第二十九話 第2階層
―――――
人は感情を持っている。
一般に比べ歪だったり、小さかったりするけれど
感情を持っていないということはまずない。
自分は思う。
なら自分は異端なのか。
なら自分は中世の魔女なのか。
自らの存在を否定され、どこまでも感情のないものとして扱われるのか 。
自分が……怖い。
そう思う感情でさえ自分が異端であることなのだろうか。
自分は、僕は、私は、我は、あたしは、俺は―――――――
一体なんだというのだろう。
自らの価値なんてない。
自分はただただ、悲しい何か。
自分はただただ、哀れな何か。
自分は何のためにいるのだろう。
それを見つけるまではこのゲームから消えるわけには行かない。
たとえそれがどんなに厳しくて反感を買って、痛めつけられても、
自分は自分が何であるかを見つけるために進んでいく。
――――たとえそのためにたくさんの犠牲を払ったとしても……
―――――
第2階層。
僕らは1ヶ月かけて第1階層『草原エリア』をクリアして第2階層までや ってきた。
第1階層のボス、数百ものジャイアントアント含めた数種のアリたちを 操る『クイーンアント』にはかなり手を焼かされた。
あれはぶっちゃけ『戦闘』じゃなくて『戦争』だったね。
あのときのプレイヤー総参加数は1万人という現在ログインしている人 の3分の1のプレイヤーが参戦してくれた。何人かは強制転移が働いてアル ムの街へ転送されたらしいが、本当の死人が出なかったのでよしとしよう 。
現在第2層は、ほとんど攻略が進んでいない。
理由はいくつかある。
一つ目は第2階層の事前情報と違う点があったこと。
二つ目は忍者の活動の成果を待つためだ。
まあ、二つ目は一つ目に関する理由だが。
実はこの階層は事前に全プレイヤーに送られたマップとかなり違うらし い。この階層に上ってきた際に、目印になるものや、最初の町と名前、そ の位置に大分違いがあったそうなのだ。運営いわく「ちゃんとアップロー ドした」とのことなのだが、大分マップが違うという謎現象にかなり好奇 心を持っている。
今僕たちプレイヤーは第1階層、と第2階層という活動範囲が広がったこ とで下で引きこもっていたプレイヤーたちもいくらかは、希望を見出し、 攻略に参加するというものも出てき始めたそうだ。
まあ、それはいいとして。
現在第2階層は『森林エリア』
ジャングルではなく、森林。
木などは破壊不能ではない。触れたり登ったりできる。木の上った上で マップとの齟齬があるといわれた。
まさかのこれはバグの影響ではないかと考えられている。
まあ、真相はまだ誰にも分からないだろう。
で、今現在僕らは第2階層の宿で足止めを食らっている。
周りの森に出る際には関所にサインをして入るときにはまたサインする 。1日の終わりにそれを集計して転移プレイヤー、または行方不明のプレ イヤーがいないかを確認されるという状況だ。
なのでレベル上げは自由だし、出入りにもそこまで厳しいものはない。 ただの保険だ。
ただ、今は何も分かっていないので勝手に個人で攻略するのは厳禁とさ れている。
まあ、みんなも死にたくない人がほとんどのようでそれを守っている。
僕らはまだ、この世界で死ぬわけにはいかない。
・
・
・
「トウマー。遊びに行こー?」
「重い、じれったい。離れろ」
「もう!詰まんないやつ!」
「詰まれ」
「あのぉ、トウマさん。みんなでお出かけしませんか?」
「とは言ってももうほとんど見たよ。このゲームの町の広さは大分あるか らって、さすがにもう裏道とか見つからないと思うよ?」
「……リーダー。散歩は、するだけで楽しいんです」
「…………」
「「「…………」」」
「…………」
「「「…………(ウルウル)」」」
「…………はあっ。分かったよ。散歩しよう」
「「「(ぱあぁっ!)」」」
こいつらの相手、意外と面倒くさい。
「で、どこに行く?」
「そうですね。今日は西の方向に行ってみましょうよ!」
そう明るく僕に返すのは、長い黒髪で、目はパッチリと開いている少女 クイナだ。
本人いわく、苗字と名前をもじったものらしいのだが、そのもじりだと 鳥のようにしか思えない。
「じゃあ、早速行きましょ!」
活発に僕を促すのは、僕のリアルでの友達兼、幼馴染(女)。プレイヤ ー名蒼碧。
薄いセルリアンブルーの髪が特徴的でその頭にはアクセサリーである猫 耳がついている。そして、肩にかかるくらいの短髪をところどころ、はね させている。あだ名はタマ。
「……みなさん、待ってください」
あとから来る声は彼方という女性プレイヤーの声だ。
プラチナブロンドの髪に紅の瞳。その上に魔女の帽子と、魔女以上に魔 女のイメージがしっくり来る少女だ。
声は小さめだが、表情は思いのほか豊かだ。声が小さいからとか、無口 っぽいからとかは無表情とは結びつかない。
僕は彼女たちにあきれた表情を見せながらも、内心笑顔で宿の扉を開け て町の探検に向けて歩き出した。
―――――
245. ふざけた名無しさん
みんな聞いてくれ!面白いプレイヤーが痛んだ!
