル。
足跡を追跡できるのは最後に足跡を付けてから10分。
逆に言えばそれ以上の放置は足跡が消えて分からなくる。
「よし、こっちの方か」
街へ出て即座に足跡を見失いそうになる。
いきなりジャンプをして屋根の上に乗るのは一体どれほど急いでいるの か気になる。
まあ、とりあえず、ついていくしかない。
「本当に一体なんなんだろうね」
彼の足跡は、屋根を伝って商業エリアの方まで続いている。
その足取りは『ステップ』を使って、時には『ジャンプ』をして、でき るだけ無駄を少なくして移動している。
商業エリアにたどり着いて彼の足跡を見る。
ここで数分ほど、何かをした後再び足跡が私のやや横のほうへ通り過ぎ ている。
これは、新手のいじめか何かだろうか。
「くっそー。まだお礼もらえてないのにー」
彼のつけた足跡が高速に後ろへ向かっていく。
一度たりとも見失うわけには行かない。
彼のトンファーをちゃんと渡さないといけない。というか、このトンフ ァーをうまく扱いきれるのだろうか。
まだ、彼の姿は見えてこない。
私は足跡をたどりただひたすら彼に近づいていくしかなかった。
―――――
一体、どこだ?
工房エリアの路地を探しているが中々見つからない。
正直言って、どこら辺にいるのか想像できない。一体どこに?
そう思いつつ、『ステップ』を使うことで屋根と屋根の間を飛ぶ際、と にかく雪の姿がないかと目を凝らしているが、見つからない。
気がつけば《ステップ使い》の称号を得て、すばやさが上がるというイ ベントが起こったものの、彼女の姿は尻尾すらつかませない。
尻尾なんてないけどさ。
だが、ついに見つけた。彼女を。雪を。
よし、あとは、焔に連絡をして、と。これでいい。
僕は屋根から飛び降りて、表通りから入る。
「やっと見つけたぜ。この野郎ども」
「ああ?焔の姉ちゃんを呼び出したつもりなんだがなあ。とんだ見当違い か?」
「僕のパーティメンバーに手ぇ出してくれてんじゃねえよ」
もともと鋭くなっていた目がさらに鋭さが増す。
「へえ、怖い怖い。だけど、あんた。一人で何をしようって言うんだい? 見たところ武器を持っていなかったが、何の職業だ?」
僕は、不適に笑みを作り、右拳を前に出す。
大男含め、やつらの手下だか、仲間か知らないが全員身構える。
そして、右の拳から人差し指を立て、高らかに宣言する。
「不人気ジョブ、プレイヤー名トウマ。『拳闘士』だ」
すると、やつらのほうから笑い声が聞こえてくる。
「不人気ジョブ『拳闘士』リーチも短けりゃ、持久力もない、壁にすらな れない拳闘士が何をほざいてやがる」
「いやいや、そんなことはないよ」
現に防御と、すばやさ、攻撃は普通のプレイヤーよりもやや高い。
僕は大男の近くにいる、雪を見やる。
それを見るだけで僕の怒りは大きくなる。
「てめえらに教えてやるよ。僕を怒らせたんだ。それなりの報い、うけて もらう」
―――――
彼が、リーダーが来た。
やっと、やっと来てくれた。
怖かった。恐ろしかった。寂しかった。
もう、もう姉ちゃんがやってきて、パーティをやめるしかないって思っ てた。
来てくれた。
ありがとう。ありがとう。
目から涙が落ちる。
恐怖によるものではない。うれしいから。
彼の目は怒りに満ちている。
その中にある優しさが、自分に向けられているものだと思うと、とても 、心強くなる。
胸の辺りは温かいし、目からあふれる涙は止まらない。
今も恐怖に駆られているはずなのに、そんなものが気になりもしない。
もう、怖くない。
彼が来てくれたから。
だからもう、大丈夫。
頑張ってと、心の中で、彼に向かってそう叫んだ。
すると、突然。
―――彼の目から人間らしさが消えた。
―――――
『トウマ』の目の前にやってきた片手剣使いの男が、剣を上から振りか ぶる。
それを、コントローラースティックをはじいた時の動きをイメージして 半身横を向いて、やり過ごす。
そこに裏拳。
片手剣使いの男は思いっきり背中をのけぞらせて、路地の壁に体全体を ぶつける。
無防備な姿を打たれたことにより数秒は起き上がらないだろう。
次は、中距離用の武器、銃使いが、おおよそ3メートルの距離のところ で、銃を乱射してくる。