246. 進撃の名無しさん
>>245よ。落ち着け。
247. ふざけた名無しさん
悪い悪い。
実は、そいつらはめちゃくちゃ似てるんだ!
248. 数字を数える名無しさん
>>247
そいつら、双子とか三つ子とかじゃねえの?
249. ふざけた名無しさん
>>248
そうだ!だがここからが本番だ!
250. 進撃の名無しさん
>>249
申してみよ。
251. ふざけた名無しさん
なんとそいつら………美人さんだったんだ!
252. 進撃の名無しさん
>>251
どこで見た教えろ。
253. 数を数える名無しさん
>>251
なん…………だと?
254. 開けてはいけない名無しさん。
>>251
つり乙
で、一応聞いておく。どこで見たんだ?
255. ふざけた名無しさん
ああ、第1階層の東のほうで、ムカデ狩りしてた。
256. 開けてはいけない名無しさん。
>>255
ファッ!?
あれって、相当強いやつだろ!?
しかも図体がでかいせいで攻撃力が高いってやつ
257. 進撃の名無しさん
>>256
いや、あれは図体がでかかったり、気持ち悪かったりするけれど、基本的 にはあまり強くない。
あくまで初見の人を殺すだけだから。
258. ふざけた名無しさん
で、その子達は……銃使いと盾士だったかな?
その二人だけでなんか戦ってた。
259. 進撃の名無しさん
>>258
えっ!?
260. 開けてはいけない名無しさん
>>258
あれを少人数や一人で勝てるのって『狂戦士』とかのレベルだぜ!?
261. ふざけた名無しさん
>>260
でも、無双してた。
すげえ強かった。俺なら盾士の子にすらやられてた自身もある。
262. 開けてはいけない名無しさん
>>261
その情報が本当ならこれからの活躍に期待ができるな。
―――――
ふう、疲れた。
主に精神的な理由で。
それにしても第2階層は、第1階層とはまた大分勝手が違うものが多いな 。
まず最初に、探検の仕方。
こちらはたまに見かける切り株での方向判断という本格的なサバイバル の仕方をするようになっている。コンパスも使えなくはないのだが、たま に磁場が狂う設定があるらしく、そこでは切り株でしか判断できない。ち なみに富士の樹海でコンパスが狂うことはないらしいね。
「はあ、まったく早くエリアに出たいものだねえ」
僕はいすの背もたれに体を預けてそうつぶやく。
「そうね、勘が鈍っちゃいそうだわ」
「下の階層に行ってもあんまりいい戦闘は期待できそうにありませんし」
「……相手になるとすればデスアントぐらいですね」
「デスアントは下の中ボスクラスだからな………。この辺のモンスターと ステータス面での違いはほとんどないだろうけれど、この辺のモンスター の情報もまだ出回ってない中あまり変な癖は付けたくはないな」
関所は基本的にレベル上げは自由とされてはいるが、一定区域からは出 ることはできない。そこから先には実力がないと通してもらえないのだ。
で、タマはその先に行こうと提案してきた。
「いっそのこと強行突破しちゃう?」
「やめろ。僕に責任が来る」
「でも、そうしないとこっちはいつまで経ってもこのままよ。ボスも先こ されちゃうわよ!」
「落ち着け!それで余計な被害出したら大変なことになるだろ!あくまで 僕らの目的は攻略。その上で被害を出さないようにしないといけないんだ !いま、忍者の人たちがモンスターの情報を集めてるからそれを待とう。 あと、もうしばらくしたら開放されるさ」
「そうですよ、タマさん。トウマさんに必要以上の苦労や汚名は駄目です 。そんなことをしたら―――」
「ひぃっ!」
ちなみに僕らの知り合いで例外的に通してもらえている人たちは、鎌の メンバーや、リョウカさんとこのパーティだ。
あの人たちはいろいろな方面で有名らしいので、通してもらえている。
片やムカデを秒殺できるプレイヤーに、片や暗殺が得意なプレイヤー。 とてもすごいね。
おびえたタマが復活したところでまた話しかけてくる。
「ね、ねえ、トウマは聞いたことある?」
「?何を?」
「最近ある双子のプレイヤーが実力を伸ばしてきているらしいわ」
「へえ」
そのときの僕はまだその双子に興味を持つことはなかった。
だが双子は、後の僕らにとって影響を与えた人物たちだ。
「その双子なんだけどね。銃使いと盾士らしいのよ」
「ふーん、そうなんだ」
「なんかさっきからやけに冷たいわね。やきもち?」
「いや、双子って言うのは二卵性か一卵性かで変わるけれど、一卵性って 言うのはかなり似たものなんだ。それこそ、例えは悪いけれど一卵性の双 子の片方が癌になったら、もう片方も癌になるって言われたぐらいに。そ ういう、少人数での連係プレイをしているプレイヤーたちは他人の入る余 地をなくしているんだ。ほら、鎌たちがいい例だ」
ここでも、また例に挙がる鎌たち。なに?あいつらに『典型的』という 言葉は当てはまらないんじゃないんだろうか。
ちなみに、鎌は『典型的』な中二病でポロロッカことポロは『典型的』 な不思議系かわは『典型的』なドSだ。
その中で比較的常識人だけど、そして同時に一番非常識なのが、鎌。『 デルタライン』のリーダー。
あいつはネタな性格の人の代表格だろう。あんなのが師匠なのかと思う と恐ろしい。
「仲間に引き入れる予定はないのね?」
「ああ、偏見が入ってるけど……。……それぐらい有名なら下で、パーテ ィに入ってくれと引っ張りだこなはずだ。どちらにしろあまり期待できな い」
「……リーダーは新たにパーティメンバーは増やさないのですか?」
「増やしたいけれど、なんでか抜けていくんだよね」
「トウマの魅力がないから」
「うっさいな。電話拷問の刑にするよ?」
「ごめんなさい」
電話拷問とは僕が母さんの声真似をして罵詈雑言を送る、とんでもない 拷問法である。なぜか彼女が嫌がるので重宝させてもらっている。それと 、なぜばれないのかというと、母さんの声と似ているのと口調も真似てい るということ、そして何よりもアリバイが作られているからである。
僕は母さんが電話しているときに限り電話をかける。
もちろん僕のアリバイも工作している。
すると、そのとき母さんが電話しているというアリバイがあるためタマ が誤認するのだ。
そう思いながら僕は自分のメニューをいじる。
「それにしてもさっきからトウマさんは何をしているんですか?」
「?この階層がバグ以前に何が出てきていたのか見てる」
「この階層じゃどんなモンスターが出てくるか分からないのに、何であん たは半分無駄なことをしてるの?」
「仮に無駄でも、どんなモンスターが出てくるかは傾向は把握できる。傾 向を見る限り、すばやさに特化した動物や獣人、あとは器用さの高いモン スターかな」
「本当、本気を出せばすごいのにねー」
「本気を出せば」は余計だ。
嘘です。本気を出さないとすごくないやつでごめんなさい。すごくなり たいです。
そんなありもしないことはできないと真っ先に思い当たり結局折れた。
・
・
・
旧ハードのゲーマーはすごい。
MMOに限らず、本気を出せばノーダメージでボスを倒すなんてことも できる。
で、RPG系統のゲームでは、それがより如実に現れる。
よくも悪くも主人公を根幹に進んでいくゲーム。というのは主人公が行 動を起こさなければ基本的に何も起こらない。
それをいいことに、初期のうちにレベルを上げまくる。とんでもないぐ らいに上げまくる。
ええと、昔に話したポ○モンだが、あれだってそうだ。昔見た実況プレ イで、30時間も無駄に図鑑ももらわず何もしていない少女のプレイ記録が あった。もちろん実況のために、削除されたが。30時間も最初の街で何を していたんだ。という疑問が……あれっ?話が変わってる。
閑話休題
ポ○モンだが、最初のあたりでレベル100という上限でなぜかいきなり レベル50ほどまでレベルを上げる猛者がいるとのこと。
僕も挑戦しようと思ったが、撃沈。時間がかかりすぎる上に、刺激を求 める派の僕としてはレベルが15まで上がったところで断念した。
まあ、結局チャンピオンに挑むときには最初にもらったポケモンだけが 強すぎるということになり、レベル78という強さで四天王全員とチャンピ オンを倒した。