狭い路地だ。よけれないと判断し。『ステップ』で一気に距離を詰める 。
『ステップ』はそのスキルが発動中、一定ダメージを食らわないとその スキルはキャンセルされない。あるいは、スタン効果のあるスキルを浴び せるか。
銃使いのお腹を殴り、バランスを崩したところに顔面に膝蹴り。
二人目。残りは大男を含めた四人。
三人目は、槍使い。
使っている武器は東洋の槍。
その槍の先はスキルの光をまとい、すごいスピードで突進してくる。
スキルのエフェクトの若干の違いから、おそらく、槍の第2か第3のスキ ルと読む。
そのスキルをよけれないと判断し、肩の辺りで貫通ダメージを食らう。 HPは三割ほど削られるがすぐに回復するとみて、そのまま槍使いの男を 殴る。
その際男は槍を離したので、その槍を抜いて、後ろでもう一度片手剣を 振りかぶっていた男のお腹に刺す。
悲鳴を上げる。
四人目はまたもや片手剣使い。
だが、問答無用と言わん限りの気迫を出し、片手剣のスキルを繰り出し てくる。
スキルの名前は見て分からないが、剣を持った右手を、半身そらして後 ろへ持っていく。何も持たない左手は『トウマ』を捕らえようと標準を定 めているかのようだ。
それを、『いくつかのボタンで発動する特殊技のようなコマンド入力を する』イメージを描き、弓矢のように引き絞って放たれる片手剣を、右手 の甲で、剣の中腹辺りをはじいてそらす。
すれ違いざまに攻撃コマンドを打ち込んで拳をお腹に叩き込む。
そのまま、いくつかのコマンド入力をして、片手剣の男の服の後ろ襟を つかみ、そのまま、光の差し込む表通りに投げ出す。
最後の五人目は神父のようでバフ要因だ。
だが、神父は魔法を使って攻撃をしてくる。
だが、そんなものは意味を成さず、『ジャンプ』のコマンドを打ち込み よける。
そして、魔法の発動直後、即座にまた詠唱を開始し始めるがその詠唱途 中に頭をつかみ壁に顔面を叩きつける。
そして六人目、雪をさらった大男。
そこで一回『スイッチを切り』、再び言葉を交わす。
「なあ、お前、ここらで引いてくれない?」
「くっくそ!こうなりゃ力ずくだ!表に出ろ!」
「いいけど、あとで後悔するよ?」
「へ、どうにでもなれだ!」
僕の怒りはまだ収まってはいない。
「今なら、許してあげよう。だけど、それでも噛み付くって言うなら話は 別だ。お前には大分痛い目を見てもらおう」
「こうなった時点で俺たちの作戦は失敗だったよ。あの二人を仲間に加え てやろうと思ったのによ」
「パーティは六人が限度のはずだ。なぜ、仲間に加える必要がある?」
「それこそ、俺たちのクランに預けるつもりだったさ。その中でなら仲間 と自由にパーティも組めるしな」
「じゃあ、今回のこのメンバーは?」
「そんなもの、俺たちのクランメンバーでしかねえよ」
「それ以上の感情はないと?」
淡々と言葉を発して次の言葉を待つ。
「そうだな、それ以上はお互いがお互いを使い捨てる道具だと思っている 程度かな?だが、そこのお嬢ちゃんたちは違う。なんたって美人さんだか らな。需要はあるだろうぜ」
その言葉を聞いて怒りが湧き上がってくる感覚がするが我慢する。下卑 たその笑みはさらに怒りを掻き立てる。
ここで怒ればやつはつけこんでくる。
「そうか、下衆。悪いがこの勝負勝たせてもらう。丁度僕のオーダーメイ ドが届いたころだしね」
「はあ、はあ、疲れた。ちょっと!あとでちゃんとお礼とかいろいろもら うからね!」
向こうから走ってくるタタラさん。なぜ追いついたのか分からないけれ どナイスタイミングだ。
「ああ、分かってるよ。タタラさん」
「すごい怖い顔をしてるけど大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと痛い目を見せてくるだけだから」
彼女からトンファーを受け取り、早速それを装備する。
あれっ?確か僕のステータスの合計は791のはずなのに……
あっ、称号か。長いこと忘れてたな。じゃあ、全力でつぶしにかかろう か。
謎の空白ですが、今しばらくは対応できません。パソを新調し次第修正にかかります。
迷惑をおかけして申し訳ございません。
現在こちらのほうでかきだめの確認を急いでおります。