おかげで手持ちはそいつ以外に秘伝マシンぐらいしか使えるものがおら ず、ストーリー展開上、手に入るはずの伝説級のやつが最初にもらったや つのせいでワンターンキルなんて事がよく起こった。スカイ○ッパーのお かげで龍使いには勝てたからいいか。
結局ボールが尽きたりなんなりで捕まえられなかったんだけどね。
で、あまりにも悪いバランスだったがゆえに僕は一生懸命プレイスタイ ルを改良した。
レベルを全員均等に、なおかつジムリーダーに勝てるレベルまで強くす ることだ。もちろん時間はかかったしそれにもまして精神的にも辛かった 。
そして結果的にジムリーダーには勝てた。
そこまではよかったんだ。だが、所詮は最近はじめたにわか新参。僕は その道中で恐るべきことに気づいていなかった。
そう、『努力値』だ。
努力値というものは特定の相手を倒すことであがるステータスのことで いわば伸びしろ。
僕は、その存在に数年間気づいていなかったのだ。
もちろん通信対戦ではぼろ負け。枕を涙でぬらしたことは、何回あった ことか。
あれっ?また話が変わってる。
閑話休題
ゆえに真のゲーマーは類まれなる根性と精神を持ち合わせている。
僕の場合はやりこみはするけれどその方向が間違っていたりする。昔や ったパソコンのフリーゲームで、自由度の高さに驚いた。で、世界を救う のも何をするのも君の自由との事だったので、商人をしたり農家をすると いう馬鹿みたいなことをした覚えがある。
僕は刺激を求める派とかいいながら変化しない、ひたすら農家をしてい た。
まあ、ゲームで手に入る家がほしかったからなんだけど。
なんでこの話をいきなり始めたかというと、旧ハードには旧ハードプレ イヤーなりのVRというゲームへの強みがある。
それは、コマンドだ。
どんなゲームにも、技を発動するとその技を発動させる。その直後には 大抵硬直が来る。
僕を含めたテレビ画面でそういう3Dでの画面になれてしまったものは 、そのスキルとスキルの合間にできるわずかな時間の間にスキルを、ほぼ 時間差なしで発動できる。最初はそのスキルボタンの連打から始まり時間 差コマンドを受け付ける時間を計る。
その差を究極まで減らす。といえば普通の人でも練習すれば誰でもでき る行為なのだが、そうは問屋が卸さない。
VRとはすなわち『V=ヴァーチャル』『R=リアリティ』だ。リアル を追及したゲームであるため、そこには少なからず現実味を帯びてくる。
最近はVRが普及しているためゲーム=VRという図式が成り立ってい る。
だが、リアルを追及したゲーム。現実味を感じるので、『現実』という その無意識が生まれる。
そこで旧ハードプレイヤー。旧ハードは画面越しのゲームプレイ。そし てなによりも『感覚が伴わない』ことが最大のVRゲームとの違いだ。そ れゆえにこの世界がどんなに現実味を帯びていようとも『現実ではなくゲ ーム』という考えが体に染み渡っている。
旧ハードプレイヤーの最大の武器はこの世界に対する圧倒的な適応能力 の高さだ。
そういうことでは生まれたときからVRに慣れ親しんだ皆さんが旧ハー ドプレイヤーに並ぶことはできないとは行かないまでも結構時間がかかる のだ。それこそ旧ハードの方々もVRというジャンルができて以来、適応 するまでに時間がかかった。
だが、その根幹が『ゲーム』であるこの世界ではハードの壁など関係な しに旧ハード組は強くなっていった。さすが廃人。僕とはえらい違いだ。
で、結論を言うと旧ハード組はスキルの扱いがうまい。
もう一つ、一部の旧ハード組は通称『禁忌』、というスキルでもシステ ムによるアシストでもない旧ハード組にだけ伝わる秘技が、あったりする のだがこれは割愛しておこう。この方法は掲示板に掲載されていたものだ 。知らない人が見ても何の話だと思うことだろう。
「ふう、まだうまく使えないな。やっぱり最終手段としてとっておこう」
旧ハード組にだけ伝わる『禁忌』と呼ばれる技。それは旧ハード組の『 一部のゲーム』をやったことのあるものにしか使うことができないらしい 。練習だけなら実は誰でもどこでもできる。
だが。僕もそれをやろうとしたらデスアントの時みたいに頭の中がはち きれそうになってしまったので休憩だ。これは、気休め程度の精神強化に もなって丁度いい。やっぱり土壇場で使うとかじゃないとだめなのかな。
「トウマ、何してるの?」
いつの間にかとなりにタマがいることに気がつかなかった。
「あ、うん。ごめんタマ。ちょっとね、イメージトレーニングを」
「そ、そう………」
タマはそう言って僕のとなりにいすを用意して座った。
場所は宿屋。一応二人部屋なのでいすはちゃんと二つ用意されている。
今はもう夜なので彼女たちはとなりの部屋にいるものと思っていたが… …。
「これからはさ。二人のときぐらい名前で呼んでよ」
「ゲームではそういうのはあまりやっちゃいけないだろ?」
「でも、このゲームがログアウトできなくなってからさ、とっても不安な のよ。みんなはタマって呼んでくれてるけどそれは私の本名じゃない」
「…………」
「不安なのよ。この先ゲームがちゃんとクリアされるのかなって。クリア されなかったら私、ずっとタマって呼ばれたり蒼碧のまんまよ……」
「………分かったよ。二人っきりになる機会なんて早々ないと思うけど、 二人っきりのときは呼んでやるよ」
「ありがとう。………まこと」
「ああ、緑」
彼女の不安。
僕はどうすればいいのだろう。現実で僕らが頭に付けているヘルメット は、僕らの意識そのものをこっちへ持ってきている。もしヘルメットを強 制的に脱がせようものなら、
おそらく、脳にダメージを負う。現実ではどんなことをされているか分か らないこの現状は現実で何かを起こされるかも知れないという状況の不安 もある。一部の人は自活とかしているので大丈夫だろう。
だけれど、意識が戻らないと脱水症状、栄養失調などで孤独死してしま う可能性がある。
その人たちもそんな恐怖と戦わなければいけない。
とはいえど、そんな心配は今しばらくは無用だろう。
なぜなら一日十秒という驚異的な遅さで現実が経過している以上、どん なに遅くても30年以上ここに引きこもらなければそんなことにはならない 。
今現在この世界ではログアウト出来なくなり1月と半分経過している。 季節の設定自体も変わり春になろうとしている。
まだ2年と10ヶ月以上は猶予があるのだ。まだそこまであわてるような 時間でもないだろう。
というかタマが心配しすぎなのだ。今しばらくは何の問題もないのだか らおとなしくしていてもらいたい。
・
・
・
そして次の日、ついにエリアへの攻略が始まった。
なんて言ってみたが、ほとんどはゲームを自由に出歩くことが許可され たというだけだ。普通のMMOのように攻略も引きこもるも冒険しようと 自由だ。
ただし、攻略に命がけで向かっていっている人たちが攻略をしていって ボスの直前まで行くことができたら、その時点まででその階層にいるプレ イヤーを一定数召集し、会議を開いてボス部屋に突撃をする。という流れ だ。
まあ、今こんな堅苦しい話など誰も聞くことはしないと思うので、僕た ちは普通にエリアに乗り出した。
「ふぅ、やっと開放された」
「ここまで、思ってみれば長い長い道のりだったわ」
「本当に懐かしさすら感じます」
「……感激」
今みんなで言ったせりふは刑務所で捕まって更生して出所したみたいな 感じになっているのは気のせいだろうか。
いや、気のせいだ。きっとみんな気づいてないはず。こんな細かすぎる ネタに誰も突っ込みなんて入れないはずだ。
「おっ?みんなー、ひっさしぶりー!」
遠くから走ってきたのは鎌。
男にしては少し長めの髪に中性的な顔立ち、声、そしてなによりも常に 絶えないスマイルが特徴の中二病患者だ。
説明口調なのは心機一転のために。そして、3階層に入っても4階層に入 っても続けていく。
まあ、鎌がいるということは当然他の二名もいるわけですよね。
「おお、久しぶりだな。そっちのやつは初めましてだな。俺はかわ。…… よろしく」
鎌の後ろから現れたのは三白眼の僕と同じくらいの身長のかわだ。見た 目ゆえに怖がられてはいないだろうか。
顔立ちはそこそこ整っている。性格が残念だ。
具体的にはドSなので、みんなそろって引く。しかも一撃で敵を葬るこ とに命をかけている男、『儚木』というレアウェポンを使った暗殺は結構 な確立で殺される。
「はぁ、はぁ、待ってくれ~!」
最後に、ポロロッカこと通称ポロ。
身長はかなり低くてちび。性格はマイペースであるものの欲望には忠実 。
その欲望は多岐にわたり鎌をいじ(め)ることを初め、ポイズンクッキ ングという中々ハードなお人である。
見た目が小さいからって侮れないのだ。
以上全員そろってチーム『デルタライン』のメンバー方だ。
しかもレベルが全員高いので、はっきりいうとこの辺のモンスターが相 手にならない。鎌いわく、『できることはできるだけしておくべき』との ことらしい。
「あ、え、ええと初めまして!蒼碧です!みんなからはタマと呼ばれてい ます!」
「クイナです。かわさん、ポロさんよろしくお願いします」
「……彼方です。一応魔法使いです。お二人の噂は聞いております」
一見鎌が一番常識そうだが、そして事実そうなのだが、非常識なのもこ いつなのだ。
だけれども、気づかれないこと、というかこの二人のキャラが強烈過ぎ て鎌があまり目立たない。なぜだろう。一番こいつが非常識で目立つはず なのに。あれか、非常識の中でもありふれた非常識だからか。中二病なん てどこにでもいるもんな。僕もその気があるのも否定できないし。
もしかしたらこいつが一番悲しいやつなのかもしれない。
「お前、ハーレムだな!このっ、このっ!」
かわが横腹をつついてくる。
なるほど周囲から僕がどんな目で見られてるのかは大体分かったよ。
「トウマは相変わらずだねぇ。鎌と同じで主人公体質だ」
「そんなはずはないだろ?なんだよ、主人公体質って。僕よりもその辺の 人が主人公っぽいよ」
「そういうことじゃないよー」
若干耳につくようなイントネーションでその言葉をポロは発する。
「主人公体質って言ってもいろいろあるよ。手始めに王道(正統派)。で 、その反対に邪道。で、ラブコメ系の主人公に、不良 漫画系の主人公、オタクの主人公に、頭脳派の主人公。という具合に様々 あるよ。ちなみに鎌はチート系主人公で、トウマの場合はラブコメ系かな 。昔の小説サイトにはニートの主人公や、悪の組織に所属する主人公とか 、女に転生する元男の主人公とか、沢山あったよ」
その解析やめてもらえません?あのう、僕はハーレムとか目指してるわ けじゃないんで。
「で、鎌たちはとっくにエリアに出たものと思ってたのに」
「いや、僕たちはもう少しあとに出るんだ。今はちょっとリョウカさんを 待ってるんだ」
「リョウカ姉ちゃんたちと一緒に狩をすることになってさ」
「俺たちはここで待ってるんだ」
「へえ、そうなんだ」
ポロのリョウカさんへの呼び方は聞いたほうがいいのか。
「僕のところは一応上の兄ちゃんが多くてね。だから、『姉ちゃん』って 呼ぶのがどことなく自然に感じちゃってさあ」
聞かなくても話すんだ。
「ポロはその呼び方でいつも回りの人から敬遠されがちだもんねえ……」
鎌は苦笑する。
「ふーん、じゃ、僕たちはレベルを上げてくるよ」
「気をつけてなー!」(ポロ)
「気をつけろよー!」(かわ)
「気をつけてねー」(鎌)
三者三様の返事を残して手を振ってくる。
・
・
・
で、早速道に迷いましたが、何か?
目印になるものが何もない。
正直本当に何もない。周りにあるのは木だけ。正直助かるわけがない。
コンパスもあるし地図もある。なのに迷うとはこれ如何に。
「トウマ」
「いや、ごめん。迷った」
「何で?」
「何でって。周りが木だから」
「……リーダー。どうします?」
「一応携帯食料とかの類は持ってきてるから数日は大丈夫だけど……」
「トウマさん、切り株は見つからないんですか?」
「そうだね……あった!」
辺りを見回してみると一つの切り株があった。とりあえずあそこのあた りで休憩しよう。
「じゃあ、行こう」
「はい」
「はーい!」
「……分かりました」
とまあ、結構歩いてたからみんな結構消耗しちゃったんだろうね。僕も 結構疲れたよ。
それにしても……この番号はなんだ?
切り株の上におかれた④の番号。そういえば地図が再配布されたっけ。 確か忍者隊の人たちが簡単な測量をしていったとか。
で、北は数字の上側のほうか。で、地図の切り株の位置に④の番号が書 かれている。このゲームの中に測量の専門家はあまりいないので、結構お 粗末な地図になってしまっているが仕方がない。
というか、この世界の今の現状が異常だ。
原因不明のバグで抜け出せないとか、何これどこのラノベ?状態。
「ええと、この切り株を地図と照らし合わせると………この位置か。なん だ、思ったとおりに進めてた」
「で、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「これからどうするんですか?」
「そうだね、ここで少し休憩したあとに、次の町へ向かおう。多分この地 図は、距離はともかく方角は正確みたいだから、次の切り株へ移動してっ ていうのを繰り返していけば、今度は比較的楽に町へつくと思う。……少 々時間はかかっちゃうけどね」
僕は苦笑しながらみんなに告げる。
「私は賛成。また迷ったなんていうのはいやだから」
「私もそれで」
「……リーダーの指示に従います」
「そういえばみんなさ、僕の指示にあまり反対とかしないけれどなんでな の?」
「「「考えるのが苦手だから(です)」」」
「タマと彼方はもう少し配慮というものを覚えようか」
クイナはともかくタマや彼方は一応僕よりも頭がいいと思うんだ。
「ねえねえ、そろそろお昼だと思うのよ。だからお昼を食べましょう?」
「え?ああ、そう。じゃあ食べようか」
「「「「いただきます!」」」」
久しぶりに食べる携帯食料は懐かしい味がした。
1階層2階層にある食事処はというか宿屋はもちろんお金を取られる。お 金には余裕があったので正直何の苦労もなかったのだが、あれはおいしか った。こっちもこっちでおいしいんだけれどもね。
・
・
・
昼食も食べ終わって、少し休憩をしていると、どこからともなく不穏な 音が聞こえてきた。
ドガッ!だのバキッ!だの、木々が倒れていく音。
もちろんいやな予感がするわけだ。この世界のオブジェクトは基本的に は破壊可能だ。完全破壊されたあとはリポップ、多少の損壊なら、再生し ていくように設定されている。それが、人らしい音ならよかったのだが、 残念ながら蹂躙している音にしか聞こえないんだ。
そして、音の原因が近づいてくる。
林の草が倒れる音とともに、周りの木々が倒されていく。
そして、全容を見て驚愕する。
でかい。とにかくでかい。
いや、サイズだけならジャイアントアントと大差ない。むしろ若干小柄 だろう。だけれども、その体から発せられる気迫というか迫力に気圧され てしまっている。
そう、茶色い毛皮に覆われたその生き物、というかモンスターは、―― ――巨大な猪だった。
中々手ごわそうだ。そういえばこの階層で始めての戦闘な気がする。
「みんな構えて!戦闘用意!」
みんなが武器を構える。僕もみんなの前に立って攻撃を受け止める体勢 を整える。
拳闘士という職業なのに、タンクを務める僕。ドラ○エのヤンガ○見た いな感じだ。いや、あの人が盾役かと聞かれたらくぐもってしまうが。
なんて、どうでもいいことを考えていると倒された木々の道から、小柄 な……丁度人間サイズのモンスターが………いや、あれはプレイヤーだ。
「いっけえぇぇ!」
高い女性の声とともにドンッ!と聞こえる空気のはぜる音。おそらく銃 声だろう。
だが、猪のHPは減っているようには思えない。彼女はなぜ退却しない のだろう。
すると、もう一人林の道から出てきた。
「そぉいっ!」
大きな盾をしょった同じような声をした子が、飛び出し、前にいる少女 をその盾でかばう。
あまりの衝撃に二人とも吹き飛ばされてしまう。
これが、僕と彼女たちの出会いだった。
チートも更新しました。
誤字脱字の指摘や感想をよろしくお願いします。
もう少々お待ちください。
チートが終わり次第本格更新を再開します。
受験もあります。
しばらく更新できそうではないです。




